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十七話 マイダス。




 先に言っておく。

 その時、俺は負けた。


 ◇


 背中から刺された俺はまず距離を取るため、初めて使う瞬間移動で部屋の端っこに移動した。案外すんなり移動出来て拍子抜けしてるけど、一体何処を刺されたのか痛みが半端じゃ無い。少しでも気を抜くと意識を手放して今いそうだ。一刺しでコレほどの痛みとは一体何なんだ?

 それにコイツ目の前にいるのに気配がなさすぎる。全くってわけじゃないけど、気にしてないと簡単に意識の外れに行ってしまいそうだ。

 でも、考えるのは後だ。先にやらなきゃならないのはフェーヤの帰還。マイダスのせいで暴走してしまったら堪ったもんじゃない。


 『精霊王!フェーヤを呼び戻せ!マイダスだ!!』

 『お主も来るんじゃ!緊急召喚は一度に一人だけじゃ!お主は自分で来れるな?』

 『フェーヤだけでいい!俺はこいつとやる!俺が合図したら来てくれ!』

 『不意打ち喰らったじゃろうが、バカモン!!』

 『問題ねぇよ。傷はもう無い。』

 

 やっぱり出来た。

 生命体への直接干渉》を使っての【再生(リゼネレーション)】。

 幻痛かどうか分からないけど未だ少し痛むが傷自体はもうない。傷口が綺麗だったお陰で簡単に塞がってくれた。


 『兎に角、頼むぞ。逆に尻尾を取られた形になったがチャンスなのは間違い無いんだ。逃すのは惜しい。』

 『むうう。ハルキ!死ぬなよ!』


 プラグ立てないでくれるとありがたいんだが……。

 ま、コレで心置きなくこいつとやれる。でも、俺がやるのはあくまでこいつの力のそぎ落としだ。ダブルケーオーでいいんだ。後は精霊王に任せる。


 「精霊王との話は終わった?」

 「へぇ。やっぱり分かるんだ。」

 「たまたまだよ。でも、今少し待ってくれる?リアーナちゃん。元に戻してる最中だから。」

 「ま、それぐらいなら待つけど。その代わり、場所移さないか?狭いだろう?やり合うには。」

 「僕はそれでいいよ。どうせ死ぬのは君だよ。」

 マイダスはそう言いながらほんの僅かだが口元を釣り上げた。


 5分ぐらい待ってから、少し落ち着いたリアーナは俺とマイダスを相互に見ては早速マイダスの前に立ち俺に床に落ちていた短刀を向ける。

 「マイダス様。ここは私が。」

 まったく大した忠義心だな、と思いながら俺はリアーナを無視してマイダスに確認を取る。 

 「おい。マイダス。コレでいいだろう?」

 「いいよ。何処へ行く?」

 「マイダス様?」

 「リアーナちゃん。少し待ってね。計画変更は無いから。」

 「大した自信だな。俺なんか眼中に無いってことか?」

 「そこまで君を見下して無いよ。気配から君も僕の様になったみたいだし。簡単には行かないだろうね。で、場所は?」


 そこで俺は予め考えて置いた最高の戦場を話した。

 「地球。南極。」

 


 極寒。

 その一言でしか表現出来そうに無いその光景の中で俺達は立っている。向こうの世界では万年雪が積もった山には行ったことあるけど、こんな極限の環境の中は始めてだ。

 でも、コレでコイツは精霊に干渉出来ない。向こうの世界には精霊がいっぱいいるけどこの世界は普通の精霊はいない。いるのはマイダスが連れ込んだ寄生虫の中に封印された連中だけだ。

