転生だ
設定だけ考えて続かないモノたち。
見渡す限りの白い部屋。まるで限界など無いかのように広大な……。
「どこだよここ」
気が付くと何もない空間とでもいう表現がぴったりの場所にいた。
「気が付いたか。ずいぶん遅かったな」
周りを見ると俺のほかにも男女計6人、俺を入れて7人いるようだ。
「ここは?」
「さあな、お前と同じだ。気付いたらここにいた」
この6人は大学か何かのサークル仲間のようで、目の前の眼鏡をかけた男がリーダー格のようだ。
「こういう状況はよくネット小説で見るな」
「ああ、ファンタジーなやつでしょ? この後神様とか出てくるんだよね」
眼鏡男の後ろにいた茶髪のチャラ男っぽい奴が馬鹿なことを言い、隣の女が更に馬鹿な事を言い出した。
「大正解」
どこからかそんな女性の声がしたと思ったら突然パーティで使うようなクラッカーの音が響き、俺と眼鏡男の間に見た目50くらいのダンディな男が、チャラ男っぽいのと女の所に20くらいの美女が、特に気にしてなかった残り三人の所に30くらいの会社員っぽい男が現れた。服装は全員が古代ローマのような白い服だ。
「誰だお前ら」
眼鏡男が目の前のダンディに高圧的な態度で言葉を吐く。
「大正解って言ったじゃない。私たちは神様よ」
目の前のダンディが答える前に、美女が答えた。
「その通り。お約束で申し訳ないがね、君たちをここに連れてきた張本人達さ」
「私が魂の循環を司るモノ。そちらの女神は君たちがこれから暮らす世界を、あちらの男神は君たちが暮らしていた世界を管理するものだ」
会社員が自ら未成年者略取を告白し、ダンディが自己紹介をした。
「そこの少年、九重くん。未成年者略取はやめてもらいたいね」
「あれ、声に出ました?」
「思考を読むことくらいはね。これでも神様だから。さて、君たちをここに呼んだ理由だけど、今君たちがいた場所はこんな感じなんだ」
――現在私は○○県××町の土砂崩落現場上空に来ています。ご覧になれますでしょうか、山の斜面が幅70メートルほどでしょうか、全て崩れてしまっています。崩落した土砂の下には民宿があり、従業員のほか宿泊客も生き埋めになった物と思われます。――
「え、俺ら死んだの?」
「うむ、あの土砂の下にはお前たちの死体が眠っているだろうな」
マジか、マジか……。ん?
「ここに連れて来たって言ったが他の従業員とかは?」
「まだ生きてたから放置よ? あなたたちは即死だから」
ええー、さらにマジか。
「ただな、困ったことも起きた」
ダンディさんが心底困ったという様子で話だした。
「事の起こりはこの女神が管理する世界で不備が発生してな、崩壊の危機に瀕したことだ。まあそれの修復には成功したんだが、そこに住む種族の一つが妙に強くなってな。魔王と名乗って世界中に戦争を吹っ掛けた」
「で、その勢いに押されて国家の存続すら怪しい人間種の国の一つが伝承にある勇者召喚を行い、あなたたちの世界と繋がったの」
「ところがこの召喚術なかなかの欠陥品で、元の世界に戻ることはできないし、対象の勇者以外の周りにいる人まで巻き込んで連れ込もうとしたんです」
「だが運命は皮肉なもので、対象となった物と巻き込まれているものが揃って土砂崩れで即死した。つまりお前たちのことだな」
俺以外の6人は口をポカンと開けて事態についてこれていないようだがまあ関係ない。
「勇者が誰かは分かってるのか?」
と思ったが眼鏡男はメンタルが強かったらしく復帰してきた。
「一応お前たち6人の方の誰かだというのは」
「て言うか俺たち魂だけなんだよね? これからどうなんの?」
誰が勇者とかどうでもいいだろうに。これからどうなるかが重要だ。
「それを話すために来た。まずお前たちには生き還ってもらう。ただし元の世界では無くこの女神の世界にな。まあ全員ファンタジーものは大丈夫そうだから世界についての説明は端折るぞ。お前たちには新しい肉体を与え、世界に放り出す。これは私が魂の循環を司るからできる荒業だ。これで正しく勇者である者のみが召喚され、それ以外は安全な場所に落ちる」
ダンディさんの前に光る円が現れた。
「その中に入れば新しい人生が始まるわ。ただ、さすがに何も力を与えないとすぐに死んでしまう世界だから私たちから能力を一つずつ与えるわ」
「君たちが良くやっているゲームっぽく選択できるようにしたから選んでごらん」
目の前に突然パソコンが現れた。なるほど、ネトゲ系か。
俺以外の6人は一斉にパソコン操作を始めた。聞こえてくる様子から察するとネトゲ仲間なのだろう。世界のどこに落ちるか分からないが全員でもう一度集まろうという感じらしい。
俺も力をもらおうかとパソコンに触れると頭の中で声がした。
《すまないね、こんな方法で。彼らには聞かれたくないから》
《声は出さずにただ聞くだけでいいわ。お願いがあるの》
《この女神が管理する世界を救うために私たちからの依頼を受けてもらいたい》
そこまで聞くと目の前の画面に○×の選択が現れた。
《報酬は私たちからの能力付与各プラス1》
《つまり合計で6個の能力を君は得ることになる》
《どうだろうか?》
この場合内容を聞かなきゃ判断できないとは言えないわけだが。どうするか。
《ああ、すまん。依頼内容だな。現在彼女の世界では世界維持のために大半の処理能力が割かれている状況で、それ以上のことがほとんどできない》
《そこで、君の魂にいわゆる添付ファイルのような形で世界維持のためのプログラムをつけたい》
《あなたはその状態で世界樹と呼ばれる6本の樹の元をめぐって欲しいの》
《世界中につけばあとは勝手にプログラムが起動する》
これは、デメリットがほとんどないぞ?
