夏よ、恋い
「お前ってさー」
唐突に、口からこぼれ落ちた音に、隣の小さな体はぴくりと反応した。地上よりは風通しのよい学校の屋上のフェンスから、手足を出してぶらぶらさせてるそいつを横目に眺めながら、俺はうざったいくらい明るい青を見上げた。
「色に例えるとしたら、灰色だよな」
だらりとフェンスによっかかる俺と、逆方向、つまり景色のほうを見ている彼女。
俺らは現在、夏休みの補習をサボって現実逃避をしていた。
「なーによ、それ」
唐突に変なことを言い出したことにか、それとも灰色という微妙な色だと言ったことか。
彼女は不満げに、口を尖らせた。
「灰色ぉ?ひどい、微妙すぎる。どーせならもっと可愛い色を言ってよ」
彼女は眉をひそめた。俺はその様子を、馬鹿にしたように笑うと、隣の小さな頭を撫でた。直射日光に長い間当たっていたので、とても暑い。
「いーや、お前は灰色だ」
「うぬぬ」
納得がいってないようだった。
「お前はさ、綺麗な真っ白じゃない。かといって、真っ黒でもない。周りにちょっとずつ色をもらいながら、周りとちょっとずつ関わり合う。決して器用じゃないけど、その灰色の濁りは、お前で在る証だよ」
ああ、やばい。
長い間ここにいたからかな、頭が回らない。これは熱中症になるんじゃないか。
そんな暑さに侵されて、いつものロマンチスト気性の恥ずかしい言葉がつらつらと流れた。
「俺は好きだよ、灰色」
いつも言えない言葉を、暑さに任せて言ってみた。これだから、俺はヘタレなんだ。
ところがどっこい、彼女も暑さに身を任せてはにかみながら「私も、好き」と言うものだから、それは反則だろうと息を呑んだ。更に暑さが増した。
そうして補習は、二倍に増えた。