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かぐや姫がいた

昔からあるおとぎ噺に出てくるかぐや姫伝説は奈良県広陵町伝説がある。

これは古典として広く知れ渡る物語。


対して静岡県富士市にある比奈のかぐや姫伝説という異なるおとぎ噺もある。


広陵町伝説は竹取りの翁には名前があり国造(町長)になっている。国造という時の権力者であったから娘かぐや姫の縁談に貴族たち5人がわんさかと集まり、

「(かぐや姫を)得てしがな見てしがな」

と来たしだいである。その貴族たちにかぐや姫は無理な話を吹っ掛けてしまう。

・仏の御石の鉢

・蓬らいの玉の枝

・火鼠の皮袋

・燕の子安貝

・龍の首の珠


いずれのものも手に入れ

ることは不可能な品ばかり。貴族たちは竹取りの(おきな)の娘を諦めねばならなくなる。


静岡県富士市の比奈伝説は富士の国司が比奈のかぐや姫に恋をしてしまい悲恋の結末を迎えてしまう。こちらは強引にもかぐや姫を略奪結婚をしてしまい短い間ではあるが夫婦になっている。


広陵町かぐや姫は月に帰ったが比奈のかぐや姫は富士山に帰っていく。


チベット地方の説話には

斑竹姑娘はんちく・こじょう)』がある。


チベットの金沙江の湖畔の人々は稲麦の他に竹を好んで育てていた。


とりわけ楠竹は利用価値があり家を作る橋を架ける荷を担ぐとありとあらゆる用途に適していた。


この地に貧しい家があり母親と子供が住んでいた。親子は貧乏ではあったが真面目に働き竹を育てて平穏に暮らしていた。


時の権力者は竹を独占しようとお触れを出してこの親子から竹を奪ってしまう。竹を取られ生活苦に陥いた悲しみから親子は涙をし、その涙が育てていた竹にかかり美しい斑点模様となる。成長した竹は少年の背丈になった。


やがて1年が過ぎすべての竹は伐り倒される日がやってきた。悲しいかな竹は自分たちの所有ではなくなっていた。


少年は厳しい管理の目をかいくぐり斑点模様の竹をうまく隠してしまう。


この斑点模様の竹から少女が生まれる。斑竹姑娘である。


母親と少年と生まれた斑竹姑娘は3人で仲良く暮らしていく。母親が家事をやる。少年と斑竹姑娘は畑仕事をこなし竹林に水をやり山で猟をする。


やがて少年は逞しい青年になり斑竹姑娘は村一番の美しい娘に成長をする。


美しい娘ならばと有力者の息子たちは競って斑竹姑娘に求婚をする。


その求婚者は5人でありかぐや姫と類似点がある。


しかし求婚は成立せず斑竹姑娘は逞しくなった少年の青年と結ばれてしまう。


チベットの斑竹姑娘は竹取物語翻案説がある。成立年代からするとあながち否定も出来ないようである。


現代に移るとどのようなかぐや姫伝説があるであろうか。


富士市の比奈ではミスかぐや姫コンテストが盛大に行われていた。比奈に伝えられたかぐや姫伝説を今に継承をしている。


比奈の伝説の始まりは竹取り翁がピカピカ光る竹を発見するところからである。広陵町と同じである。


比奈の翁も竹や筍を採ることを生業(なりわい)にしていた。いつもの比奈の竹藪に手斧を持って伐採に出かけると、

「おや竹がピカピカ光っているぞ。何事かあるな」

光る竹を発見した翁それは大変に不思議な光景であったと記憶をしている。

「黄金に光る竹があるぞ」

竹取りの翁は不思議そうにして近寄り竹を見る。


長年竹を見ているが光るものは初めてであった。

「なんだろうか。不気味な竹だ。中になにがあるのだろうか」


手斧を掴みえーいと竹を根本からスパッと伐り倒した。

「ややぁ〜なっなんだいなあ」


竹の切口に一寸あまりの小さな女の子が光り輝いているではないか。

「これはどうしたことじゃ女の子が竹の中にいる」

驚いたも驚かないも翁は腰を抜かした。

「女の子がいるではないか」

子供のいない竹取りの翁一寸の娘を連れて帰ることにする。


この女の子が後の迦具夜比命(かぐや姫)となり成長し大変な美人になる。


竹取りの翁は竹薮で子供を拾ったのだから最寄りの交番に届け出で半年待たないといけないはずなんだけど。迦具夜比命の両親が後から死にものぐるいで探していたかもしれない。


翁は竹から女の子をさぁーとつかむと慌てて帰宅してしまう。

「ばあさんや、ばあさんよ」


銀河系のある恒星である。

「ああやんなっちゃうなあ。また試験落ちちゃったじゃない。私どうもね銀河系やその中にある細かい太陽系が弱いんだなあ。太陽系は細かい地理と細かい計算なのね。太陽からみて衛星は水星・金星。このあたりは得意なんだけどなあ。地球・火星・木星となると公転周期が長くなっていくから計算問題でしくじるんだなあ。とほほでございます」


盛んにぼやいているのは銀河系のとある恒星生まれの宇宙人のチャコであった。

「火星・木星あたりなんかさあ計算問題やれば解ける自信があるんだけどなあ。苦手な地球学計算問題を飛ばして銀河系専門大学は受験できないじゃあない。衛星は太陽から水金地火木土星。ありゃあるなあ」

太陽から離れれば離れるほど計算が複雑になる。


地球学計算問題の試験に失敗したチャコであった。


さっそく指導担当の教官に呼ばれてしまう。

「チャコ残念だったなあ。試験を見ると地球学は地理と歴史はいいんだ。歴史なんて古典や伝説は満点だけどな。地質学と日本列島がダメだった」

指導の教官はてきぱきと減点項目の採点未基準を教えてくれる。

「我が星からの派遣の話だがチャコは希望が土星になっているね。あの輪っかのある美しい星がお好みさんなんだな。まっあなっ希望は希望だ聞いてはおくよ。希望としてさ今でも聞いてはおくよアッハハ」


銀河系チャコの星は宇宙を守る任務にあり太陽系の水星・木星・地球…と各恒星にパトロール隊かつ恒星の文化文明の監視役として派遣されるシステムだった。


チャコは土星を希望をしている。

「そうなの土星がいいなあ。どうせ行くならドセイ。あの輪が可愛らしいの」

第一希望にしていた。チャコの派遣は土星学試験に合格したら簡単に行けるはずだった。


ところが地球試験失敗のために受験資格貰えずとなる。再試の必要が生じてしまい地球試験を受けさせる羽目になった。

「アノォー私の再試はどうなるのでっか。ひょっとして」


落第点のチャコは冷や汗を垂らしてしまう。教官は軽く書類を机でトントン叩きチャコに告げた。

「チャコ君には試験に合格するまで地球に行って貰うよ。我々が監視をして満足のいく採点基準に到達さえしたら合格としよう。それから土星に行くもよし地球で任務遂行もよしだ。それが再試だ。話に聞けば地球って結構楽しい恒星らしいじゃないか。私の同期2人が行って来たんだ地球に。えっと氷河期と(日本は)縄文時代だった」


チャコ地球には嫌いな氷河期があるとは初耳であった。

「氷河期のやつはマンモスやら恐竜とやらと暮らしたらしい。中世期ジュラ期から白亜期。今でもそのまま残っているのはネス湖だそうだ。もしスコットランドに行ったらよろしく伝えてくれ。ネッシはわかるはずだ」

教官はケラケラ笑った。

「縄文時代は最悪だったらしい。寒いわ食べ物がないわと大変。栄養失調で帰星したな。ゲッソリ痩せてなあ」

チャコは教官の痩せたに異常反応を示す。

「地球に行くと痩せて帰りますのかなあ」

まあまあと教官はチャコを宥めた。

「イエスキリストが生まれた時にローマ帝国の役人に槍でお尻をグッサリやられてなあ。それであわてて帰星(帰国)をしたんだけどな」

痛い思いしながら痩せて帰ったらしい。

「地球の再試に合格したら土星だろうとなんだろうと考えてあげるよ。今から準備して地球に送ります。合格点を獲得の幸運を祈っているよ。時代はいつがいいかなあ。恐竜がいいかマンモスがいいか。と言いたいが順番は決まってますからね」

チャコは目眩いがした。

「アチャー地球なんてろくなもんでないやあ」


思わず両目をつぶってしまう。

「土星がよかったのになあ。あの星はさあ派遣の手当てもいいしのんびりできる恒星だけどね。しかし地球はどんなところなんだろ。今から図書館に行って調べてみるかな」

今から調べてとは暢気なことだ。チャコは散々地球を勉強したはずなのに。道理で地球試験には失敗するはずだ。

「あらっ何かありましたかしら」


翌朝教官から拝命を受ける。

「チャコを太陽系の地球へ送りますタイマシーンに入った入った。あれちょっと」

タイマシーンの整備員が待ってくれのサインを出した。

「太くてマシンのコックピットが」

レギュラーサイズでは満杯になるからと、

「フレキシブルサイズ(大きめ)にマシンを交換するの。あちゃあ」


フレキシブルサイズ・タイムマシーンならば一人乗ろうが2人乗ろうが構わないマシン仕様であった。

「あらっこれなら便利ですわ。足伸ばしてもいいしコックピットの中は広いから体操もできる。雑誌読みながらお菓子食べながらも可能ですわあ」

デブ扱いよりも喜びが大きなチャコであった。マシン整備員はやれやれという顔をした。

「チャコ改めて行くよズドォーン」

ロケットではなくタイムマシーンにチャコはカプセルインさせられていた。

「ヒャアちょっと待ってよ」

太陽系へ地球へ日本へ竹の中へ送り込まれるのは良いが。

「あれっマシンで送ったはいいけどさあ。タイマシーンの操作がわからないわどうやるのこれ」


コックピットの中は複雑な計器類がズラッと並ぶ。

「あんもう教官ったらお返事しないなんて」

仕方ないからコックピットの中をゴソゴソ。取り扱い説明書がないか調べ始めた。


※タイムマシーンの操作は教官が教科書を使って教えていた。ただチャコは居眠りさんであったから知らないだけである。


「説明書があったわ」

チャコは捻り鉢巻きしながらマシンのスタートの仕方から加速のやり方をマスターする。

「フムフムこの赤いボタンと青いボタンが行け〜と止まれ〜になるのか。信号機と一緒なんだわ」

チャコ試しに赤いボタンを押してみるかなとふと考えた。

「やってみたいけどさ。嘘ですよ。次に読むのは時代設定かあ。計器のメーターで上がったり下がったりするのね」

取扱いのマニュアルはいたって簡単であった。難しい箇所は全て読み飛ばしたがために読み終えた。

「易しい操作なんだけどね。実際にさ操作をしていないと理解できないやんか」


説明書に飽きたのかダッシュボードから大好きなお菓子を取り出した。ボリボリやり始めた。足はデ〜ンと操作パネルの真ん前に。だらしなくチャコの足は置かれた。靴ははいたままである。


無重力地帯に入ったら体がフワフワ。宇宙遊泳のチャコになる。

「きゃあ楽チンさんだあ。フワフワだあ。よし泳ぎまっせ」

コックピットのパネルを蹴ってクルクル回転をして泳ぎ出す。平泳ぎからクロール。

「ヒェ〜面白い。推進したら止まれないじゃあないの」

たっぷり汗をかいてチャコは疲れてしまう。

「お菓子も食べ食べしたから一眠りしましょう」


再びコックピットの席に座りグゥーグゥーと眠ります。


たっぷりと寝たころに計器のランプが点滅し始めた。

「えっとこのランプはなんだろうかと」

目的の時代目的の地球に到着しますの合図である。


「よし行こう」


チャコ指をポキポキ鳴らしてアクビをした。


「あらっいきなり狭いなあ」

チャコは自動的にトランスポートをした。

「早いなあ。もう竹の中にいるのかいな」


竹の中でチャコは身構えた。竹取りの翁に発見されるのを待つ身となった。


「チャコはかぐや姫さんになっていましてよ。キャアーかわいいなあ。どうですかかわいいでしょう」

喜びのチャコだったが、

「うんごめんなさいね。竹取物語を私知らなくてアッハハ」


チャコお尻辺りからゴソゴソなにやら出し始めた。

「あのね図書館から借りた本ですの。今から内容を確認さんですわ。へぇ竹取りの翁に発見されて日本の歴史に登場すると書いてあるわ。名前は翁がかぐや姫と名付けると」

普段あまり本は読まないチャコかなり苦労して見た。

「えへへ姫とはいい感じじゃないの。私嬉しいな。翁の子供として成長したら五人の貴公子にプロポーズされる。ウハウハしちゃうなあ。みんな色男ばかりだからね。えっとあらっその中から好みを選んではいけないらしいわ。あん残念なんだなあ。誰も選ばないまま月に帰るのね。やだあもったいないような。あれなんで月なんかいな。あっそうか月の基地から乗換えだったわ」


チャコ一通り読書をする。


「竹取り物語」


台本を読むと竹の中でうとうとし始める。

「あかんなあ眠くなりました。まあ無理もないか朝からバタバタしてたから疲れたんだわ。翁の発見は夕方だからなあ。時間があるから寝ちゃうか」

竹の中でチャコはグゥグゥと高いびきをかいて寝る。


そこに竹取りの翁現れてしまう。チャコは熟睡である。


「なんだなんだ。竹藪の方からいびきが聞こえるぞ」


翁は昼間だが竹藪に近寄り音を確認する。

「確かにこの竹だ。なにが入っているのだろうか。ひとつ手斧でカッツンとやってやるか」


竹を割るつもりであったが不気味な竹に思えた。そのためなにもしないまま翁は帰宅してしまう。


翌朝から翁は違う薮に竹取りに入ってしまった。


かなり熟睡をしたチャコ3日3晩寝て目覚めた。


「あわあわぁー」


背伸びをして目覚めた。

「ふわぁーよく寝たわ。竹取りの翁が私を発見してくれるだけなんだけどなあ。早くいらっしゃい」


待てど暮らせど誰も来ない。

「どったんかな?翁さんいらっしゃらないみたいだわ。風邪でも引いて寝込んだかな。こちらから訪ねて行こうかしら。まあいいわちょっと眠りましょう」


竹取りの翁はチャコを発見することなく竹取りのシーズンを終えてしまう。


チャコの竹は1年古くなり当然、中のチャコ歳を重ね新年となる。

「やだなあ私冬眠してしまったわ。今度こそ春先一番に翁に発見されないと。ますます地球から帰れなくなるじゃない」


春に竹取りの翁新竹を取りに薮に入ってきた。今度はチャコは目覚めていた。

「おごおご。やっと来たわ。翁ちゃーんここよここなのですわ。私はここにいまーす。あっそうだったなあピカピカと竹を光らせないとわからないから」


チャコは電源コンセントを入れ竹をピカピ光らせてみた。


翁は新しい竹を探していた。古い竹にまったく目もくれずひたすら筍と新竹ばかりを伐採した。

「あのぅチャコはここにいまっせ。かわいいですよ」


翁は帰ってしまった。

「あがあがダメじゃない。この竹を切ってくれないといけないわあ」


チャコ竹の中ですねてしまう。

「ちくしょう早く見つけてくれないと(かぐや姫として)成長したらぐれてやるぞ。女子高生になったら親泣かしちゃうぞ。翁の嫌いなタイプの男と仲良くしちゃうよ」


翌朝翁は竹の伐採にやってきた。朝はいくら竹をピカピカやっても明るいものだから気にならない。

「いや〜んなんで見っけてくんないのん」


チャコじれてじれて、

「おーいおーい翁よぉ〜ここにおんのよかぐや姫さんはあ」

あらら竹取りの翁をこちらから呼んでしまう。驚いたのは翁であった。

「ヒャアーお化けが出なさったんじゃあ」


一目散に竹薮から走って出てしまった。

「あれ?逃げたよ。どうなるの私の人生は。私はかぐや姫になれないのかな。どうなるの。出れないまま冬を竹の中で越すのかしら」

チャコは体も成長してしまい狭い竹の中となってきた。


「早く出ないと女児からおばさんになってしまうわ」

第一印象の可愛らしい女の子が当てはまらなくなる。

「弱ったなあ。年齢制限あるしなあ」


チャコが悩んでいる頃自宅に帰った翁はハアハアしながら竹薮でお化けの声を聞いたと話す。ばあさんはお化けだなんていませんよと信じない。


信じてもらえないとしたら、

「ならば村に話をしてやるわい」

村長の家に入れ知恵を頼みにいく。お化けが出たですからと。

「ほうほう竹の中から声がしたとな?そりゃあ驚いたことでしょうな。なにがいるんだろうか」


村長は一通り翁の話を聞き、

「明日みんなで竹を見に参りましょう。お化けさんがいるかもしれませんよ」


竹中のチャコはなにも知らず翌朝の翁の到着を待つ。

「待つ待つ。いくらでも待つ。ここで見つけてくれないと大変じゃない。ぜがひでも見つけてもらわないとチャコは泣き出してしまいますわ」

年齢制限は過酷である。


翁は村長たちを連れて勇ましく竹薮に入る。

「確かこの辺りで声がしました」


お竹の中のチャコ気がついた。翁の声に、

「来たわ来たわ。お待ちしてやんしたあ」

そわそわし始めた。

「いよいよスパーッと竹を割って世に出れるんだわ。わくわくしちゃうなあ」


チャコは朝だけど光りを放つ。電源を入れた。

「おなんだ変な竹だぞ」

村人のひとりが嬉しいかな発見をしてくれ皆に知らせる。

「光っているなあ。なんか入っているかもしれない。割ってみるか」

竹の中のチャコは聞き耳を立て立てます。ワクワク喜んでます。

「いよいよだあ〜出れるわっ」


村人の竹割り手斧は高々と振り上げられた。渾身のちからで竹に当てられた。


竹の中のチャコは立ち上がり、


「さあ表に出れますわ」


カァーン!


