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十四話 走馬灯?

 ああ……。

 何故か最後に聞いた言葉が「れ」か「ゼ」じゃなく、「ち」だったような気がする。


 ◇


 俺は今、依頼で何回か来たことがある《アンファンティスの遺跡》の前に立っている。つまり異世界にいるのだ。

 

 あの時確かマイダスの奴が何かして気を失った……って俺まさか死んでる?ってことはコレは走馬灯か?

 なんで走馬灯なのにここ?走馬灯と言えば自分の人生を一瞬で振り返ることが出来るはずだ。一度も経験したことないから断定は出来ないけど。


 「ハルキく~ん。まってくださ、ひぃ~。」

 ふと後ろから聴き覚えのある可愛げのある声が聞こえて来た。

 「リアーナ。俺一人でも大丈夫だって。」

 あ、やっぱり過去のフラッシュバックだな。この状況を俺は知っている。

 遺跡から正体不明の魔獣が出たとかで、ギルドの依頼を受けて来た時だ。中にいるのは暴走した精霊じゃないかと思って依頼を受けたけ。

 でもやっぱり自分の体なのに自分で動かせないのは不便だな。1人称アクションゲームを他人が操縦しているのをただ眺めている感じに似ている。

 「そうは行きません!私は今回の依頼はかなり危ないと上に知らせた張本人ですよ。」

 「そうは言っても依頼受けたのは俺だし。リアーナはただの情報提供人じゃん。だから、戻ってていいよ。」

 

 ツインテールと可愛い顔、華奢な体つきで冒険者の間でアイドル使いされているリアーナは、弓使いとしては一流で3級の冒険者だ。だが、それに比べ俺はこの時1級だった。危険の基準が違う。


 「あれは化け物ですよ。幾ら最速で1級にまで登ったハルキ君でも出来ないことがあるんですよ。」

 「全長3千ルーグ(約10メートル)の蜥蜴だって?ドラゴンじゃあるまいし、そこまで気にすることないだろう?」

 「いえいえいえ。ドラゴンより危ないですって!毒吐んですよ。人間の上半身が背中にくっ付いてるんですよ。魔法使うんですよ。石化攻撃ですよ。」

 「いや、それはもうギルドで説明受けてるから。」

 「なんでハルキ君はそんなに呑気なんですか!!自分の命を粗末に使うとぜ~ったい後悔します!そんなこと絶対しちゃダメです!」

 

 あ~。やっぱりウザイ。この時もそう思ってた筈だけど改めて見てもウザイ。俺は自分の力など隠してたことはほぼないし、回りからも実力だけなら最速の特級昇級も間違いないと言われていた。なのに、こいつだけは何時もこうだった。ハーフエルフだからか顔は可愛いし性格もそこまで悪くないのに何処かウザイ奴、それが俺が持っていたこいつの評価だった。

 

 「うるさいな。じゃ付いて来れば?ただし邪魔だけはするなよ。足手まといを守りながら闘うのは御免だからな。」

 「はい!付いて行きます。私弓は得意だから後ろからフォローします!」

 「だ~か~ら!なんもするなって。お前が下手なことすると敵の動きが読み辛くなるんだよ。」

 「ブゥ~。ハルキ君。ひどいです。私はハルキ君のことが心配で~。」

 「お前のそれは心配じゃない。おせっかいだ。」

 俺はそう言った後に「面倒くさいな。ったく。」と軽く舌を打ちながら遺跡の扉を潜り中に入っていく。


 あ~俺この時かなり性格悪かったな。

 三年半目だっけ?飯はまずいわ、人間はあんまり好きになれないわで、いろいろギクシャクしていた時期だな。

 4年目越えてからは外面(そとずら)だけは少し丸くしていたな。英雄だの何だので色々ちやほやされてるのに辛く当たるのはどうかと思ってたから。


 ◇


 《アンファンティスの遺跡》は内部がかなり複雑になっている、謂わば迷宮だ。

 勿論初めから迷宮だったわけではなく、この遺跡を作った王朝が滅んだ後、捨てられて、忘れ去られて、魔物が住み着いて、冒険者達の穴場の役割をするまでの、400年以上の時間の中で魔物によって形状をかなり変化させられ迷宮になったのだ。

 この世界の迷宮と呼ばれる物は概ねそんな感じの迷宮だ。

 階層構造でもなく、迷宮コアとかがあるわけでもなく、ポップする様な魔物もなく、生き物としての迷宮でもない。ただの複雑すぎる構造を持つ穴蔵に過ぎない。

 それは人造、獣造、複合の様に分類され、元の名前が伝承されてない場合にはこの《アンファンティスの遺跡》の様に第一発見者の名前が付く。

 つまり、この迷宮は《アンファンティス》と言う1級冒険者が発見した複合型迷宮、なわけだ。


 「ハルキ君。やっぱりもう魔物でないね。」

 俺の後ろに少し離れた場所からリアーナの声が聴こえる。

 「あ、だからそれ以上距離縮めるんじゃねぇぞ。離れてていれば危険はないからな。」

 魔物はないことだし、守ってやる義理もない。

 当然冒険者達の穴場だったこの場所をただの複雑なだけの穴蔵に変えたのは俺だ。

 この時から半年前、魔物が異常に強くなって冒険者の被害が限界を超えていた。

 だから、1級に上がったばかりの俺と他の1級達でここの掃除を依頼され、その依頼を成功させたのだ。

 他の1級達と言っても二人だけ。変態オバサンと根暗オヤジはその依頼後に負傷の理由に引退するほどの激戦だった。

 その激戦があったお陰でこの遺跡は当に蛻の殻になっていた筈なんだけど、変な化け物が住み着いたのが遺跡の学術調査に来ていた学者達とその護衛に来ていたリアーナによって発見され、俺にその討伐が依頼された。


