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瑞穂草子  作者: 長谷川
12/21

拾壹.襲来

 小雨が降っていた。

 静まり返った部屋の中に、しとしとと降る雨の音だけが響いている。

 雨戸を閉めた室内は薄暗く、もう夕刻かと思わず錯覚しそうなほどだった。

 日はまだ高い。七兵衛が朝食の焼き魚を気に入った、あの宿場の旅籠はたごである。


「さゆさん、これからどうするんすかね」


 と、ときに部屋の隅で雨音を聞いていた利吉が、細く開けた障子と雨戸の隙間から曇天を仰いで言った。

 七兵衛は、部屋でしている。しとねも敷かずに板敷の上に横になり、利吉には背を向けているがその姿はどこか気怠げに見える。


「煙草が吸いたいな」

「駄目ですよ、一応まだ仕事中なんですから」

「だがそれも明日で終わる」

「本当にこのまま、さゆさんと別れるつもりなんすか?」


 あれほどさゆに執着を見せていたわりにはやけにあっさりとした七兵衛の口振りに、利吉はことさら眉をひそめた。そもそもさゆの身柄は、禁術の書が見つかり次第緋淵あかふちへ返せと二人は事前に蓮香れんかから命じられているのである。

 だが七兵衛はそんなものなど忘れたというように、ぼりぼりと右の腿のあたりを掻いていた。

 さゆは今日も隣室にいて、一晩この宿で休み、明日には双方別れを告げることになっている。


「まあ、それがさゆとの約定だからな。俺は約束は守る男だ」

「へえ。蓮姫はすひめ様との約束を今まさに反故にしようとしてる人がそれを言うんすか」

「馬鹿め。俺はあのおろちと約束など交わした覚えはない。向こうが勝手にその気になっているだけで、今回の件に関しては、俺は一度もうんとは言っておらなんだ」

「またそんな屁理屈言って。手ぶらで帰ったおれたちに蓮姫様が激昂するお姿が目に浮かびますよ」

「俺は単なるよろず屋であって、あのおろちの家来ではない。ならば仕事は俺の好きなようにやるわさ」

「じゃあおれは要らぬ火の粉を被らなくていいように、すべての責任を七兵衛さんに押しつける準備でもしておきますかね」


 とは言ったものの、利吉もそれ以上は何も言わず、冷たい雨を降らせる空をじっと見ていた。

 その雨もやがて分厚い雲の向こうで日が沈み、また昇ろうとする頃には止んでいる。


 薄明が、明け方の宿場町をぼんやりと照らし出していた。明けの空の、あの胸に染み入るような青さは今はない。

 雨こそ止んだが空には未だ鈍色の雲がかかり、町は微かに明るくはなったが全体として薄暗かった。何しろ時刻は百姓もまだ寝ている頃で、日中は街道を往来する旅人で賑わう宿場町も、今はしんと静まり返っている。


