2話
予定より遅くなってしまいまいた。申し訳ありません。
「さっそくだが伍長には2班の4番機を頼むが、先に1つ。チャーチル中尉からは隊について何か聞いたか?」
フィッシャーの質問にカルンスタインは黙って首を横に振る。それを見て、予想済みだったのかフィッシャーは少しうつむき、目を閉じた後再び顔を上げる。
「……わかった、ではまずこの基地についてからだ。敵との戦線が経線にそって真っ直ぐではない、ということくらいは言わんでも理解していると思うが、ここを含めアルケロン方面は敵側に突出した戦線の一つで北の山脈、西の森林地帯を挟んだ山岳地帯、南の大湿地帯が今も敵の勢力下だ」
適当な紙の裏に簡単な地図を描き、指で示す。
「我々の主な任務は北の山脈、西の森と山岳地帯における強行偵察任務だ。具体的には敵の前線、哨戒網を突破もしくは近くに潜りこんでの情報収集や威力偵察、場合によっては破壊工作や後方攪乱及び敵補給部隊への奇襲も行う。ここまでで何か質問はあるか?」
「破壊工作や補給部隊への攻撃が、何故偵察隊の仕事なのでしょうか?」
それは違う部隊の役目ではないか、という言葉を飲み込み、フィッシャーを睨む。
「……せっかく敵地にもぐり込むんだ。爆弾の一つを仕掛けたり敵部隊を攪乱できれば儲けものだろ、というのが上の考えだ。別に珍しいことではない。かつて飛行機が戦場に登場した時、その役目はもっぱら偵察任務だったがやがて爆弾を落とすようになり、爆撃機が誕生したからな」
表情を変えずに話す様子には冗談を飛ばしているようには見えなかった。
続けるぞ、とカルンスタインの顔を見ずに説明を再開する。
「強行偵察隊は特殊戦術・工作師団の傘下であり、そういった工兵じみた任務も来る。まぁ、運が良ければ、というような優先順位だがな。ただし第3小隊はまだ隊の再編成も完了しておらず、おまけに実戦経験のない新人まで配備されるとあってしばらくそのような任務は回ってこないから心配なら安心して欲しい」
フィッシャーの口調は高圧的でもこちらを蔑む様子もなく、報告書を読み上げるかのように淡々としており、不思議とカルンスタインはすんなりと受け止めることができた。これが普通の上官の台詞ならこちらを小馬鹿にするか自分が上だと露骨に態度に出てくるのは想像に難くないだろう。
「話を戻す。強行偵察隊ではその任務から小柄で運動性の高い二脚タイプを使用する。機種については昨年、各偵察隊長が司令部に掛け合い軍の新鋭機であるランドラプターを隊の人数分確保することができた。基本的な操作方法は軍事教練校の練習機とほとんど変わらないはずだが、後で班長から渡されるマニュアルを読んで欲しい」
こんなところか、と付け加え、口を閉じる。
ランドラプターとは3年前に配備が開始された二脚タイプの新鋭機種であり、それまでの二脚タイプがダチョウなどを彷彿させる垂直二足歩行型であるのに対し、上半身を前傾させ、長めの尾部を持つ肉食恐竜を思わせる姿をしている。二脚タイプはたった2本の脚で自重をささえるために安定性が低く、それまでの機種は高速状態で右左折すると転倒しやすいという共通の弱点を抱えていたが、ランドラプターは上半身と尾部で前後のバランスを取り、走行時の安定性を確保することで解決している。また、尾部先端をアンカーとして地面に打ち込むことにより普通は扱えない長距離砲を使用できるなど、コストを除くあらゆる点で従来機種を上回っていた。そのコストも、他の四脚や主力戦車に比べれば若干軽いものだが。
「最後に、これはあくまでも俺の私見だが、前線の兵士は後方の司令部から見ればただの駒だ。特に直接敵地に侵入する我々にはもしかすると無茶としか思えない命令が来るかもしれないが、任務の遂行を優先して欲しい。また、できれば任務中は余計なことを考えず、班長の指示に従ってもらうとありがたい。我が小隊は先日それで2班が消滅しかけた。俺が言いたいことは以上だ。後は2班班長、テラー准尉の指示に従ってほしい」
フィッシャーが再び口を閉じるとそれまで本を読んでいた女性が顔を上げた。
「班長のエイプリル・テラーです、よろしく。あなたの席はこちらです。機体のマニュアル、部屋番号の紙、その他必要と思われるものはデスクの上にまとめておきました」
そう言って自分の対角線上にある最も端の席を指した。そこがカルンスタインの席らしい。
「他の隊員は今はいらしていませんので後ほど紹介します。今はすることがありませんので、部屋にあなたの荷物が届いているか確認してはどうですか。先に言いますが、部屋は1班2班合わせ、男女1部屋ずつとなっています。階級はあなたが一番低いのでそこを気を付けてください」
こちらは直接の上司とは思えないほど他人行儀だった。事務的で淡々としているのはフィッシャーと同じだがまさかこの小隊全員がそうなのだろうか。近くの席で音楽を聴きながら居眠りしている男性はそうには見えないが。
「えっと、こちらこそ、よろしくお願いいたします」
答えながらカルンスタインは自分の未来に不安を抱かずにいられなかった。
次話はなるべく間を開けずに投稿できるようがんばります。
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前線の女性軍人について
共和国と戦い、敗れて吸収された国家の軍隊は、司令官クラスを除けばほぼそのまま共和国軍に吸収され前線に送られています。そうした敗戦国では、ぎりぎりまで国の窮地を救うために男女関係なく徴兵していたため、前線には割と女性の軍人がいます。当然戦死者にも割といますが。
彼らが素直に共和国に従っているのは自分たちの故郷が荒れて復旧待ちで職がなかったり、どの町にも本国の軍人、つまり元からの共和国軍人がいて実質家族を人質にとられているからです。