栄枯盛衰
時間は、メルが老人と出会うよりも少し前に戻る。
対テロ艦のふたりはメルを惑星近くでロストした後、ただちにすべての記録を連邦議会に送った。
これはメルの取り扱いが第一級テロリストだったからである。
第一級テロリストの処置を試みて対象が逃走してしまった場合「任務に失敗した場合、自分ひとりで尻拭いをしてはならない」という慣習があった。そもそも第一級のテロリストとなると厄介極まる輩が多く、末端の職員が少々取り逃がしたとてそれは無理もない事であるし、そんな事でいちいち問題視としても仕方ない。それより増援を呼び、皆で捕まえようというのが彼らのやりかただった。
また「煮えた頭の空回り」という言葉もあった。
つまり仲間を呼ぶ事で手数を増やす事もできるし、一度頭を冷やして切り替える事により類似の失敗も防げるだろうというわけだ。実際この方針はあちこちで高い評価を受けており、対テロ戦略では常識中の常識となっていた。
「大将、連絡はまだかい?」
「まだだテル。それよりセンサーには特に反応ないか?」
「ドロイド・コアドライヴ反応なし、動力反応もねえ。公共交通機関とかロクにねえみたいだしなぁ。テクテク歩いてんじゃねえか?こりゃ」
ふう、とテルは肩をすくめた。
「戦闘なり飛行なりでコアモーターを酷使しなきゃ反応しないってのはどうにもアレだな。かといって迂闊にセンサーあげられねえし」
それは雑踏でマイクの感度をあげるのと同じことだった。つまり余計な雑音を拾いすぎて収拾がつかなくなる。
「だいたいなんでここの政府筋は情報よこさねえんだ?いくらなんでもテロリストの侵入ともなりゃ話は別じゃねえか」
「それなんだがな、テル」
さんざんボヤいている部下に畳み掛けるように上司が肩をすくめた。
「もしかしたらこの星は、既に連邦の所属じゃなくなっちまってるのかもしれん」
「はぁ?」
さすがに想定外の返答だったのか、テルは思わず手を止めてしまった。
「手がお留守だぞ」
「お、すまねえ。……しかしマジか大将?嘘だろ?」
「冗談だと言いたいところだが、残念ながらな。あくまで推測にすぎんが」
ふう、とジッタはためいきをついた。
「テル、この星のおかしい点に気づいてるか?」
「この星の?あー、なんか異様に田舎ってぇか、そもそもここって植民星じゃねえのか?宇宙港と何か神殿みたいな山の遺跡の他はなんにもねえじゃねえか」
だが、ジッタはそんなテルの言葉に首をふった。
「ところがだ。ここは植民星や新開発区ではない。ここが本星なんだ」
そう言った。
「嘘だろ?」
対するテルは首をふった。ありえないという顔だ。
「ここ連邦だろ?」
「そうだとも」
「連邦所属の最低条件は星間国家である事だぜ?この何もねえ星のどこが星間国家なんだ?」
「……」
「あーそうか、ひょっとして連合ってやつか?友好国とセットで参加してんのか?」
それならば確かにある。大抵が二つ、多くて三つ程度の国が連合を作ってその名で参加するケースだ。
しかしジッタは首を横にふった。そうではないらしい。
「それも違うな。ティーダー系ヤンカは単一惑星国家なんだよ。同盟など作ってはいない」
「……なんだよそりゃ。大将、もったいぶってないで教えてくれよ」
「ああ、そうだな」
ジッタは苦笑すると、話を続けた。
「連邦公式データと比較してみたが……実際にはだいぶ以前に都市文明は滅びたんだろうな。定期便の運営側はヨンカ星系にあったはずだが、あっちの方がその手の援助やら情報工作やらをしてこの星を守っているんだろうな」
