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*ホットココア
「カミナ~、このタンスはここでいいの~?」
「うん。ごめんねリエ、引っ越しの手伝いなんかさせちゃって。」
「良いんだよ全然。しかしあんたもよく決意したね、あんだけ思い出のある部屋を捨てて引っ越しなんて。スゴイよ、私には無理だな~。」
「あんだけ思い出のあった部屋だからこそ引っ越すんだよ。それにね、捨ててなんかいないよ。ずっと私の中にはあるから。ずっと…。」
「…………ん。そうだね。」
そう、捨ててなんかいない。
むしろずっと私の中に残る思い出だもん。大切な、大切な、思い出だもん。
もう夏も過ぎようとして、昼間でさえ肌寒い風が吹く。新しく引っ越して来たマンションの六階の一号室。ベランダからは、青くずっと向こうまで続く空が見渡せる。
私はここから、新しいスタートを刻むんだ。そう決めたのはつい最近のこと。
キッカケをくれたのは、他の誰でもないあなた。今もどこかで見守ってくれているよね。
思い出すと、今でも涙が少しだけ滲む。
あの日も、今日と同じような肌寒い日だったっけ。