アガァ〜


チャコが喜んで立ち上がり顔をあげたら手斧が頭にクリーンヒットしてしまう。


「イタァ〜い」

(石頭だった)


チャコはコテンと気絶してしまう。

「ややぁなんな。なにか鈍い音がしましたな。なにか竹に入ってますぞ」

気絶したチャコは頭にたんこぶをデッカクこさえた。異様に肥えた女とたんこぶポコンの見苦しさ。竹は割られチャコはやっと御披露目になる。


「なんですかなこれ?」


村人たちはたんこぶのチャコを見てあれこれ思案をする。

「気味が悪いですな豚ですかな。福助さんですかな」

ザワザワとした村人たちの話声にチャコ目覚める。頭はガンガンに痛い。


村人の話に耳を傾けるとどうもチャコを竹から取り出して連れていくことはないらしい。

「豚とはなんですか。ひどいなあ。あかんじゃんかぁ〜翁が私を連れていかないとかぐや姫の伝説が成り立たないじゃない。お願いしますから連れてよ。成長したら可愛らしい娘になるから」

チャコ盛んに愛嬌を振り撒く。


村長はジッとチャコを見つめた。

「なんと見れば見るほどブスですなあ。お化けですよ」


これを聞きチャコは頭に、


「来たわ」


やおら竹の中から立ち上がり手足をバタバタさせた。

「いいからいいから私を連れて行ってよ」


村人は皆驚いた。

「しゃべっているぞ竹の中の陳竹林(ちんちくりん)が動いている。不気味なもんですなあ」

さらに気味が悪いとなる。

「私かぐや姫にならなければ竹取り物語は成り立たないの。だから連れて行って」


チャコは竹の中で絶叫してしまう。すると竹取りの翁たちは首を傾げながらこう答えた。


「あなたあなた。よくかぐや姫を知っていなさるな。それはワシの娘っ子の名じゃがのぅ」


チャコ目が点になってしまう。

「えっ娘さんがかぐや姫なの。かぐや姫はもういるの弱ったなあ。銀河系の派遣ミスからダブルブッキンしたかもしれない」

チャコは早目に銀河系の学校の教官に連絡を取りたくなる。


村人達はさらにザワザワと話し合う。この不気味な醜いチャコをどうするか決めかねていた。

「どっかに捨てたい。でも下手によその村に捨てたら(いくさ)を仕掛けられるかもしれないから気を付けて棄てよう。谷底に突き落とすのはいかがですか。這い上がることはないと思いますが」

そうですなあっと相談はまとまり掛けた。

「キャアー私捨てたら困る。谷底だなんてあなたライオンの子供じゃああるまいし。ねぇなんでもするから拾ってちょうだいなあ。いい子ちゃんでスクスク育つから翁の家に連れて行って。綺麗になるし。お願いします。一生のお願いだから」

チャコ必殺のウインクバッシッとした。


が名指しされた翁は、

「何言われても嫌なこったぁ」

チャコを拒否してしまう。

「なんせウチはかぐや姫がいるからな。二人(ダブル)も姫はいらない」


チャコ泣きたくなる。


「このまま置いていかれたらどうなるんだろ」


そこで村長はいい考え浮かぶ。

「あんなあんたさんよくお聞きくだされや」

村長は威厳を出してこう言った。

「ここは奈良の広陵町なんや。この町にかぐや姫がいるとは世間にまだまだ知られていない。これから役場に行って『竹取り物語』を書いてもらうつもり。で広陵町からポンポコ竹から妙なものが生まれてはかぐや姫の乱立だとして値打ちがさがるもんや。どやモノは相談やけどな」


村長は妙案だと強調した。全国市町村の地方自治体の会議に出席した時に静岡の富士町の比奈から、

「なんぞ観光名物ないだろうか」

と相談されたことを思い出す。

「どうかな竹生まれは竹生まれでいいから静岡の富士にて生まれたにしておこう。駿河の富士やったらかぐや姫がおってもうちのかぐや姫とは直接には関係ないから大丈夫ですわな。広陵町としてはなんともあらへんさかいあんさん行ってもろおかいな」


村長は笑顔であった。チャコは竹の中でブッとフクレムクレていた。肥っていたからムクレはあまり気がつかないが。

「しかたないか駿河の比奈に行くか」

やっとこ竹から取り出してもらえる。


「ケッつまんないなあ。静岡に行くの嫌だなあ」

不満タラタラ。静岡に行くのなら行くと最初からそうすればよかった。年だけ取ってしまったことを後悔していた。

「その静岡に行く前にかぐや姫を一度見ておきたい」


翁にチャコは頼んでみた。

「構わないわな。会わせましょう。見てどうなるものでもないし」

翁はどうですかと家に案内をした。

「もう竹取物語ならば私がこの家の娘になっているはずなのに。五人のハンサム貴族からのプロポーズもブツブツ」


チャコは家に上がりさらにブウブウ文句文句である。

「つまらないったらありゃあしない。今から駿河なんかに行かなくちゃあ。都は奈良。いにしへの奈良の都から駿河は都落ち、左遷ではないかいブツブツ」


かぐや姫は翁の家リビングにいると言われて探す。

「かぐや姫に逢ったら文句言わんと気が済まないの。なんであなたいるのよっどっかの星から降ってきたんでしょ」


リビングはわかった。中をチャコはチラッと覗いた。


いた。


チャコ血の気がサアッと引いた。冷や汗タラタラ。


「行く行く静岡に私行く」


チャコは慌てリビングから走って家の外に出た。

「わあっ〜私なんだかとっても静岡に行きたい気分なのよねぇ。早く駿河に行きたいなあ。富士山綺麗だろうなあ。駿河湾ってお水冷たいから素敵だろうなあ」


※広陵町にいたかぐや姫は奈美悦子だった。チャコがチラッと覗いたら憎悪と悪態で睨まれた。


「なんやねん。なんか用かい」

奈美かぐや姫はドスの利いた低い声で答えた。


「はい用はありましぇ〜せん」


チャコは全身に浴びた恐怖から一目散にタイムマシンに戻っていく。


「振りだしに戻ります」


広陵町長から比奈に行くようにと奨められたチャコ。


「ふぅ〜富士の比奈から改めてかぐや姫さんをやるんかいな。もう面倒くさいなあ。しかしあんなとこ奈美悦子がいたとは驚いたぁ。さらに睨まれて怖かったわあ。さてさて私地球に来てもう何年目かしら。竹取り物語の台本しっかり確認しなくちゃ。あっ嫌だ駿河の比奈の竹取り物語なんだね。まったく別ですやんかあ」


チャコのタイムマシンは静岡駿河の比奈の竹藪に到着。富士山の麓にあった。

「竹はどれにするかな」さぁっと筍(竹の子)に潜り込む。

「あれ待って待って筍だったけ?竹じゃあなかったかなかぐや姫の居場所は。どっちだったかわかんなくなったわ」

筍に入ってから間違いに気がつく。

「出ましょ」


筍をガウガウと根コソギ食べてしまうイノシシがやってきた。

「アンガァーイノシシだあ。あかんやぁー私食べられちゃう」

イノシシの牙がぐいぐい筍を押すとチャコは危機一髪抜け出す。

「チぃもういやぁーん」

チャコ筍からの飛び出すとイノシシの頭をちから一杯に蹴ったくる。


ポコッ〜ン!


イノシシこの一撃にたまらず倒されてしまう。

「あれ優しく蹴ったつもりだったんよ。倒れてしもうたじゃんかあ。このイノシシさんは虚弱体質だったね」


さて改めてチャコは竹に入る。比奈のかぐや姫に今度こそはなりそうだ。モゾモゾとお尻振りながら竹に入る。

「竹に入ったわ。これでよし。後はどうするんだっけ。なになに台本によると竹取りの翁が光る竹を発見して竹を割って中からアハアハ。竹を割って中から女児だね。頭をガチーンとなりそうだ。よしヘルメットをかぶっておこう。ミドリ安全ヘルメットを用意しようと。顎ひもつけて準備完了」


台本を読み返しチャコ満足をする。

「イヒヒッ私がかぐや姫になれるなんて夢みたいだ」

台本のとおり夕方が来て竹取り翁が竹薮にごそごそとやってくる。

「やってきたぁ〜。さっそく光パカパカしましょう。電源コンセントは。あれ?ないやん比奈の竹は電源コンセントないやんかあ。あらあ光らないわ。翁は気がつかないやん。アチャア」

竹取り翁チャコには気がつかないまま竹薮の中で竹を伐採して筍を掘りかえす。背中の竹籠が満タンになるとそのまま踵を返し薮から出て行こうとする。

「アガァー翁ちゃん帰っちゃいかんなあ。ここよーここ。可愛い可愛いかぐや姫はここなんよー見つけて家に連れていけー!おーいおーいあっ帰ってしまう。いかーん、おーいおーい」


翁は行ってしまった。


「がぁ、がぁ〜あの人は行ってしまった」

チャコは荒れてしまう。

「あらあー明日かい?それとも来年かい?いかんよー私連れていかないと物語が始まらない。ガォーガォー」


それはそれはチャコはガウルブルブルと異常にやかましかった。


「ちょっとォうるさいわねここをどこだと思ってんのォ」

竹の中からキィキィと怒鳴る声がする。竹の中からチャコ叱られてしまう。

「はぁ〜ん?誰かいるんかな」

ミドリ安全ヘルメットをかぶったまま、ソォーッと竹から顔を出して回りを見る。


隣接する竹の中に同じような陳竹林が顔を出していた。

「あらまどなたさんかしら。こんにちは御機嫌よう」

竹の中からヒョイと一寸ほどのチンチクリン童女が顔を出した。

「うん?ひょっとして同業者かしら」


隣の竹の童女はクルリと振り向いて悩ましげにもチャコに向かってウインクをする。

「あらぁん騒がしいことですこと。おちおち編み物も出来やしないわ。ちょっと静かにしてくださらない。なにせ近所迷惑ですことよ」


言うだけ言ってパチンっと竹の中に戻ってしまう。


呆気に取られたはチャコだ。

「なんなんあれ同業なのかしら。同じくかぐや姫を狙っているのかしら」

ミドリ安全ヘルメットのチャコは竹に向かって、

「ねぇねぇお隣さん。あなたはかぐや姫になるの?狙ってますの?」

反応はなかった。チャコちょっと意地になり、

「オーイお隣さん。お返事してちょーだい」


なんも反応なし。


「(小さな声で)綺麗なひと」


バァーン!


いきなり竹がバタッと倒れ、

「はぁーい誰か呼んだかしら。綺麗なわ・た・しを!この美貌のか弱き娘さんを呼んだかしら」

童女は笑顔だった。

「ケッ、ノー天気なやつじゃ」

童女も竹取りの翁に見つけてもらうことを期待していたのだ。

「比奈のかぐや姫になるんよ」

嬉しそうにちゃぴちゃぴしながら話す。

「私みたいなカワイコちゃんはかぐや姫にならないといけないからウフフ」

チャコにはこの態度が気にくわない。

「なにがウフフだよ、ったく。比奈のかぐや姫は二人もいるの?あれあれ台本には書いてないがん、のんほい」

チャコはまた心配になる。

「あなた間違っていない?」

と聞いてみた。

「違ってないかしら。時代とか、場所とか、現れる国だとか。チベットなんか間違っているような気がする」

チャコなんとかどっかに行ってもらいたい。

「うん間違ってはいないわ。平安時代の静岡の比奈よ。富士の裾は駿府ね。そっちこそ違っていない?平安時代でなくて。お顔をみたら原始時代みたいよ。で、比奈じゃあなくて、ヘナだとかフナだとか、ヘンだとか。かぐや姫じゃなくて泉ピン子だとかじゃないの」


童女は言いたい放題だった。さらに一言多く、

「ねぇあなたミドリ安全ヘルメット物凄くお似合いねクックク。笑いがおさまらないわ」

童女は両手を口に当ててしとやかに笑う。

「まあねヘルメットは似合いますけどね。何たる何たる侮辱なの」

短気なチャコ怒りをぶちまける。

「だぁーらっしゃいモォオ〜聞いていたらじゃあかあしい。黙って言わせておけば図に乗ってからに。アンタは何モン。えっ!ちゃんと答えてみろってんだ。このォ〜ブスがぁ〜」


最後の一言にカチンッときた童女ウサであった。

「誰が誰か誰ですって。うん?誰がブスなん?何処のどなたがブスなん?ネチネチネチネチ」

ウサは竹からモゾモゾと這い上がり出てきた。

「ちょっとあなた気にくわないわね」

チャコの竹をユサユサ言い合いになる。拳を振り上げてやりあいになる。


チャコもノソノソと竹からお尻を出し這い睨み合う。


第1ラウンド

チャコvsウサ


「ちょっとぉ〜難癖つけてくれんじゃんかあ」

童女のウサは腕ブルブル振り回しながら息撒く。

「アーンラッ〜ごめんあそばせ。ついね見た通りのことを私は言ったまでよん悪いかしら。あーなんて素直なオナゴかしらチャコちゃんってオホホ」

チャコはミドリ安全ヘルメットをキリリと被り直す。おっ偉いぞちゃんと顎ひもかけているチャコちゃん。


二人の争いは明け方まで休みなく続く。朝日があがる頃お互いに疲れたからと停戦にする。キィっと睨みながらふたりは、ノソノソとそれぞれの竹の中に戻っていく。疲れたらしくイビキをかいてすぐ寝る。


朝には比奈の竹取り翁がやってきた。

「朝早くの筍は格別にうまいのじゃ」

と竹薮にひょっこり現れる。チャコの竹とウサの竹の近くまでやってきたが寝たままだった。イビキが不気味に感じる。

「うん?なにやら物騒な騒ぎが聞こえますな」


比奈の翁は用心深い性格だったのですぐに立ち去ろうとする。

「物騒じゃ恐ろしいやあ」

怖がりながら翁は辺りを見た。昨夜チャコが一撃で倒したイノシシを発見する。

「やいやあイノシシだやあ。これはご馳走だぞ」

翁イノシシを見て持ち帰る算段をする。が老人のちからではとてもとても運べぬとして富士の比奈村に助けを求め一旦降りる。

「あのイノシシは大物じゃぞ。とんとお目にかかれない大物じゃ」


まもなく比奈からちから自慢の若い衆が集まる。

「皆さん頼みますで」

イノシシを抱えて山を竹薮をエイサホイサと降りていく。


翁はこの日を境に竹薮には来なかった。

「ちょっとォ〜チャコのアホンダラ!起きな。あんたのせいで竹取り翁いなくなったじゃあなあのさ」

ウサはチャコの竹をガッツんと蹴りあげた。グゥーグゥー寝てるチャコを起こす。

「フゥガァー。うん?な、なんなの?」

いきなり叩き起こされわけがわからない。

「寝てるから翁が来ちゃったのよ。もう来年にしか竹薮には来ないよ。どうすんのさ、かぐや姫になれないわ。私だけ」

あらまっ弱ったな。竹取りの翁が発見してくんなきゃあ竹取り物語にならない。ふたりは喧嘩している場合ではなかった。


さらには

「あなたが悪い、なによアンタが言い掛かりつけたから」

口喧嘩は続くがある瞬間にチャコはハタッと気がつく。

「仕方がないわ。竹からの物語はキャンセルにしてしまいます。違う物語で行こう」

ミドリ安全ヘルメットを被りながらチャコは続ける。

「違う物語を探すわ。古事記、日本書記なんかを見て見るかな」

取り出した書には神話・伝承・伝記がつらつら入っていた。


チャコの調べるのを見てウサも乗り気になる。

「どれどれ?私も見たいな。美人の登場する物語はあるかしら」

ウサとふたり首を揃えて次の物語の出番を考えた。


美人とならば日本武尊ヤマトタケルの武勇伝に出番がありそうだった。

「あらっこれにしましょ。ヤマトタケルの妻さん」

ウサはチャコの手から強引に古事記を奪い取りどんな物語か読む。

「物語は別にどうでもいいの。問題はどうやって生まれるかなの。竹からえんどう豆から藁からとか」

日本武尊ヤマトタケルに正室が6〜8人いるが全て出自はしっかりしていた。変なのはひとりとしてなかった。

「ダメじゃない。私生まれないわ」

チャコはそれならばと探す書の時代を平安にしてみる。


「あっ」ミドリ安全ヘルメットをシャキッと被ったチャコが紐解いた書はなんだったか。

「なっなんですのこれ。和泉(いずみ)式部の伝承だって」

チャコはウサに見て見てと示した。

「なんなのさこれ」

チャコが調べた平安王朝貴族の世界はキラ星のごとく優秀な女流歌人が誕生していた。平成の今から遡ること約1000年前の貴婦人の話である。


966年清少納言

973年紫式部

978年和泉式部

未詳伊勢大輔(いせたいふ)

未詳赤染衛門


平安の五賢女流と呼ばれる貴婦人である。


その中で清少納言と紫式部は古典の中で有名な書き手であった。


清vs紫のライバル対決が学者内ではさらに有名となってしまう。


『紫式部日記』は見事なまでに清少納言の悪口のオンパレードだった。


紫式部の女の執念すら感じさせる一面がかいま見える。


チャコが発見したのは和泉式部の話。こちらの式部さんの貴種伝承の数々であった。


平安王朝たくさんの女流歌人の中でも和泉式部はとりわけいろいろ影響を与えたらしい。


まずその人生が都に止まることがない。地方のあっちこっちに移動をしているのが特徴。


そのためであろう貴種伝承は100を遥かに越えている。生まれた場所にしても2〜3箇所ではとどまらない。佐賀県や福島県

とあっちこっち。47都道府県和泉式部の生まれないところが珍しい程である。


日本武尊と義経の伝説と並ぶくらいの諸伝説。


人気の邪馬台国伝説は73箇所ある。


その他では清少納言が唯一の貴種伝説あり。


天に昇って貝となった伝説くらい。


「オリャア〜いいなあいい。チャコは和泉式部になりましょ。きぃーめたわん。和泉(いずみ)ちゃんになるもんねぇー」


隣で和泉式部伝説伝承を見ていたウサ。


ホォ〜


と羨ましげな顔。


「ねぇねぇチャコ。歌人になってもさあ、あなた大丈夫?文学才能なんてあんの。歌人になるんでしょ」

ウサは羨ましさから嫌味のひとつを言う。


さらにはにこにこしながら、

「まっいいか。和泉式部の歌は全て台本に書かれてるから。見ながら歌を詠めば誰でもできるわ。まずばれはしないわ」


チャコ目をショボショボさせながらイヤミを聞く。


和泉式部になると決めたら早速生まれ変わりたくなる。

「よぉーしタイムマシンを平安時代にセットしてみましょうと」

チャコはニコニコして、

「お先に行くわ」

なんて健気にも手を振る。

「時間は平安の978年ね。西暦を間違いないように注意しないと。えっだって紀元前もあるから。間違いしたら縄文時代に行くわ。やだあ」


チャコ取扱い説明書の注意書きを改めて確認をする。

「平安時代にセットしましょう間違いなし。あのきらびやかな王朝貴族になるんだわあ。感激しちゃうなあ」

年代セット。場所京都セット。タイムマシンの計器セットも全て完了をする。


和泉(いずみ)式部さん式部さん行けー」


ウサの嫌味もなんも関係なくさっさとタイムマシンに乗り込みタイムセットを完了したチャコ。準備おしまい。

「フゥーだああこれでウサなんかの顔なんかもう見なくて済むわ。せいせいするわ」


マシンに乗り落ち着きますはチャコ。後はスイッチオンするだけ。チャコ準備が整えられたら、

「あらんお腹が減ったわ」

ダッシュボードを開けお菓子ケーキ・アイスクリームが出てきた。

「エヘヘ。魔法のダッシュボードちゃん。いつもね好きなものが出てくるようにセットしてあるの」

ケーキとアイスクリームをペロリとやる。お腹の減った今は最高の味覚であった。


「ケッ、チャコめ私を無視して。面白くないわ」


ウサは竹藪の中に隠してあるチャコのタイムマシンを発見。


カァーン


一蹴りあげた。


チャコは蹴られた拍子に体をグラリっ揺すられた。アイスクリームが顔にペチャとついてしまう。

「なんだあ地震かあ」

マシンのセッティングが狂ってしまう。平安が平成に替わる。978年が1947年に替わる。和泉(いずみ)(いずみ)に替わる。


「あぁ〜んいゃーん。ダメじゃんタイムマシンを揺すったらいけないぞ。精密機械だぞー。アイスクリームが型崩れしてしまったやん。エヘヘ新しいの出していこ」


新しいアイスクリームを出してペロペロやりながらスイッチオン。


チャコはグィーンと体が座席に吸い込まれた。特殊相対性理論に従いタイムマシンは時間を遊泳し始めた。

「アイスクリームはまだまだあるのエヘヘ」


チャコはペロペロやりながら平安の和泉式部に生まれ変わり生まれ変われることを期待した。


式部になるはずのつもりが。


アイスクリームは溶ける間もなくチャコの胃袋に入ってしまった。


タイムマシンはセットされた時代に到着をするとチャコを勝手にその時代に送った。チャコも知らない間のことである。


こちらは東京のテレビ局のスタジオ。

「さあさあ皆さん本番入ります」

テレビデレクターが番組収録の合図を送る。

「じゃあピン子さんお願い致します。茶の間にいてくださいね。カットシーンは息子役のえなりかずきを叱り飛ばすです。いつものことですが台本はありません。はいっこのシーンから参ります」


息子役のえなりかずきは恐怖から顔がヒキツっていた。なぜかそれまでの楽しい人生を思い出していく。

「本番行きます。よーいカチン!」


バチーン!