「なんだよそりゃ。なんのメリットがあるんだ?それ」
最もな疑問をテルが言ったが、ジッタの困り顔は変わらない。
「私もそれを思った。なんのメリットがあるんだとな。……だが一つだけありそうだ」
「なんだよ?何か見つけたのか?」
「あくまで推論にすぎないんだ、決定論ではない。その事を念頭に置いて聞いてくれるか?」
「あ、ああ。そりゃかまわねえが」
珍しく歯切れの悪いジッタの言葉に、テルは上官の感じているのが疑念でなく不安だと気づいた。二人のコンビが成立してからずいぶんになるが、過去にあまり見たことのない姿だった。
そしてテルの顔も曇った頃、ジッタはおもむろに言った。
「神殿だよ、テル」
「は?」
あまりにも想定外だったのだろう。不思議そうな顔をするテルに、ジッタは肩をすくめた。
「賭けてもいい、アレは遺跡じゃない。おそらく今も生きてて神殿として機能している。
確かゲルカノ教団って言ったか。どういうわけかやたらと神殿、それも本殿の広場がとんでもなく広いのが特徴でな。一目でわかる」
「なんだって?」
調査中に見た、異様に広い広場をもつ遺跡を思い出す。
「神殿って、あれだよな。あの古代の宇宙港みたいな、やたらと広い遺跡」
「そう、あれだ」
「そんな馬鹿な!あれが遺跡でなく今も生きてるってのか!?」
信じられないという顔でテルは叫んだ。
「だからヨンカ星系の援助なんだよ。定期便の乗客もほとんど参拝客なんじゃないか?リゾート設備など皆無のようだし、それなら納得がいくってもんだろう?」
「……」
ジッタは頭をふった。わかっちゃいるがわかりたくない、そんな顔だった。
「考えてみればヨンカはヤンカと似ているしな……あぁやはりそうか」
ジッタは平行してデータを検索しているようだ。何か浮かんだ文字を見て「ふむ」と考えたりしている。
「ヨンカ星系は元々このティーダー星系ヤンカから分かれた国らしい。そもそもヨンカという名前自体にヤンカの朋友という意味を含んでいるそうで、連邦参加後も土俗宗教の形で信仰され続けているらしい。もっとも連邦のデータベースには宗派までは記されてないようだが。エリダヌス系とは違う土俗のもので、そのうち消えると考えたんだろうな」
「ところが、それが消えてなかった……そういうわけか」
「そうだ」
うむ、とジッタは頷いた。
「昔ある人が『我々社会化タイプの知的生命体はカネよりもココロでコミュニティを形成するものだ』と言ったそうだが……まさにその生きた実例というところかな。興味深いね」
そう言うとジッタは考え込むように腕組みをした。
「テル」
「なんだ?大将」
「捜索を続けてくれ……嫌な予感がする」
「わかった」
ジッタほどではないが、テルも何かただならぬものを感じているらしい。
ふたりは再び作業に集中した。
つい先日まで恒星間宇宙船に乗り、星の海の中にいた。
そして今は深い山中、獣道同然の道で異世界の中世ファンタジーみたいなトカゲの御者さんの乗る、不思議な馬車に揺られている。
疲れた身体に程よい風は心地よく、ボロボロの素足はじくじくと痛んでいた。背のリュックから子猫は顔を乗り出したままだ。中で寝ていても一向に構わないのだが、周囲の光景に興味を惹かれているようだった。
そのまま好奇心で子猫が飛び出していく可能性もあったのだが、メルはその心配はないと考えていた。だから特に、そっちの心配はしていなかった。
特に根拠はない。だがメルの中には確信があった。
だってそうだろう?
メルの小さく偉大な連れ、あの銀髪の娘はこの子猫を見て何といった?
