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十二話 もう一つの……。

 精霊の世界に於ける役割は自然の調停者だと精霊王から聞いたことがある。


 自然は自分自身で調停されるのであって何かに調停される物ではない、と言う甘い考えをしている人たちの為に少し補足しておくと、精霊の力が殆ど影響していないこの地球ですらも、色んな種類の菌種を初め、地球の磁場、月の引力などの様々な調停によって自然が維持される、それの一つにでも問題が起こると自然は荒れ、世界級の災害が起こる。

 ま、その全てが自然だ!などと言う人もいるかも知れないけど、俺にはその全てが恩恵であり、呪いでもあると思うけど。


 それに比べ、異世界では菌類の恩恵が少なく、磁場も弱いし、月の引力すらも地球より弱い上に地殻の変動も強いのでそのままではとても生命体が生きられる環境じゃない。それを補う役割を精霊たちがやっているわけだ。

 つまり、地球とは違い、自意識を持つ存在が世界を維持していると言うこと。

 だから精霊は滅多に他の者から干渉を受けない。

 基本、見えない、触れない、声も聞けない存在なのはそのせいだ。もし何かの影響を簡単に受ける存在になっては世界の存在自体の存続に関わる問題になる。

 兎に角、異世界はそう言う風に回っていた、ことだけ説明しておこう。

 だが、こっちでは勝手が違う。

 

 色んな恩恵が自意識のない存在によって生み出され自然はバランスを維持している。つまりこっちでは精霊の力は殆ど使われない。使われない力は衰退する、故に弱くなる。

 だから地球の精霊は実体化も出来ないし、力も発揮できない。

 なのに、だ。

 俺の目の前には実体化した半透明な精霊が角から抜け出すために必死に藻掻いている。見るに耐えないぐらい必死さだ。それにほぼ確定だがフェーヤを暴走させた原因はこの精霊だ。それほどの力がこいつにはあるってことだ。

 

 『精霊王。質問だ。今俺がなにしてるか分かるか?』

 『何じゃ?ハルキか?分かるはずなかろう、フェーヤはこっちにおるのだぞ。』

 『もう一つ聞くが、精霊王は世界別に違うのか?』

 『知らんのぉ。妾は今いる世界とお主の世界しか知らぬ。でも、そっちには精霊王はなかった筈だがのぉ。』

 『最後だ。精霊王は実体化出来る精霊のことなら何でも知ることが出来る。間違いないよな。』

 『そうじゃ。妾が精霊の始まりであり終わりである。』

 やっぱりか。俺の予想が正しければこれはコレ以上ないぐらいにやばいことになるぞ。

 『で、なんでまたそんなこと聞くのじゃ?』

 『実体化した精霊がこっちにいる。多分だけど別の世界の精霊のようだ。』

 『な、何じゃと?!』

 精霊王でも驚くのか。コレはマジで大事だな。

 

 そう、大事だ。

 精霊は普通世界を渡ることが出来ない。なのに今目の前に他の世界から来たと思われる精霊がいる。フェーヤは俺の血を媒介に作られて精霊王の世界渡りの能力を得た俺だけの精霊だから他の奴等とは違うけど、普通は世界間の移動は精霊王クラスじゃなきゃ不可能だ。

 逆に言うと精霊王の力があれば世界を渡ることが出来る。それがないと幾ら精霊だろうと渡ることは出来ない。

 つまり、もう一つの異世界の精霊王が意図的に(・・・・)にこの世界へこの精霊を行かせたってことだ。

 これは《異世界からの襲撃》と言っていい状況だ。


 だが、まだ懸念はある。

 精霊にとって精霊王は神の様な存在であり親のような存在でもあるからだ。そんな精霊王がこんな風に精霊を苦しませる様なことをする?どう考えても理解できない。


 『ハルキ。その精霊と話してみてくれぬか?』

 少し震える精霊王の声が聞こえる。

 『話を聞いてくれるかどうかは分からないけど、やってみるよ。』

 『もしや、暴走しかけてるのか』

 『いや、そんな感じではないよ。でも俺の声が届くかどうかは未知数だな。』

 出来れば精霊王がこっちに来てくれるとありがたいけど、フェーヤをあんな風にするぐらいだ。精霊王もそうならない保証はない。

 『そうか。妾が行けたらいいのだけど……。』

 精霊王もそれを知っているみたいだな。

 『危険は避けるべきだ。来ないほうがいい。なんとか俺がやってみるよ。』

 『……。すまぬ。』

 

