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十九話 反撃。


 「やっぱりな?これ、有り、だと思わないか?!」

 

 俺は皆が熟睡している真夜中に精霊王の宮殿に移動して、思いついたことを話していた。我ながら少し興奮気味で調子が可笑しいのこの際多めに見てもらおう。精霊王もこの内容の有用さにはちゃんと気付いているみたいだし。


 『うむむ。要するに……他の世界からマトモな精神を持つマイダスからマイダスの手の内を探るか、マイダス同士でぶつけるように仕向けると言うことじゃな?』

 「そう。彼奴の技とか知識が分かれば暴走の仕組みも分かるからそれを使えば何らか防御策も取れるだろう?」

 『……悪い、話では無いかも知れんが……。』


 そう。悪い話じゃないが俺にはまだ越えなきゃならない山がある。

 他のマイダスを見つけるために他の並行世界に行くことだ。


 ここと地球以外の他の世界を行ったこと無い俺が簡単に行くことはできない。だが、宛はある。それが精霊王だ。

 精霊王が最初に俺を見つけた時、精霊王は地球のことなど行ったことも、いや聞いたことすらもなかった。でも、地球まで来て俺を連れてきた。それはすなわち俺が今やろうとしていることとなんら変わりは無いことだ。


 「だから、俺を最初に見つけた時どうやったのかを教えてくれ!」

 『お主を見つけた時か?……潜在力と妾の波長に反応すると言う条件で探して見たらこの世界にはおらんかったから……魂を辿り他の世界で探して見ることにしたんじゃ。そして発見したのがお主の世界で丁度良かったのがお主じゃった。』

 丁度いいって……俺は金物屋の並んてる工具か!


 ま、兎に角。大体のことは分かった。

 「じゃ、その魂をどうやって辿るのかから教えてくれ。条件は漠然とした俺の時よりも気配を知っている分探しやすいはずだから。」

 『はぁ、どうしてもやるつもりなんじゃな?』

 「多分このままじゃ俺は死ぬまで後悔しながら生きて行くと思うんだ。だから、やれることは全部やってみたい。」

 『そうか……。掟があるからこんな世界同士の戦の様な物を妾の手で直接やることは、出来るだけ回避しなきゃならぬが……。』

 「頼む!俺にその方法を教えてくれ!!」


 俺は120度のお辞儀で自分の切迫さを披露して精霊王の最後の一言を急かす。そしてそんな俺に負けた精霊王の決定が下された。

 『まぁ、お主には妾の様な掟などないのじゃし、教えるぐらいはしてやろう。』

 やった!コレであの野郎に一泡吹かせることが出来る!

 


 それから数時間《魂を辿る》方法を習得して俺は違う世界のマイダスを探しに旅に出た。

 勿論皆には内緒にしで日帰りの旅だから暫くは寝不足になるだろうけど。

 それでも気分は今までより晴れやかだった。 



 ◇


 「そんな気持ちだったんだよ、俺は。」

 「へぇ。そうかい?」

 「なのにコレはなんだよ~。」

 「まぁ。なにって言われてもねぇ~。ただの無駄足?」

 

 無駄足、《この》マイダスはそう言っている。

 正直、俺もそう思ってしまっている。理由は言わずとも《この世界のマイダス》のせいだ。

 

 精霊王の指導のもと、頑張って漸く見つけたもう一人のマイダス。

 彼と今のマイダスとの分岐は大魔導師の時やったある実験だった。

 その実験とは、

 「魂の永続性の研究で実験したら僕、アンデット(リッチ)になってしまったし。精霊王とやり合えとか暴走精霊のこととか全然わからないもん。」

 もん、じゃねぇ!もん、じゃ!

 なんだよそれ?!かわいい口調が似合う玉じゃないだろうが!

 

 要するに魂の実験とかでアンデットになったから、その後に研究したであろう暴走精霊とか神のシステムのこととかは丸っきり分からないってこと。

 そこまではいいんだが、もう一つの問題は魂は世界間の移動は出来ないことだ。世界間の移動には魂だけでは無理だそうで、精霊もちゃんと実体化した精霊に限ってのみそれが出来るらしい。

 つまり、ちゃんとした知識を貰うのも連れて行くのもだめ。

 全くの無駄足。

 はぁ、これからまた探しにいかなきゃダメだよな。


 「でも、そいつ、いや僕か。まぁ精霊王になったった人は多分だけど本物の精霊王じゃないと思うよ。」

 「本物じゃ無い?」

 「うん。基本、精霊王は世界と一緒に生まれるから。自意識を持つのは大分後のことに成るけど、その存在が世界と共に生まれて世界を維持するように定められてるんだって。」

 「それ、誰からの情報?」

 「ううん。それは答えられないかも。《T4G$G$C@T&G》って……言ってもわからないよね強いて言えば精霊王の生みの親的存在かな?下級の神様って感じで理解すればいいと思うよ。」


 じゃ、その人、いや神様に会えばなんとかなるのでは?