『懐かしいなぁ。まだ生きてたのねソロン』
それが何を意味するのかわからない。だがきっと子猫の落ち着きぶりはそれに由来するのだ、とメルは悟っていた。
「メル」
「なあに?」
考え事をしていると、御者台にいる老人から声がかかった。
「寝たいなら寝とくがいい。神殿ならまだまだ遠いからの」
「うん」
老人はそう言ってくれるが、そう言われてもメルはそう眠くなかった。
まったく人のいい年寄りだった。
数十年前、惑星アルカインで危うく艦隊ごと粉砕されかけたというのに「あれをやったのはお主じゃないだろうに」と笑って取り合わない。それどころか、その後の旅の話を面白がったあげく目的地まで送ってくれるというのだ。
メルは目的地を聞いてないのと言ったのだが、いやいやと老人は首をふる。
『この星で行くところなんぞ、ゲルカノ神殿くらいしかありゃあせんわい。銀の聖女の目的は知らぬがな』
だそうである。
そんなものかとメルは首をかしげたが、とりあえず行ってみる事で同意したというわけだ。
山はいよいよ深く、ひとの爪痕は全くといって存在しない。道は歩道か杣道か、はたまた獣道かという細さから決して広がる気配もない。
長く続く未舗装路は、砂利道だか草道だかわからないような道であったが、しかし凸凹は少なかった。気候が穏やかなのか整備されているのかはわからないが、少なくとも彼らの移動速度ならば、ガタゴトと不愉快に揺られる事もほとんどない。
時おり、メルの頭すれすれに何度か大きな虫や鳥がかすめた。
外見は凶悪そうなものもいたが、悪意はもちろん襲われる気配もない。だからメルも警戒しなかった。
鳥は虫たちを追い求めていたし、虫たちは食われないよう逃げるのに必死だった。しかしその食物連鎖の中にメルたちは含まれておらず、しかし、だからといって警戒されてもいないようだ。たまに頭を足場にされるくらいでほとんど無視されている状態だった。
むせかえるほどの緑。つかめそうな程に溢れる生き物たち。
そこに人工的なものは全く見られない。正直、メルたちとこの奇妙な乗り物以外には何もない。
「……」
そして、この乗り物こそが最大の矛盾だとメルは思った。
この前後二輪という謎すぎる構造の荷車には、ごく簡単な重力制御の概念が使われているのだという。動力は車軸からとっているが、消費量が極めて少ないのでわずかなチャージでいつでも効いているのだという。
一見地味だが、その技術レベルは全くもって安くない。明らかに恒星間文明のものだ。
だがこの星には文明らしき痕跡がほとんどない。ラジオらしき電波をひとつ捕えただけだ。
「どうして」
自然と疑問が口をついて出る。「ん?」という反応は老人から返ってきた。
「どうしてこんな森ばかりの星なのか、かな?この星ヤンカについての説明は先刻した通りじゃが」
「うん。それはわかるんだけど」
どうしてこうも緑が深いのか?
老人の言葉が正しいなら、この星はかつて星まで届く文明の拠点だったという。その勢いは周辺千光年あまりの星々を打ち従えるほどで、その名残りは隣の『ヨンカ星系』にも残っているのだという。そして本星であるこの星が原始に返った今も、ヨンカからの人は途切れず古い神殿も守られているという。
だが、なぜそれなら山中に道の一本もないのだ?文明の痕跡もない、これではまるで未開の地ではないか。
「ふむ」
老人はメルの疑問を興味深く聞いていた。そしておもむろに大きく頷くと、
「四本足よ、この先で分岐を曲がってくれるかの?この娘に遺跡隧道を見せてやろうと思うでな」
そう言った。
「……」
特に返事はなかったが、代わりに荷車を引いている巨大な狼が尻尾を揺らした。
今さら説明するまでもないが、ロルというのはこの荷車を引いている大きな狼のような生き物の事だった。外見的にはとても言葉が通じるようには見えなかったが、老人は普通にこの生き物に話しかけ頼み事をしている。いやそれよりむしろ、鞭の一本すら持っていない。
地球の家畜のような関係しか知らないメルは最初不思議に思ったが、よくよく考えれば別に不思議でもなんでもなかった。この大きな生き物は明らかに人語を理解していたし、そして家畜でもないのだ。単に自分の方が荷役に向いているから老人を手伝っているにすぎず、だからこそ老人も彼を鞭打つ事などない。
