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十話 フェーヤ。

 「宇多野を捕まえる?殺すじゃなく?」

 「ま、世界がこうなった原因、寄生虫、それのことをちょっと知りたいからね。それ聞き出した後はまだ決めてない。」


 ミサイルのことだけで俺にも敵だ。捕まえた後でどうするかはその時に決める。殺すも、生かすも。ま、絶対彼奴にとってはいい結果にはなれない。そうさせるつもりは毛ほどもない。

 「兎に角、姉貴が知っている大日本戦線の情報教えてくれよ。じゃないと探す時間が増す分奴等がなんか変な行動に出る可能性が増える。」


 ミサイルを撃って、ヘリで偵察、それがミヤのせいで失敗したのは多分もう知られているだろう。だとすると第二波が計画されているかも知れない。出来ることならそれが打たれる前に防ぎたい。

 「大体の拠点は掴んでいるけど、今は地図無いから……」

 「あ、それならコレ持ってるから教えてくれ。」

 俺はカーナビを取り出し姉貴に渡した。

 「カーナビ?あんたにしちゃ、気が利くじゃない。」

 へへん。ぐっと褒めてくれ。俺もコレのことは結構自分の事を褒めてやりたいから。

 

 それから姉貴は大日本戦線の拠点を5つカーナビにメモライズしてくれた。その間、俺が記録しておいたミサイルの着弾場所を姉に見せたのだがやっぱり以前姉のグループが使っていた拠点もその中にあったそうだ。

 それを聞いた俺の背中に冷たい汗が流れる。

 だが、運が良かったわけではなかった。あくまでも姉のグループにいる米軍から傭兵を経てボディーガードになった。アレックと言う人が敵の出方を予測し移動を決定したお陰で皆が生き残ることが出来たそうだ。

 ありがとう、アレックさん。

 俺は心の中で深く感謝の気持ちを伝えた。後に会う機会があれば直接言よう。


 それから小一時間後、俺達は簡単に食事を摂りこれからの日程整理を終えていた。日程と言っても俺とフェーヤだけで数時間離れるだけで、沙凪ちゃんもミヤも拠点にて待機。姉貴は自分が持っていた軍用トランシーバーで自分のグループに俺と出会ったと伝えた後、沙凪ちゃんと一緒に待機する。


 「で、最初に何処へ行くつもりなの?」

 「まず、ミサイルが残ってるかも知れないから船潰しに行こうかなぁと思うけど。」

 「あたし等が手に入れた情報によると、ミサイルは全部4発だけだし。でもこれ2週間前の諜報だからもっと入集してるかも知れないけど、ちゃんと弾頭まで組まれたミサイルなんて、自衛隊にそんなにあるはず無いってアレックが言っていたわ。」

 「無駄足になるかもしれないっか。じゃ、姉貴の考えで兵器類が一番多く置いてある場所は何処?そこを潰したら、彼奴等かなり焦ると思うし、混乱してる間に他の場所潰していけば良いしね。」

 「じゃ、新宿だね。そこが一番充実してると思う。」

 「オッケー。新宿だね。」

 

 あそこならある程度なら暴れても問題ないな。出来るだけ俺が人間達に被害が出ないようにフォローして、フェーヤに暴れてもらおう。

 『フェーヤ。いよいよお前の時間が来てるぞ。』

 『ほぇ?あたしの時間?』

 暫く放ったらかしにしていたが未だにフェーヤはミヤの角の回りで遊んでいたみたいだ。そんなに面白いもんなのかな?あそこじゃ普通にいる角なのに。

 『あ。お前暴れたいって口癖みたいに言ってたんだろう?』

 『暴れていいの?』

 なんか、かわいい顔で聞き返して来たぞ。なんか子供にお菓子あげた後に子供がオドオドしながら許可を求めるそんな感じだ。

 『あ、タイミングと敵は後で教えてやるからその時には存分にやっちゃっていいぞ。』

 『本当?やった~。わ~い♪』

 うわ!顔に飛びつくな!顔に!

 俺はそっとフェーヤを掴んで離した後、ふと気になったことを聞いてみた。

 『で、お前、ミヤの角に何かあるのか?』

 『なんかね。精霊寄りの魔力がこの角から出てる。』

 魔力?精霊寄り?なんじゃそりゃ?俺は感じないぞ?

