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前線の駒鳥  作者: 392
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1話

 

 シェオール基地。アルケロン方面におけるペルシダル共和国軍の軍事拠点の1つであり、第38・39の2個機甲旅団などを抱える中規模の基地だ。

 その基地の奥を1人の男性が手描きの地図を片手に困ったようにうろついていた。男性の見た目は若く、まだあまりしわのついていない軍服もあって軍関係の学校の生徒にも見える。


「おい、そこの」


 同じ場所を2回か3回通った時、見かねたのか1人の男が声をかけた。こちらもまだ若そうだが着ている軍服は少しくたびれており、曹長の階級章がついている。


「見ない顔だが、迷子か? 俺でよければ案内してやるが」


「え? あ、すみません!」


 突然声をかけられ、そして相手の階級に気づいて慌てて敬礼するが、若い曹長は気にする様子もなく手元の地図を覗きこむ。


「これ受付の奴に描かせたろ。相変わらずひでぇ字だ……ん? 第7強行偵察隊? お前さん、なんでまたそんな所に?」


 曹長が不思議そうな顔をして若い男を眺める。

 強行偵察隊は文字通り敵地深くに忍び込み、情報収集から威力偵察、時には破壊工作まで行う部隊であり、基本的に少数で行動してあまり連携を取らず、消耗も他よりやや高いことから問題を起こした者の厄介払いによく使われる。

 目の前の男はやや小柄な上におとなしそうな顔をしており、態度も特に問題のある所は見えない。


「えっと、いえ、実は最近学校を卒業したばかりで、ここに補充として回されたのですが……」


「ああ」


 この時になって曹長は相手に階級章がついていないことに気づいた。


「なるほど、少し待ってろ。おいクリス、ちょっと来い」


「何スか? ジャック」


 曹長は振り返るとちらちらとこちらを窺っていた女性士官に声をかける。女性は曹長と親しそうだが、ついている階級章は准尉のものだった。

 半開きの猫目で地図をちらりと見ると、今度は手に持った何かを眺める。


「なるほど、補充っスか。ええと、軍事教練校の多脚戦闘機械科、エリック・カーンステイン……変わった名前っスね」


「いえ、エーリヒ・カルンスタインと読みますって、なんでそれを!?」


 慌ててポケットを探るが、そこにあるはずの学生証は女性の手に収まっていた。

 ニヤリと笑い、無防備なのは感心しないっスね、と学生証を差し出す准尉に曹長は呆れたようにため息を吐いた。


「ほどほどにしておけ。そいつ、一応お前さんが行く所の人間だから連れて行ってもらえ。頼めるよな? クリス」


「悪友の頼みなら仕方ないっスね。あ、小官は強行偵察隊第2小隊2班班長のクリスティン・ルイーズ・グリンライクっス。長いんで適当にクリスでいいっスよ」


 簡単に自己紹介を済ませると、こっちッス、と言ってさっさと歩き出したのでカルンスタインは慌ててついて行った。歩くうちに2人はそのまま外に出る。


「あの、外に出てしまったのですが……」


「? こっちであってるっスよ? あれが偵察隊の格納庫でオフィスや隊員の部屋はその隣っス」


 言われて見てみると確かにそれらしい建物がある。基地との距離は歩いて3分程だろうか。


「地図では外に出ないのですが……」


「あの受付、方向音痴っスから次からは道を尋ねない方がいいっスよ」


 字がひどくて地図をうまく見れないからと思ったらそれ以前の問題だったらしい。そうカルンスタインが1人で納得しているうちにグリンライクが第1小隊のオフィスの戸をノックしてから開ける。戸には偵察隊のマークである小枝をくわえたコマドリが描かれていた。


「失礼します。グリンライク准尉、手土産片手にここに参上。おっちゃんはいるっスか?」


「いきなり失礼だなおい。誰がおっちゃんだ!」


 隊員たちからクスクスと笑いが漏れる中、第7偵察隊長であり第1小隊長兼1班班長のジョージ・ジャック・チャーチル中尉が睨みつける。ちなみに隊の中では彼だけが30代であり、他の隊員はだいたい20代後半だ。


「迷子の補充隊員を連れて来たっス。さ、入った入った」


 グリンライクは全く相手にせずにカルンスタインを前に押し出す。チャーチルは不機嫌そうに差し出された封筒を開け、中に入っていた1枚の紙を読むとデスクの引き出しから階級章を取り出す。


「あー、ようこそ、第7強行偵察隊へ。フム、成績普通、授業態度に問題なし、犯罪歴なし……本当に配属先はここなのか? まぁ、とりあえず軍事教練校卒業ということで階級は伍長、階級章はこれだ。本当は俺が渡すものではないんだがまぁ気にすんな。今補充が必要なのは第3小隊だから詳しいことはそっちで聞いてくれ、以上」


 適当過ぎだろ、と突っ込む隊員もいたが、チャーチルはそれっきり束になっている書類と格闘し始めたのでカルンスタインはその足で1部屋挟んで隣の第3小隊のオフィスへ歩くことになった。後で聞いた話だが、この時第1小隊は3日間に渡る偵察任務を終えたばかりであり、チャーチルは報告書をまとめている最中だったらしい。

 オフィスの戸をノックし、中に入る。この部屋にも小枝をくわえたコマドリが描かれている。


「第3小隊にようこそ、小隊長兼1班班長のルイス・フィッシャー少尉だ」


 デスクに座ったまま迎えたのは目付きの鋭い細身の男性だった。オフィスには8つのデスクがあり、彼の他に2人が自分の席に座って本を読んだり音楽を聴いていたりしている。どうも自由時間らしい。

 階級を気にせず規律の緩い部隊。これが第7強行偵察隊に対してカルンスタインが最初に抱いた感想だった。

 2話は来週あたりを目指します。

 大体1話あたり2000字を目指していますが、やはり短すぎるでしょうか。後、文章能力が低くてすみません。


多脚戦車の部隊編成

 四脚、三脚タイプは3~4機で1個小隊。二脚タイプは6~8機で1個小隊という設定です。

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