 「でも、次元が違う所でいるから死ななきゃ会うことも出来無いと思うけど……そうだな。一片君もアンデットになってみる?いいよ~アンデットは。疲れないし、食も必要ないし、力は使い放題だ。お陰で僕はやりすぎて魔王呼ばわりされてしまったけど。君ならいいアンデットになれると僕は思うよ!」

 「勝手に人の心読むんじゃねぇ!それにそのアンデット最高発言、禁止!気色悪いだろうが!」

 ソレにいいアンデットってなんだよ。いいアンデットって……。

 「ひどいな。僕は君のことを考えて言ってやってるのに~。」


 クッソ。やっぱりマイダスは何処行ってもマイダスだ。性格捻くれてるし、勝手に人の考え読んじゃうし。

 「はぁ、兎に角、わかったよ。他を当たることにするわ。邪魔したな。せっかくの休んでるとこを起こしてしまって。」

 「いや。いいよ。魔王の噂が静まるまで、洞窟で休んでただけだから。50年も休んだしもう大丈夫だろ。」


 まったく。どんな処でもマイダスはマイダスだな。傍迷惑な所は全く同じだ。

 そんなこと考えながら元いた世界に転移しようとするとアンデット(リッチ)のマイダスが俺を呼び止めた。

 「あ、ちょっと待って。コレあげるよ。」

 「お、おっと。」

 いきなり投げられて来たそれを手に取ってみると、

 「ワンド?」

 少々手の込んだ装飾が施された赤黒い色のワンドだった。

 「うん。魂を分離するワンドだよ。」

 またアンデットか?!!!こんなの要らなーー。


 「それ使ったら、多分出来損ないの精霊王ぐらいならアンデットに出来るんじゃない?どうせ世界との繋がりも薄いだろうし。」

 いや。要る要る。絶対要る。

 「こんなものあるならさっさとくれても良かったじゃねぇか!!!」

 「あ~寝ぼけてたから忘れてた。」

 

 あ~。やっぱりコイツとの会話は疲れる。

 でも、良い物を手に入れた。コレがアレば反撃が出来る。

 コレでやっと希望ができた。



 その後に万全を期するために、3人ものマイダスに会ってきて同じぐらいに精神的ダメージ喰らって、役立つ情報を貰うことが出来た俺は精霊王と話し合い、決戦に挑むことになった。

 コレまで来るのに一週間も掛かったんだ。コレ以上の欲張りは出来ない。彼奴が精霊王としての時間が過ごせれば過ごすほど、繋がりは太い物になるだろうし。その前にあのワンドを使わないと行けない。


 『コレ以上は無理じゃろう。直接的な手助けはしないと言っているから、無理やり連れてくることは出来なかったけど、結構な知識と物を貰ったんじゃからのぉ。』

 「まあな。で、彼奴今何処らへんにいるか分かる?」

 『海の中じゃな。アヤツが精霊王になってから自分の城をお主の国から遠くはなれた東の海の中に作った。そこからこの一週間、一歩も出ておらぬよ。』

 「了解。じゃ、行ってくる。」

 『ああ、生きて戻ってくるんじゃぞ。』

 だから、それプラグだってぇの!!



 時は深夜、広い太平洋の上。

 元々島一つ無い、四方何処を見ても水平線しか見えなかったその太平洋に、竜巻の様な巨大な水柱が少しも動じないまま立てられている。

 自然現象ならその竜巻は気圧の影響によって揺れながら移動するものだが、それは丸で巨大な塔を連想させるぐらい堅牢に聳え立っていた。

 「へえ。台風の障壁ってか?いい趣味してんじゃん。多分アレは海の仲間であの状態だな。」

 俺は少し離れた上空からそれを眺めながらどうやって入っていくかを考える。でも、すぐその悩みは必要無くなってしまった。

 

 「おお、お出ましだな。クッソ天使共。」

 この前戦った氷の天使とは違う海水で出来た天使だった。パッと見1万体はいる。でも俺も今回は前と違いかなりの準備をして来ているんだ。

 俺は収納の腕輪から二振りの短槍を取り出し魔力を取り出した(・・・・・)

 コレは《三人目のマイダス》から貰ってきた【悪魔の双子槍】と言う物。

 その効果は持ち主を除く他の者がこの槍に触れた瞬間、全ての魔力を奪いその力を放出して広範囲攻撃を作り出す。そのために自然に溜まっていく魔力は使用する直前に必ず吸い出す必要が有るという少々面倒な物だ。


 「だが、その面倒すらもテメエらを潰すことに繋がると思うと楽しくってしょうが無いんだよ、な!!」

 先に攻撃して来た三体の天使を右手の槍でなぎ払い、左手の槍を銃の様につきだして……自分で少し引いてしまった。

 最初に斬った3体は魔力を失いただの海水に戻たのだが、穂先を起点に展開された半球状の魔力の塊から眩しい光が出た直後、約3割強の天使が文字通り消えて(・・・)いたからだ。


 威力が高すぎる気がする。3体の魔力だけでこの威力だとコレ全部斬れば精霊王すらも消せるのんじゃないか?