 でも、この時は少しもおかしいと考えてなかったな。

 普通こんな迷宮に住み着くのは強い魔物一体より、弱い魔物数体の方が先だ。その弱い物を餌にする強い奴が住み着きだんだんその強さを増していく、それが通常のプロセス。でもこの時の俺はさっさと全部終わらせる為に暴走精霊探しに躍起になっていて、そんな当然なプロセスなど考えていなかった。

 先に言わせて貰うがこの中に住み着いたのは暴走精霊じゃない。ただのキメラだった。

 ま、暴走精霊以上に強かったけど……。

 

 「そこの角を曲がればすぐ見つかりますよ。」

 「だから、それ以上近づくんじゃねぇって言ったろう?!」

 俺がそう言いながら振り向くと何時も間にか5歩で届くほどまでにリアーナとの距離が近くなっていた。

 あれ?今リアーナの奴笑ってなかったか?微かだけど……。

 でもこの時の俺はそれに気づかずに、と言うより気にもせずに「闘う間に邪魔するんじゃねぇぞ。いいな。」と言いながら角を曲がって行く。

 でも、意識だけの俺は、もう一度リアーナの顔が確認したかった。


 リアーナの言う通り角を曲がって少し歩いて行くと言われた通りの姿のキメラがでっかいホールの様な空間で立っていた。

 巨大な蜥蜴の背中に長い髪が蛇の様にウネウネしている人間の女の上半身が有り、長い尻尾の先には重戦士が使うモーニングスターの様な刺が生えた球体。そして息する度に空気の色が少し変わっている。

 丸で俺を待ちわびていたとも言うような攻撃的態勢だった。


 そして戦闘が始まる。

 俺が腰に下げた剣を抜き魔法を掛ける。尖さを上げ切る度に電撃を食らわすための【電閃】という魔法だ。

 風の結界を纏い、最大速度でキメラの横っ腹に回り込んだ俺が攻撃を繰り出す。巨大個体を相手にする時よく使う必殺パターンだったけど、この時はそれが通じなかった。

 長い尻尾が俺が接近すると共に俺を攻撃して来たのだ。それを剣で塞くと間髪入れずに頭上から変な魔法の波動が感じられ、俺は最大速度で後ろに飛び引く。

 距離を取った俺の目に入ったのは元いた場所には回りにある土の地面とは違う白いセメントの様に変色した固そうに地面。

 あの攻撃はキメラの石化魔法だったのだ。一階経験済みだけど無いはずの背中に冷や汗が流れるのを感じる。完全に直撃コースだった。


 最大速度ってのは連続で使い続けると当然息が上がる。ましてや、計画された動きじゃなく無理やり取らざるお得ない動きなら尚更だ。呼吸が乱れた状態では動きが鈍くなり不利な状況に追い込まれる。俺は「すぅ~はぁ~」を素早く繰り返し息を整いながら敵を睨みつけた。

 だが、問題はそれだけじゃない。敵が俺の攻撃に完璧に反応し、完璧とも言えるタイミングで、二重攻撃で逆襲をかけて来たことの方が問題だ。


 だけど、敵は俺に考える暇など与えるはずがなかった。

 敵の攻撃はそれからも続き、俺はギアを防御用に切り替えて、呼吸整理と回避に専念した。


 「確かにドラゴンより強いかもな。」

 しばらくして、やっと呼吸を整理した俺が軽い語調で減らず口を叩く。

 今考えるとそんな口叩く暇があればさっさ倒せ、と自分に言ってやりたい。なぜなら、この後もこの先頭は4時間以上続いたからだ。


 4時間。当に地獄の様な時間だった。

 精霊の力を借りた合成魔法も、俺のオリジナル魔法も、身体強化を限界まで使った特攻も敵には致命傷を与えることが出来ずに、4時間の間、ずーっと攻撃して回復兼回避して、また攻撃して回避してを続けて、やっと背中に生えた人間の様な物を消し炭にして勝機を掴むことが出来た俺は、限界に近い体で最後の特攻を掛けることで地獄の様な戦闘を終わらせることが出来たのだ。

 

 戦闘を終えた俺が敵の死亡を確認してその場でへたり込んで呆然としている。

 そして意識だけの俺も精神的に疲れていた。回る視界で苦しみながら何も出来ずに4時間ずっとそれを見るだけ、流石に精神的にも疲れるものだ。

 誰かに聞いたことあるけど、レーサー達も自分で運転する車より助手席で感じる恐怖の方が大きいそうだ。多分俺もそれに近い状態だと思う。

 

 でも、肉体的には、いや今は肉体無いから、頭だけはちゃんと回る状態の俺はあの時は絶対聞けなかった筈の言葉を辛うじて拾うことが出来ていた。



 「マイダス様のおしゃった通りね。アレじゃハルキ君を殺せ無かった。」


 マイダス……様。

 つまり、リアーナ・リピュトンはマイダスの手下だった。




 それを知った俺の意識がもう一度闇に落ちる。そして今回ははっきりと声が聴こえてきた。

 『さっさと、起きんか!』

 

 少しの痛みと共に聞こえたその声はなぜか心地よい感じがする、怒っている精霊王の声だった。

  

 

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