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九話 姉貴の戦争。

 「正座。」


 少しの間号泣した後、姉貴はいつもの様な、懐かしい感じもする語調で俺にそう言った。

 そして俺は条件反射の様にその場で正座するが、すぐにまた立ち上がる。

 「姉貴。ちょっと待て。正座は後でまたするから。」

 「正座ぁ。」

 はい、聞く気ないですね。でも、俺も意地がある。

 「ちょっと御免。」

 無理やり姉貴を抱き抱え有無を言わさずに空へと飛び上がった。



 皆の元へと行き簡単に状況を説明してから拠点へと戻って来た俺達は、中にあった丸いテーブルを囲い席に付けた。

 拠点は元々不動産屋として使われた場所らしくテーブルと一緒にそれにピッタリなサイズのソファーがあったのだが残念なことに何か事件があったらしく、こびり付いた血の跡がどうしても気になり、同じ階にある倉庫から持ち出したパイプ椅子に腰を据えた。


 「で、こっちが俺の姉貴の黒伽揶澪。」

 歳とか口にしたら、後が怖いのでそれ以上は話さない。

 「久しぶりですね。澪さん。」

 「久しぶりね。沙凪ちゃん。光久(みつひさ)は……死んだのね?」

 姉貴が沙凪が持っているショットガンを見て少し眉間に皺を作る。多分その光久がショットガンの元の持ち主だろう。

 「……はい。」

 「じゃ残ったのが、あんたなんだけど。姿は結構変わってるけど、人間……なんだよね?」

 俺が説明する前に姉貴が自分でミヤに質問を投げかけた。でも、でっかい角と黒い肌見てもビビらないっか、警備会社努め経験で養った胆力のお陰かな。


 姉貴の職場は警備会社だった。それもかなり大手の外資系だった故に色んな国の傭兵くずれの人たちとの面識がある。

 基本的には企業などの重役などの自宅もしくは俳優さんのボディーガードなどの仕事をする会社だが、姉の仕事は派遣する警備員たちのマネジメント、つまり管理をする立場であって直接的に警備をする立場ではない。元々は報酬がいいと言うことで入った会社だったが思いの外、適性がありまくりで異例の昇進をして23歳の歳に現場管理職まで上り詰めていた。その後のことは俺もよく知らない。

 なぜか姉貴から殺気が……姉貴、俺姉貴の歳など口にしなかったぞ。本当だぞ。

 

 「あたし、宮前雅。ミヤと呼んでください。お姉さま。」

 お、お姉さま?一体どうなってんだ?

 「そう。やっぱりね。ウチのグループにもあんたと似てる奴いるから。なんとなくそうなんじゃないかと思ったけど、やっぱりゾンビから自意識戻ったら皆結構変わってしまうのね。」

 ミヤみたいな連中の知り合いがいたのか、ふむ、これじゃ案外姉貴のグループとの交渉は簡単に行くかも知れないな。

 

 「それで最後にあんたよ。晴稀。」

 「はいはい。正座だよな。やるよ。やります。」

 すぐ立ち上がり椅子を退けて正座しようとする俺を姉貴が止めた。

 「それはいいわ。あんたが5年間どうしてたのか、簡潔に報告しなさい。」

 「5年前、違う世界に連れて行かれ、世界救って戻ってきた。以上。」

 どうせ簡単には信じてもらえないだろうし、超簡単な報告だけしておく。追々信じてもらえればいい。

 「そう。分かったわ。」

 「あれ?ヤケにすんなり受け入れるんだね?」

 「見れば大体分かるわよ。あんた嘘下手だから。それにさっきあたしを抱えて飛んだよね。それどう見てもゾンビからの変異じゃないみたいだし、何処か知らないけど、傭兵出の人たちが持つオーラ的な物があんたからも感じられるから。かなり鍛えて来たことは分かる。」


 へぇ。オーラね。やっぱりあの会社、結構怖い所だったみたいだ。俺、昔のままだったら、姉貴の会社の近くには絶対行かないな。

 「なにか特殊な力得たみたいだけど、あんたもあたしのこと手伝ってもらうつもりだから。」

 出たよ。姉貴の無鉄砲直球。いつもこうなんだよな。何の脈絡もなく自分の考えだけ、人に押し付ける。コレのせいでどれだけ姉貴と喧嘩、いや楯突いて殴られてきたか……。それに魔法のことすらも何の抵抗なく特殊な力ってことで片付けるとは……。

 

 「なに手伝わせるつもり?」

 「戦争よ。」

 戦争……ね。

 「じゃさっき彼奴等狙撃したのも戦争とやらの一環?」

 「違うわ。元々彼奴等はうちのグループ所属だったけど、所業の悪さで追い出された奴等よ。でも、その腹いせにウチの女の子さらって殺してしまったからその制裁であたしが殺ったの。」

制裁って……眉一つ動かさずにこんな事言ってる姉貴って見たくなかったな。でも、こんな世の中だから、仕方ない、仕方ない……って言葉で済ませたくはないんだよな。

 「姉貴には悪いけど、別に俺戦争したくないんだ。」

 「じゃ、何するつもり?」

 「出来ることなら、人間たち集めて生存基板作るの手伝って、今この状況を起こした原因を探る。ことかな。それが終わったら異世界に行く。沙凪ちゃんと姉貴連れて。」

 俺の言葉を聞いた姉がじっと俺の目を見つめている。そして数秒間の静寂の後に姉が静かに口を開いた。

 「あんた、何も変わってないのね。相変わらずのアマちゃんだわ。」

 「知ってる。」

 「じゃ、今からあたしが言う事聞いた後に、同じこと言ってみなさい。」

 姉は目を少し伏せ、自分が今まで経験して知ってしまったことを俺たちに聞かせ始めた。



 姉は【地獄の3日】の後、会社の同僚数名と一緒にグループを組み回りの生存者達を救助しながら、状況確認と生存の為に活動をして来ていた。それから何ヶ月後、偶然、ゾンビが急激に変異する所を目撃した姉のグループお人たちはゾンビは始まりでしかないと知った。