 そして、俺はガラスのケースの前に立ち精霊との会話を試してみる。

 『おい。俺の声、聴こえるのか?』

 でも、返事がない。声もない。ただ必死な感じだけが伝わってくるだけだ。でも微弱だが俺の念話のあと魔力の揺れがあったから、届いてないわけじゃないはずだ。しかたない、アレ(・・)使うか……。

 『今から少し魔力飛ばすけど驚くなよ。害するわけじゃないから。』

 俺は一言入れて精霊に俺の魔力で少し太い目のパスを繋ぐ。コレは暴走精霊との会話の為に開発した、強制的に相手との意識の通路を作り出す【繋魂(マインド・リンク)】と言う名づけた、俺の中で禁術指定した魔法だ。

 なぜ禁術指定するしかなかったのかと言うと……。

 『わたし、なに?くすしい。みんな。やめて。ー聴く、耳を傾ける。ーからだ、うごかない、なんで?ー聴く、耳を傾ける。ーせいれいおうさまは?どこ?ー聴く、耳を傾ける。ーどうして?なに?ー聴く、耳を傾ける。ーくるしいよ。なんで?ー聴く、耳を傾ける。ー…………だれ?』

 あ、振り向いた。


 よかった。暴走精霊とは違い早く振り向かせた。

 こんな風に意識事態を混ぜる(・・・)魔法だから、自分の意識を保つために集中してずーっと同じ言葉を繰り返すしかない。もし少しでも集中が切れてしまうと逆に俺の精神が汚染されてしまう。ただ考えが混ぜるぐらいなら問題ないけど自意識の領域まで汚染されてしまうと自分の人格自体にも影響が出る。

 だから一応禁術にして出来るかぎり使わないつもりでいたけど、幸い今回は精霊の方の意識もかなりしっかりしていたから早く振り向かせることが出来た。

 

 『話……出来るか?』

 俺はもう一度精霊に話を掛ける。

 『だれ?』

 『俺のことはハルキと呼んでくれ。それより君、精霊王と連絡取れるか?』

 『せいれいおうさま?……せいれいおうさま……うぅ、ヒック、ヒク、せいれいおうさまぁ、わああああぁぁ!』

 あ、やばい。泣きだした。質問の選択を間違えてたみたいだ。また、ああなってしまったら……。

 

 『精霊王は死んだよ。』

 俺がどうにかして話題を変えようと頭を捻っていた時ふと誰かの【念話】が俺の頭に響く。知らない魔力だった。感じからして、若い青年。でも、なにか悪意を感じる。念話を飛ばしたってことは魔法使い、それに精霊王まで知っているとすると祝福を受けたか、精霊と契約している者。

 『誰だ、お前?』

 『なんだ、連れないな~。僕は君のことをよ~く知ってるのに……ハルキ君。』

 『俺は自己紹介もまともに出来ない知り合いは、知らない人と認識してるんるんだ。』

 『お~。これは一本取られたね~。』

 念話は言語を選ばない謂わば自動翻訳で行われる。だから違う言語を使う間では少しのぎこちなさが生じる物だ、でもこいつからの会話にはそれがほぼない、ニュアンスすらもちゃんと伝わる。ってことは、

 『お前、日本人だな?』

 『あれ?わかっちゃった?すごいね~君。』

 別に驚いてないだろう、気持ちが伝わってないんだよ。白々しい芝居しやがって……。

 『確かに直接話すのは初めてだね~。ジャ、自己紹介するよ。僕は緑山(みどりやま)秋夜(しゅうや)。元、だけどね。今はマイダス・レーベンって名前だよ。それから……。』

 元?まさか転生……か?


 『精霊王を殺して~違う世界の精霊王も殺そうとして~ハルキ君に止められて~地球をこんな風にしてしまった張本人で~す。』

 い…ま、なんて言った?

 『殺、した?』

 『うん。殺したよ。』

 なに軽々しく自白してんだ?自慢じゃないんだぞ!世界を滅亡させるつもりだったのか?それに地球もこんな風にして……。

 『いったい……何なんだ、テメェは……。』

 『僕は何なのか~なんか哲学的だね。そうだな~僕は~。』

 

 そして、少しの間、語尾を伸ばして考える振りをした緑山ごと、マイダスはやっと思いついたかの様にこう答えた。


 『神への反逆者、だね。』


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