 その静寂の中に、からりと戸の開く音が聞こえた。

 瓦をいた旅籠の軒下から、薄桃色の小袖が覗く。

 さゆだった。夜が明けて早々に旅装を整えたこの娘は、物音を殺して宿の戸を閉め、軒下から空を仰いだ。またいつ雨が降り出してもおかしくない気配である。


 されどさゆは躊躇うことなく、暗い顔を伏せた笠のつばで隠し、静々と歩き始めた。

 その足は東を向いている。背には少量の荷を包んだ藤色の風呂敷だけを背負い、非常に身軽な格好で意を決して歩いてゆく。


「――ずいぶんと早いな」


 その頭上に声が降った。はっとして見上げた屋根の上に、人影がある。

 七兵衛。一体いつからそこにいたのか、瓦にどかりと腰を下ろし、路上のさゆを見下ろしていた。

 初めはその登場に驚いたさゆも相手が七兵衛だと知るや、今度は凍てつくような眼差しで冷然と睨み上げてくる。


「やはり行くのか」

「ええ、行くわ。あなたたちとはここでお別れよ。用心棒は私が里に帰るまで。そういう約束だったでしょう」

「いかにも。だがその前に俺の脇差を返してもらおう。それから宿の支払いがまだだ」


 こすっからいことを言って、七兵衛はちゃっかりとさゆに宿代まで請求した。それを聞き、いよいよ忌々しげな顔をしたさゆの腰には、確かに七兵衛の預けた脇差がある。

 彼女はそれを鞘ぐるみ抜き取ると、七兵衛目がけて放ってやった。大きく弧を描いて飛んできたそれを七兵衛はまんまと掴む。掴んだ鞘に、わずかだがさゆの温もりがある。


「良かったわね。その刀で私に刺されなくて」

「おい、宿代は」

「それくらいあなたが払ってよ。春巳はるみのお姫様から依頼の前金をもらってるんでしょう?」

「それはそうだが、そなたを連れて帰らねば全額返せと言われかねん。あいつはけち・・だ。そういうところには抜け目がない」

「行かないわよ、私は。あの姫様には確かにお世話になった。だけど私の行くべき場所は、緋淵じゃない」

「どうしても行くか」

「行かなきゃいけないの」

「そんなこと、誰に命ぜられた?」

「誰でもない、私自身によ」


 揺るぎのない口調できっぱりと言えば、これには七兵衛もため息をついた。それから高く結った髪をがしがしと掻き、七兵衛はやはり気怠げに言う。


「そうか、それは難儀なことだな。だが悪いことは言わぬ。復讐などやめておけ。そんなことをしたところで気など晴れんぞ。それどころか今度はそなたが憎まれ役になるだけだ」