チャコのタイムスリップ先は平成の時代であった。『渡る世間は鬼ばかり』の収録現場だった。


チャコはマシンから勝手に降ろされて体が泉ピン子になる。デレクターの声にチャコはハッとした。

「あらん?私ピン子さんやんか。なんでかにゃあ。うん、なになに」

手元にあるテレビ番組の台本には息子役えなりが東大に入って女遊びを覚えた。

「まあ大変じゃあないの」

母親役ピン子は堪忍袋の緒が切れて一発かますシーン。

「ここから力いっぱい息子のえなりを蹴り飛ばして諭すのか」

ピン(チャコ)は、

「よーし、手加減なしで、いや足加減なしでやってやるべ〜」

ピン子はギャアっ気合いもろとも蹴りをえなりに見舞う。


その蹴りの瞬間にディレクターが大声でストップを掛けた。

「カットカット。ピン子さんなんですのその頭。ミドリ安全ヘルメット被ってますよ。なぜそんなものがあるんですか」


ピン子アチャアーと慌ててミドリ安全ヘルメットを取る。

「はてはて。私なんでこんなん被ったかなアハハ」

ちょっと首を傾げるチャコ。いやピン子だった。

「さあ気を入れ直して用意スタート」


チャコピン子渡る世間の鬼の、鬼になり、息子役のえなりを叱り始めた。蹴りあり平手打ちありである。怖い母親のピン子であり女子プロレスだった。


普段が怖いピン子にさらに怖さが倍増していた。スタジオ内にはまるで妖怪の世界が蔓延した。


ウワァーン


えなり泣いてしまう。あまりに怖い。


「カットカット!ピン子さんなあっあんなぁ」

渡る世間の収録はなかなか進まない。ディレクターも困り果てる。

「なんで今日に限ってピン子は迫力満点なんか。何かに取り付かれたみたいな鬼気迫る雰囲気すら漂う。人間離れしている」


叱られた相手役のえなりはあまりのピン子怖さからデレクターに泣きついた。

「台本を変えてくれ、女遊びのシーンはないことにして欲しい」

母親ピン子と円満のシーンがいいと言い出す。


例えば母親の日があるから母を大切にするとか。そんなほんわかなシーンをつけるとかしてくれと。泣きじゃくりながらデレクターに哀願した。


「あらまっ」

デレクターはえなりでなくともと台本を書き直してやる。再度収録を始める。


新台本はえなりの希望の通りになる。母親ピン子と親子団欒になる。

「息子えなりから白いカーネーションをもらい、あなた、なんで白いやつなの?普通は赤いカーネーションでしょ。白いのは意味違って。で、息子えなりは赤いカーネーションが売り切れたからこれで勘弁を願います。この言葉に感動してピン子ハラハラと泣くのか。なんじゃあこれ」

ピン子は文句プゥプゥ言いながら収録を終えた。


現場収録もアンカーカメラも終わりピン子は楽屋に入る。お疲れ様でした。

「ケッ!タイムマシンをあの馬鹿が揺すったからいけないのよ。平安時代行くわが平成になってしまったじゃんか」

チャコ(ピン子)やおら手元からマシン取扱い説明書/教則本を取り出して、

「タイムマシンの時代リセットのやり方はと。どこかいなどこかいな」

ピン子のまま楽屋でペラペラめくり発見する。やり方は簡単だった。タイムマシン右手の赤いボタン戻りボタンを押すだけであった。

「ふぅーいつまでもピン子やっているわけにいかないから」


楽屋の同じ出演者はなにやらピン子が難しい本見ているなあと遠回しに眺めた。

「難しい本はまたなにかの売りつけ商法だろうかね。近くに行かない方がいいよ」

気がついたら楽屋はピン子ひとりになっていた。


「元の竹薮に戻りましょう」

チャコはマシンを今来た道に戻しましょうとした。

「途中変更はマシンに負担がかかるらしいの」

そうと決まればチャコはパアッと目の前に視界広がる。楽屋の差し入れ台があった。お花からお菓子からドリンクから。

「あらっお菓子の山が」楽屋に届けられたお菓子とジュースがわんさか唸るようにあった。チャコにはお花は目に入らない。

「これ高級なメーカー品ばかりだわ」

チャコはパクパク食べていく。お腹に入らないと悟るとポッケに積めるだけ積めていく。

「美味しいお菓子だもん。これだけあれば売れるわ」

チャコはマシンに戻ります。お腹が張るからヨッコラショと苦労した。

「ハイマシンに入りました。リセットボタンをポンポンしたわ。安心したらお腹減ったわあ。このお菓子うまいわね、パクパク。しまったなあっ、あとひと山持ってさあ、ウサに売りつけてやればよかったアッハハ」

よく食べてます。胃袋がいくつあるのか。


その頃竹薮のウサはとても大きな(くしゃみ)を、

「ハァ、ハァ〜ヘックション〜」


ウサなんとなく胸騒ぎがしていた。

「あれっ風邪をひいたかな。ヘックション!ヘックショーン!こんちくしょうー」

立て続けにくしゃみをしたウサである。


「風邪かなあ」


少し鼻の頭を擦りながら体を温めて寝るかなと竹の中でつぶやく。


その時に変な音を聞く。


ガアガア〜


やかましくしたのはチャコのタイムマシンだった。

「あれあれチャコじゃあないの。また戻ってきたのかな。なにかあったのかしら」


グルグルとタイムマシンはウサの目の前で止まる。マシンの中からミドリ安全ヘルメット着用のチャコが登場する。

「ちょっとォ〜ちょっとだってばぁ。ねぇウサあなたタイムマシンを蹴ったでしょ。トラブル発生したじゃんかあ。平安時代が平成時代になってしまったじゃんブツブツ」

チャコはミドリ安全ヘルメットを斜に構えてさらに文句いいまくる。


お待たせしました。


第2ラウンド

チャコvsウサ


「うんなんのことかしら。このか弱き純情な乙女ウサちゃん姫にはなんのことかわかんない。可憐な乙女ウサ。あなたより遥かに綺麗な乙女のウサにはなんのことなのかさっぱりわからない」


ウサは軽く口に手をやり優しくオホホと微笑む。

「な、なんでぇーなんだあ。もう頭にきたあーあんたがボコッとマシン蹴ったじゃんか。ほらっ、タイムマシンのここ見てよ。ボコッてへこみあるよ。ウサの足と同じサイズじゃあ。よくよく見てみさらせぇ。動かぬ証拠だわさ」

ウサはじっと凹みを見つめ、あらっ本当にと思うが。


ガンとして認めない。


「し、しらないから。そんなの知らないから。チャコの運転がへただからどっかにボコッとぶっつけたんじゃあないの。私は知らないからね」

ウサはあくまでもシラを切る。


面白くないのはミドリ安全ヘルメット着用チャコである。

「なんでぇいあんたのせいで平安時代の和泉式部さんになれず泉ピン子になってしまったのよ」

新たに怒りをぶちまけた。


このふたりの言い争いは夜を徹して続き明け方までかかる。最終的には朝日の昇る頃ひとまず終了にするかなと決着。お互いゴソゴソと竹の中に戻ってグゥグゥ寝ることになる。高いびきも争っていた。


どこまでも負けず嫌い。


竹薮の中はイビキで大層やかましいが幸いなことに筍のオフシーズン。誰もやっては来ない。平和なものだった。


「なにが平和なものですか。あんな女が近くにいてさブゥブゥ。クウカァー」

夕方近く目覚めたチャコのそのそと竹から這い出し清水で顔をゴシゴシ洗う。


「そうだ手拭いはないかしら」

ポケットに手を入れたら、

「あん!あらっお菓子あんじゃん」

顔洗って手にしたお菓子ウサにわけてやろうかと考えた。優しいねチャコちゃん。

「あらんそんなあ優しいだなんて。よく言われてますわ照れちゃうわねぇ」


同じくウサも夕方近くに竹の中で目覚めた。大きく背伸びをして欠伸(あくび)を、


フンガァ〜


「ああよく寝たわあ」

起きるとすぐさま清水で顔を洗う。竹からゴソゴソ、ゴソゴソ出ようとする。


しかしあれ?お尻がちょっと重くて出れない。

「あちゃあ運動不足だから太ったかしら」

重い体を押し上げてなんとか竹から出たら天敵チャコがいた。

「あらお目覚めかしらウサ姫さま。あなた綺麗だからお菓子あげましょホイ」

ウサはチャコからのお菓子にスゥーっと反応してしまう。

「食べ物は喧嘩に関係ないわ」


ふたりはしばし打ち解け話し合う。いくら待っても比奈のかぐや姫になれないからふたりして平安の時代に行きましょうかとまで話合う。


「平成でもいいじゃあないの。チャコは泉ピン子になってさあ。あなたは似ているからいいわね。役得というものですことオホホ。人災いや人徳さんですわ」

ウサは褒めたつもりであった。

「チャコのお菓子美味しいわね」

大好きなチョコレートマドレーヌがあった喜びを噛みしめる。

「そうかしら私に似ているのピン子って。ちっ、ちゃう。私は平安の和泉式部さんになりたいの。泉の前に"和"をつけるの和を。同じ『いずみ』でも大変な違いだから。といっても私も最初読めなかったけどさ」

チャコはチョコレートマドレーヌをもうひとつウサにあげるとホイっと投げてやる。

「あんがとね大好きなんよ」


チャコが和泉式部さんならウサは誰になるのかな。神妙な顔でチャコを見る。

「そうか平安の歌人だもんね。ちょっと調べるかな。書でもネットでもなんでもいいや」


平安の歌人は清少納言・紫式部・和泉式部・赤染衛門・伊勢大輔。


「あるわねぇあるけど竹から生まれたのはないわなあ」

ウサが言うと、

「このほらっ伊勢大輔(いせたいふ)は出自がわからないみたいだわよ。三重県の伊勢神宮に関連がある程度だし年詳もわからずじまいになっている。ということは竹から生まれたかわからない。伊勢うどんが生まれ変わったかわかんないわけだ」

チャコは熱心にウサに勧める。ウサはウサでそんなもんなんかと不承ながら興味を示す。

「そんじゃあさウサは伊勢うどんね。あぶらげタップリのうどんさん。いやいや伊勢大輔(いせたいふ)歌人の方だわ。黒いつけ麺が美味しいのよ。伊勢うどん食べながら『いにしえの〜』を歌ってくれたら最高よ」


話を決めてチャコはタイムマシンによっこらしょと乗り込む。


しかしウサは困った顔。

「私のマシンはね呼ばないと来ないのよ。ケータリングシステム導入だから」

呼ぶにもちゃんとした理由がいる。

「あらまっ常備お気軽タイムマシンじゃないのかいな。そんじゃ私のマシン一緒に乗って平安時代行きますか」


チャコとウサは銀河系のタイムマシンにごそごそと乗り込みいざ平安時代に向かう。


「設定は全て確認して。よしいいわマシンのスイッチオン」


マシンは時間を遊泳し始めた。


元来は独り用のマシンである。ただチャコが肥満だからとフレッキシブルタイプ仕様にはなってゆとりはあったが。


ふたりになるとコックピット内で思うように動かないようだ。狭いことは狭い。

「あらあら危険ランプが点灯してしまった。どうなるのかなあ止まってしまうかな」

かなりマシンはグワングワン異常な音を立てて行く。


賢いマシンは相対性理論を計算しながら、計算しながら時代を遡る。

「あらんいかん計算間違ってしまったわ。計算クリアの掲示点滅ピカピカ始めたわ」


ガタン!


マシンは黒い煙モコさせて到着をした。


但し平安時代ではなく明治-大正-昭和-平成時代。


「あらんまた平安の時代とちゃうやん」

驚きのチャコ。新しいキャラクターになっていた。


さて今度は何になりましたか。


新たに生まれ変わったチャコとウサ。自分たちの姿に改めて驚きを表す。


「うおっ、なっ、なんだいこれアガアー」


チャコもウサも見事な老婆でありお婆ちゃんであった。お互いがお互いの姿を見てアラマアと嘆き悲しむような婆さん姿である。背中はちょっと曲がっている。やたらこぶ茶が飲みたくなる。

「どったのこれ?あやあーこれバアバアじゃんかぁ。キャアっウサのあの若々しい男の気を惹く美貌はどこに消えたんだあ。ナイスな体ボディはどこに消えたのだあ。返して返して頂戴よ。チャコは構わないのそのままがお似合いだから。ウサの私だけ返してぇー青春よカンバック〜」

ウサは嘆き悲しむのであった。


お婆ちゃん姿のひとりは、


◎浦辺粂子


静岡下田市出身のお婆ちゃん女優。浦辺は下田の真宗のお寺の娘さんだった。旧制女学校を中退し親に反対された女優に憧れ家出をしてまで上京。憧れの女優を目指す。若いうちはちょい役が回ってきて調子よかった。そのうちに花が咲きでっかい女優になれますわ。役がまわってくるさと楽観した。


やがてちょい役すら回ってこなくなり夢に見たお嬢さま女優は志願を諦めることになる。また結婚生活にもピリオドを打ち離婚からお婆ちゃん女優の老け役者に転じる。


この当時は老け役者になり手が全くいなかったから大根役者でもいないよりはましだと仕事が巡ってきたらしい。悪役はいたので悪役さんがしばし兼ねていた。


しかし大根は大根であり売れっ子からは程遠い。


役者浦辺粂子としてブレークしたのは本当のお婆ちゃんになった68歳からとなる。片岡鶴太郎が浦辺粂子の物真似をテレビでしたのがキッカケで皆に知られる存在となった。そんなことならもっと早く物真似をやってくれたらなあ。


「私だってできますよ〜」


下田のお婆ちゃん女優さん。

「チャコはどうみても浦辺粂子さんだねウフフ。お似合いだこと。瓜ふたつですよ」

ウサは笑いを堪えてチャコをけなす。

「アガァ〜悔しいわあ。言いたいことばかりプゥプゥ言って。私はピン子の次は粂子(くめこ)かいなあ」


もうひとりのお婆ちゃんは、


◎原ひさ子


静岡市の生まれ。こちらは静岡のいいとこの出のお嬢さまである。


しかしお嬢様とて若い女優になりたいの希望となると話は異なる。


静岡から上京をし女優として役に巡り会える。石川啄木の夫婦役が当たり役。栄光の美人女優への道が拓けていく。また共演で知り合った俳優と結婚し子供にも恵まれた。幸せな人生を歩み始めた。


しかし、

「映画の主役は美人女優が務めるもの。私見たいな陳竹林は脇役としてしっかり主役を支えないといけない」


ひさ子は脇役(バイブレーヤー)としての道を女優として選び全うした。


なぜか自ら大女優の道を放棄した格好になった。


「あんらぁんウサ姫さま。可愛らしいお婆ちゃん姿じゃあイヒヒッ」


なんとまあ元気のいい2婆の口喧嘩だこと。


喧嘩と言えばタイムマシンの中でおふたりさんはおふたりさん。いつものことだった。


二人っきりになると寄ると触ると仲良くしてしまう。


第3ラウンド開始。


チャコがウサのオデコにデコピンをピシャとやる。

「お、やったわねぇ」

ウサが平手を


パチッ!


「ウワァー悔しいじゃない」

チャコのやり返しとゴチャゴチャとコックピットでやりまくり。


あまりにマシンの中で暴れまわったがため平安への設定が大幅にズレ現代に来てしまった。


老け役者に設定年齢がなり高齢になったのは若い娘さんの設定ボタンをチャコがゲンコツで一回叩いた。ウサが蹴りで二度衝撃を与えたからである。20歳が60歳になってしまった。

「そうなると自業自得だなあ、ふぁんふぁん」


チャコお婆ちゃんの姿のままその場にへたりこんでしまう。ジッと立っていると立ちくらみがしてしまう。


ウサはウサでやっぱり疲れた様子である。

「私お婆ちゃん女優やるの嫌だあ〜。チャコは似合っているけど。私はダメなんよ。なんせこの美貌と清楚さは天からの授かりものだから」

文句ブゥブゥのふたりだった。


しかしゾロゾロと杖ついてタイムマシンから出ていく。


チャコ浦辺粂子はテレビ番組バラエティに。ウサ原ひさ子は学術関連の映画のロケに。

「そんじゃあお互い頑張ってバアサンしてきましょ。じゃあね。フフ私だってデキマスよぉ〜」

チャコはお似合いの粂子。

「しゃあないわ。行こうかな。それにしても思うけど原のお婆ちゃん難しい役ばかりじゃあないの。チャコ粂子なんてバラエティに出て笑いを取るだけみたい。楽ちんじゃあありませんこと」

ふたりはマシンで別れて行った。


後には携帯のタイムマシンとミドリ安全ヘルメットがもの悲しきかなと残っていた。


「粂子さんは68歳からお茶の間人気が出たわけか。それまでは泣かず飛ばずのチョイ役ばかりでかあ。大変だったんだなあ。しかも離婚してからずっとひとりだもんなあ」


チャコ粂子は晩年の華やかな頃を演じていく。芸能界最高齢レコード歌手デビューを果たしたのはチャコ粂子だった。

「そ、私が歌い踊ってやったのよ」

晩年は楽しきタレントでしたね。


さて粂子お婆ちゃんが病症の晩年になりましたらチャコタイムマシンに戻っていらっしゃい。


「はいはい」


一方のウサ原ひさ子は?