面白い共生関係だなとメルは思った。
閑話休題。
途中で道を変えたためか、道は渓谷から少し外れる事になった。森の中でも相変わらずそれは狭い獣道である事に代わりはないのだけど、周囲の地形が少しだけ不自然な事にメルは気づいた。そしておもむろに口を開いていた。
「なにこれ、なんか掘割みたいな地形だけど?」
「みたい、というのは正しくないの。掘割じゃよこれは」
「え……え?」
信じられないという顔でメルは周囲を見た。
掘割というのはトンネルの手前などにある、山を切り開いて道をつけたような地形の事だ。山を文字通り「掘って割って」いる地形なので掘割という。地球でも古代のものでない近代建築のトンネルでは、大抵トンネル本体の前に掘割地形があるものだ。それはつまり、トンネルにするには脆すぎる部分を山ごと開削し、本当に必要な部分だけをトンネルにしているからなのだが。
見知らぬ異星のトンネルが、地球と似たような工法と考え方で作られている。
もしメルが地球のトンネルに詳しければ、そこに興味を抱いたかもしれない。だがメルが驚いたのはその点ではなかった。
それよりも問題は。
「これが掘割て……広すぎない?」
「ふむ、広さが気になるかの?」
「そりゃあね」
そう、その掘割はメルが見たこともないほどに巨大だった。
山ひとつをまるごと割ったに等しい巨大さだった。道は周囲の地形やら何やらを一切無視してゆっくりと下降をはじめている。直進すれば遠からず山にぶちあたりトンネルに入るのだろうとメルにもわかったが、メルのよく知る地球の道路とトンネルのイメージをこれにあてはめるとすると、その道幅は下手すると1kmはある事になりかねない。
「何これ」
あちこちの宇宙文明も見てきたメルだったが、こんなとんでもない広さの道路なんて見た事はなかった。
当たり前と言えば当たり前なのだが、クルマのサイズだの、車線の広さというものはその土地、その時代の必然で決まるものだ。無意味に作っても実用性は皆無で、むしろ害悪になる事の方が多い。
つまり、どこの星でも人間のサイズが大差ないならば乗り物も大きく変わらず、従って道路幅も大差ないという事。
だいたい、そこまで巨大な道路が必要というのは、大抵は需要そのものでなく、たとえば流通機構などに欠陥がある場合が多い。そっちをまず正すのが筋だし、そもそも、それだけの量をいちいち道路を走らせるのもどうか。それに、自然環境を破壊してまで巨大道路や橋梁を作りまくるなんてのはむしろ時代遅れの、原始的な文明のやる事だろう。
では、このとんでもない掘割はどういう位置づけの文明のものだったのか?
「……?」
メルは掘割の向かう先に目をやり、そして「まさか」と目をこすった。
「……うそ」
「気づいたかの?」
にやにやと老人が笑っていた。
森の向こうが暗くなっていた。それは洞窟や古いトンネルがある時に特有の暗さだったのだが、問題は気違いじみたその広さだった。おそらく埋没しているのか一部途切れているのだが、今歩いている掘割後とほとんど遜色ない幅だったのだから。
メルの目測で、少なくとも道幅にして1km以上。高さは地球の高速トンネルとそう変わらない。ある程度は埋もれているのだろうが、それにしても信じがたい幅だった。
凄まじく巨大な、しかし森にほとんど埋もれた大トンネル。
「ゲルカナ大隧道跡じゃ。凄いじゃろう?ま、二百年も放置されてはこの通りじゃがの。森は生きておるし、ひとの営みなぞ歳月の前にはのう」
「……」
少し浮かれた声で老人は言った。それは悪戯っぽくもあり、どこか誇るようでもあった。
「今はワケあって迂回せにゃならんが、かつては一日で神殿の裏側に出られる短絡路だったんじゃよ」
「迂回?どうして?」
だがメルは別のところが気になるようだった。じっと目をこらすようにその巨大なトンネルの坑口こうこうを見ていたが、
「風が流れてる。通じてるよこのトンネル」
「ほう、わかるのか」
メルは大きく頷いた。