 『じゃミヤも魔力炉持ってるってことか?』

 『ううん……わかんない。他には感じられないし。でも、角だけはなんか面白い魔力感じる。とても微弱なんだけど。』

 やっぱり、異世界との何らかの関連性が……。でも、コレ以上は分からないみたいだし、今は一旦置いとくしか無いな。フェーヤが感じたもんは精霊王にも伝わったはずだ。精霊王ならその魔力でなにか調べられるかも知れない。

 『ま、その話は後だな。さっさと出るぞ。』

 『りょうか~い。』


 「晴稀。あんた。面白い顔芸出来るようになったわね。一人で表情コロッコロ変わって。」

 姉貴が俺を可哀想な目で見ている。

 そういや、フェーヤのことは紹介しなかった。でも顔芸って、俺そんなにいろいろ顔に出ていたのか?それより俺って面白い顔なのか?

 

 取り敢えず、沙凪ちゃんに紹介した時の様に【幻影】と【念話】で紹介した後、俺達は拠点を出て新宿へ向かった。

 なんか、ミヤの時もちゃんとした紹介はしてなかったから、ミヤが驚きながらもすごく喜んでいた。

 やっぱり俺だけ見えるのって不便だよな。

 

 ◇


 現在、俺達は防衛省の入り口が見える新宿のある高層ビルの上にいる。正確には道路を一つ挟んですぐ向かいの場所だ。

 入り口には高く積み上げられたバリケートが張られてその中には数人の軍服の人たちが気怠そうに警戒をしている。出来るだけ誰かからの視線を避けて移動したお陰で幸いまだ俺達、いやフェーヤは元々見えないから俺に気付いてはいないみたいだ。でも、


 「コレは困ったな。」

 俺は両手で頭を掻きながら自分のバカさ加減に呆れている。

 理由は2つ。

 人間の気配から推測するにかなりの捜索しなきゃならない範囲が思った以上に広い。空中爆撃するにしても人間を保護するにしても広い範囲ってのはなかなか厄介だ。

 二つ目は内部の情報が分からないから何処に武器が集められているのかが分からない。つまり手当たり次第に探すしかないってことだ。そんなことしていたらかなり時間を食ってしまう。

 『ハルキィ~。ま~だ~?』

 俺がいろいろ考えを巡らせていると痺れを切らしたフェーヤが急かしてくる。

 仕方ない。適当に誰か捕まえて聞くとするか。

 「フェーヤ。あそこにいる人達見える?」

 『欠伸しているおじさん達のこと?』

 「あ、アソコに30秒でいいから【影領域(シャドー・フィールド)】掛けてくれるか?」

 『うん。分かった。』

 「じゃ、行くぞ。いち、にっ、さん!今!」

 

 俺の合図と共に警備隊員達の回りに黒い霧が創りだされる。イメジ的には閃光手榴弾の影バージョンだ。元々は10秒ぐらいしか続かない魔法だが、属性魔法に長けた精霊達にはもう少し続けることが出来るし、フェーヤの力は普通の精霊とは桁が違う。30秒ぐらいは朝飯前だ。


 俺は合図を出した直後、ビルを飛び降り自由落下の身を任せ一気に地上まで降りて行く。着地直前【浮遊】の魔法を使い速度を落とし、ほぼ音も立てずに着地した後、俺が出せる最大速度で影の中へ突入した。

 影の中ではなにが起きたのか分からない警備隊員たちの混乱の声があちこちで聞こえている。気配感知を使う必要もなく捕まえる事ができて楽なんだけど、「なんだ?」「どうした?」とかはまだしも「寝てません!」ってなんだよ。マジで居眠りしてたのか?

 思わず吹き出しそうになりながらも一人の警備隊員に接近して後頭部に軽く【電撃ショック】を食らわせ気絶させた俺はその人を肩に担いで、再び最速で移動、フェーヤが待っている向かいのビルの後ろ側へと移動した。


 ここまで掛かった時間は12秒ぐらい。

 そして、浮遊魔法と魔法で強化した筋力を併用して一気にジャンプ。

 あ、だめだ。計算だとこのぐらいのビルぐらいは一回のジャンプで登れるはずだったのに、たった一階分ぐらい足りなかった。

 異世界より空気抵抗が強い、もしくは重力が少し強いのかも知れないな。ま、特に気にするほどでも無いしいいか。

 俺はそこで風の結界を応用した空中に足場を作る魔法【空翔エアーワーク】を使い屋上まで移動した。

 

 「ただいま。」

 『もういいの?』

 「あ、ここからはちょっと尋問タイムだな。」

 『なんか、ハルキのやることって一々面倒くさいんだね。』

 なんかその言葉何処からか聞いたことがあるような……。

 はい、確かに面倒くさいですね。俺も面倒くさいのだいっきらいです。でも、一番キライなのはこんな面倒くさい事やってるのは結局自分だと言うことです。自覚してます。でもね。これだけは大声で叫びたいですよ。