「ヤダナア今からさ映画ロケだけどさあ、難しいセリフのオンパレードじゃあないの。さらに旦那さんがいらっして娘さんと孫に囲まれている。なんか文句ブゥブゥ言う割りには幸せを感じちゃうわ」


原ひさ子は可愛らしいお婆ちゃん役ばかりである。品がよくインテリな老人役者であった。


かと思えば悪魔の取り憑いた呪われた老婆を見事に演じて好評を博している。


実に多彩なかたでしたね。浮いた噂のひとつもなく。

「噂のひとつって。なんせ品のあるお婆ちゃんだもんね。可愛らしいや、しっかり演じてみましょうね」

ウサも原ひさ子が病床についたら(ご臨終)、タイムマシンにまで戻っておいで。


「はあーい、わかったわ」


原ひさ子さんは惜しまれてこの世を去りました。


マシンに戻ってきたのがチャコである。

「ふぅーただいま。なかなかの粂子さん人生だったでしょう。お婆ちゃん女優もいいわね。華やかではないけどいなくなると淋しいや」


チャコはよいしょとタイムマシンに乗り込む。

「いいなあウサは最期は家族にみとられるわけだもんね。いいなあ、いいなあ」

チャコ、タイムマシンの中でウサを羨ましく思っていた。


遅れてウサが戻ってきた。

「ただいまぁ。あーよかった、よかったわあ。最期は泣けてしまったわ。いいお婆ちゃんだっからなあグスン」


こうしてお婆ちゃん女優役の済んだふたりである。珍しいことに二人剃ろって笑顔であった。


「今度こそは平安時代よマシンよ間違えるなあ」

お互いに言い合いながらタックルを組む。


「行きましょう平安時代へ」


チャコは和泉式部さんになりますと意気込みその気になる。ウサは伊勢大輔の女。

「インテリさんだもんね。可愛い奥様になりますわ」 

平安時代を目指してよっこらしょとチャコとウサは狭いタイムマシンのコックピットに座る。

「ねぇちょっとコックピットの中狭くないかしら動けないわ」

ゴソゴソとウサはやり始めた。

「チャコあっちに行って暑苦しいじゃないの。もっと向こうにいけないかしら。出来たらマシンの外に行ってよ。いゃ〜んオシリがちゃんと座らないわ」

言われたチャコは、

「ハイハイわかったわ」 と頷き外に出ていく。いやいや黙ってはいませんね。

「煩いわ。あなたがもっと小さくなればいいのよ。それにしてもでっかいシリね。だいたいマシンはひとり乗りなんだからふたりは無理なのよ。ウサは間借りの身分の癖にうるさい。黙って乗りなさいピシッ」

オデコにチャコ得意のピンをやる。

「あいたあたた。やるじゃあない。暴力反対よ。こんなか弱き乙女をデコピンして情けなくないの」

チャコはイヒヒと笑い、

「誰ですの?か弱き乙女とかは。一度お逢いしたいなあ。見たことないからなあフン」

お互いが太ったためにマシンは無理をしてしまう。


「いやあ重いわぁー。ちゃんと適正重量がラベルに貼ってあるというのにさ」

タイムマシン自身までボヤく。


「ねぇチャコ。さっきから気になるんだけどこの黄色のランプはなんの意味になるの?マシンが動き出してからついたり消えたりしているから」

チャコもなんかなと黄色ランプを眺めた。手元のマニュアル本を取り出して調べて見る。

「なんだろ?わからないわ。とりあえず調べてみるわ」

マニュアル本の2ページに黄色ランプの説明はあった。

「なんだろかなっと」

重量オーバーと書いてあった。


第3ラウンド

チャコvsウサ


「ちょっとウサがいけないのよ見苦しく肥りデブになるから」

この一言からウサも応戦。

「チャコだってデブちゃんじゃあないの。いやいや違うって。太ったのはチャコひとりだけよ。私はスリムです。黄色ランプ重量オーバーがついてしまったのよ」


バチン!


チャコの顔に平手打ちをした。


「もうやったわね」

やり返したりしてコックピットはめちゃめちゃ。重量オーバーの上に暴れたからタイムマシンが、

「気分悪くなったぜ」

とスネちゃった。


いい時代のいい場所にステンとタイムマシンが勝手に判断して降りたのだ。


マシンは到着し喧嘩しているふたりに、

「早く降りた降りた」


ポコッと降ろされビューと風が吹き荒れた。


ふたりは武士に生まれ変わっていた。


1612年5月13日山口県にある巌流島に辿りつく。

「巌流島って武蔵(むさし)と小次郎じゃないの」


モゾモゾとふたりは宮本武蔵と佐々木小次郎になりました。

「私は平安時代の和泉式部さんになるつもりだって。ちょんまげして宮本武蔵やらなきゃいけないんですの」

チャコはブゥブゥ文句ばっかり。それでも刀があると珍しいとみえ、

「えい、やぁー」

と振り回していた。二刀流はすぐに覚えてしまう。また頭のちょんまげは大変なお気に入りとなった。

「いいわあねっ頭のちょんまげ。凛々しい清潔感もある。鏡で見てみましょ。お!男前だわぁうっとりしてしまう」

ミドリ安全ヘルメットよりはましか。


ウサの佐々木小次郎は?


「嫌ぁ〜私恥ずかしくてたまんない。むさくるしいとはよく言ってみたもんね。もう死んでしまいたいくらいの恥さらしだわ。あーんお嫁にいけないわシクシク」

さもしき浪人佐々木小次郎であった。


舞台は揃い山口の無人島に、ウサの佐々木小次郎が到着をする。

「あれ?時間は合っているわね。チャコ来ないじゃないの。あいつそそっかしいから違う島に漂着していたりして」

ウサの読みが当たりだった。チャコの遅刻はそれである。


山口の下関から巌流島行きのフェリーのキップを買い求めたが、

「あれ?巌流島出て来ないぞ」

同じ瀬戸内海フェリーでも無人の巌流島を迂回する西日本海運フェリーに乗り込んでしまった。フェリーから巌流島は見えるが到着はしない。

「あちゃあーしかたがない泳いで行くかな」


ザブゥーン


勢いよく飛込む。フェリー乗客はなんだろ、なんだろとジロジロ。チャコはバシャバシャと元気に巌流島に到着をする。待ちかねたのは小次郎であった。

「待ちかねたわよっじゃない。遅いぞ武蔵。ちゃんと時間を守らないといけないぞ」

例の名台詞を言う。

「あらそんなにブィブィ言わなくても」

チャコは濡れた着物を脱いで乾かす。

「あっ悪いわね。今すぐ乾かすからさ。乾いたら決闘を始めましょ。いいお天気さんだわあ」

のんびりと木切れを探して濡れた着物を干すチャコ武蔵である。

「あれ、こんなシーン、吉川英治の小説・武蔵にはなかったわ」

ウサ小次郎は文句ブィブィ。


決闘まで待ち時間ができたからウサとチャコはちょっと魚を釣りましょうと沖に向かった。

「決闘の前に腹ごしらえしておきましょ」

ふたり釣り竿を垂らしたら結構な魚を釣り上げる。


巌流島は潮の流れの交差があり良質のプランクトンがいる。

「後は火を起こして焼き焼きしましょう。ちょっと野菜ものないかな。私島を見てくるわ」

チャコ颯爽と出掛ける。着物が干してあるからフンドシ姿であった。

「巌流になにがあるかな。アイスクリーム食べたいなあ」

ヒョコヒョコ見て歩く。巌流島は狭いものだから簡単に回れる。

「あらっ嬉しい蜜柑があるわ。ザクロもあるわ」


探せばあるある無人島。


「チャコが島探索から帰ってくるまでちゃちゃっと魚を焼いておこうかな。まずは魚を捌いておっ、脇刀があるから使っちゃうかな」

ウサは脇差しを包丁代わりにして魚を捌いていく。

「うーん切れが今ひとつ悪いなあ。砥石ないかしら」

大方捌いてしまった頃チャコが籠にいっぱい果物を集めて帰ってくる。

「どおっ見て見て。こんなにあったわ。果物屋さんできるくらいだわ」

魚は焼かれいい匂いが漂う。焼き魚は巌流島に生息をするタヌキにかなり刺激を与えたようで。

「あらんタヌキがわんさか集まってきたわ。ウサによく似たタヌキちゃんばかりだわ。親戚さんですかそうですか」

ウサちゃんと聞き耳立てて、

「さあさあカバみたいなチャコ魚が焼けたわ。めしあがれ」

チャコはプイッと腹を立てながらパクッつく。焼きたての魚はうまかった。水がなかったが果物の水分で体は潤い満たされることになった。

「ふぅ〜腹いっぱい。ねぇ眠くならない」


ウサは目をトロンとさせ背伸びをして、

「ダメだわ私眠くなってしまったわ。オネムしましょう」

チャコも満腹になって揃ってグゥ〜。


こうして1612年5月13日の巌流島決闘は武蔵小次郎の怠慢でなくなってしまった。


グゥグゥ寝た後ふたりはハッと気がつき、

「あっ、いけないわ。日付が変わってしまったわ。ちょっとちょっとチャコってば。イビキかいてないで起きてよ」

チャコ揺り起こされた。

「し、しまったじゃん。決闘しないままだ。どっしょしかたないわ、私ね吉川英治に手紙書いておくから。巌流島決闘の様子をさ。後は適当に創作されるでしょ」


日が替わりふたりはショボショボしながらタイムマシンに戻ってくる。


「喧嘩しないでちゃんと平安時代に行きますわ」

チャコよいしょとスイッチオンをした。タイムマシンはグルグル回り始めて巌流島を後にする。


巌流島にいたタヌキ達がゾロゾロと島中から集まってくる。残りの焼き魚を食べに果物をむさぼりに。

「おい、あの人間ってなにしにやってきたんだ?魚を食べて昼寝しただけじゃあないか。最近の人間は何を考えているかわからんものだ」

タヌキ達は心配をしてくれた。


オシリをモゾモゾさせながらマシンにチャコは乗る。

「失礼お尻モゾモゾだなんて。それを言うならセクシーに色気振り撒いてプリプリしながらと言ってちょうだいプイッ」

タイムマシンにチャコは武蔵の武士のまま乗り込む。

「さかやきとちょんまげがお気に入りです気に入りましたぁ〜」

ちょんちょんと頭を触る。


ウサは、早めに着替えて、

「もう嫌!私みたいに可愛くて、セクシーな乙女にはむさくるしい武士の姿なんて似合わないの。もういやいや」

サアっーおすべらかしを流してウサは侍から長い髪をサラサラお姫さまにしていく。


そのふたり乗り込みました。

「ねぇウサみかん食べない?おいしいわよ。瓜もあるわ」

チャコは巌流島で取れた果物をしこたま持ち込んでいた。ふたり仲良く食べながら平安時代を目指すか。

「あら瓜はおいしそうね。頂こうかしら」

チャコ待ってましたとばかりニヤリ手を揉み揉みしながら、

「ハイ、お買い上げありがとうございました。瓜とみかん。お買い物ありがとうございます」


ウサは顔がマントヒヒに変わった。またまた始まった。タイムマシンの中は戦場となる。

「いい加減にしておけ」


タイムマシンは平安時代に飛んでいくはず。いやいやかなり蹴られたから狂いました。

「喧嘩ばかりしていてはいけない平安時代に備えないといけない」

サアッと台本をチャコ取り出す。次は和泉式部さんになりますから読み始める。


チャコちょんまげがひんまがり気味である。


ウサも平安時代に備えて伊勢大輔の和歌とはなにかを調べ始めた。ちょっと右ほっぺに痣があった。


ガターン!


タイムマシンは突然到着をする。チャコは、

「着いたなあっ」

ドアをちからいっぱいに蹴りあげる。


ボコッ!


そこは平安時代ではなく東宝怪獣映画撮影所だった。

「あらあん平安じゃないじゃない。平成の映画撮影所だ。しかも怪獣映画だ」

タイムマシンの拗ねたトラブルから怪獣映画撮影所に到着。

「なんで怪獣映画だろ?チャコなんか怪獣の縫いぐるみなくてもそのままゴジラだからかな」

チャコは耳がわんさか大きくなりくるりと後ろのウサを振り返った。


ガォー!


威嚇する。ゴジラみたい。


「あらあら怖いことですことキィー」

ウサはちゃんとやり返す。チャコとウサは怪獣映画撮影所で髪の毛クシャクシャにしてドンチャかしていたら、

「おーいこっちこっち」


映画撮影の大道具さんに手招きをされた。なんだろかなふたり行ってみたら、

「ホイッよ。チャコはゴジラ。ウサはキングコング」

と怪獣の縫いぐるみに入れと言われた。

「あんれまぁ怪獣ですかあ」

チャコは見てのとおり怪獣の姿。怪獣映画大好きだった。荒々しく街を壊していく怪獣シリーズは、

「DVDでかなり見たわ」

特にお気に入りは大怪獣ゴジラだった。たまに叫び声を真似していた。あだ名もゴジラ。


「よーし一丁やったる大怪獣ゴジラだぞーグァーアアーン」


ウサは怪獣映画は見たことはおろかその意味さえわからなかった。

「キングコングの縫いぐるみ?私がなんでなにをやればいいのかな」

文句いいながらウサもキングコングになる。しぶしぶ怪獣縫いぐるみに足を入れウサはキングコングのマスクを被ろうとしたら大道具さんから、

「怪獣の縫いぐるみはタフに出来ているから大丈夫だけど、その怪獣のマスクは気を付けてくれ。ちゃんと呼吸が出来るようにいろんな仕掛けがしてある特注品だ。あんまり顔がでっかいとさ被るだけで壊れちゃうんだ」

ウサ失礼なっと膨れながらヒョイとマスクを被る。ウサのキングコング誕生した。ウァー怖そう。

「し、失礼なぁー。私もう泣きたぁ〜い」

キングコングの胸ボンボコさせながらウサは涙してしまう。


チャコゴジラいたって元気だった。

「いいわねぇゴジラさん。ミニチュア建物を次々壊していいんだわ。やるぜー」

ガパっとゴジラマスクを被ると躍動感溢れる大怪獣ゴジラになっていく。


「さあゴジラとキングコング対戦します両者睨みあって。お、ゴジラいいねぇウキウキしているじゃあないか」

チャコゴジラ頑張る頑張る映画監督の誉め言葉はチャコの起爆材料となった。いきなりウサのキングコングにボコッとパンチが当たる。

「イタア痛いなあ。もう我慢ならない」

キングコングすかさずパンチやり返す。チャコゴジラたまらずコッテ〜ン。かなり激しく叩かれたようだ。ダウンしてしまった。

「アラッ、ゴジラ倒れた。まだ早いじゃあないか。やり直しやり直しだ」

チャコあまりに強いパンチを浴びて軽い脳しんとうを起こす。

「ふぅーやるじゃあない。気を付けていかないと倒されちゃう。ならっこっちだって」

よっこいしょと立ち上がり軽くファイティングポーズを取る。チャコは殴られた御返しにと足振り上げると監督から、

「ちょっと待った。蹴りはやめる。ゴジラは火炎放射を使え。サァーと口から吹くシーンいくぞ」

ということから殴り蹴りのストレス解消はなくなってしまった。チャコゴジラは、

「つまんないなあ。火を吹くってあとから合成だしなあ。スカッとしないやん」

足元にあった石(模造品)を蹴る。


コロォーン〜


石はコロコロ転がりウサキングコングの足に届く。ウサは前見ていなかったらしく石にけつまずいてしまう。

「あーんイヤン」


コテ〜ン


転び頭をぶつ。後頭部には運悪くミニチュアのビル。ビルも壊すための柔いやつだったらよかったんだが残念にも硬いビルだった。ガァーンとスタジオいっぱい響きわたる金属音がする。

「あちゃーウサ大丈夫かいな」

チャコゴジラはノシノシと心配しながら様子を見る。


数分後に救急車が到着をした。


ウサそのまま入院してしまった。全治1ヶ月である。


チャコはひとりタイムマシンに引き返す。

「悪いことしちゃったなあ」


次にはチャコひとりでタイムスリップをすることになる。


タイムスリップしたのは戦国時代に。


マシン備えつけのエアヘリコプターに乗ってバタバタとチャコは奥三河長篠城の様子を空から眺めていた。人からは鳥にみえる。


「乱世とか戦国の世は常に危険のとなり合わせとなっているのね。怖いわあ。でもハラハラして面白いわあ〜争い好きなんだ」

チャコは戦国時代のナレーターになって登場した。


1560年桶狭間の戦い。この桶狭間で織田信長は駿府のドン今川義元を打ち首に仕留めている。


戦国時代奥三河の領地は駿河の今川のものであり城主奥平貞能(23)は、

「民や百姓のことを考えると今川領地にならざるを得ぬのだ。わかってもらいたい」

エアヘリのチャコは天守閣より寒狭川を眺め溜め息をつく長篠城主を見ていた。

「いくさをしたら奥三河は今川領地にならないかもしれないけど勝ち目がない。早目に白い旗をあげたわけね」

その貞能の殿に今川義元殺害の知らせが届く。

「今川が失脚したとな」

この朗報を一番喜んだのが殿であった。すぐさま今川領地から独立を果たし徳川家康の臣下となり姉川の合戦に馳せ参じ高い評価を得ていく。

「今川領地だったら敵味方だった家康さんと同盟になったんだわ」


そのまま奥三河は徳川領地になっていたらよかったんだが。甲斐の国から武田信玄がやってきて、

「奥三河は甲斐国じゃ観念せよ」

と武田領地にしてしまう。当時奥平貞能には軍事の備えが弱く武力で攻められたら従うしか方法はなかった。


また争いを好まない殿でもあり民や百姓の平和を考えることであった。

「あらこの短い間に今川-徳川-武田とクルクル領主が代わって大変ね」


チャコは天守を覗いてみた。

「うん?なにやら可愛らしい坊やがいるわ」


殿は息子を呼ぶ。


「貞昌貞昌はおらぬか」

殿の貞能は嫡男貞昌を呼ぶ。まだ幼い嫡男は殿としての苦悩の日々を送る父上を毎日見るに忍びない。

「父上お呼びでしょうか。」

父貞能は大変温厚な殿さまで今川や武田などの根っからのいくさ好きと対等に張り合うことを嫌っていた。

「貞昌よワシは早目に家督をお前に譲り隠居をしようかと考える。今はいくつになる。答えてみよ」

18歳でございます。凛とした張りのある声で嫡男貞昌は答えた。


1573年武田信玄病死!