「知ったような口をきくのね。あなたみたいな人殺しには、里を焼かれ、親を殺された私の気持ちなんて分からないでしょう」

「それが分かるから言っている。復讐などというものが、どれだけ虚しいことかもな」

「それは、あなたが復讐される側だったから?」

「違う。復讐した側だからだ」


 答えた七兵衛の声が、天に響くようだった。そのとき聞こえた答えがよほど意外だったのか、さゆは目を見張っている。

 一羽の烏が軒先に留まり、唖々と鳴いた。

 その烏に一瞥を向け、七兵衛は言う。


「さゆ。俺はな」


 にわかに太刀風が巻いた。七兵衛の背後、そこから更に一段積まれた屋根を跳び越え、いきなり斬りつけてきた影がある。

 七兵衛はその斬撃を、とっさに横へ転がってかわした。

 突如現れた人影は意外にも小柄である。

 女だ。


吉村きちむら七兵衛、見ぃつけた」


 齢十五か十六か。現れた相手は〝女〟というより〝娘〟であった。

 どこかあどけない顔をしているものの、手には抜き身の刀を引っ提げている。髪は黒く、利吉より更に短いが、うなじの毛だけが長く猿の尾のように垂れている。

 何より七兵衛が眉をひそめたのは、娘がまとっている着物であった。

 忍装束である。つまりこの娘もまた、どこぞの始末屋一門の者と見てまず間違いない。


「そなた、何者だ?」

「あたしは小猿こさる。本名は一條いちじょうかなめっていうんだけど、みんなが可愛がって小猿、小猿って呼んでくれるから、そっちの方が気に入ってるの」

「一條かなめ?」

「そうよ。父の名前は一條道順どうじゅん。覚えがあるでしょ?」

「さて、知らんな」

「嘘つき。あたしは父様の仇討ちに来たの。あんたに右手を斬り落とされた、十代目北原紫幻斎しげんさいのね」

「北原だと」


 これには七兵衛も声を上げて驚いた。だとするとこの娘は、あの紫幻斎の娘ということになる。

 しかしそれをにわかには信じられず、七兵衛は首を傾げてしげしげと娘を眺めた。


 好みの顔貌かおかたちである。七兵衛はまず、そういうところから小猿と名乗った娘を観察した。

 つるりとした頬はやわらかそうで愛嬌もある。これがあの老猿紫幻斎の血を引く娘とはますます信じ難い。


「なるほど、理解した。さてはそなた、里子か」

「は?」

「十代目とは似ても似つかぬ。あのじじいのたね・・から生まれた子ではあるまい」

「失礼ね、あたしは正真正銘北原紫幻斎の娘ですー! この顔は母様に似たの!」

「ほう。ということは、そなたの母御もなかなかの佳人と見た」

「まあ、確かにうちの母様は、娘のあたしから見ても美人だなーとは思うけど……って、あたしはそんな話をしに来たんじゃないの! 父様の仇、覚悟!」

「これ、朝っぱらからそうでかい声を立てるな。宿の客に迷惑がかかる。そなたも始末屋の端くれなら、もそっと静かにかかってこぬか」

「あんた、さっきからあたしのこと馬鹿にしてるでしょ?」

「滅相もない。ただ、そなたがどうにも愛らしいのでな。つい愛でてやりたくなる」

「きもっ! こっちはあんたなんかに愛でられたって全然嬉しくないって――のっ!」


 言うが早いか、小猿は瞬時に暗器を振りかぶり、びゅっと七兵衛へ向かって投げた。それを七兵衛がひょいと躱してみせた刹那、刀を振り上げた小猿が懐へと飛び込んでくる。

 忍刀しのびがたなと呼ばれる、通常の刀より刃渡りの短いものだった。その切っ先を七兵衛に向かって振り下ろし、躱されれば斬り上げ、更には一瞬の気合と共に刃を突き出してくる。


 それらの攻撃をことごとく避け、しかし七兵衛は空手からてだった。

 脇差すらも抜いていない。

 おなごには手を上げぬ、というのがこの男の信条なのである。


「これ、北原の姫。そなたの父御ててごから右手を奪ったことは謝る。しかしそれも巡り合わせだ。この争い絶えぬ戦国乱世では詮なきこと、これくらいで堪忍せい」

「冗談! あんたのせいで父様は始末屋を続けられなくなったのよ! だったらあたしも、あんたから右手を奪ってやんなきゃ気が済まない!」

「だから、もっと声を低めよと言うに」


 と言いかけたところで、七兵衛はとある異変に気がついた。

 ふと目をやった軒下に、さゆの姿がない。見れば薄桃色の小袖は朝の風に吹かれながら、通りの東に消えようとしている。つまり、逃げられたのである。


「さゆ」


 さゆの逃亡に気づいた七兵衛は、すぐさま瓦を蹴って地に降り立とうとした。

 だがその行く手に小猿が立ち塞がる。今度はさゆに気を取られた七兵衛に、正面から斬り込んでくる。


 そのときついに、七兵衛も腰から刀を抜いた。

 この長身の男と少女の小猿では、そもそも体格が違う。ぶんっと音を立てて振られた七兵衛の刀は意外な距離から小猿に届き、しかし小猿もそれを躱した。

 躱した先から、更に跳躍した小猿が勢いをつけて斬りつけてくる。七兵衛はその斬撃を刀で受け、されど意識は今もさゆに向いている。


 町の大路を一目散に駆け去ったさゆの姿は既に建物の陰に隠れ、高所からも見えなくなっていた。

 自然、追わなければと気持ちが急く。が、小猿がそれを許さず次々と刃を放ってくる。


 これにはさすがの七兵衛も辟易し、一度距離を置こうと渾身の力で小猿の刀を弾き上げた。

 すると小猿は刀に受けた衝撃を利用して背後へと跳び、くるくると体を丸めて回転しながら着地する。その動きはまさしく紫幻斎のそれで、この娘が確かにあの男の子であることを裏打ちしている。