《ないわけではない。まず今のデメリットだが魂を削るような能力は選択できなくなる》
《これは魂に添付した影響で魂の力を変換して行うことができなくなるからだね》
《それと精霊系に警戒されるわ》
《あまりに大きい魂の容量を持っていると相応に警戒される。当然のことだな》
《まあ世界中につくたびに普通に戻っていくからそれは大丈夫かもしれないけどね》
これは受ける以外の選択肢がない。デメリットも大したものじゃないし、受けましょう。
○をクリック。
《ありがとう。それじゃ、能力をじっくり選んで頂戴》
さて、それじゃあ今度こそ能力選択だ。選択項目は、って何これ?
九重 桃真
種族――未選択
性別――未選択
技能――未選択
技能――未選択
技能――未選択
技能――未選択
技能――未選択
技能――未選択
種族も選べるのか。人間種から始まり、エルフ、ドワーフなどの定番から人魚にサハギン? 魔物の一種じゃないのか。龍人族に魔人族? これ、選んでいいのか? 魔王の部下じゃないの?
まあ無難に人間にしておこうか、ん? これは?
[ドレイル]
吸魔族。エナジードレインを主食とする精霊人の一種。魔族や魔法使いの天敵。物理攻撃に弱い。吸収したエネルギーを自分の存在維持のほか、魔法などに使うことができる。
種族技能【エナジードレイン】
接触した所からエネルギーを吸収する。任意発動。吸収速度はある程度操作可能だが、最大速度を伸ばすのは日ごろの鍛錬。
これ、いいんじゃね? 吸ったら吸っただけ強くなりそう。性別は男で良いし。あ、これ種族選んだら固定で種族技能一個付くのか。こう言う書き方するってことは魔法に触って吸収、無効は難しそうだな。火球なら触った瞬間焼かれて少しだけ吸えるってとこだろう。
他の技能はどうするか。ある程度生活できないと依頼が達成できないし。……これと、これ。……これもよさそうだな。
種族――ドレイル
性別――男
技能――エナジードレイン
技能――格闘
技能――眼力
技能――空間魔法
技能――重力魔法
技能――未選択
選択技能【格闘】
徒手空拳による戦闘が行いやすくなる。
選択技能【眼力】
相手を見ることである程度の情報を手に入れたり、竦ませたりすることができる。技能が成長するとより特化した能力を得る。
選択技能【空間魔法】
空間に干渉する魔法。特殊な疑似空間をつくってモノを入れたり、空間をゆがめて瞬間移動したりできる。
選択技能【重力魔法】
物にかかる重力に干渉する魔法。自身を対象にできない。重い物を軽くしたり軽い物を鈍器にしたりできる。
さて、あと一つはどうするか。イメージはあるんだが。
「随分時間をかけるな」
「え、そうですか?」
吃驚した。ダンディさんが話しかけてきたよ。
「もう他の6人は行っちゃったわよ?」
「あ、ホントだ」
美女さんも話しかけてきた。ってどんだけ時間かけてんだ俺。
「まあ、慎重なのはいいことだけどね。しかしこの選択は」
「ドレイルはダメですか?」
会社員さんもだ。まさか暇人か?
「ドレイルは良いがな、特に迫害されるような種族ではないし。ただそれで格闘をやろうというのがな。あと暇人ではない」
うわ、読まれた。
「すいません。しかしドレイルは接触による吸収が最大の能力ですからそれを使うには格闘が一番でしょう?」
「それはそうなんだけどね~。他の技能も格闘を補助できそうなものしかないし、意外にイケそうだけど」
「最後はどうするんだい?」
「それなんですよね。技能作ってもらえません?」
ちょっとずうずうしいが依頼を受ける報酬だしな。
「新しい技能と言うことかな?」
「どんなのかにもよるが」
「言ってみて?」
俺は3人(柱)に自分が考える理想的な能力を説明する。
「んん? そんな技能があったような気がするわ」
「え、もうあるんですか?」
「確か精霊系じゃなくて、魔人系にあったような」
「魔人系?」
よくわからん言葉だが?