「信玄がなくなった」


貞能は武田から離れ徳川につく。そして家督を息子貞昌(18)に継がせた。

「父上わかりました。この長篠は私が立派に統治してまいります」


この信玄病死から甲斐国は大ピンチとなった。領地が思うように統括できないとは情けない話である。武田の新しい当主勝頼は、

「なんだとぉ奥平は徳川についただ。うぬ許せぬ断じて許せぬ」

と怒りを買う。領地の減少は武将として侮辱にすら感じた。


この寝返りは長篠城を攻められる原因となってしまう。


1575年5月長篠合戦の火ぶたが切って落とされた。武田勝頼は1万2千の軍を引き長篠城を攻める。奥三河の小大名の長篠は兵わずか500人。


さらには指揮を執るは若き奥平貞昌(20)だった。

「まったく忌々しい武田め我々は城に籠城しているだけではないか。攻めるにはとても無理だ。援軍を浜松城に待機する織田信長さま岡崎城の徳川家康さまに頼まなければなるまい」

小さな長篠城は武田軍に三方を囲まれ身動きが取れない。

「三方を囲まれ残りは寒狭川の畔ね。じゃああの急な川をバシャバシャ泳いで御城から遠州か岡崎にいかなければならないのね。大変なことね」

チャコはブゥ〜と城の中に入って若き殿貞昌を見に行く。

「弱った弱った。このままでは城は攻められ皆は殺されてしまうぞ。援軍を頼むため使者を出そう」


貞昌は家臣達を呼びよせた。

「使者になる者はいぬか。援軍を呼ばねばならぬ」


武田軍の厳しい囲いを突破して援軍を頼める使者希望を聞く。


家臣は押し黙る。とてもではないがあの多勢なる武田軍に飛び込み無事に使者として城など辿りつけるはずはない。


「親方さま無理でございます」

若き殿は顔が曇る。隠居した父上も心配する。武田の兵糧攻めは辛かった。城の食料は明日にも底をつく。

「親方さま拙者が参りましょう」

20歳の家臣が手をあげた。家臣たちはざわめいた。


他に使者を務めましょうと言ってくる。候補は3人あった。


「親方さま」36歳の鳥居強右衛門は前に出て申し上げる。

「援軍を頼むには裏手の寒狭川を泳いで新城の八名富岡まで辿り着けなければなりませぬ。泳ぎでしたら私が城で一番でございます。ガキの頃から寒狭川は泳いでいますから目をつぶっていても八名にいけます」

強右衛門の申し出を貞昌はじっと聞いていた。ただ年齢が高いことがネックである。

「新城の八名まではかなりの距離があるが泳げるのだな」

強右衛門はこっくりと頷いた。

「泳ぎには誰なりとも負けはしませぬ」


使者は決まった。強右衛門は宵闇に紛れて寒狭川に飛び込むことを決める。


城に詰める妻子に使者を告げる。

「よいなワシは援軍の使者になる。必ずや殿のため城の皆のため援軍を連れて戻って参る。約束しようぞ」

話を聞き妻は泣きたい顔を我慢して下を向く。


妻は腹ごしらえをしなくちゃと愛する夫のために握り飯を握る。とんでもない試練が待つ夫に懸命に栄養をつけたいと願う。お(ひつ)にある白い御飯はすでに底を見てた。お握り3個がせいぜいであった。妻は涙を流し握った。

「栄養をつけてくださいや。御無事で帰ってくださいやあ」

お櫃が空となり飯炊き女は全員泣いた。もはや食料はなにもないのだ。握り飯の塩加減妻の涙もたぶんにあったかもしれない。


子供は武士としての父の姿は最期ではないかと思いしっかりその姿を瞼に焼き付けていた。

「父上さま」

強右衛門は幼い息子を抱き頬をこすりつける。

「母のいいつけを守りよき侍になれ」


宵闇が迫る。裏門から寒狭川に飛び込む。武田の見張りはまさかあの急流に飛び込みはしないと疎かにしていた。

「強右衛門さん出掛けたわ。チャコもついて参りましょう。モグモグおにぎりをちょっといただいちゃって」

強右衛門は泳ぎは村で一番の達者である。

「寒狭川は急流。間違って足なぞを入れたら冷やがってしまい痙攣だ。気を付けて泳がねば」

長篠城から八名まで流れに従い辿り着く。

「無事着いたぞ」

チャコもエアヘリから見て安心をする。溺れたりしたらどうしましょう。


強右衛門は陸にあがればあがったで山道を暗闇を疾風の駆ごとく抜ける。

「月明かりぐらいあればねぇ」

チャコがウインクしたら月を遮る雲がさあっといなくなり明るい明るい。


強右衛門は軽快に走る走る。途中で馬を見つけ

「長篠じゃ、援軍頼みに急いでいますじゃ馬を貸してもらいたい。急いでますじゃ」

馬主は八名から岡崎がよいであろうと教えて馬を出してくれる。

「ありがたい」

宵闇に強右衛門は岡崎を目指し飛ばしに飛ばす。


岡崎城には夜明け前に到着する。

「殿!殿!申し上げます長篠からでごわす」

門番は驚き家康を起こし長篠への援軍を伝える。

「よしわかった。ただちに長篠に向かう。信長殿にも伝える。その方よくここまで頑張ったものじゃ誠に天晴れ。ゆっくり休め」

家康は強右衛門を労った。

「親方さまは私が帰ってくるのを待っております。直ちに戻り休んではおられませぬ」

岡崎城で軽く赤味噌で腹を満たし強右衛門は早々と馬に跨り走り始めた。


「いゃ〜ん強右衛門さん。ひとりだけで戻っては危ないやあ」


帰りは本宮山を馬で駆け抜けなるべく長篠に近い寒狭川から飛び込むつもりだった。これが命取り。

「何奴だ怪しいぞ」

強右衛門は帰りに武田に見つかってしまう。城まで数キロの場所であった。


捕まり武田勝頼の前に手足を縛られ召し出される。


勝頼は聞く。

「そちなにをしている」

強右衛門は胸を張り敵武将勝頼に張りのある声で

答えた。

「援軍がやってくる。勝頼殿はもはや逃げられまい」

声は奥三河の山々に響いた。

「徳川がくるだと」

勝頼は飛び上がらんばかりに驚く。弱った、援軍が来たらどうするか。勝頼は長篠を今にも籠絡させたいと思いを巡らす。

「そち命を助けてやろうよいか」

強右衛門は思わず顔をあげた。


助けるだと!


「よいか城門まで歩いて行き大声でこう言え!援軍は来ない。援軍は失敗だ絡城をしろ!よいな、わかったな」

強右衛門は手足を縛られながらジイッと聞く。キイッと口は真一文字に結ばれていた。


夕方が迫ると武田勝頼は強右衛門の縄をほどき城門に立たせてやる。城には一塵の風が淋しく吹くだけ。


長篠城門番は強右衛門の帰城を発見する。

「おっ帰ってきたぞ」

城内はざわめき貞昌の耳に入る。強右衛門の妻は門のよく見える部屋に走り、

「あんた御無事で」

涙を交えながら自分の旦那の姿を確認をする。


だが


「様子がおかしいぞ。なんで武田に見つかりやすい城門から戻ってくるんだ。裏門から来ないのだ」

なんかあるなんかある。


貞昌の殿は窓に身をよせ強右衛門を見つめた。


強右衛門は城門に仁王立ちをする。


静かなあまりに静かな夕刻だった。


「皆の衆!拙者は帰って参りましたぞ皆の衆」

よく通る張りのある声だった。強右衛門の一言一言は長篠城の皆によく伝わった。


「皆の衆。今しばらく…今しばらくお待ちくだされ!徳川の援軍は間もなく参りますぞ。気をしっかり持って今しばらくお待ちくだされ。今はただ辛抱ですぞ」


これを聞き武田勝頼、手元の木刀を怒りとともに振り上げた。

「おのれ」

武田軍は四方から八方から強右衛門を狙い弓矢を射った。矢を放たれた強右衛門は一言も発することもなかった。


長篠城は悲鳴が沸き起こる。

「おのれ武田め」

奥平貞昌は胸が苦しくなり両手を震わせる。

「強右衛門殿申し訳ない。ちからの及ばぬ親方が情けない済まぬ。許しておくれ。おのれ武田めっ」

20歳の城主は敵陣武田を心底憎いと思った。


強右衛門の妻は気を失った。


明け方援軍は2万5千の軍勢として長篠に進軍する。軍勢の指揮官は顔を真っ赤にして、

「奥平殿待たせたな」

家康は砦として長篠城を守り通した若き殿を労う。さらに頼もしくも感じるものだった。


長篠合戦は21日の未明に火ぶたが切られた。戦いは織田と徳川連合軍勢が終始優位に進める。合戦は織田信長が武田を山ばかりの設楽ガ原に誘き得意の武田騎馬戦術が使えぬように封じた。まったく馬が走れない。また日本史上初の鉄砲隊も使ったと伝わる。


合戦は9時間で武田の大敗が決した。武田は有能な家臣を戦死させてしまう。


対して織田徳川連合は、部下に戦死者があったが家臣は大丈夫であり文句のない勝ちいくさであった。


「いやあーん参ったなあ。私怖くなって逃げちゃった。山を越えて鳳来寺山に避難したの。お腹がすいたから五平餅食べていたの。クルミ五平餅も食べちゃった」


武田軍勢がやってくると警戒したのは長篠城だけでなく八名あたりの民や百姓も同じ。我が領地を守りたい一心から槍を持ち奥平の家臣の指示に従い山に登り丘を駆け上がった。

「殿は若いんだ。我々がしっかり守ってやらなければなるまいて」

設楽の民たちは今川領地から武田領地になり約16年の歳月を思い出していく。

「武田の臣下だったんだ奥平の殿さまは」

今はその武田に反旗を翻し敵味方としていくさをしている。かなり複雑な心境であった。


時は流れ設楽ガ原がやけに静かになって行く時に、

「皆の衆!いくさが終わったと貝が鳴りもうしたぞ。武田は退却された。もう安心ですぞ」

民や百姓は山から畑の陰からゾロゾロ出て自宅に戻っていく。

「やれやれ、いくさが早く終わってよかった」


長篠城では若き奥平貞昌が織田徳川両君より、

「奥平殿よくぞ持ち堪えましたな」

労われていた。織田信長は武田の多勢に500余りで貞昌が対抗したことが気に入ったようで、

「奥平公になにか褒美をつかわせたい」

貞昌は望外の喜びだったらしくさんざお礼を言っていた。


織田信長からもらった褒美とはなにか。


「アガアがぁ〜」

チャコはびっくり仰天。

「皆さんこんにちは。私ウサよ。なんとなんと亀姫さまになっていますのよウフフ」

ウサは亀姫15歳。父親は家康、母親築山御前。なんと戦国時代のサラブレット。兄は信康。義理の姉は徳姫(信長の娘)


奥平貞昌は信長の進言により家康の娘亀姫を貰うことにした。名前も信長より一字もらい信昌とした。祝言は21歳と16歳であげたことになる。


1576年に長篠城は廃城して新城に新たに築城。


新城(しんしろ)」の城主奥平信昌となる。

「信昌さまは21歳のお殿さま。亀姫さまは16歳のお姫さまかあ。うん?あのお姫さまはね」


ウサ亀姫は空飛ぶエアヘリチャコを見て顔に手をやり、


アッカンベー!


「ウサ憎くたらしいなあ」


奥平信昌と亀姫は四男一女を授かる。

「ハイハイ、ウサは頑張って産みましてよ」

四男忠明が後に三重の桑名城主に抜擢。その家臣として鳥居強右衛門の子供がついていったらしい。


※桑名城主は江戸中期まで勤め。後は幕府の命令により忍城(行田市)


奥三河は長篠合戦以来江戸時代いくさも揉め事もなき平和な土地として明治を迎えた。


殿さまの奥平信昌と亀姫は1600年関が原の戦い以後三濃国加納藩(岐阜市)に移る。家康は身内を要所に配置しておきたかったから娘婿を抜擢した。

「奥三河から三濃国。ちょっと転勤は大変だったわね。後は子供が早く死んでしまって」

奥平(松平)の家系は断絶をしてしまった。


「そんな結末になっていたんか。ちょっと可哀想でしたね。さてウサちゃん。次に行きますわよ。早目にタイムマシンにまでお戻りくださいな」

エアヘリのチャコは空高く飛んでいくのであった。

「三濃の国岐阜まで来たんだから」


チャコは岐阜のお千代稲荷に向かいなまずの蒲焼きが食べたくなってしまった。

「行くべぇ〜かな」お千代稲荷のなまずはチャコ大好物だった。

「鯰さん大好きですから。お千代稲荷さんを参拝してからなまず屋に行こう」

チャコは拝殿前にゾロゾロ歩きパンパンと両手を合わす。恭しく頭を下げて、

「チャコの願いを叶えたまえ。素敵な彼氏が欲しい。(ウサより早く)見つけたいなあ。(ウサよりいい男を)見つけたいなあ。最後に(ウサは男に恵り合わないように)祈ってます」

チャコ拝殿を終えて塞銭函にチャリーン。


さて用事はすんだから、なまず屋に行こう。

「鯰があるわ。よしこの店に入ろう」

チャコ足で扉を蹴りあげた。

「おぅおやじぃ。鯰の蒲焼きくれ」

チャコお腹をポンポン叩きながら料理屋に入っていく。

「どんどん焼いてくれ」

チャコどっしり鯰屋に居座りムシャムシャ食べ始める。ウサは遅れてお千代稲荷にやってくる。

「お待たせお千代さんちょっと迷ってしまったわ。さらにチャコがどこにいっちゃったかと心配も。チャコあんなところでいゃーん恥ずかしいなあ」

ウサは目の前で箸を使わず両手で鯰の姿焼きをぱくつくチャコを見た。

「恥ずかしいみっともないチャコ。知り合いだと思われたくないなあ。出来たらゴミ袋を被せてそのまま海にポイッしたい」

ウサも店に入っていく。ムシャムシャとカバのように食べるチャコの後ろに回り頭をガツッンと拳する。

「ウガァなにすんの」

痛い頭を押さえクルッと振り向きチャコはウサを確認する。

「あんっウサ来たの?あなた食べなさいよ。おやっさーんこのオバチャンに蒲焼きあげて。見た目オバチャンに蒲焼きあげてー。うんとねウサは大食いだから3人前生でいいわ」

ウサは呆気に取られてモノも言えない。さらにオバチャン扱いされて怒りメラメラ。

「なんで私が」

ムスッとしてチャコの前に座り直しウサも食べ始める。ふたりは似たようにしておちょぼ稲荷で鱈腹食べそして太った。


ヨイショとお腹抱えてタイムマシンに乗り込む。

「ふぅー食べたあお腹いっぱいだわん」

チャコはパンツのゴムを緩めお腹なでなでする。

「チャコがいけないんじゃあない。私まで食べたくなかったのに食べてしまったわ」

ウサもパンツ緩めたかったが我慢した。


ふうーふうー


「さて次はどこに行かせてもらえるのかしら」

チャコお腹ポンポン叩きタイムマシンに聞いてみた。チャコの右手にある小さな画面には、


「ご希望ありますか?」

リクエスト受付中に変わった。

「リクエスト?本当に嬉しいわ男のいるとこにさぁ」

なにやらゴソゴソとパンフをチャコは探す。


横でウサは時代の古いのはちょっと遠慮したいなあと思いチャコの前に強引に手を出しヨッコラショと決断早く、

「じゃあ現代に行きたいわ。プチン」

タイムマシンの進行ボタンを押してしまう。あらあら目の前でウサに勝手をされたチャコは、

「なにすんの勝手にやらないでよ私が行き先を決めていくのよ」

パンツのゴム緩めながら文句ブウブウ。

「現代に行くのね。嫌ではないから行こうじゃん」

珍しく意見が合いました。

「お腹が張って喧嘩したくない気分だしね」


なるほど。


タイムマシンは始動開始してクルクル回り始める。ウサのリクエストの現代に向かう。


ガターン!


「着いたわあ」


チャコ勢いよく扉を蹴りあげる。

「ねぇねぇその見た目オバサンって」

タイムマシンに乗りながらチャコの顔を見尋ねる。チャコもウサを見つめる。視線が火花を散らす。

「喧嘩していく?」

チャコはニッコリ笑いなんなら希望通りにやりましょうか。指ボキボキさせた。


「お腹すかない」


うん?お腹。チャコはプックンと膨れているからいつまでも満腹かなと思ったが、

「おなか減ったわねぇ」

ふたりは仲良く現代の渥美の料理屋を探していく。

「私達は変身しないのかしら。ねえなんかになりたいなあ」

言い出したのがウサ。

「変わりましょ。思いついたわ私チャコが井上和香。ウサがマントヒヒ」

すかさずウサは蹴りを一発チャコのポッコンと膨れあがったお腹にズボン。

「アッ嫌ーん。お腹の中の子供がァ〜」

チャコ妊婦のつもり。

「なんでチャコ。男なんかいないの。子供が出来るわけない。チャコに出来るのはオデキと借金だけよ」

ウサ言い切る。ポコッと出たお腹を蹴られちょっと苦しいチャコ。


タイムマシンから取り出した台本を広げる。

「本当にマントヒヒになるやつないかな」

かなり本気に考えていた。

「井上和香って言ってたでしょ。私が和香になりますわ。あんまり気が進まないけど。チャコさまは光浦靖子さん。なんでかと言いますと渥美半島にいるから」

田原市の街中に光浦靖子の自宅があった。表札には光浦と書いてあり光っていた。

「アガァ〜」


「アンアン、ガアー」

チャコは気がついたらメガネかけ四角な顔になってきた。少し意地の悪い顔になって。

「四角顔にメガネかあ。インドネシア科だから英語は喋れないけど東京外語大卒業じゃあ」


チャコはあの女になっているだろうなあと不安がよぎる。鏡を見てみないと誰に変わっているのか、

「わかんないわっ井上和香ちゃんかもしれない」


チャコそっと胸を触って見る。和香は90・60・90だけど。(マリリンモンローと同じサイズ。ただし本当かどうかは定かではない)


「測ったけど不足してる。かなり足りない。違う和香でないわ」


島田紳介の"秘密の秘書募集中"という深夜番組があった。ここに売れないグラビアタレントのほしのあきが登場する。ほしのは18歳からモデルを始めていたが鳴かず飛ばず。まったく売れないモデルだったらしい。B級モデルの売れないタレントの世界をさ迷い続ける。そのほしのが深夜番組に出演をする。まったく売れないモデルとして出たのだ。


司会者の紳介は、

「ゲストはモデルのほしのあき。知ってるかな?まったくもって売れないモデルさんです。かたや皆さんお馴染みのハイッなごみのタレントさん光浦靖子さんです」

この場合光浦は知名度があるからお笑いの光浦だとわかった。


有名な光浦と無名なタレントモデルのほしのは視聴者対象のアンケートをテレビ番組の中で受ける。


紳介の秘書にふさわしいのはどっち。司会者紳介はマイク片手にあれこれと秘書の希望を言う。


可愛くて気が利いて、働き者、セクシー。


「さて皆さんお答えをどうぞ」


視聴者アンケートの結果は光浦0-20ほしのあき


「あらんもういやもう」

チャコはなにやら胸騒ぎを覚える。

「あーんいやだあ、いやだあ。間違いなくチャコは光浦になっているわあ。やりたくない。あーんいやいや。光浦いやだあ。光浦になるならマントヒヒがまし」

光浦が嫌だったらしくチャコ泣いてしまった。

「あららっどうして?怪獣ゴジラは喜んでいたのに」

それを見かねたウサは、

「ねぇチャコ聞いて。光浦って渥美半島の姫と呼ばれているらしいわ。だから悲観しなくてもいいわよ。お姫さんですよ!明るく陽気な姫だとイメージよ」

ウサ、チャコ光浦の顔を見ながら笑いを噛み殺す。なんとかチャコを慰めていく。もっとも慰めているにしては説得力が不足だ。

「さてさて。「チャコにソックリな光浦なら私グラビアアイドル売れっ子タレントのほしのあきちゃんかあ。よっこらしょ。あきになれ」


ドロン!