 いや、出来ないかも知れないな。弱い者は強い者の強さを測れないとも言うし……。ってなにセルフディスしてるんだ、俺!今はそれより目の前の敵だ。

 

 俺は気を取り直しパタン通り天使を処理していって、物の5分程度で全ての天使を葬ることが出来た。でも、マイダスの奴はまだ直接出る必要を感じないらしく、新しい巨大なヒゲおやじの天使を俺に寄越してきた。 


 「あ、これ天使じゃないな。ポセイドンだ。」

 俺がギリシャ神話に出てくる三叉の矛を持つ海の神に模した、その20メートルに及ぶ巨体を見上げながら呟くと、驚くことにその巨体は返事をして来た。

 『いかにも、我は精霊王様にお仕えする海の精霊ポセイドンだ!』

 「おお。喋った。でも、また天使の様な翼って、芸がないのも程があるだろう。コレじゃ元になった神にも失礼ってもんだぞ。マイダス。」

 ま、見えないけど聞いてはいるんだろう?

 『話が主を侮辱するか!愚か者!!』


 あ、そう言えばマイダスって名前もギリシャ神話に出てくる王の名前だったよな。手に触れたもの全部金に変えてしまって、果てには自分の娘までも金に変えてしまったと言う。あれ?それは《ミダス》だったけ?いいじゃん英語読みってこと……。

 兎に角。神が王に仕えるって可笑しな話だよな。逆ならまだしも。だから、


 「偽物の神は海の中で眠らせてやるよ!」

 そう叫びながら高速で空を駆け、右手の槍をポセイドンの心臓につきだした俺だったが、いつの間にか海に沈んでいた。

 違う、俺の攻撃が当たる前に海水が吹き上がって俺を包んだんだ!

 でもコレが魔法ならきっと槍がここから魔力を吸収……してない!!できない!!

 理由は分からないが考えるのは後だ!早くここを抜け出さないと!!!

 だが俺が瞬間移動で抜けだそうとしたその時、三叉の矛が俺を包む海水に刺されて、激しく放電し始めた。


 「し、死ぬかと思った……。」

 今のは本気でやばかった。海水の中で天ぷらになる所だった。

 なんとか抜け出すことは出来たけど少しはダメージはあったようで体がかなり痺れている。もしかしたら神経とかが少しやられたのかも知れないな。


 俺は早速自分の体を治療し、槍を収納して何の変哲も無い黒い棒を取り出した。

 「少しは工夫してるみたいで一味ちがうんだな。じゃこんなのはどうだっ?!」


 そう叫びながら棒に魔力を流すと長い棒の先が台風にひっくり返された傘の様な形に分かれ、とてつもなく大きな音で鳴き始めた。

 その音は徐々に増幅され前方にいるポセイドンに向かって、丸で見えない砲弾の様に発射されていく。

 この武器の名前は《黒鳥》。俺に自作だ。

 対暴走精霊戦用に開発したこの武器は簡単に言うと音波兵器だが、コイツの本当の力はそれじゃない。

 

 目の前で音波の影響で海水で構成されたポセイドンの体が揺れている。でも音波攻撃は、すぐにでも元の形に戻ろうとする動きとギリギリに拮抗している状態だ。

 「どうせ、作られた方法は天使共と同じ。つまり中身は精霊だ。それならコレには勝てない!」

 手にもった棒に入れる魔力を操作し、発射される音波を少し変えた。

 

 そして全ての音が消える……筈だったが、ものすご~く嫌な音が神経を逆撫でして、結局魔力操作を乱してしまった。

 「くぅぅっはぁ~。何だったんだ今のは?」

 『バカモン。少しは自分が半分精霊であることを自覚しろ!!!』

 精霊王に怒られた。


 そっか。俺もこの武器の影響を受けるのか。でも指向性がある攻撃で良かった。ちゃんとポセイドンが海に帰っている。

 結果良ければ全てよし!


 「さぁ。コレで全部じゃないだろ?!もっと出して来いよ、マイダス!!」

 正直に言うと、テメエが出て来いよ!と叫びたかったけど、それじゃ捻くれ者の彼奴は出て来ないだろうと思い逆に行ってみた。すると~。


 『折角生き残った命をそんなに無駄にしたいのか、君は?』


 ほらね。

 不機嫌そうな顔がとても見心地いいよ。

 だから、二回戦と行こうか!マイダス!


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