「確かにこの隧道は通じておるよ。この車を通す事もできる。物理的にはの」
「物理的には?」
さよう、と老人は苦笑いした。
「ここが管理放棄された直後くらいかの?でかい神が住み着きおったんじゃよ。以降、ここいらの山河を統すべる主と思われるどでかい奴が代々この隧道に住み着くようになってしもうてな。
装備がないとは言わぬが、相手は予測のつかぬ野生動物じゃ。まして神狩りは狩猟の民の管轄でわしらの領域でやるべき事ではない。そんなわけで迂回するんじゃよ」
「……ノスリ?」
その現地語名をメルは知らなかった。
だがメルはその単語に、どこかひっかかるニュアンスを受け取った。眉をしかめて俯き、その黒曜石の瞳を下に向けていたが、やがて「ああ、そっか」と納得したように頷いた。
「ノスリってよくわからないけど神みたいな意味なのね?山の神様って意味で、私の故郷では熊っていうバカでかい肉食獣の事になるんだけど」
厳密にいうと、神が何語かというのは議論が必要だろう。しかし遠い異星からみれば、それは地球の言葉という意味で「私の故郷」とひとっからげでも問題あるまい。
「ほほう?そりゃまた奇遇じゃな。どこの星でも似たような山河なら事情も変わらぬという事か」
老人は懐をごそごそ、とまさぐると、一枚の絵を出した。
「写真があればいいんじゃが、あいにくと絵しかないわい。……ノスリとはこういう生き物の事じゃよ」
メルは老人の手にある絵に目を向けたのだが、その瞬間「ゲッ」と眉をしかめた。
「似たようなっていうかクマじゃん!」
メルの脳裏に、老人と会う前に出くわした巨大な羆の姿が蘇った。
「ほほう。なるほど、ではおまえさんの母星もおそらく、エリダヌスという奴に関係あるんじゃな?」
「え?」
「え、じゃないわい……なんじゃエリダヌスを知らんのか?銀の聖女と旅をしておるのに?」
「いや知ってるよ?宇宙でも死なない人類を作るとかって壮大な計画でしょう?」
少なくともメルはそう聞いていた。あまりに壮大すぎて全体像がつかめず、普通の人は宗教とか神話と勘違いしている事が多々あるらしいが、それは一種の『人類補完計画』なのだという。彼女の大好きな銀色の娘メヌーサ・ロルァは少なくともそう言った。
それを聞いた老人と、そうじゃなと頷いた。
「あの銀色の娘は、教祖だのご神体だのと言われておるが本当はそうではない。わしらの言うハダカ人類、おまえさんたちの言うアルカイン族の元になった『最初の六人』の生き残りなんじゃよ」
「最初の六人?」
うむ、と老人はうなずいた。
「六つの種族でそれぞれ六名ずつ。ま、現存が確定しておるのは盾の四番、つまり銀の娘ただひとりらしいんじゃがな。まぁ何しろ六千万年じゃ、ひとり生きておるだけでも奇跡に近かろう」
「……」
その生き残りの言葉が正しければ、メルの連れている子猫は2人目の生き残りが自ら生んだ子供という事になる。
が、メルはそれを老人に言わなかった。言わない方がいいような気がしたからだった。
「アルカインの空でおまえさんたちと対峙した時はまぁ、わしゃ意味がわからなんだ。じゃが今となっては銀の聖女の目的もおのずとわかる。いやはや、大胆な事を考えおるものじゃて」
クスクスと老人は子供のように笑う。本当に楽しそうだった。
だが、メルは老人がどうしてそこまで面白がるのかがわからない。
「そんなに凄い事なの?宇宙で死なない人間を作る事が?」
それは確かに革命的な事かもしれない。だが『大胆』な事とはどういう事なのか?
老人は「ふむふむ、そのへんは知らされておらぬのか」と大きく頷き、
「詳しくは聖女当人に聞くがいい、わしの話はあくまで推測じゃからの。じゃがおそらく大筋は間違いないじゃろうて」
そして、なぜかひとつ大きく息を吸って、
「銀の聖女の目的、それはの──」
「!」
だがその瞬間、メルの全身がビクビクっと反応した!
「フー!」
メルが上を見上げるのと、背のリュックから顔を出した子猫の威嚇声はほぼ同時だった。
そして二人の見上げた先には、
「ほう、無人偵察機か」
メルの姿を見つけたと思われる、無人機がぽっかりと浮かんでいた。