ウサは、ほしのあきに変身した。

「うわぁーみっ見てすごぉーすごいなあ。こっ、このバスト。たっぷりプリンプリンだわあ。おおっ、いゃーん!あっ、ある!もう、タップんタップんしているわあ。ねぇねぇ、重いわよオッパイ。オッパイって重いんだ、始めて知ったわ、ちょっとプルンプルンしてみたいな」

ウサ、ビキニ姿でバストを揺すってみた。


おーお゛!!


「たわわな房の揺れる感覚だあ。ジェットコースターに乗り込んだあのスリルがあるわ」

ウサ喜びの雄叫び。


嬉しい〜巨乳だーい!巨乳だあー!


それを横目で羨ましいとチャコ光浦が見る。あらまっいじけちゃった。

「いいなあ、いいなあ」

チャコは喜びまわるウサをちょっと見て下を向いて、涙、涙がポツンポツン。ウワァーン。顔をクシャクシャにして泣いてしまった。

「そんな」

ウサは同情してチャコちゃん泣かないでと優しくその震える肩をポンッと擦る。


泣きじゃくるチャコは涙が悔しい涙がさらに溢れてくる。


うん?ワアワア言っているが、ちょっとちょっと涙なんかないぞ!ただワアワア騒いでいるだけだ。


チャコ、クルッとウサを見て、

「アッカン〜ベー」


ウサ、目が点になる。


「やあーい、やあーい、引っ掛かった」


このチャコの嘘泣きにウサは、


ムッ!


憎たらしいぜぇーと手を上げて今にもチャコの頭をペタンペタンしようかとした。


「ハイハイ、光浦さ〜ん、ほしのさ〜ん!お待たせしました、出番です」

番組のADが呼びにやってきた。喧嘩は中止!


ADは入念にバラエティ番組の内容を説明していく。知らない間にバラエティ番組に来てしまった。


「えっとですね。光浦さんは役の上でほしのさんの美貌に嫉妬していることでお願いします。つまりなにかと可愛らしく振る舞うほしのさんに文句を言う役ですね。台本ではこのページです。憎たらしいそぶりお願いします」

チャコは台本を見てちょっと笑う。

「へぇー!いいやん、やりたいやん。光浦最高ザンス」

やるからなあ。

「ほしのさんは、光浦さんのイジメに堪えきれず、泣いてしまうという役です。可愛らしくお願いします。皆さん期待してます」

ウサとしては可愛くてけなげな娘ならお得意なのよと優しく微笑む。


バラエティ番組は始まった。チャコ光浦はオープニングから言いたい放題、やりたい放題の絶好調。頭の回転がやたら早いから皮肉やユーモアがバンバン出て観客に受ける。


遅れて登場は、ウサのほしのあき。


台本にはイジメられて泣くとだけあるのみ。後は全てアドリブの手順だった。

「となると、チャコにイジメられて、可愛らしく乙女チックにやればいいのね。ウフフ私にピッタシの役だわ。けなげで純情な役」


本番スタート!


光浦は毒舌の女をガンガン演じゲストのB級かわいこちゃんタレントを次々にイジメていく。いや泣かせていく。叩いたりもした。蹴りもある。


司会者は台本にあるセリフを言うだけ。

「光浦さん今日は怖いー、大丈夫ですか?まるでサッチーか泉ピン子が乗り移っているみたいですね。ここでタレントを替えまして光浦さんの天敵と呼ばれる方をお呼びしましょう。さあ皆さん拍手です。ほしのあきさんです」

観客はワアーワアーと騒がしくなる。ほしのは無名モデルであったが可愛いから騒がれた。


それを見て聞いてチャコ光浦。

「面白ないやん。イジメなんて手ぬるいや」


チャコ光浦つかつかとウサほしのに近寄り平手でバチーン。ビンタ食らわす。

「ホッいい気味だわ。すぅっ〜としたわ」

ひっぱたかれたウサほしの。目に涙がたまる。

「あん痛ァ〜い」

右の頬を可愛らしく押さえる。


観客からは、

「光浦のブ〜スやりすぎだ。あきちゃんに謝れ」

ヤンヤヤンヤの罵声が飛び交う。


が次の瞬間スタジオ内が凍りつくような修羅場が待っていた。


アッ


ウサほしのあき、おとなしくシクシク乙女チックに泣き崩れたらよかった。


でも駄目だった。アチャア鬼のような光浦を殴り返してしまった。


ゲンコツでグゥで右カウンターで。


見ていた観客はなにが目の前で起こっているのかさっぱり理解できない。


まさかアイドルがグラビアタレントがあの光浦にパンチを浴びせたとは。


「アンガァ〜ウサ!あなたは清純派なのよ。なんでかわいこタレントがグゥでぶん殴るのよ」


ここで慌てADが飛んでくる。

「ち、ちょっと」

テレビカメラの収録は一旦ストップ。


慌てた番組デレクターは台本の内容を検討してみようかと言い出す。そして30分の休憩が持たれた。時間稼いで台本の書きなおしをする。

「どんなバラエティ番組になるのかしら」

控え室にいたチャコとウサにADが来て、

「台本は新しいやつになります。出しものはボクシングになりました。お二人ともビキニになられてグローブつけてですね」


30分後、勇ましくロッキーのテーマが流されビキニ姿のほしのあきは登場した。満面笑顔だった。ブラジャーはゆさゆさと揺れていた。


光浦は?


「アンポンタン!光浦がビキニになれるはずないじゃ。光浦がビキニになったら世界戦争が始まるワイ」


チャコはプクッと膨れた。さらにクリッとお尻を向け、


「おケツペンペン」


やれやれ。


タイムマシンに戻ってきたチャコとうさ。お互いに有名人になれて喜んでいたと思っていたが。

「あーん私ヤダア。光浦なんて。このさぁ変身マニアルに書いてあるやり方でどこをどうしたら光浦になるのかちゃんと説明してくんなきゃ。もうチャコは嫌だったら嫌なのねぇ。フーンだ、もうやんないからね」

とブウブウ不平をチャコはぶちまけた。


一方のうさ。ちょっと様子がおかしい。

「あらっ?ヤダ、うさ。話聞いているの。うさ?うーさ。おーい、うささんよ、おーい」

うさはチャコが話かけてみても上の空だった。遠くを眺めて放心状態の感じだった。


チャコはうさの目の前でチャラチャラと手を振ってみせた。なんの反応もみせない。

「アチャア?ドギャンしたとね」

うさの表情はなんとなく残念さがにじみ出ていた。

「残念よ残念さん。だってだってグラビアアイドルほしのあきはあんなオッパイちゃん。タップんタップんとあるの。私のこのお胸に巨乳あったんだから。あーあ私にもあんな豊かなオッパイ欲しいなあ。バスト90なんて夢の夢だわ。もう一回グラビアアイドルなりたいハア」

うさは溜め息を深くつく。

「あのタップんタップんのオッパイ感覚。忘れられないなあ。ブラジャーがゆさゆさ揺れるんだもんなあ。メマイがしてしまうくらい揺れ揺れよ。ボインとはよくぞ言って見たものよ」

しみじみとうさは今の自分の胸を眺めてみる。

「ないものはない」


なるほどとマシンの横でチャコは納得をする。

「なんだうさはオッパイが欲しいだけなの。無理ないわ。そのお胸だとさぁイヒヒッ」

チャコ囁いたつもりだったが、

「うん。なんですか?なにか私の体にご不満でもおありかしら。いいですわ話を聞きたいわ」

ウサ指をポキッポキッ鳴らす。おお恐いなあ。


うさ軽くチャコのホッペに指ピン!


ピシャー痛い音が響いて戦闘開始。

「あガぁ〜痛いなあ」

チャコホッペを押さえて泣きそうになる。

「か弱い乙女とはチャコさまざます。うわぁーん」

チャコは光浦に変身してから人格が変わってしまった。


二人はマシンの中で運動をしているうちに次の時代に到着をする。


タイムマシン本体としては、

「おとなしく乗っていたら黙って平安時代に行けるところだぞ。狭いコックピットで計器を叩いたり蹴ったりしてもう。そこらの機械を壊されて時代が狂ってしまった」

と機械のマシンがぼやく。


蹴ったり叩いたりの二人も時代が変わっていることにちょっと気がつく。

「ウサみて。あなたが蹴ったり叩いたりしたからタイムマシンが拗ねたよ。ここはどこ。平安時代ではないなあ。すべてはあなただけいけないんだから」

チャコはうさのペチャパイ胸ぐらを掴みながら言う。

「私が蹴ったり叩いたり?なんで私だけ悪いのかな。はてはて」

チャコがマシンの窓から外をみたら東京の街がチラチラ見える。

「現代だわ。マシンがすねちゃったからちっとも時代が変わらないみたい。平安時代は遠くなりますわあ」


タイムマシンはプスプスとやる気のない音を出して止まる。

「うん?現代だよ。現代になりましただね。タイムマシンが過去に行けなくなってしまったみたい。誰かな、マシンを蹴ったり叩いたりしたんはイヒヒッ」

とまあ二人が二人でああでもないこうでもないと言いながらタイムマシンから降りた。

「ここは現代だから私たちは何になるのかなあ」

チャコちょっとお腹を揺すりながらタラップを降りた。かなりの肥満体質になる。続いてペチャパイのうさが続く。タラップの降下の最中に二人は変身をする。


「ああチャコちょっと見て見て。お下げ髪だわ、あらあら三編みよ。セーラー服になったわ。お腹プクンしているけど女子高校ね」

チャコはアッという間に女子高生チャコになる。


アッ失礼、女子中学ですねさらに若い。ちょっと貫禄があったから間違ってしまったが中学だ。肥満でもあるし。


あまり賢くは見えない女子中学であった。

「エッ私は中学なの?いいやんいいやん。私喜んでいまーす。若いなあ」

一方うさもあれあれと言う間に女子中学に変身した。うさはブレザー女子中学だった。こちらは賢く見える。有名女子進学校中高6年教育の3年目だった。

「アジャア。二人とも女子中学に変身だなんて。ラッキーさんだわ。嬉しいなあ」

二人はタラップを喜んで降りお互いの変身を眺めてあれこれ喜んでいる。

「女子中学だなんて幸せだなあ。ああチャコさまは永遠に中学でありたいなあ」

と三編みのお下げをクネクネと触る。まあひねているが可愛い仕草であるチャコ。

「私も。ブレザー姿の女子中学だなんて賢く見えるなあ」

お互い満足満足なところであった。


やがて回りから霧が発生して二人はそれぞれの現代のとある家庭に潜りこむことになる。


ペチャパイのうさ。ハイソなブレザー女子中学は有名女子学園のお嬢さんだった。

「アチャア勉強しなくてはいけない学園だわ。何なの中高6年教育の女子学園で卒業したら東大にかなり入っているの?わあそんな勉強しないといけないの?息詰まりしてしまうなあ」

と早速ボヤキが始まる。ボヤキながらもうさ学年末試験に突入する。この試験であまりに悪い点ならば高校に進学が危ういらしい。

「あーんチャコと代わりたいなあ」

文句言いながら机に向かう。それと家庭が裕福なためか家庭教師(東大と一ツ橋)がつきマンツーマンで女子中学うさに教えていた。

「あれあんまり勉強が難かしくないなあ。中学レベルだからかな」

大した勉強もしないが結果は学年でトップクラスであった。うさ高校内部進学を簡単に決定させた。


チャコはどうか。チャコの潜伏先は森永製菓会社社長令嬢だった。

「そうなのよ。私びっくりしたわ。おうちには森永のお菓子がテンコモリだわあ。グリム童話のヘンデルとグレーテルのお菓子の世界ね」

チャコ片っ端からお菓子をモグモグ、ではなく。

「3時のオヤツにちょっとパクパクかなあ。たしなみ程度ね。そっちょっとつまんでパクパクかな」

が実際はチャコ我慢ができない、ブレーキが効かない?ひたすら食べまくり。

「フゥー森永製菓全製品パクパクしたいなあ」

またまた太るチャコであった。


女子中学チャコは聖心女子学園中等部の令嬢さん。

「そっチャコは中等ね。聖心は小-中-高-大とエスカレーターだから楽ちん楽ちんさん。勉強しなくてもあがっていけるからいいわね」

チャコ森永製菓チョコレートパクパクしながら口にいっぱい頬張り答えた。しかし、

「あれ?エスカレーターがエスカレーターでないかもしれない」

なんとチャコちゃん学業悪いために通達が舞い込む。

「今度の期末テストで合格点取らないと落第扱いになりそう。で聖心を追い出しされてしまうわ。あら大変だあ勉強しなくちゃあいけないなんて」

チャコはお菓子の山に埋もれながらねじり鉢巻きした。ついでに三編みお下げもギュと頭の上で縛った。ただね左手にはチョコレートがしっかり握られていたなあ。

「デヘへ。こればかりはやめられませんなあパクパク」

聖心高等部の内部進学はチャコちゃんわずか足りない。ならばパパの財力で袖の下を付け届けしたら済むのになあ。

「ねぇパパやってくれないかなあ。そうしたら可愛い娘のチャコは悠々高等部に滑り込めるのに。セーフ」

チャコはチョコレートパリパリ食べながらパパを頼ったら、かえって家庭教師をつけることになる。

「あーん勉強いやダァ!勉強と年増嫌いダア」

チャコ勉強部屋に閉じ込められて中学レベルの学習に頭を使う。


その甲斐があって高等部には最低のレベルでなんとか内部進学決定。

「フゥー危ないなあ」

チャコ嬉しかったのかまたまたお菓子出してきてポリポリ食べ始めた。


女子高生うさ。中高6年教育学園は勉強がハードになっていた。学業としては学年トップクラスだったがそれでも勉強をしていなければストンと順位は簡単に落ちた。

「すごい学園だわ。ちょっと気を抜くとたちまち最下位転落だから」

というわけで女子高生うさは勉強の虫になる。自宅に帰ると東大と一ツ橋の家庭教師が丁寧に教えてくれた。

「東大の先生はちょっと堅物かな。専門が地球物理ダシね。(背も小さいからね)でも一ツ橋の先生はかっこいいなあ。ハンサムだし優しいの。スポーツはテニスだって。関東学生テニス選手権には一回出場だって。あーみたかったなあ。私好きになったかしら」

女子高生うさ恋をしたようだ。

「エヘへ、恋する乙女さんでございますわ」

好きになるとこの人だけと一筋。


女子高うさは一ツ橋の家庭教師になんとか気に入りたいとよく学んだようだ。そのために学園の勉強はかなりハイマークを記録をする。一ツ橋家庭教師はうさを誉めた。

「うさちゃん頑張ってくれたね。家庭教師していてさあ張り合いが持てるや。偉いなあ」

一ツ橋から直々にお誉めの言葉をもらう。そうなると調子に乗る女子高生うさ。

「先生今度のテストで一番を取ったらデートしてくれますか」

おお、うさとても女子高生とは思えないような大胆な発言をアダルトな大学生に言う。


デートを言われた家庭教師は一瞬ドッキとするが、

「デートですか。いいですよ行きたいね。可愛いうさちゃんとならどこにでも行きたいな。約束しようか。学年トップでもうーんトップ10でもいいことにしようか、アッハハ」

一ツ橋は爽やかに笑った。ハンサムな顔だちはますます女子高生うさの心をゆさゆさ。俄然張り切る女子高生うさであった。その日から英単語毎日100暗記を決めて実践してしまう。

「単語だけでなくてよ。新しいパンティもランジェリーもあれこれ先生のために買い増ししました。ウフフ必要だから」

なんとなくませてますなあ。見た目は女子高生だけど実際は30だからなあ。

「うん!なんか言った」


森永製菓令嬢チャコ。

チョコレートとビスケットをポリポリ食べながら勉強をする。その努力が実り高等部になんとか滑り込める。その滑り込みが決まってしまった日。その日から、

「遊ブドォ〜」

女子高生チャコは手辺りしだいに携帯メールを送信しまくり遊び仲間を募る。


金持ちの令嬢チャコにはかなりの取り巻きがウジャアウジャついていた。

「よし返信があっただけ連れて渋谷行こう。うんウサバラシだわ銀座と六本木ね。外人バーのハシゴしたいなあ」

令嬢チャコの豪遊であった。なお銀座六本木への移動はすべて森永製菓のおかかえ運転手つき黒塗りのリムジーンを使う。チャコ取り巻きはこのリムジーンに乗ることも楽しみのひとつであった。



銀座や六本木の黒服にはなんでリムジーンから小さい子供たちがわんさか出てくるのかよくわからないところだった。

「あらっ、私が森永の令嬢だってわからないのかな」

チャコは手にした森永キャラメルを黒服にひとつひとつ配って森永を宣伝した。遊んでいるけど森永の宣伝はちゃんと行う。

「エヘへお父さまには誉めてもらえますかしら」

とニッコリ笑いながらチャコは取り巻きと銀座の街にさらには六本木にと消えていった。


遊びのセンスはチャコは抜群であった。話題は豊富であるし、ダンスやちょっとした歌はうまくこなした。ガキンチョ時代にはアメリカに祖父(森永キャラメル発明した)と一緒に住んでいたこともありアメリカナイズされていた。

「それを考えたら日本の高校は退屈かな。いっそのことアメリカナイズのままアメリカに行きたいな」

女子高生チャコは取り巻き仲間とハンバーガーをパクツキながら考えた。

「お父さまに頼んで留学させてもらうかな」

チャコせっかく滑り込んだ高等部だと言うのに。チャコの女子高生は遊んでばかりとなった。学校の勉強は適当にこなしていけば大学生にはなれる保証もあった。

「そうよっ、高等部は出席さえしていたら大丈夫ですわ。だって私の場合は寄付を金山のように納めておりますから。となりますと勉強しない森永の令嬢さまはなにをいたしますかしら。エヘへなにやろうかな」

