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前線の駒鳥  作者: 392
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3話

 大変長く間をあけてしまいました。申し訳ございません。

 第3小隊が定員を満たし、活動を再開したのは2日後だった。と言っても、現在第2小隊が偵察任務中のため、しばらくすることがないらしく、シミュレーターや付近の森で機体の動かし方を練習している。


「ソン曹長。あまり開けた場所に出ると見つかりやすいですよ」


「は、すみません」


「謝らなくていいからもう少し周りを見てください」


 班長であるテラー准尉の注意に若い曹長が申し訳なさそうに答える。ソン・チェン曹長、今回の補充に他の隊から左遷されてきたらしい。前の隊では人間関係に問題があったらしいがどこにもそんな様子はなく、むしろかなり真面目な方ではないか、というのが先輩隊員たちの意見のほとんどだった。


「生真面目だからこそ、うるさがられたのだろう」


 というのは小隊長のフィッシャー少尉の声だったが、発言した直後に、ルゥがそれを言うっスか、と第2小隊2班班長のグリンライク准尉に突っ込まれていた。ちなみにルゥというのはルイスという名に一般的につく愛称で、階級が上の者をニックネームで呼ぶこの隊に規律はあまりないのかもしれない。


「時間だな……演習終了。第3小隊、集合せよ」


 フィッシャーの声に6機の二脚タイプの多脚戦車、ランドラプターが集まる。フィッシャーを含めて8機のはずだから1機少ないことになるが、その報告はすでに彼のもとに届いていた。


「あれ? 2班、1機少なくないか?」


「2班はカタヤイネン曹長の機体が故障のため現在格納庫でチェックを受けている」


 フィッシャーが理由を説明するとなぜか1班内に納得した空気が生まれる。

 隊の再編時に1班から2班へ移ったニンヤ・カタヤイネン曹長はなぜかトラブルに遭いやすく、機体の故障はカルンスタインがこの隊に来てからすでに3回目だ。本人に罪はないが軍事教練校時代に練習機2機を始めいくつか設備故障に関わった疑いがあったため、強行偵察隊に配属されたらしい。本人は全く気にしていないが、周囲から見れば不幸体質にしか見えない。






 お互いに機体を動かす際の癖や欠点を教えあいながら格納庫に戻ると、入り口では件の曹長が呑気に手を振って迎えていた。日に晒された茶髪は地毛ではなく、本来は親譲りのプラチナブロンドらしいが、見た目が白髪みたいで年寄くさいと言う本人の意思で染めており、規律があってもないような小隊内では黙認されている。

 格納庫前で整列し、1機ずつ整備員の指示に従って駐機していくと奥で1機のランドラプターが整備員に囲まれていた。


「カタヤイネン曹長、故障の理由は?」


「あ~~っと、俺の機体に、その、ネズミが何匹か入り込んでいたみたいで……」


「ネズミ?」


 普段通りの冷めた視線のテラーにバツが悪そう顔をしながら、カタヤイネンが話す。


「いやさ、脚部の関節部に若干隙間ができててそこに仔ネズミが入り込んでたみたいでさ、それがあちこちの配線を齧ったみたいで……後2時間あれば全体のチェックと修理が終わるってさ」


「……今度から必ず点検を怠らず、担当整備班に勝手に暇を与えず、ネズミ取りを仕掛けておくように」


 軍の新鋭機がネズミで故障。小隊長に何て言おうかとテラーが考え込んでいると、カタヤイネンがさらに申し訳なさそうに声をかける。


「でさ、ものは相談なんだが、アプリラ。この仔たち、飼ってもいいかな? 俺じゃなく、整備員たちが飼いたがっているんだけど」


 いつの間にか手に持っていたケース内を走り回る小動物に目を向けながら、カタヤイネンが話す。


「……第7強行偵察隊内規則第3条。他人に迷惑を掛けなければある程度の自由を見逃す」


「サンキュー!!」


 意気揚々と機体、正確には周りの整備員に駆け寄るも途中にあったスパナに足を滑らせて盛大に転び、放り投げられたケースはそれに気づいた若い整備士がキャッチした。直後に工具が放置されていたことに気づいた整備班長が若い整備士に雷を落としていたが、テラーは気にも留めずにフィッシャーのもとへ向かい、そんな規則ができていることも知らなかったソンとカルンスタイン、1班に配属されたヤナセという伍長は口を開けたまましばらく動くことができなかった。






「パーソナルマーク……ですか?」


 自機を降り、整備士から差し出された白紙を受け取って、カルンスタインはおうむ返しに訊き返した。


「ああ、偵察隊の機体はそれぞれ迷彩パターンが微妙に違うんだが、それよりも何かしらのマークがあった方がわかりやすいからな。付ける付けないは自由だが、付けたら愛着が増すぞ」


 整備士の言葉通り、第7強行偵察隊の多くの機は小さく個別のマークを付けており、例えばカタヤイネン機には起き上がりこぼしが描かれ、その下に撃墜ならぬ故障回数を示すマークが描き込まれている。これらはグリンライクが趣味で描いているらしい。ちなみに彼女のマークは牛乳瓶を咥えた黒猫で、ミルクをこぼすと不幸が続く、黒猫が前を横切ると不吉の象徴という2つのジンクスが込められている。彼女の性格から考えるに軽いジョークのつもりなのだろう。以前ある班長からぬいぐるみという注文を受けた際にワラ人形を描きこんだことがあったそうだ。ワラ人形の意味を知った依頼者が詰問したところ、


「偵察隊なんて相手にとっちゃ疫病神なんだから、このくらいいいじゃないっスか」


 と描いた本人は普段より真面目さ3割増しで答えたそうだが、当然というか依頼者の手で消されたらしい。

 その班長が誰かは整備士は口にしなかったが、強行偵察隊内でマークを付けていない班長はフィッシャーとテラーの2人だけだった。


「えと、つまり希望を述べても准尉の気分で変更されるのですか?」


「まぁ、気分が大きいだろうけど、基本的に大きく変わったりはしないから気楽に考えとけ。俺ら整備員も一目でわかって助かるし、楽しめるからな!」


「はぁ……考えておきます」


 特に案も希望もなかったので保留にし、第3小隊のオフィスに戻る。カルンスタインが入室した時、まだ3名戻っていなかった。やがて全員がそろい、そのまま練習の際のレポートを提出し、解散しようとしたところでフィッシャーが口を開く。


「第2小隊が作戦を一時中止し、明日0100には帰投するという報告が入った。詳しい情報は明日になる。班長はこの後第1小隊オフィスに集合、他は解散だ。このことは(会うことはないと思うが)他の隊に伝えないように。以上」


 簡潔ではあったが部屋が凍りつくには十分だった。強行偵察隊が任務を切り上げるのは大抵敵に発見されて攻撃を受けたり、敵が急に侵攻準備を進めるなどあまりよくない場合が多く、カルンスタインら補充を除いた先輩隊員たちにとっては2班が消滅しかけ、テラーを除く3名が戦死して以来のことだった。

 カタヤイネンの台詞にあったアプリラというのはテラーのニックネームです。


機体整備

 第7強行偵察隊では整備の効率を上げるべく整備員を8つの班に分け1つの班に各小隊1機ずつ計3機を担当させている。強行偵察隊は直接交戦することは少ないものの出撃回数が多くしかも数日間にわたるため隊員も自然にちょっとした損傷の応急措置程度を身につけている。

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