十三話 システム。
神への反逆?なんだそれ?厨二か?
質の悪い冗談みたいだが、こいつの言葉は決して嘘でも、冗談でもないと俺の勘が告げている。それにこいつの言葉を信じると精霊王も殺せる能力、もしくは技術を持っていることになる。
くっそ。力を持っている厨二ほど厄介なのはねぇよな。俺も似たようなもんだけど、せめて俺は回りの被害ぐらいは気にしてんだぞ。でもこいつにはそんなのがない。全くない。それが尚更厄介だ。
『あれ?自分としては大暴露のつもりだけど、驚かないんだね?』
『驚いてるよ。向こうでは魔導師たちの仕業で暴走精霊が出来たって知られてるけど、まさか黒幕がいたとはな。』
『その魔導師たちを騙したのが僕だよ。精霊を支配出来るという言葉だけで魔導師自ら飛びついて来たけどね。』
幸い、なにか聞けば答えてもらえるそうだな。今後の為に何か聞き出すことができたらいいんだけど……。
『で、なんで神への反逆者になったんだ?神に何かされたか?』
『された……か。そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるね。神は地上のことなんて興味も持たないし、干渉もしない。神がしたのは世界のシステムを創りだしてそのまま放置しただけ。そのシステムを壊すのが僕の目標だよ。だから僕は神への反逆者なのさ。』
『システム?』
『時空間などの物理法則、生態系の循環システム、進化システム、そして輪廻システム。概ね僕が壊そうとしているのはコレぐらいだね。ま、物理法則は全部は無理でも少しぐらいは壊せるようになったし、進化システムも少しだけど僕が介入出来る様になった。生態系はまだ手を出していないけど、一番の問題は輪廻、だね。コレにはちょっと手を焼いているんだ。そのせいで精霊王を殺して回りながら同時に進化システムに干渉する面倒を強いられているね。なのに君と向こうの精霊王に邪魔されていろいろ計画を見つめ直す必要が出てきたんだ。ま、それもそれで楽しいんだけどね。』
さっ~ぱり分からない。一体こいつは何言ってるんだ?物理?生態系?進化?輪廻?そんなの人間にどうにか出来る領域を完全に逸脱してるじゃん。それになに?神はシステムだけ作って放置した?なんだよ!そんあカルト教団みたいな断定は!わけ分からねぇえええ!!
『やっぱりこれだけじゃ理解できないんだろうね。でも全部事実だよ。証明するには、ざっと説明するだけで君の残り人生全てを使うぐらいの時間が必要だから省けるけど。』
『……。そんな神が作ったシステム壊してテメェは何がしたいんだ?今の神に代わって神にでもなるつもりか?それとも世界全部壊して滅亡でもさせるつもりか?』
『あ~。やっぱり説明なしだと、そんな結論しか出ないのか……。じゃあ、証明までは、もう少し説明してあげるか。でも、ちゃんと頭巡らせてね。最大限簡単に分かり易く説明するから。』
それから頭が痛くなるような説明が始まる。
話は《多重宇宙》の話から始まって、要約すると大体こんな感じになる。
・多重宇宙は存在する。それも数えきれない程に。
・その数多な宇宙は全て一つの宇宙である。
・地球も当然その中に存在し、数多な数ほどの地球が同時に存在する。
・これらの全ては《可能性》と言う基礎システムの活動に寄って時間の流れとともに宇宙の数は幾何級数的に増えていく。
ここまで説明を聞いた後で、俺はこう言う質問をマイダスに投げかける。
『まさか、小説とかに出てる様に俺自身がいっぱいいるってことか?』
『そうだね。でもそれは君であって君じゃないよ。今君が質問した世界での君。他の質問を掛けた君。質問自体しなかった君。質問自体を考え付かなかった君。など、君が行った考えと行動によって生まれた別の君は別の宇宙で生きているんだろうね。勿論君の行動に影響を受けたせいで新たに生まれた《他の可能性》により、それよりもっと沢山の宇宙が生まれてるはずだけど。』
そこで俺は気持ち的に完全に引いてしまった。
数多を甘く見ていた。いや、駄洒落じゃない。本当にそう感じてしまっていた。こんな短い時間に宇宙がそんなにも出来上がって行ったら、一体どうなるんだ?そんなことが出来るから《神》、なのか?いや、そもそもそんなシステムを壊すと言うマイダスは一体なんなんだ?
鳥肌が止まらない。コレがハッタリであることを祈るしかないほど、こいつからは一切の嘘の気配がないから尚更怖くなって行く。俺のそんな気持ちにも関わらずこいつのとんでもない説明は次々に進んで行った。
・そんな多重宇宙を急速に拡張させる最たる原因は、生態系システムである。
・生態系システムのない宇宙は《意外性》が乏しくなってしまうそうだ。
・そしてその生態系システムの要が《魂》の存在と《輪廻システム》。
・魂と言うものは謂わばハードディスク。生命体はそのハードディスクを利用しているパソコン。脳はCPU。
・転生は老朽化したパソコンからハードを抜け取り新しいパソコンに埋め込むこと。その過程でデータは消される。
・でも磁気ディスクを使う一般的なハードディスクと同じように、魂も完全なデータの消去はされず一定のパターンによって《データがない状態》に上書きされている。
『つまり、魂には今まで生きてきた記憶がちゃんと残ってるんだよね。そして極稀に、消去自体が行われない魂が出来上がるんだけど、それが僕、なんだ。』
消去が出来ない。つまり前世の記憶を持っている。だからこいつの転生は偶然でも何でもなく、必然だったわけだ。じゃ、一体こいつは何時からの記憶を持っているんだ?