チャコは携帯をお腹からズルズルと取り出した。ピンクのストラップはかわいいかわいい最新型携帯だった。

「あっもしもし。私はチャコ。わかるかなあ、おひさでござんす」

さらに男の子にデートを片っ端から持ち掛けた。こうしてチャコお嬢さまは遊んで遊んで女子高生を満喫していく。


六本木界隈に森永の令嬢がいつも現れるは瞬くうちに噂となる。


噂は森永だけかな、グリコや東鳩はいないかとも噂された。ハーケンダッツやモロゾフアイスは。

「あらっ森永令嬢が一番よ。健康的なオイロケタップリですし。黒服さんたちにはいつも森永を配って餌を与えてますから一番ダァ」

チャコは丸々太りながら答えた。


チャコがブロイラーのように丸々太る頃。ライバルうさはどうなったか。


女子高生うさは進学のために勉強をいそしむ。いやまだ高等部1年だから進学まで行かないか。

「エヘへ私は進学のために勉強よ。ではなくて」

家庭教師にすっかり惚れた女子高生うさは、

「頑張って学年トップやるぞ。そしたら家庭教師の大学生のお兄さんがデートしてくれますからね。あらあ幸せなこと」

女子高生うさはそれこそ捻りハチマキで机に向かい学年試験を向かえる。


結果はどうだったかな。


「なかなかの出来で手応えもありだけどね。成績はいかがだったかな」


発表致します。うさは学年トップ!でございます。拍手拍手。

「やったあ。学年トップとはすげーなあ」

早速一ツ橋の家庭教師にメールを送ってみた。

「あんらァ〜さすがは先生、お返事が早いワア。一番おめでとうさん、だって。嬉しいわあ」

家庭教師はすぐにデートの日を決め女子高生うさに知らせてきた。


デート当日。女子高生うさはオメカシを一生懸命にして憧れの家庭教師大学生に気に入られようとする。

「女子高生だもの清楚で可愛らしく着飾りたいわ」

朝早く起きてシャワーを浴びる。乾いたタオルで女子高生の裸身を包みこむと、

「先生に好きよと言われたいなあ」

着る服の選定になる。クロゼットを開けお気に入り洋服をあれこれと考えて白いブラウスを選ぶ。


白を基調にしてコーディネートされたらチェックのスカートを選ぶことにした。

「これなら清楚なお嬢さまに見えるわ。スカートは短かめにしましょう。アダルトな世界に入っていく感じかな。ちょっと冒険したいなあ」

バスタオルをはずし選定した服を裸にじかに当ててみた。

「うーんまあこんなところかな」

うさは裸のまま下着のコーディネートに頭を使う。

「うんだってサァ」

もしかして先生が、うさのことを愛したいと言われたら。


うさは絹のブラとショーツを選びつけた。かなりセクシー系ランジェリーだった。

「先生、好きよ」


オメカシした女子高生うさはデートの約束時間をウキウキしながら待つ。

「やあお待たせ。アッうさちゃん可愛らしくなってきたね」

家庭教師は第一声にうさを褒めてくれた。この一言、褒め言葉がその日のデートをなお一層楽しくさせた。女子高生うさをいやがおうにも燃え上がらせていく。


うさは大好きな家庭教師の大学生と仲良く渋谷の街をデートして嬉しかった。

「ワア嬉しい。だってだってこんなに素敵な男性と歩いているんだよ。自慢したいなあ。渋谷の女の子みんな見て見て!これが私の素敵な彼氏、先生なのよ」

女子高生うさは鼻高々となりちょっと先生に顔を寄りかけた。うさのうっとりした様子は大学生にも自然に伝わる。


うさは肩に手を回されギュッと抱きしめられていく。

「うさちゃんちょっと喫茶店でも入って休もうか。僕さ歩き疲れちゃった」


二人はキョロキョロと喫茶店やファミリーレストランを探してドンと入っていく。

「そうね疲れちゃったわ。先生あの目の前のファミリーレストランがいいわ」

うさは大学生にしっかり肩に手を回され幸せいっぱいだった。


ファミリーレストランでは広々としたソファーに二人は仲良く隣同士座りオコチャマ向けのアイスクリームパフェをオーダーする。うさがイチゴ、大学生はチョコレート。

「エヘヘあのね先生。私ね先生とイチゴアイスクリームパフェを食べるのが夢だったの。嬉しいなあ夢が叶って。わあーい幸せ」

女子高生うさ、ケラケラと笑う。


かなりうさはファミリーレストランで浮かれていた。体全体で喜びを発散という感じだった。うさは自分がその日ちょっと短いスカートを穿いていたことをすっかり忘れたかのようにハシャいでしまう。


女子高生うさはハシャギにはしゃいでしまいついにはドンと足を開きパンチラ。アラッしまりのないこと。


このパンチラはまたまた大学生が見逃すことはなかった。観察力は鋭い一ツ橋。

「ウワッ!白」

ここから大学生の様子がおかしくなる。女子高生に妙に抱きついて体を触り始めた。それまでは肩に回す程度ではあった。それが故意に胸に触れたりスカートからオシリからとタッチし始めた。


大学生が触り始めたことはうさにもわかる。ただうさは嫌ではなかった。

「だって大好きな先生なんだもん」

大学生はたまらなくなりうさの耳でこう囁いた。

「うさちゃん。僕のこと好きかい」

やさしく囁かれたからうさは、

「うん、大好き」

と答え二人はファミリーレストランのソファーでキスをする。うさはしっかり目を閉じ口唇を重ねた。


大学生はうさの肩に手を回す。スカートに手を入れ太股をなでまわしパンティを触る。太股やパンティを触られてもうさは嫌がらなかった。

「うさ。ホテルに行こうか。もうさ僕は我慢できないんだ」

甘い囁きだった。うさはトロンとしたうつろな目をしてコックリと頷いた。


こちらは六本木界隈で遊びまくる森永製菓のご令嬢チャコさまのご様子。


今日も元気にリムジンを乗りつけて六本木や銀座の黒服相手に森永のチョコレートとキャラメルを配る。

「あんらっ。皆さんすっかり森永のファンになられたみたいね。エッヘへ私の喜びはみんなの願いだわ」

その遊びの女王さまを自負のチャコはすでにこの界隈の顔となっていた。

「でもチャコはね単に遊んでばかりいるわけではないのよ。わかるかな?私にはちゃんとしたビジョンがあるの。この六本木や銀座、さらには渋谷界隈に夢を持っていますの」

チャコのビジョンとはなにか。

「それはね。この大都会東京にお菓子の城を作ってあげることなのよ」

童話ヘンデルとグレーテルのお菓子の国を作ってやりたいが夢だった。そのためにチャコは女子高生を含む女の子の好みをどうしても知りたかった。

「単にチョコレートを甘くして作ってもダメなのね。そのチョコレートは自分のために食べることもあるけど彼氏や他の女の子を幸せにする甘いお菓子でもいいじゃあないかな」

プックリと肥りながらチャコはチョコレートひとつにしてもその中身に哲学や文学を引き合いに出してやろうと考えていたようだ。

「アララッそんな難しいことは考えていないですよ。単に街で遊んでいる時にお菓子も仲良く仲間に入れたらいいかなと思う程度なの。チャコとしてはデートでフランス料理はいくけどチョコレート食べながらデートもやって欲しいなあとね」

チャコは黒服相手にあれこれと遊びの女の子たちの動向を聞き出し参考にしていく。

「まだまだ頭の中身の段階ですよ。慌てないでね」

お菓子の国を作ってくださいな。


チャコはリムジンで一軒一軒飛び回りながら研究をしていった。そんなせわしないチャコはたまたま渋谷の界隈で女子高生うさを発見する。

「おっあれはうさだ。暴力大好き暴れまくりの女のうさだね。懐かしいなあ、へへ。まあ立派に女子高生に化けちゃったんではないかいな。さすがは狐だけあるわあ。あんまり顔は見たくはないけどさうさに遭ったんだから声だけでも掛けとくか」

チャコはリムジンの窓を開けておーいとやろうとした。


が。


「うん?あらっあらっ、男がいるやんか」

うさの後ろから小走りにハンサムな背の高い青年がついてきた。チャコが見かけたうさはちょうど、そうちょうど渋谷の円山町ホテル街から出てきた時だった。

「そお、なんかあのカップルは幸せなタイミングね。どっしょかな。私声掛けやめようかな」

とリムジン窓からホテル街を眺めたチャコだった。しかしリムジンの運転手は気を使ってくれたらしくチャコが躊躇している間にもスゥーとリムジンを横につけた。横はホテルから出てきたばかりの若い男女の隣のこと。

「チャコお嬢さま。さあどうぞ」

リムジンはゆっくり進行して停まる。チャコはちょっとちょっと困ったなあとたじろぐ。


運転手はキビキビとして後ろのドアを開けた。さあチャコお嬢さま降りてくださいなと。


目の前にリムジンが停まりドアが開く。驚いたのはうさと大学生の二人も同じだった。

「なんでリムジンスーパーサルーンがこんなところで停まりますの」

女子高生うさは開けたドアから車の中をジロッと見た。なにやら見苦しいデブな女がデンと座っているだけだった。

「見苦しいデブちゃんねぇ。まるでチャコかマンモスかマントヒヒみたい」


次の瞬間にふたりの女子高生、うさとチャコはお互いに視線を合わせる。


「アッ!誰かと思ったらチャコじゃんかあ。道理で見苦しいと思ったわあ」

女子高生のうさは思わず指を差して驚きの声を出してしまう。横にいた大学生はキョトンとするだけだった。


顔を見られたチャコ。肥りましたわねと人前で指を差されちょっとムカッとする。


見られたからには仕方がないなあとリムジンから降りた。ドッコイショ。

「あんらぁ、お久しぶりですこと。なにぶんにもお元気そうに見えますことで。さらにお盛んなご様子ですこと」

チャコはリムジンの横からチラっと女子高生うさを見ながら言った。チラっの先にはハンサムな背の高い青年の姿もあった。このチャコの様子を見ていたのはリムジン運転手だった。おおっ、この女子高生たちはチャコお嬢さまのお知り合いなのかと勘繰り、気を利かせた。

「お嬢さま。立ち話もなんでございますからリムジンにお乗りください」

さっさとうさと大学生をリムジンに押し入れてバタンとドアを閉めてしまう。運転手としては円山町などという環境の悪い地区には長くいたくなかったのだった。


リムジンの後ろ座席にチャコとうさ。仲良くチャンチャンと座る。お互いタイムマシンから降りて以来の再会になる。その後はどんな様子なのかと気になることは気になるが。

「ねぇうさ。そちらにいらっしゃる素敵な男性はどなたかしら?よかったら私に紹介してくれないかしら。あっ始めましてお兄さん。私は森永のチャコです。よろしくね」

チャコはニコニコしながら素敵な大学生に挨拶をする。ちょっとうさが邪魔だった。


リムジンの中ではうさは我がもの顔になっていた。

「あんらぁ〜。チャコ紹介いたしますわ。こちらの素敵な男性はね私の恋人なのねぇダーリン。女子高生の私に勉強を教えてくれる大学生の先生なのよ」

うさはチャコによく見えるようにしっかり大学生の手を握りしめた。いかにも仲がいいことを強調したかった。さらには大学生の胸に寄り添ったり猫のように甘えてみせたりとイチャイチャを誇張して見せた。


これをみてチャコは面白くない!つまんない!うさをポコンと蹴りたくなる。

「ふん!サイデッか。それはそれは仲良くてよかったですこと。あんらぁアツアツで羨ましいなあ」

チャコはチャンスがあれば"蹴りうさ"したいと思った。

「私ね。彼と結婚したいと思うの」

うさのノロケは止まらないどころかますますエスカレートをしていく。

「エッ!なんと。うさあんた結婚するの」

言われたチャコはびっくりする。思わずうさの顔を覗く。

「大丈夫かいなこのオバチャン」

と言う顔をイヤミたらたら如実にみせた。うさは告白をするとちょっと席をずらしチャコの耳元で小さく言う。

「さっき、私ね。ウフフ。彼と結ばれたの」

うさは頬をポッと赤らめながら真剣に告白をする。


が、言われたチャコはカッカッと頭に血が昇った。火山の噴火は間近なりしこの頃であった。

「なん、なんですって!結ばれタァ」

チャコは気が動転しポコンと膨れたお腹がムグッと怒りでユサユサ揺れた。

「うさ!テメェーノロケるのもいい加減にシェンかー。ブゥー」

うさの赤らんだ顔面にポコンと平手打ちをする。

うさは思わず目をつむる。


いつもなら堂々とやり返すが、

「イャーンやめてぇ〜痛いわあ」

なんと甘ったるい声を出して可愛げな女子高生を演じる。すると横にいた彼氏の大学生は、

「ちょっと暴力はいけないな。どういう経緯なのかわからないが叩いたりはいけないよ」

軽く犯人のチャコを睨みつけた。

「うさちゃん大丈夫だったかい。痛かっただろう。どこかな痛いの。ああこんなに赤く膨れたぁ」

あらっどういうこと。彼氏はやさしく赤く膨れた頬を撫で撫でし始めたぞ。殴られたうさは目に涙をためてグッと痛みをこらえる少女のごとし。

「あーんダメダメ。私痛くて耐えられない。あーん泣けちゃうわあ。ワァーン」

と言うが早いか彼氏の胸に抱きついて離れなくなった。アツアツなカップルをチャコには見せつけた。

「ふんダァ〜好きにしゃらせェ、このタコガァ。運転手さん、この二人を適当なとこでポイッと棄ててちょうだい。いいからいいから。粗大ゴミ置き場がいいかなあ。保健所の野良犬置き場でも構わないなあ。アッそうだ橋の上からポンっ!イヒヒッ」

運転手はそれでしたらと目の前の橋のたもとでリムジンを停めた。なんといいタイミングだこと。


うさは二人して降ろされた。その降りるとっさにサッとチャコの太股をギューと捻った。力の有り余るくらいに。

「ギャアー痛ぁ〜い」

チャコ痛みに耐えれずに騒ぐ。涙がちょちょぎれのチャコだった。

「ふん!いい気味だわ」

うさは泣き顔のチャコにアカンベーをしてリムジンから降りた。降ろされ後もしっかりと彼氏の胸に抱きついてイヤンイヤンと甘えていた。橋の上での二人はちょっとした絵になってロマンチックだった。


リムジンのチャコ。太股をギューがまだまだ痛くてたまらなかった。足をあぐらにして痛い箇所を擦る。スカートからパンティーは丸出しにされた。

「フゥーフゥー。痛いやんかあ。おぉー痛タァ。こんなに赤く腫れちゃったあ。後で覚えておれぇー」

チャコは真っ赤に膨れた太股を撫でながら恨みに思った。真っ白なパンティ丸出しのあられもない姿は運転手にバッチリと見られていた。


リムジンから降ろされた女子高生うさと彼氏はまた仲良く手を繋ぎ繁華街に消えていく。うさはチャコにツネリをした快感が忘れられず時折ニコニコとした。


時間は流れ女子高生は夏休みに入る。中高6年教育の学園は夏休みは補習授業が組まれた。


約一ヶ月半の夏休みが1/3になっていた。

「あらあっ、夏休みだっていうから喜んでいたのになあ。暑い中毎日学園に通うのかあ」


補習授業はうさにはつまらなかった。しかし夏休みの一ッ橋の家庭教師は楽しかった。


家庭教師はいつも女子高生うさと手を繋いで勉強を教えた。また家庭教師が終わると一緒にプールに行こうと約束。なんとうさはビキニのまま勉強を見てもらった。家庭教師の手は胸に体に触りまくられた。


こうして密月は過ぎ夏休みも終わるある秋の始めの頃。うさは生理不順を訴える。生理は順調だったはずだが。

「そっ、今月はまだ来ないのよね。心配は心配なんだけど」


もしかして出来ちゃったかな。


女子高生うさは妊娠のサイトを開いては兆候を調べてみる。

「今のところ生理が怪しいだけだから。たぶん考え過ぎだろうね。そんなことは」

サイトで妊娠判定試薬を知る。

「妊娠判定かあ。薬局で買えるのね」

うさは薬局に帽子とマスクをし顔を隠して行ってみる。薬局は別に気になることもなく試薬を女子高生に売ってくれた。

「さあ判定しましょう」

薬局近くのデパートトイレに駆け込み試してみた。判定は陽性(妊娠)を示した。うさは一瞬にして真っ青になって気が遠くなっていく。

「アッ!赤ちゃんが出来ちゃった」


女子高生うさは悩む。このままジッとしていたら赤ちゃんはどんどん成長をしていずれは生まれてしまう。女子高生が赤ちゃんを生む。女だから子供ができるのは不思議ではないが生むのはまずい。

「でも学園には内緒にしたいなあ」

妊娠したら学園除籍かもしれないと危惧した。

「そうだ、先生(家庭教師)に相談しないと。だって赤ちゃんは先生の子供だもんね。先生なら先生だから私の味方になってくれるわ」

女子高生うさはひとり悩むことをやめた。ひとりよりは二人で考えて行こうと家庭教師にオメデタを報告することにした。


家庭教師の日はまもなくやってきた。大学生はいつものようにニコニコしてまず女子高生うさにキス。

「さて勉強を始めるか。めっきり秋らしくなってきたね。うさちょっと寒いようだ。こちらに寄って寄っておいで。二人が体を合わせたら温かいからね」

家庭教師は肩を抱き抱えてしまう。うさの女の薫りが漂いセクシーな気分になる。うさはうさでハイハイと返事をして肩を抱かれたまま机に向かう。仲むつまじいところだった。

「あのね先生。実はね」

うさは家庭教師の大学生の吐く息が聞こえるくらいの距離で赤ちゃんのことを切り出した。本人としては相談に乗ってもらいたいところだった。

「エッ!僕の子供が出来ちゃったのか」

一ッ橋の家庭教師は飛び上がって驚いた。21歳の今から父親になれと宣言をされたからだ。いたってショックであった。


その日は勉強どころではなかった。うさに妊娠は本当なのかどうかしつこく何回も聞いてきた。挙げ句の果てに。

「うさ。ちょっとパンティ脱いでベッドに横になって。いいからさ足開いてごらん」

俄か産婦人科医になり内診を始めてしまう。

「先生診てわかるの?」

女子高生うさは言われたとおりに足を開いてみた。


妊娠はまだシロウト判断の範囲であり大学生はうさを産婦人科に連れていくことにした。勘違いである可能性が高いからだった。

「エッ産婦人科に行くの。やだなあ。だって恥ずかしいもん」

好きな大学生には足を開いて平気ではあったが医者に診てもらうとなると話は違うらしい。


大学生は学内を散々駆け巡り産婦人科のコネを見つけてくる。


いわくつきの妊娠には頭の先から中絶をするハラであった。


女子高生うさをうまく丸め込み知り合いだから事情がわかった産婦人科だからと連れて行く。

「へぇ先生には知り合いに産婦人科のお医者さんがいらっしゃるのね。だったら安心ね。わかりました行きましょう。お願いします連れて行ってちょうだい」

うさは身を委ねるつもりで大学生と産婦人科の門をくぐった。そこはこじんまりとした個人経営の医院だった。さらにはなぜか世間を憚るようなご婦人が顔を伏せながら通っていくような暗い雰囲気もあった。