 つまりその寄生虫も寄生された人間もいないここならなんとか五分まで持ちかけることが出来るかもしれないという判断だ。


 「へぇ。やっぱり君結構頭使うタイプみたいだね。」

 「格上に対する敬意は忘れないつもりだ。」

 「格上……ね?」

 「出来れば、力でやり合うのは避けたい処だな。でも、テメエは自分の計画諦めるつもりは無いだろう?」

 「ないね。僕はこのシステムを壊す。これは譲れない一線だ。」

 「やっぱりな。じゃ、時間がもったいない。」

 「そうだね。じゃ、やろう。」


 そこで俺は自分の持つ最強の武器を取り出した。マイダスも透き通る様な銀色に輝く一振りの両手剣を手に構えた。

 「少し悪趣味の武器持ってるんだね、ハルキ君。」

 「なぜか、コレが一番使いやすかっただけだよ。でも、普通はあまり強すぎて使えないから封印中だけど。」

 俺の武器は一言で言えば【デュエル・ハルバード】。

 棒の両端にそれそれ槍と斧が取り付いてる武器だ。ただし一つの端には西洋風のハルバードではなく日本風の鎌槍。変テコに見えるのは仕方ない。


 「じゃ、君から来る?それとも僕から行く?」

 「当然。チャレンジャーの俺から行く、サッ!!!」

 まずは小手調べ。

 魔法はマイダスが先に使わせる。それとその魔法は全部避ける。消耗して来たら俺が魔法で潰す。

 

 一撃、二撃、そして三撃目の攻撃がマイダスの剣によって塞がれた後で、俺は自分の予想が当たったことを確信した。

 やっぱりコイツは剣はそこまで上手く無い。魔法が主力だ。

 基本お互い重さが違う武器同士で闘う場合、軽い方は受けるより交わす動きをするのがセオリだ。軽いと言うことは小回りが効くと言うこと。

 それをそのまま受けるのは余程武器の強度に自身があるか、実力が足りないと言うことになる。でも、俺の武器も強度では鋼鉄にすら負けない。

 コレなら重い俺の方に分がある。

 

 「くっ。やっぱり剣は君の方が強いね。」

 

 俺の攻撃の隙を突き漸く瞬間移動で距離を取ることが出来たマイダスが剣を腰の沙耶に収める。

 失敗したな、もう少し体力減らせると思ったけど、欲張り過ぎて大振りしたせいで逃げる隙を与えてしまった。でも、

 「まだ、終わってねぇよ!!」

 俺も瞬間移動で奴の背後を取り攻撃を仕掛ける……が魔法障壁で弾き出されてしまった。属性もクッソもないただの魔法障壁の威力とは思えない反発力だ。殆ど3メートル以上飛ばされてしまった。


 「なんつぅ魔力持ってやがる!明らかに魔力だけで作った障壁の威力じゃねぇだろう!!それと魔法発動時の魔力波動はどうした?!なんも感じられなかったぞ!!」

 「そんな魔力操作が下手な連中の話ししてもね~。」

 へ、下手。俺も何だけど……。こりゃますます魔法戦は避けるべきなんだよな。でも、ただの物理攻撃じゃ当たるはずも無いんだし。

 「ほら、ぼうとしてるとやられるよ。ほらほら。」

 

 くっそ!折角掴んだ勝機を簡単に奪われてしまった!一体これ何発だ?!

 瞬間移動を連発しても襲い掛かってくる数十数百の《ただの魔力弾》を死に物狂いで弾いて、避けていきながら、俺は心の中で悪態をつく。

 だが、それは他の大きい魔法を使うためのただの布石であって、本気の攻撃じゃなかったことを俺は数秒もしない内に知ることとなった。


 「さぁ。どれ位持ち堪えられるかな?」

 呑気な声と共に回りの広い範囲の空間が処処歪んで行く。

 これはやばい。やばすぎる。

 それの直感が激しくそう主張している。

 でも、歪んだ場所から逃げ続けることしか俺には出来ない。それも瞬間移動を使わずに。

 「へぇ。瞬間移動使わないんだ。やっぱり君って頭結構いいんだね?」

 増え続ける空間の歪みから必死で逃げ続けてる俺にマイダスの感心した様な声が届く。

 「それはねぇ。簡単に言うと重力だよ。それを無理やり一定空間に押しと止めているだけさ。だから君が瞬間移動するために自分を分解する瞬間に何処か分からない処に飛ばされるわけ。でも、それは僕が魔力供給を止めない限り増え続けるよ。ま、僕の魔力だけで維持するのは大変だけど2時間は持つ筈だから。出来ればその時間内に死んでくれるとありがたいね。」

 クッソ。俺は蠅か?蚊か?それとこの魔法は殺虫剤か?!!2時間ってなんだよ!!まだ始まってから5分も経ってないんだぞ!!巫山戯んな!!