 その後、姉のグループは更に生存者を集め、知識を持ってる人達を探す。そこでグループに入ってきたのが厚生省の研究員だった宇多野和彦(うだのかずひこ)だった。

 それから宇多野はグループの支援の元変異種の研究に取り掛かるが、ある日、狂乱したように研究室を取り出し皆の前でこう叫んだそうだ。


 「コレは誰にも止められない!彼らは完成された生命体だ!人間はもはや旧世代の遺物に成るのだ!だが、私は抗うぞ!!闘うぞ!!進化に淘汰されても構わない!この地球は人間の物だ!!!」と。


 それから宇多野は自分の考えに同調する人たちを集め、グループを抜け出し、大日本戦線を作り、自衛隊とか生き残った権力者たちを見つけては武力による日本奪還を図るようになったそうだ。

 つまり、大日本戦線の最終目標は変異の可能性がある感染者たちと既に変異した人たちの根絶やし。


 でも、姉のグループの人たちは話が通じないゾンビならまだしも、ちゃんと会話も出来、食料の負担にもならない、特に攻撃的じゃない、変異種のことを自分たちの一員として受け入れている。

 ただ、それは人間的な甘い理由ではない。現状人間の数と比べ圧倒的に感染者の数が多い。何時変異するかは分からないけど、彼らが全部変異を遂げた時、共存する他に道はないと判断してる物がそのグループの主な考え方担っているそうだ。

 それに比べ大日本戦線はまだ自意識もなく力も弱い感染者、ゾンビの段階で全部殺すことが出来るなら数が少ない変異種の対処も数で押せばなんとか出来ると思っているらしい。そのためなら、点在して生き残っている生存者すらも全部殺すことをなんとも思わない。当に狂気に満ちた集団だ。

 故に姉貴たちは戦争している、と言っていた。


 でも、そんな動機のことはともかく姉が最後に言ったことばがもっと厄介だった。大日本戦線の殲滅目標の中には《姉貴がいるグループ》も含まれていると言うことだ。

 理由は簡単、彼らにとっては変異種と共存することはあってはならない行為であり、それが可能だと言うことを人に知らせるのは極めて危険と認識しているからだ。


 それに戦力差の面でも姉貴のグループの方が明らかに劣勢であることは明らかだ。戦争兵器を持っていることだけじゃない。人員的にもほぼ10倍以上だそうだ。それから今もその差は広がり続けているらしい。

 原因は食料と安定性。

 生存の前では思想などちっぽけにすぎない。これは歴史の中で繰り返し証明されて来たことだ。正直、それは生命体の構造的に仕方ないことだと思う。


 「こんな状態の姉を放って置けるなら、好きにしなさい。」

 「姉貴もそんなずるい事言えるんだな。」

 言葉のずるさより姉がこんなこと言えること自体がビックリだ。弱音とズルだけは人一倍嫌いな人だったのに……。

 「言うわよ。卑怯でもこのまま彼奴等は放っておけないわ。」

 「勝算、はあるわけないっか。」

 「ない。戦闘可能な人たちはせいせい80人ぐらいだし。武器も全然足りない。250人の食料を手に入れるために消耗されてしまう弾なども無視できるわけでもない。」

 「じゃ逆に聞くけど、そんな危険なことを実の弟にさせたいわけだ、姉貴は。」

 「へえ。結構いい性格になったんじゃない、あんた。」

 「5年もいろいろ経験してれば嫌でもそうなるさ。姉貴もそうみたいだし。」

 「じゃ、その経験を活かして手伝いなさい。姉の命令よ。」


 「いやだ。」

 きっぱり断らせてもらう。

 俺は進んで片方に立つことはしない。姉貴がやっていることは比較的に正しい。でも姉貴たちは生存のためだけに大日本戦線に加わった人たちを敵に見なしている。いや、積極的に敵視してるわけじゃないかも知れないが、彼らに行く被害を無視しては行けない。彼らが強いられるのは《コラテラル・ダメージ》、戦争における二次的な被害、それ以上でも以下でもない。

 戦争に犠牲は付き物。だけど、それでも戦争を選ばざる時はある。姉がやっているのは当にそれだ。

 だから、俺は戦争はしない。だけど、

 「じゃ、ここでお別けれね。もう合うことないだろうけど、ちゃんと生きなさい。」

 「待ってくれ。姉貴。」

 「ん?」

 だけど、俺は姉を見捨てるつもりもない。だから、

 

 「戦争はしないけど、彼奴等の戦争道具の方は粗方潰してやるよ。俺も先日のミサイルには結構苦しい思いしたし、その仕返しとして。」

 屁理屈。かもしれないけど俺は俺に向けられた敵意と敵対行動をした奴等が何の苦しみもないことを許すつもりはない。だから、向こうの奴等の武器を個人火器だけある程度残して、木っ端微塵にする。

 コレは決定事項だ。

 「それと、ついでだが、宇多野という奴。捕まえて来るわ。」

 研究者ならいろいろ知っているだろうしな。


 なんか俺やらないと言っておきながら結構やる気満々な気がするけど?

 ま、いっか。やりたいからやる。

 これぞ、真理ってもんよ!

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