産婦人科の窓口に大学生は紹介状を出して診察を待つ。どうも完全予約らしい他に妊婦さんはいなかった。


うさはすぐに名を呼ばれて診察を受ける。この名を呼ばれた際には苗字は大学生の名を呼ばれていた。

「うさ。僕たちは夫婦だと言うことにしてあるからさ」

うさは説明を受けて大学生の手をギュッと握りしめた。


診察室の産婦人科は初老のドクターだった。紹介状を一通り読んでそのままカルテを書き込み始めた。まったくうさには質問もしなかった。

「では内診しましょう。下着を脱いで診察台に上がってください」


内診はすぐ終わり待ち合いにいた大学生(夫)が診察室に呼ばれる。医者は無感動のまま妊娠を告げた。


始めて妊娠を医者から言われてうさは涙が溢れ落ちた。

「これから大変だけど私はママになれるのね。若い母となれるのね。頑張って丈夫な赤ちゃんを産まなくちゃいけないわ」

子供が産める感動が女の喜びとして全身に伝わり震えがきてしまう。うさはとにかく嬉しかった。


続いて産婦人科医は無表情で大学生の夫に向かって言う。

「妊娠されていますから早く降ろされないといけません」

夫は医者からの言葉を頭をかきながらハイハイと頷いていた。


医者は事務的に話す。

「では中絶の書類上の手続きをなさってもらい、中絶の日を決めてもらいます。降ろされる手順を教えます。中絶の手続きは簡単に出来ますから安心してください」

医者は固くなに話を夫とだけ進めた。うさは一言も医者と大学生の話に挟まれることなくその場にいただけであった。


医院を出る時には喜びの涙も赤ちゃん誕生の不思議さも消えていた。


ただ"中絶の日"だけが頭に残るところ。来週の月曜に再びこの産婦人科の門をくぐることだけが頭に残るだけだった。


「私は赤ちゃんが産めないの?私は母になれないの」

すぐ横にいる大学生に偽りの夫にうさは尋ねたかった。


しかしなぜか何も言えないままであった。まるでカナ縛りに遇ったような感じとなり何も言えない。

「私には何を言う権利があるの。あるわあるわよね。だってお腹には赤ちゃんがちゃんと宿っているんだから。この人がパパなのよ」

うさはソッとお腹をやさしく撫でてみた。


大学生と別れ自宅に帰るうさ。玄関で母親があらっちょっと帰りが遅かったのねと小言を言った。うさはツンとして自分の部屋に入って行く。うさは母親の顔があまり見たくはなかった。


部屋のベッドに横になり天井を眺める。

「これからどうしたらいいの。来週の月曜にお医者さんに行ってしまったら私はお腹の赤ちゃんと別れなくてはならないのね。なぜ別れなくてはならないの。よくわからないなあ」

ベッドでお腹をさすり涙がとめどもなく流れてしまう。


それからのうさはちゃんと家庭教師とも会い家族の者には不審な行動を取らないようにしていた。妊娠を悟られてはいけないと刺激のある食べ物は極力避けた以外は。


大学生は大学生でうさの中絶堕体費用をなんとか集めようと走り回る。知り合いの女を中心に金策に走り回った。


その中、風俗の女の子からはポンと数万円を借りることが出来た。いや貸してもいいわよと言われたのだ。さっそく風俗嬢に頼みにいく。

「ヒェ〜ありがとう。恩に着ます」

どうやらこの風俗女の好意が大学生の心をいたく揺さぶることになってしまう。

「なんですのあなた。お坊っちゃんの癖に女子高生を孕ませちゃったの?ドジな男だこと、オホホ。天然記念物みたいなものよ。まさにお坊っちゃんだわ」

風俗女はその手の話には事欠かない世界に埋没している。

「ねぇ私の話を聞いてくれる。いい方法があんだよぉ。聞く?聞かない?」

風俗女は短めなスカートをわざと大学生の視線がくるように見せながら話をする。かなりモッタイをつけてからチラッと見せた下着。薄いピンクのパンティは大学生には刺激だった。ほんのちょっと前を隠す程度のビキニ。

「いい話ですか?なっ、なんだろうなあ。僕にはさっぱりわかんないや、アッハハ」

大学生は風俗嬢のセクシーさに頭の中はピンクに染まっていく。

「ウッフーン!こちらにいらっしゃって。もっともっと近くに。入れ知恵しましょう。ねぇ、入れてあげたいなあ。そうおっしゃったら教えてさしあげますわ」

風俗嬢は大学生の前でピンクのパンティを脱いでしまう。ストリッパーのようにノーパンのまま足は大きく開いてしまう。


大学生は口を大きく開けてみとれた。もう我慢がならず風俗嬢に抱きついてしまう。


風俗嬢はニコニコしながらウブな男の下手な愛撫を受け苦笑いをしていた。

「あん、いらっしゃいな。アッそこはダメよ。あまりにも刺激が、アンイヤーン」

風俗嬢は大学生の素性をすべて調べ尽しての誘惑だった。

「だってこちらの殿方はお坊っちゃんですからね。ちょっとゆすぶればいくらでも金の成る木でございますわ」

大学生の子供を孕み今度は風俗嬢が第2のうさになってやろうとしていた。

「あっそうそう。女子高生ね、中絶費用そんなにも要らないわよ。ちょっと知恵働かせたらさ、いいまでよ、アッハハ。あんイヤーン、ソコは触らないで。女の子がメロメロになってしまうわ」


大学生は風俗嬢にすべてを任せると返事をしてしまった。


翌週の月曜が来る前に女子高生うさは大学生から携帯電話を受け取る。話はなんとなんと、

「うさちゃん。中絶したいなんて言って悪い。僕は深く反省をしている。赤ちゃんは産もう。二人で赤ちゃんを育てような」

大学生からの声は弾み明るかった。

「今から出て来れないか。ついては将来のことも話をしておきたいからさ」

女子高生うさは心が弾み嬉し涙が出た。

「赤ちゃん育てましょう。うんうん産みたいわ。私若いママになりたいの」

携帯は切られうさはさっそく大学生との約束の場所に行く。出かける際にはちょっとオメカシをして若い母親になる喜びを衣裳で表した。

「鏡に写る姿は女子高生から一児の母親の顔だわ。あらっ私なにを言っているのかしら、アッハハ」

うさは喜びいっぱい幸せいっぱいに外に出た。待ち合わせは渋谷のファミリーレストランだった。


渋谷に同じ時刻森永のデブな令嬢チャコがいた。

「アンラッ、おデブちゃんは余計ですわよ。私チャコはねリムジンで渋谷の女子高生の遊び方を調べてますのよん。優雅な令嬢チャコさまですわん」

渋谷界隈ではチャコのリムジンはすっかり有名だった。ただ信号待ちで止まるだけでも女子中高生やOLさんがチャコに声をかけてきた。

「エヘヘっ有名になりましたわぁ。このまま芸能人にもなれましょうかね。トレンディ俳優との秘かな恋をする女優さんになんてね」

満更でもない様子だった。夢はなんとでも見えるし罪にはならない。

「チャコお嬢さま。ちょっとちょっと。あれを御覧なさいな」

リムジンの運転手が声を出して前を指差す。


言われたチャコはなんだろうかとフロントガラスを見た。

「あの前を歩いている女子高生はチャコお嬢さまのお友達ではありませんか。いつぞや乗せたアベックの女子高生に似てますね」

アベックの女子高生とな?チャコはさっと、

「なんだ、うさのことか。そうねあれはうさね。こんな時間にどこに出かけるのかしらね。忙しく歩いているわね」

リムジン運転手は乗せたらどうですか。いいですよ僕は構いませんよ。

「うーんそうね。まあうさだから乗せてあげようかな」

運転手はアクセルを踏みうさに近くなり停車させるつもりだった。


渋谷は暗闇が迫る夕方だった。うさの歩いている辺りには人影もまばらな様子で寂しかった。うさの約束のファミリーレストランまで後数分のところだがこの細い路地だけは寂しい裏道だった。


路地の街灯のモノ陰に数人の若い男たちが隠れていたことは街行く通行人にはまったく想像すら出来ないことだった。


大学生は路地に潜みひとりだけ女子高生うさがやってきたことを確認する。


確認をしたら後ろにいるヤクザ風の男たちに合図を送った。

「あの女に間違いない」


うさは路地の裏道を選びファミリーレストランを急ぐ。裏道は近道であったし車が通行しないから静かだった。


うさは頭の中で、

「赤ちゃんが産める幸せは女の喜びよ」

幸せな家庭が築かれ好きな夫と子供に恵まれて生活をすることを想像していた。


路地裏に入ったうさ。後ろから金属バットを持って男たちがついてきたことはまったく気がつかない。


リムジン運転手は裏道の細い歩道に入っていくうさの後ろ姿を見る。

「アッ。裏道に行っては車は通っていけない。どうしたらいいかな」

運転手はしまったなあと思う。クラクションを鳴らすタイミングはすでに遅かった。ならばチャコを降ろして追い掛けさせたら捕まえれるのではないか。どうですか?


チャコは面倒だなあと文句をひとつ言う。

「エエィ面倒だけど捕まえるか。かわいいうさちゃんだもの」

ヨッコラショとリムジンからチャコは降りた。体が重いからかなり苦労してはいずり降りた。


と、その時に裏道から女性の悲鳴がした。キャーだとかヒェ〜だとか微かだが悲鳴だった。

「なんだろ?悲鳴だねあれは」

チャコは裏道を辿っていく。声のしたと思う方角に歩く。東京だからとていずれの道も街灯が明るかったとは限らなかった。


目の前に血を流して蹲る女子高生うさを発見する。うさは後ろからつけてきた暴漢数人に金属バットで頭をブン殴られそのまま倒された。さらにはお腹を叩かれていた。出血は下腹部あたりからだった。スカートが血で染められてしまう大惨事になる。


暴漢の犯人たちはうさが腹から血を流して倒されたのを確認しその場を立ち去った。

「キャー。お腹をお腹の赤ちゃんをなんてことするの」

うさがお腹をかばい気絶する直前の言葉は近くにいた父親の大学生にしっかりと聞き取られていた。


「うさ!うさ!しっかりして。あらぁ気絶し、あっ」

駆け寄ったチャコは言葉を失った。気絶しているうさは血染めだった。生きているだろうか。


救急車は呼ばれてすぐに病院に。が、うさに意識はないままの搬送だった。救急車にはチャコが付き添う。

「うさ、うさ。なんでもいいからお返事してちょうだい。うさ、うさってば」

意識のないうさの手をチャコはずっと握りぱなしだった。


救急病院ではすぐさま手術になる。赤い手術中のサインが点滅した。頭を殴られ頭蓋骨陥没がレントゲンからわかった。またお腹の赤ちゃんはきれいに流産していた。


手術室の待ち合いにはチャコが泣きながら座っていた。またしばらくして女子高生うさの家族が呼ばれてやってくる。大学生もやってきた。何食わぬ顔をして待ち合いに座っていた。


警察も来た。うさの第一発見者はチャコであり悲鳴を聞いたのもチャコだった。その場で事情聴取を受ける。大学生は横でなにも知らないよと平然としていた。


暴漢たちは警察の緊急配備の網に引っ掛かり全員逮捕された。血の着いたバットが逃走車両から発見されたことが決め手になった。


手術中の医師からうさの流産を家族は知らされた。当然ながら誰ひとり妊娠を知る者はいなかった。

「うさは妊娠していた。信じられないわ」

チャコは顔をクシャクシャにして泣く。


手術中の医師からの報告は絶望的なものばかりだった。まったく意識が戻ってこない。ひょっとしてこのまま植物人間になり果ててしまうかもしれないとまで言ったのだ。うさの家族は絶望的な気持ちになる。一瞬にして待ち合いは涙に染まってしまう。


チャコ!チャコ!お前は未来人間なんだぞ。早くうさをタイムマシンに乗っけて未来に帰ってこいよ。頭蓋骨陥没ぐらい未来の医療なら簡単に完治させれるからさ。なにやっているんだ急げよ。タイムマシンを呼べよ。


チャコは泣きじゃくりながらハタっと気がつく。

「ハッそうだった。こんなところで泣いていられない。未来に戻って行けばいいのよ。急いで未来に帰っていかないと」


チャコがタイムマシンに乗るにはまずリムジン運転手を胡麻かさなければならない。

「いきなり消えたら変だからね。じゃあ運転手を呼んでみるかな」

チャコはタイムマシンに

戻る算段を始めた。


とその時に未来から"時計"がチャコの手元に届く。

「うん!なんでっか」

未来時計はうさの余命時間を掲示していた。時間があるうちは大丈夫だという時計だった。

「なるへそ。わかったわ。では急いで参りましょう。運転手さーん、運転手さーん」

チャコは駐車場のリムジンを探してまず乗車。リムジンに乗ってタイムマシンまで走り乗換えだといいが、違う。

「とにかくね私が突然消えてもおかしくないようにしないと」

女子高生チャコを行方不明にしてからタイムマシンに搭乗しなければならなかった。


チャコは運転手にリムジンを出させ一旦帰宅するわと帰路を命令させた。

「帰っていく道にはいくらでも交通事故に遭う可能性があるから。運転手さんごめんなさいね。でもこうしないとチャコとうさは未来に帰っていけないのね」

未来時計はキィーンと正確な時を刻み始めた。

「運転手さん急いでちょうだいね。早く早く」

運転手は言われた通り飛ばす。なにか急いでいかないとまずいんだろうなあと思うは思うが。


チャコはチャンスを窺う。ガチャンとやればその場からそのままタイムマシンに搭乗できるから。


首都高に入った。チャコは一刻の猶予もなかった。首都高ランプを入ったら運転手に加速して加速をとけしかけた。

「うんうん早いなあ。運転手さん早いなあ。でも、ごめんなさいね。悪いのは私だからさぁ」

後部座席からチャコはムギュとハンドルを持ちわざとリムジンをガードレールにぶっつけた。

「アッ!危ない〜」


ガチャン!


チャコはスウッと幽体をしてタイムマシンに搭乗する。リムジンは大破した。運転手はかなり傷めつけられたが一命は取り止めた。


「ハアッ乗換え完了!さてうさを迎えにいかないと」

タイムマシンの中のチャコ。それまではプクッと膨れた見苦しい女子高生からパリッとした未来人チャコになっていた。


計器類のパネルをカチャカチャ操作して緊急病院のうさを探す。

「急いで行かないとね。あーん焦ってインジケーターが作動しないわ。どうしたらいいの」

インジケーターはチャコやうさからの生態反応で動作する。意識のないうさには作動はしなかった。

「うさがちょっとでも息を吹き返してくれたら生態反応でタイムマシンが働くんだけどなあ。無理かなあ。お願いうさちゃん。うんとかスンとかしてくらはいな。イイコチャンだから。お返事してくれたら森永チョコレートあげるわ」

そのチャコの願いは緊急病院のうさにちゃんと通じた。


緊急病院のドクターは頭蓋骨陥没のまま意識がないうさに、

「ケッ、このポンコツめ!」

とか言って頭にデコピンをする。パチン!


この僅かな振動がインジケーターには生態反応に感じられてうさの生態が確認された。今いる場所を特定されてきたのだ。

「キャア〜ラッキーだあ。うさが蘇ったわあ」

マシンはインジケーターにより作動され病院に辿りつく。手術室の真上にテレポートした。

「さっ、早くうさちゃんを収容して未来に帰りましょう」

チャコはマシンの収容スイッチをオンにする。


病人うさは無事タイムマシンに搭乗された。後は未来時計のタイム制限以内で未来に到着するばかりだった。その未来時計と未来到着の時間はかなり微妙になっていた。

「未来に到着するのはすぐだから大丈夫よ。心配はないの。もう大丈夫なんだから」

隣で意識を失ったうさを気遣いながらチャコはマシンを操作する。現代から未来へのテレポートなど感覚としての時間はないに等しいはずだった。

「マシンに搭乗してしまえば大丈夫よ。大丈夫だからさ。うさは助かりますからね。うさ、あなたを必ずや助けます。動け働けタイムマシン」

チャコはかなり焦ってきた。意識のないままのうさをなんとかして助けたい。気持ちや思いはわかるがなんせ未来時間は刻刻と過ぎていく。


マシンの機能が遅かったのは単にチャコの肥満が原因だった。負荷加重がグンと増えたものだからタイムマシンがかなり無理をしていた。マシンからお腹の贅肉をポイッと捨てたら帳尻は合う。さらには皮下脂肪のプヨプヨである。


チャコの膨れたお腹や全身の脂肪分を特集相対性理論は余計な時間と計算してしまう。


未来に遅れて到着をする。チャコのおかげで約20%のタイムロスが生じた。マシンが荷負荷になりながら回転した証拠だった。


そのためにうさは生死に危険信号が点滅してしまう。


未来の救急隊がタイムマシンから病人うさを運び出す。

「どうしたんですか教えてください。20%ものタイムロスが生じてますよ。なにがあったんですか。隕石に当たったとか。惑星の誘発的な軌道に知らない間に乗ってしまったとか。突発的な事故が発生ですか。マシンそのものは精密ですから計算が狂いますなんてことは考えられませんから」

救急隊はいぶかしげにチャコに尋ねた。エンジニアも呼んで対策を練らなくてはいけないと声を荒げた。

「そんな大袈裟な」

言われたチャコは黙って下を向いたままだった。彼女としてはなにも言い返すことははなかった。


病人うさは緊急のまますぐに未来病院に収容された。運命の未来時計が0を示すか示さないかとほぼ同時だった。


滑り込みはセーフかアウトかである。


集中治療室に突入するとドクターは勢いをつけてうさの頭に"最先端医療の風船"を埋め込み頭蓋骨陥没を治す。

「埋め込みさえすれば必ず完治させる」

脳外科ドクターは自信たっぷりに言い放つ。


麻酔が切れたらうっすらと目を開けた。意識が戻りつつありなんとか蘇ったのだ。

「ヤッタね。うさは頑張りました」

チャコは万歳をして大喜びをする。


未来病院の治療は現代と異なり回復がいたって早かった。エネルギー補給が豊富にあり的確な医療を施してくれた。


みるみるうちに病人うさは回復をしていった。

「うさ頑張りますわね。早いなあ回復。もう心配はかけないでね。チャコは悲しくなってしまいましたわ」

うさの病室でシンミリとしたチャコである。


それを見たうさは意識を回復し健康を取り戻しつつある。

「うんありがとう。心配掛けちゃったね。もう迷惑をかけないわ。チャコありがとう。あなたが助けてくれたおかげで命拾いをしたわ。なんと御礼したよいかわからないくらいよ」


病人うさはタイムロスが20%生じた原因がなにか知ってる。あれがなければこんな重症患者にはならなくて済んだはずだと。


チャコの肥満にあることは墓場の中までしっかりと持って行こうかと考えた。


泣きながらチャコの手をしっかり握った。プヨプヨとした肉づきのよい手をチャコは差し出した。

「ありがとうねありがとう」

うさはチャコの手をしっかりと握ったがなかなか離すことはしなかった。

「チャコ嬉しいわ。あの竹の中で知り合ってからの仲良しさんですもの。簡単には別れ別れにはなれないわ」

「あの竹藪の中で知り合ってからずっと仲良しさんですものね私たち。かぐや姫さん」

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