「やっぱりあんた、あたしのこと馬鹿にしてるね。全然本気出してないでしょ」

「俺がこの世で一番好きな生き物は、おなごと猫だ。ゆえにおなごと猫だけは、よほどのことがない限り斬れぬ」

「その余裕がまた腹立つのよね。あたしみたいな小娘なんか相手するだけ時間の無駄だと思ってるんでしょ? 目の前にいるあたしより逃げたあの娘のことばっか気にしてるし」

「ほう。何だ、早くもやきもちか」

「違うし! なんでそうなるの!」

「俺はな、北原の姫。今更この命など惜しくはない。ただ泣いているおなごを見ると放っておけぬのだ。どうにもそういう性分でな」

「だから何。あたしにはあの娘、怒ってるように見えたけど?」

「いいや、泣いている。出会ったときからずっとな」

「変なやつ。あんな馬鹿女、ほっとけばいいのに」


 と言った小猿の肩に、そのとき一羽の烏が鳴きながら留まった。それ以外にも次々と、あちこちの空から烏が集まってくる。

 どうやら紫幻斎の血を引くこの娘もまた、烏操うそうの術を扱えるようだった。

 おかげであたりはたちまち烏まみれになり、その鳴き声が早朝の静寂を情緒もなく破り捨てていく。


「で、どうするの? あの娘を追うの、追わないの?」

「それは追えと言っておるのか?」

「うん。追って背中を向けてくれたら斬りやすいなぁと思って」

「なるほど。ではそうしよう」


 と言った声の下から、七兵衛は本当に小猿へ背を向け駆け出した。

 かと思えばひょいと屋根から路地へ飛び下り、細道の奥へと逃げていく。


「あっ、こら! 待ちなさい!」


 言った小猿もまさか本気で七兵衛が逃げ出すとは思っていなかったから、度を失ってあとを追った。その小猿が駆けながら手を振れば、頭上を飛んでいた烏の群がかしましく鳴いて七兵衛へと向かっていく。

 群れた烏は黒い塊となり、あたかも一羽の巨大な烏のように見えた。それが背後から、鉄砲水のような勢いで七兵衛へと襲いかかっていく。


 だが七兵衛にも秘策があった。

 胴火どうびというものがある。

 これは懐に入るほど小さな銅製の筒のことで、中には黒焼きにした和紙が詰められていた。その和紙に火をつけると筒がじわじわと温まり、これが懐炉かいろとなるのだが、始末屋はそれを火種に使う。胴火の火は、一度つければ半日も筒の中で燃えているのである。


 幸い七兵衛は今朝、さゆがひそかに起き出す気配を感じてからこの胴火に火を入れており、いい具合に懐の中が温まっていた。さゆがどうしても自分を振り切って行くと言うのならそれを見送ったのち、煙管で一服でもしながら黄昏れようと目論んでいたのである。

 それが偶然役に立った。七兵衛は駆けながらその胴火を懐から掴み出し、筒の蓋を外し、更に袴の物入れから取り出したある物を筒の中へと突っ込んだ。

 火縄である。


 その火縄の先には爆竹が括りつけてあり、縄先に火がついたと知るや、七兵衛はそれを迫り来る巨大な烏に向かって放った。

 瞬間、早朝の町にすさまじい破裂音が響き、その音と爆発に驚いた烏たちがわっと四方へ散っていく。

 七兵衛はその混乱に乗じ、更に脇の細道に逃げ、左右の壁を右、左、右と交互に蹴りつけて再び屋根の上へ登った。地上の道は障害物が多いが、屋根の上ならば行く手を遮る物はない。ただ眼下の路地という路地を跳び越え、ひたすらに駆ければいいだけである。


