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前線の駒鳥  作者: 392
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プロローグ

 鬱蒼と木々の繁る森林地帯を4本の脚を持つ怪物が周囲を気遣うかのように、静かに移動していた。怪物は金属でできており、背部にはコクピットから操作する無人砲塔が前方を睨みつけている。

 四脚タイプの多脚戦車、FLT3 シーザー。それが怪物の正体だった。

 多脚戦車とは多脚戦闘機械につけられる通称であり、湿地や砂地、雪原地帯を除けば高い走破性を誇る。


「こちら8。周囲に敵影なし、順調です」


 パイロットが通信機に話しかけるとすぐに返事がきた。どうやら複数機で行動しているらしく、レーダーには味方を示す光点が10個程表示されている。


「第14槍騎兵ランサー大隊も、生き残りはこれだけですか……」


「詳しくは知らんが、近衛竜騎士ロイヤルドラグーン連隊もほとんどが壊滅らしい」


「あいつら首都とか主要都市の守備部隊だろ? だったらそのほとんどが敵の手に落ちたって意味じゃないか」


「連合の他の国も押され気味らしい。昨日も東和の連中の航空基地が一つ奪われたとか」


 こりゃ、詰んだな。

 誰かがぼそっと漏らす。


「だからこそ、せめて一矢報いようとこうして敵司令部に奇襲をかけようとしてんじゃねーか」


 士気を上げようとする者もいるが、大して効果はなかった。始めから成功率の低い賭けであることがわかっており、しかも、もはや司令部の一つを潰してどうにかなる事態ではないことを全員が理解していたからだ。








「もうすぐ敵の哨戒網だ。各員、レーダーをオフにしろ」


 注意を呼びかける仲間の声に各機の搭乗者は気を引き締める。


「まったく、夜だからちっとも見えねえ」


「気を付けろ。今から捜索レーダーを動かすと敵に見つかるかもしれんぞ」


 お互いに注意しあう中、1機のシーザーの赤外線センサーが前方に稼働状態の機体を発見、素早く照準を合わせ、主砲に初弾を装填させた。


敵機捕捉タリホー! こちら4、敵哨戒機に攻撃を……ぐぁ!?」


 しかし、通信を終える前にコクピットを徹甲弾に射抜かれ、沈黙する。


「アニー!?」


「馬鹿な、哨戒部隊は二脚か三脚タイプだろ! 一撃で四脚タイプを破壊なんて不可能だ!」


「総員、戦闘開始!」


 突然の出来事に混乱しながらもレーダーを作動させ、主砲に初弾を装填させる。


「こちら7、敵機捕捉タリホー……敵、二脚6、三脚3、四脚4。哨戒部隊じゃない!?」


 哨戒なら二脚か三脚でせいぜい3機程度で班行動のはず。それがいきなり四脚を含めた中隊規模で現れたため、シーザーのパイロットたちは目を剝いた。


「慌てるな、真正面から戦車と対峙するよりはるかにマシだ。先に四脚を潰せばこちらにも十分勝機はある」


 砲撃戦において、二脚より安定性のある三脚が火力と防御力を上げることができ、四脚はさらに威力と反動のある砲と厚い装甲を装備できる。そのため、二脚タイプが正面から四脚タイプを撃破するのは困難というのが常識であり、同じ事は通常の主力戦車と多脚戦車の関係にもあてはまった。

 リーダーの声に落ち着きを取り戻し、次々に主砲である125㎜ライフルを発射するが、


「ジャミング!? 敵、捕捉できません!」


「赤外線センサーを使え!」


「こちら7、両前脚被弾、行動不能!」


 混乱から抜け切れなかったため、再びパニックに陥りかける。この時、7と名乗る機の脚部を破壊したのは三脚タイプ2機の狙撃だった。脚部は多脚戦車の最大の弱点である反面、戦闘中にそれを狙うのは無理に近いが、この時は襲撃者側全機が四脚タイプに注意を向けていたため、チャンスを与える結果になってしまったのだ。

 他の二脚タイプも、あえてシーザーの装甲には通用しない20㎜機関砲を乱射して集中力を削りにかかる。


「くそ、調子に乗るな!」


 脚部先端に内蔵されたホイールを使って回避行動を取りつつ攻撃、1機の二脚タイプが尻餅を着くように倒れ、弾薬か燃料タンクに引火したのか爆発する。

 しかし、敵を撃破した余韻に浸る間もなく攻撃に晒され、1機、また1機と通信が途絶える。先ほど擱座した7も、脱出に成功したのかどうか不明だ。


「エド、まだ生きてるか!」


 突然、自分に向けて通信が入る。


「こちら8、なんとか」


「まだ生きているのは俺とお前を入れて3人だ! 逃げるぞ!」


「リーダーは?」


「死んだ。急ぐぞ!」


「2人とも早く、私は引く」


「……了解」


 通信を終え、赤外線センサーに反応する物に主砲を撃ち、副砲替わりのガトリングガンを撃ちながら撤退する。敵は追撃する様子はなかった。








「雑魚が。馬鹿過ぎるんだよ、貴様らは」


 一人の男が乗機のコクピット内でそう吐き捨てた。その対象はつい今しがた撃退した敵部隊だ。


「わざわざレーダーをオフにしながら呑気に通信回線オープンで位置を知らせてくれるとは。戦場を舐めてんのか、奴らは」


「隊長、追撃しなくてよろしいのですか?」


「弾と時間の無駄だ。そんな暇があったら敵機の残骸でも漁ってろ」


 部下の質問を適当に流し、司令部へ通信を入れる。


「こちら第15独立支援隊、シープヴァリー中尉だ。哨戒部隊が察知した敵部隊は撃破完了。戦果8、損害は二脚が3」


「こちら司令部、了解。司令より、中尉に伝えることがあるそうです。直ちに帰投を」


「了解。……残骸漁りは中止だ、帰るぞ」


 目の前の戦果に興味がないのか、あっさりと帰路に就く。後には、二度と動かない鉄の怪物が累々と横たわり、倒れ伏しているだけだった。








 大陸の端に位置する国、ペルシダル共和国。歴史ではかつて大陸のほとんどを支配下に置いたと伝えられるこの国は突然周囲の国々に宣戦し、瞬く間に2つの小国を飲み込んだ。

 これに警戒心を一気に強めたクローニア王国はフェルリン連邦、東和連邦と同盟を結び3ヶ国連合を結成。そして共和国と連合の戦争になるが、勢いに乗る共和国に連合は押され、開戦から3年でクローニア王国は敗北を認め降伏し、1年後には残る2国も吸収された。

 敗北し吸収された新国民を除き、共和国の国民は自分達こそが世界最強であると考え、大陸の統一を信じて疑わなかった。しかし、本当の闘いはむしろそれからであった。

 連合の敗北から数年後、物語は始まる。

 誤字やおかしな点があれば教えていただくと助かります。


多脚戦車について

 多脚戦闘機械の通称で戦車とは別物。走破性は高いものの脚部に負荷がかかり過ぎないよう、装甲面で戦車に劣りがちであり、特に二脚タイプは武装にも制限がかかる。

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