「あなたが選んだ技能は一般系と呼ばれる誰でも取得できる技能よ。他に種族系統や能力特性に合わせた技能があって、それを大別して精霊系とか魔人系って呼んでるの。ドレイルは精霊人だから主に精霊系技能を取得できるのよ。貴方が欲しい技能は魔人系のドレイン能力持ちの技能ね。ドレイルも吸収系だから取得できるわ。これよ」
選択技能【吸収感覚操作】
吸収技能専用。吸収技能を使う際に使用。抜けていく感覚に合わせて神経系に疑似的な感覚を与える。(例)吸血鬼のドレインに合わせて体が冷えていく感覚を与える。
「これだ!」
「と言うかまんまだな」
「基本的には吸血種の技能だから分からなくても仕方ないわね。それじゃあ、この選択でいいかしら?」
美女さんが空間に表示した選択を確認する。
種族――ドレイル
性別――男
技能――エナジードレイン
技能――格闘
技能――眼力
技能――空間魔法
技能――重力魔法
技能――吸収感覚操作
「はい、大丈夫です」
「じゃ、次行きましょう」
次?
「あ、僕ここで帰りますね」
「あ、お疲れさま~」
「む、ご苦労だった」
え、会社員さん帰るんですか?
「ここからは管轄外だからね。君はこちらの世界から離れた存在になる」
「つまり無関係な存在になるのよ」
身も蓋もないな。
「というわけだから、向こうでも頑張ってね?」
音も立てずに会社員さんは消えてしまった。
やっぱり神様なんだな。
「当然でしょ? さ、それより次は外見を決めるわよ?」
「外見?」
「ゲーム風に言えばアバターだな。新しい肉体をつくると言ったろう? それなら君たちの希望を聞くのは当然だ」
なるほど、ごねられたり逆恨みされたりするより労力が少ない、と。
「そういうことね。ドレイル系の一般的な外見はこんな感じ」
美女さんがそう言うと光る円の中に小柄な肉体が現れた。身長は150ないくらいか? 髪の色は黒だが。目が緑色だな。ところでさっきからちょくちょく考えてること読むのやめてもらえません?
「これがドレイルの成人男性のモデルよ」
「無視された、ってこれで成人!? どう見たって小学校女児って体型だぞ?」
「ドレイルの種族特性だな。ちなみに女性はこれで胸が膨らんでるだけだ。地球的分類では哺乳類だからな」
どうでもいいわ~。
「ドワーフ族に次ぐロリ系種族よ」
「ああ、ドワーフはこっちじゃそういう方向なんだ」
マジか~、ショタ系になっちゃうのか~。
「別にそうたいして大きさ変わらないでしょうに」
今まで触れなかった人の外見的特徴に触れるなんてひどい。
「あはははは、やっぱり気にしてるんだ」
「男ですから、大きくなりたいんですよ」
タッパも欲しいけど、アレもねぇ……。
「多少なら大きさも変えられるだろう?」
「え、マジですか?」
「多少は変えられるけど、ドレイルは身長変えられないわよ? 横幅とかは弄れるわ」
ダメか……、諦めよう。もう身長はいいや。
さて、こうなったら開き直って外見弄ってくか。髪の色はグレーで方に届くくらいの長さに、瞳は黒にして、体型は仕方がないからデフォで変えない。他にも色々弄り回して外見は完全に女の子。中身は凶悪装備の男の子。
「なーに? 外見で女の子たち騙して美味しくいただくつもり?」
「いけませんか?」
「いけなくはないが、子作りはするな」
ダンディさんがすごいことを言い出した。
「いきなりなんですか」
「あなたの魂に世界を維持するためのプログラムを添付すると言ったでしょう? それをやると魂の容量が大きくなりすぎて、そのテの行為をすると相手に悪影響がでるのよ。子作りっていうのは究極的には魂を分け与えることでもあるから」
「つまり依頼達成まで女の子とイチャラブは?」
「それはかまわん。子作りするなと言うのは子ができてしまう行為をするなということだ」
「ようは避妊しろ、と?」
「その通り。それも世界樹3本も回れば解禁だ」
半分か。なるべく早く回ろう。
「それでは全ての選択事項は決まったからな。これから魂をこの肉体に入れ、地上に落とす。もう会うこともないだろうが、頑張ってくれ」
「私の世界のために頑張ってね?」
2人(柱)の声を聞いた瞬間、目の前は真っ白になった。
凶悪装備のショタってずるいよね。