プロローグ:晴天青海の暴風
大抵の人は初めまして。
ごくわずかな皆様はお久しぶりです。
『シキフダ倶楽部』なる作品を以前書いていたのですが、
その続編の考えがまとまるまでちょっとお休みです。
代わりに、腹案として考えていた新作を、それまで書いていきたいと思っています。
前もそうでしたが、相変わらず作品内にしおらしいヒロインとかあざといツンデレとか、主人公に乳押しつけて喜ぶチョロい娘さんは出てきません。
揃いも揃って心臓に毛が生えたような女傑ばかりです。
あと、注意でチート主人公になる予定です。
パラーバランスはある程度調整していく予定ですが、基本無双になりそうなので、要注意です。
長々と失礼しました。では、まずプロローグどうぞ。
とりあえず、空は青かった。
海も青くて、濃くて、豊かで美しい。
青い波が砂浜にたどり着けば、白く砕けて泡となる。
……筆島ポートロワイアルは、日本のイスタンブール!
洋の東西、ありとあらゆる文化を取り入れた夢の島です!
西側のアトラクションエリアでお子様も大喜び!
東側は海の秘宝が収められた大博物館で、お父さんの眠れる探求心を呼び起こしちゃいます!
夢の都、筆島ポートロワイアル!
近日オープン!
……来栖切絵は、そこでラジオを切り、白砂の上に寝そべった。
身体を横たえ、向こうにできあがりつつあるその『王国』を、見る。
外壁は卵のように楕円形で、そこから突き出るように、バロック調の城が建っている。
『筆島ポートロワイアル』
島に新しくできることとなったテーマパークだ。
構想十年、さびれた孤島もようやくニュータウンとして活気を取り戻しつつある。
「海がよければなべて世も良し、ってね。今日も平和平和、平和だべ~」
小型のヘリが雲を突っ切り、糸を引いて天空に躍り出る。
その威勢の良さに、思わず笑みがこぼれた。
……ドガァッ!
と。
見上げたそのヘリが空中で炎上した。
「…………あっれー……」
ぎしっと、
笑顔が不自然な形で固定される。
平和な日常では、なかったのかと。
ひらひらと、炎をまとって落ちていく部品の間、それよりも落下速度が遅いものが一つ、あった。
人間だ。
――間違えようがない。
切絵は去年、学校の健康診断では、視力は両目とも2.0だった。
しかも、同じ年頃の女の子。
両手に大布を広げ、ムササビのように、スピードを落としながら火の粉を振り払い、波打ち際へと落ちていく。
ザンブッ……
と、勢いよく沈んでいって、
「…………」
一向に姿を現さなかった。
「……お、親方ーッ! 親方ー!?」
無論、高校生であり就労経験のない彼にとって、親方などと呼べるものはいない。
ただ、呼ばなければ、呼びかけなければと思った。
「空から落ちてきた女の子」
ふとそこから連想した言葉をそっくりそのまま、連呼する。
ざんぶらざんぶら
足で海水をかけ分けて、沈んだ少女を手で探る。
しかしその突っ込んだ右手首が、
ぐわし
と、海から伸びた細腕に強く掴まれる。
見れば、少女は海の中からカッと、琥珀色の目を見開いて、こちらを睨んでいる。
しぶきを立てて起き上がる。
瞬間、
切絵は十六年の歳月で刻んできた知識・技術の一切を忘却した。
ウェーブのかかった茶髪の下、日本美人的な顔立ち。
小柄なことを除けば完全と言っていいプロポーションで、水によってべったり張り付いた白いシャツが透けて見えるブルーの下着ごと、豊かな胸を強調していた。
大きい。かと言って下品にならない程度にバランスも整っていて、いやらしさは不思議とないのに、抗しがたい魅力がある。
生地の薄く、膝丈までのスカートの下、ガーターベルトとすらりと細い脚が見える。
が、今は色気に悦になっている時ではなかった。
「……あ、あんた……無事」
切絵の言葉は、そこで途切れた
憤怒の形相で、少女が起き上がるなり、
拳
それを、叩きつけてきたからだ。
「うぐへぇっ!」
逆に切絵が海にダイブする番だった。
立場が逆転した目をいからせたままに、すさまじい迫力で
「見てたなら落ちてる時点で助けなさいよっ!」
「俺に翼を生やせと!?」
きっと錯乱しているのだろう。
そうなのだろう。
――でなければそんなムチャな注文、到底つけるとは思えない。
だが少女の目は本気だった。
本気で、「翼を生やしたイカロスが私を救いに羽ばたくのが当然」と、そう考えている目だった。
「……あと、私、三秒後に気絶するから! どっか安全なとこに連れていきなさい。……いかなかったら化けて出てやるから」
……三
……二
一
起き上がると、今度は入れ替わりに彼女が再び海面に倒れ込んだ。
言葉どおり。
ぷかぷかと、やや波打つ茶髪が、海草のようにも見える。
「……はぁー」
切絵が吐く息は呆れというより、もはや感嘆の領域だった。
しかたなく、切絵は少女の腰に手を差し入れ、抱え上げる。
――あ、コレなんか、……イイ。
嵐のようなアクシデントと横暴も、両腕に伝わる柔らかな感触と、ぬくもりと、生まれて初めての『お姫様だっこ』というシチュエーションで、すべて清算されてしまいそうだった。
冬の磯風が濡れた身体に厳しい。
のろけている場合ではなかった。
とにかくお互い、身体を温めなければ。
「……ん?」
豊かな胸の上、畳もうとした彼女の左手に、違和感を感じる。
――入れ墨、か?
赤のような、
灰のような、
炭を熾した時の火のような色の刻印が、彼女の手の甲にあった。
きれいな真円で、それ以外には何もなく、デザイン性はない。
――タトゥーを彫るような娘さんにも見えないけど……
と、思案していると
「!?」
たちまち、その入れ墨は彼女の皮膚に溶け込んで消える。
切絵は、その非日常的を目の当たりにし、困惑していた。
だがそれは、今の自分にとってはどうでも良いことだ。
彼女だって、今は叩き起こされての追及を望まないだろう。
十二月二十三日。
晴れ。
ほんの少し荒れたことを除けば、
総じて良い天気で、
良い海で、
受難を差し引いても、切絵にとってはその日は佳日だった。