 

 俺は右往左往逃げ回りながら必死でこの状況を打破する何かを頭の中で探しつづける。拍子抜けするほど簡単な対処法があるのはわかっているがそれは使えない。使ったら大変なことになる。

 俺が使える対処法は重力魔法だけだ。それを真っ向にぶつけることでマイダスの魔法の安定性を崩せる筈だ。でも、それやったら幾ら少なく見積もっても南極大陸の半分は消し飛ぶ。それの影響がどんな物になるのかは想像もしたくない。

 そんな風に頭を捻りながら逃げつつけている間、段々俺の逃げ道は塞がれて行く。それで俺は漸く気づく事ができた。マイダスの真の目的に。

  最初に魔法の原理を教えた理由、わざとらしく俺が逃げる道道を塞いて行く理由。それは全て、

 

 俺にこの世界を壊させる為の物、だと……。


 だけど、俺は更に考え込んだ。

 そんなのはただの嫌がらせでしか無い。俺に罪意識を押し付けるのは彼奴の目的遂行の為にすこしも必要の無いことだ。なのに彼奴はそれをやらせようとしている。じゃその目的はなんだ?

 リアーナをイジメた腹いせ?それは違うような気がする。じゃ、ただ俺が気に入らないから?そんな理由で馬鹿なことをやらかすような人間じゃないはずだ。

 じゃ、一体コイツは何の目的でこんな事を……ってあれ?俺なんか勘違いしてないか?

 重力って確か物理法則の中で一番弱い力で、質量を持っている2つの物体の間に作用する力、だよね?じゃ俺が自分の質量に魔法を掛けてその力を限界まで減らせば、どうなるんだ?


 「案ずるより産むが易しだ!!やってやるよ!!!」

 俺は今考え付いたその魔法、【無重力(ゼロ・グラビティ)】を早速使ってみる。

 打つけ本番だけど正常に使えた様だ。

 ちゃんと俺のイメージ通り、体から重さが無くなり空中に少し空がだ浮かんだ。そして、自分の動きが鈍く感じられるけど、筋力を阻むあらゆる力が作用しないからか、自力で出せる速度はとんでも無いことになっている。

 今まで完全に塞がれた処も空間魔法の影響が弱く重力魔法が強い処は何の影響もないまま通れる様になっている。魔法が発動する速度も俺の速度を追いついてない。

  

 あはは、コレはくせになりそうだな!

 でもあまり長い時間使用は禁物だ。筋力が凄まじい速度で落ちる気がする。

 それにちょっと早く動いただけでコントロール厳しくなるし、空気摩擦のせいで熱くなるし……。

 

 だが、今はそんなこと考える前に彼奴を潰す!!

 俺はそう考えて彼奴の真正面に最速で駆け寄り、全く手加減していない【神経増幅(ナーヴ・エンハンス)】魔法をマイダスにぶっ掛けた。

 武器が通じないなら俺も魔法、それもテメエと俺にしか使えない《生命体への直接干渉》を使った魔法だ!!塞ぐか避けてみやがれ!!


 だが、彼奴は避けるも塞ぐも、ましてやさっきまで掛けてあった魔法障壁すらも解除していた。


 魔法が全力でマイダスを襲う。

 その直後、マイダスは感電したように体を大きく振るってから、糸が切れたように崩れ落ちた。

 彼奴の魔法もそれと共に消されていく。

 だが、俺は自分の負けを痛感した。


 『ありがとう。ハルキくん。君のお陰で死ぬことが出来たよ。』

 肉体から解き放された奴が俺の前に立っている。背中に6枚(・・)の翅を生やした、マイダスが。

 

 そう、ヤツは肉体が死に、6枚の翅の精霊。

 精霊を生み出し、自分が生み出した精霊を滑ることが出来る精霊の中の精霊。

 精霊王になったのだ。


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