 『面倒くさいのが嫌いだから面倒くさいことをやるように成るのだ。』

 以上、念話で叫んで頂きました。

 『ハルキっておバカさんだね。』

 ごもっとも。

 

 じゃ、仕事だ仕事。さっさと情報貰って、さっさと潰して、さっさと宇多野って奴さらって、さっさと帰ろう。

 「お~い。オッサン。起きろ~。」

 「う、うう。ね、寝てません、」

 はい。さっきと同じコメントですね。でも同じネタで2回吹き出したりしませんよ、俺は。


 それから俺は極小威力の【電撃】で首の弱い皮膚を少し焼いて頭をしっかりさせた後、俺を見て丸で化け物でも見たように混乱しながら悲鳴を上げるオッサンをすこ~し強引に落ち着かせて尋問という名の話し合いを始めた。元はと言えば話し合いと言う名の尋問なはずなんだが、涙流しながら首を縦に振り続けるオッサンを見ると尋問する気になくなってしあまった。ま、でも騒ぎ出したら面倒なので、念の為に風の結界で遮音だけは予めしておいた。

 でも、少し皮膚が焼けるぐらいの電撃喰らわせながらちょっと笑って見せただけでこんにも怖がるものなのか?

 このオッサン、服見て自衛隊員と思ったけど民間人だったのか?これはあんが使えそうな情報持ってそうにないな。でも、折角捕まえてきたんだし。


 「オッサン。今から質問することに素直に答えてくれたら無事に送り返してやる。」

 「は、はひぃ!」

 「宇多野勝彦って奴今何処にいるのか知ってる?」

 「はい。宇多野さんならあの防衛省にいます。今日の朝から会議があるとか言って上層部の皆はそこに集まりました。」

 「オーケー。次はここにある武器庫とか戦争兵器とかの置き場所を知っているだけ全部教えてくれ。」


 俺は口だけの説明では探すのに手間が掛かると思い、カーナビをオッサンの前に出し場所を教えて貰うことにした。内部の建物の配置は平面図で大雑把なことしか写ってないがそれでもある程度場所は表示されているから大体の位置は分かるはずだ。


 親切なオッサンのお陰で粗方情報は得られた俺達は早速行動を開始する。オッサンは自力で帰ってもらう。どうせ周りに感染者の気配は無いんだ、大日本戦線の奴等が拠点回りをしっかり安全確保しておいたのだろう。

 

 そして俺達は空から一気に目的に場所へと移動する。

 すぐ向かいのビルの上層階だから目と鼻の先だ。強化窓は同じく強化腕力で破って中へ突入した。


 「おや?コレはラッキってもんだよな。」

 俺が入っていったのはある会議室だった。壁には大型プロジェクターで地図の様なものが映しだされていて、中には20人あまりの人相の悪い人たちが驚いた目で俺を見ている。うむ、重畳。注目してくれるならさっさと片付けて上げましょう。


 「宇多野和彦さん。お迎えに上がりました。」

 誰かは知らないがこの20人あまりの人たちの中にいるだろうし、いるなら何らかの形で自分の場所を教えてくれてる筈だ。

 「なんだね。君は?どうやって入ってきた?」

 あ、つまらないテンプレな質問は勘弁ください。返事が面倒ですので。

 「元厚生省の研究員宇多野さんにだけ用事があるんですから他の方は少したまってください。」

 言葉に魔力を乗せ少し威嚇してやると皆の顔が混乱の雰囲気から一気に恐怖の顔色に変わって行く。

 「で、宇多野さんは……貴方ですね。」

 どうも不健康そうな顔つきと狂気に満ちた様な目付きから見てあの人で間違いないだろう。白衣でも着ていたならもう少し分からやすかったけど今はスーツ姿だ。でも、あの人からだけ何か臭うんだよな。なにか化学物質みたいな、病院臭い匂いが。


 「ま、まさか……また……新しい……変異種、か……?」

 はい、ダウト。その言葉だけでほぼ確定だな。では拉致させて貰うよ。

 ゆっくり宇多野に近づくでも誰の邪魔も入らない。しっかり魔力による威圧が聞いているみたいだ。ま、こちらの人間に魔法耐性無いんだし当然だな。

 だが、俺が宇多野を捕まえる為に手を伸ばした時、異変が起こる。その異変は俺の真後ろから起こされたものだった。

 

 一瞬、巨大の魔力の奔流が防衛省の一室を荒らしていく、魔法耐性が無い人達はたちまちその衝撃で意識を失い、残ったのは俺だけ。俺はすぐさま後に振り向くがすでに奔流は止まっており、倒れ意識を失っている人たち意外、何もなかった。

 

 そう、なにも。

 そこにいるはずだったはずのフェーヤの姿すらも。 



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