『カレコレ1500年は超えたね、記憶してるだけでも。最初の記憶は中国のある田舎で生まれ育った記憶なんだけど、師匠と出会って仙人になるための修業している中で戦争に巻き込まれて死んでしまった。でも、それが原因で僕がこうなったのかは分からないね。あの時の師匠は正確には仙人じゃなく、学者だったからね。僕が学んだのは学問であり、仙術じゃなかった。ま、どうでもいいことだけど。』
マイダスは丸で俺の考えを読んだかの様に自分の過去を話ししたが、何処か懐かしむ様なそんな感じが伝わってきた。
だが、それからも説明は続いて行く。
・進化システムはある種から環境適応の特性を持つ個体が極稀に生まれることを示す。それによって種が、その個体が自分を進化させた遺伝子を次世代に繋いでいくことは確率的に行われる。
・進化論とは違う点は最初の進化種が持つ特殊な変異因子の存在。その変異因子は神が作ったシステムの要《可能性》を体現する因子で有り、細胞の種類が多い生命体ほどその可能性は狭まれ因子出現率が下がる。つまり弾細胞動物が一番変異し易いこと。
・そしてその進化システムの最悪の点が進化の限界。
・その限界を簡単に説明すると、人間の場合絶対硬い皮膚を持てない。可能性の範疇から見れば人間を構成する多くの炭素を使い硬い、甲殻の様な皮膚を作ることが出来るはずだが、絶対そんなことはありえない。足の裏か拳タコの様に少し硬くはなっても犀か象の様な硬くい皮膚は出来ない。可能性はいくらでもあるのにそれが出来ない。それが進化の限界のせいだそうだ。
それの後に説明されたのが、もう一つ最たる進化の限界。寿命のことだった。
生命体は必ず寿命が持っている。でも実は寿命なんて成長と死に関わる幾つかの遺伝子の組み換えることにより、簡単に消すことが出来る物だとマイダスは言っていた。
『完全に魔族に変異した彼らは食事も、睡眠も、寿命も無くなってるよ。それを可能にしたのが精霊だね。正確には暴走精霊。』
『どういうことだ?さっき暴走精霊は精霊王を殺すために関係あるもんだって言ってたんじゃ…?』
『精霊が暴走して精霊王を殺す。それは間違いないよ。でもその後だね。精霊王が死に精霊王からの制御から外された精霊はね。依代が必要になるんだ。それが一番適したのが魔族の細胞。それを利用して遺伝子をちょこちょこ操作して作ったのが《ソーマ》と言う名の寄生虫なわけ。でもちょっと予想外だったのが地球の汚染だね。核汚染。ソーマが勝手に変異してしまって暴発的に増殖して変異してしまったんだ。』
『つまりコレはテメエの意図的な仕業じゃないと?』
『ないね。でも、結局は同じことしていたかもね。あくまで小規模で実験するだけで留まるつもりだったけど、上手く行ったら結局は全部そうなるはずだったから。寿命が亡くなった者達が殺し合いもしない、つまり死なないってことは、輪廻も機能する必要がなくなるってことだからね。』
なんでこいつは生命をこんなにも軽く考えることが出来る?
自分を守るためとは言え、生命を殺すことに抵抗がありすぎる俺にはそれがどうしても理解出来なかった。
『じゃ、説明はそろそろ終わりにしよう。もう時間だ。』
『時間?』
『うん。なぜ僕が君に態々話しかけていろいろ説明したと思う?そして回りを見てご覧。そこの人たち。そして精霊も。』
その言葉に釣られて回りを見回すと、説明の間完全に頭から離れていた、宇多野と二人の研究員、そして精霊が皆少しの動きもしていなかった。気配はちゃんとあるのに時間が止まったかの様に完全に動きが止まっている。
『まさか、時魔法……?』
『残念。ただの病原菌だよ。ただし魂のね。でもそれが何故か君には効かなくってね。いろいろ準備する時間が必要だったから懇切丁寧に説明の時間を設けたのさ。』
『じゃ、最初に俺に話しかけてきたのは……?』
『ソーマの制御権は完全に僕のモノだからね。ソーマになった精霊が表に出れば分かるようになってるんだ。だから君がその部屋に入ってきてすぐにわかったよ。僕を邪魔してくれたハルキ君だって。だからこれを期にコレ以上邪魔できないように殺そうと思ってね。でも、コレで君は死ぬよ。忌々しい輪廻の中へ戻るといいよ。』
『……。なにをした?俺はなんともないぞ?』
『急かさなくってもすぐ分かるよ。……2,1。』
そして俺はゼロ、のカウントを聴くことも出来ずにそのまま意識を手放した。