 が、同じことを考えた輩が他にもいた。先客、と言っていい。

 七兵衛が屋根の上に飛び出し、瓦に足を着いたとき、そこには二人の忍がいた。どう見ても北原の下忍である。

 どうやら彼らは屋根の上から七兵衛を追っていたらしく、獲物が偶然懐に飛び込んできたと知るやここぞとばかりに斬り込んできた。七兵衛はまだ屋根の上に膝をついている。


 これはまずいと一度は収めた刀に手をかけたが、抜けば相手を斬らねばならなかった。

 そうしなければ凌ぎきれぬ。されど斬れば呪いが動く。ほんの一刹那の内に七兵衛の脳裏を駆け抜けたその思考が、彼の反応を鈍らせた。


 次の瞬間、七兵衛の左から跳躍してきた忍の喉に棒手裏剣が突き刺さり、ほぼ同時に右の忍が吹き飛んでいく。

 利吉であった。

 右の忍を軽やかに蹴り飛ばした利吉はとっと瓦に足を着き、七兵衛の隣に降り立った。

 そうして膝をついたままの七兵衛を振り向き、ちょっと笑いかけてくる。


「ご無事ですか、七兵衛さん?」

「遅いぞ、利吉。どこで油を売っていた」

「すみません。宿の部屋に直接押しかけてきた下忍げにんに手こずりまして、遅参しました」

「ずいぶんと腕が鈍ったものだな。そんな様ではかつての〝麒麟児〟の名が泣くぞ」

「そう言う七兵衛さんこそ、軟派師すけべえの矜持はどうしたんすか。結局さゆさんには逃げられちまったみたいですけど?」

「すけべえではない、しちべえだ。そもそもさゆのことは、あれも駆け引きのうちよ。俺はまだ諦めておらぬ」

「懲りませんね、ほんと」

「――こっちもまだ懲りてないわよ!」


 刹那、七兵衛と同じ要領で屋根の上に現れた小猿が、飛び出しざまに次々と手裏剣を放ってきた。二人は即座にそれを躱したが、小猿の周りには再び烏が群を成し始めている。


「で、こっからどうするんすか、七兵衛さん? こいつはちょっと分が悪いですよ」

「この騒ぎだ。そろそろ町の役人どもも何事かと起き出してくる頃だろう。そこへ行く」

「役人に助けを乞うんすか? そんなことしたら、おれたちまでお縄を食っちまいますよ」

「心配ない。番所の前を横切るだけさ」


 交通の要衝となる瑞穂各地の宿場町には、それぞれの町の治安を守り行政を為す役人がいた。七兵衛はその役人たちが詰める番所へ行くと言い、再び大路へと飛び下りていく。

 町はこの騒ぎでさすがに起き出しており、通りには様子を見に来た町人たちの姿もあった。七兵衛と利吉はその前を瞬く間に通り過ぎ、往来の辻にある番所まで馳せていく。


「んっ。おい、貴様ら。何をそんなに慌てておる、止まれ!」


 やがて番所の前へ至るや否や、果然騒ぎの通報を受けた役人たちが十手を手に手に集まっていた。

 そこへまっしぐらに駆けてくる七兵衛たちを不審に思ったのか、役人の一人が制止の声をかけてくる。


 が、七兵衛は足を止めず、道を遮るように出てきた役人の頭上を鳥のごとく跳び越えた。

 ほとんど超人的な跳躍力である。

 これには役人たちも呆気に取られ、数瞬あんぐりと口を開けて立ち尽くしていた。

 その間にも七兵衛は脇目も振らず駆けてゆく。困ったのは、その七兵衛を夢中で追っていた小猿である。


「あっ、やばっ!」


 と、通りに役人の姿を見つけた小猿は、慌てて七兵衛らを追う足を止めた。

 手には未だ抜き身の刀を引っ提げたままである。それを役人に見咎められないわけがない。

 案の定それに気づいた役人どもが声を上げ、口々に「女!」と呼ばわった。途端に彼らの関心は小猿へと移り、十手を振りかざして押し寄せてくる。


「ああ、もう、あとちょっとだったのに!」


 激しく地団駄を踏みながら、これには小猿も退散した。始末屋も役人に捕まっては形なしである。

 その間にも七兵衛は、ひたすら東へ向かって駆けた。

 目指す先は、既に決まっている。

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