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異聞 真田信繁伝  作者: どたぬき
第一節1614年二月
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外伝2-7 遊びと少年と憎しみと憧れ

ついに来た会議の日、ソラはじっとその日を迎える。その日にソラは・・・。

外伝2-7 遊びと少年と憎しみと憧れ


 半蔵が熱く子供達を前に武勇伝を語る夜、結局ソラは一人で部屋に戻り、少しよれよれの布団で・・・何を考えるまでもなく、寝てしまった。宿とは違うがこれはこれで・・・。いや、半蔵と野宿をしてからは。船や建物の生活が多かったソラはこういう屋根の生活がいかに大切か分かった気がする。朝起きてみると半蔵が・・・自分の布団に潜り込んで・・・寝ていた。まだ顔は少し赤い。顔を上げ、空いた隙間を見ると日はもう昇っているようだ。野宿での警戒感や、宿での早起きとかが嘘のような・・・酔いかたである。ソラは流石にこれでは迷惑なので、半蔵の体を揺らして起こそうと顔を近づける。

”う・・・。”

 ソラは小さくうめく。酒の匂いで臭く・・・体全体から臭う。早く起こさないと・・・臭い!ソラは賢明に半蔵の体を揺らす。

「・・・ん・・・ん・・・んに・・・。」

 しばらく揺らし続けると、半蔵がゆっくりと目を開ける。半蔵が目を開けると、ソラは鼻を片手で塞いで揺らしていた。

「ん・・・ど・・・どうした?・・・ソラ。」

 そのあまりの泣きそうなソラの顔に体を無理矢理起こす。

「臭い・・・。」

「臭い?」

 鼻で嗅ぐが違和感はない・・・。つい、忍者だと”臭い”というと・・・いくつもの幻術又は火事を連想してしまう。半蔵は慌てて左右を振り返るが人らしい影はなく、いつもの伊賀の朝である。

「何があった?」

 まじめな顔で答える半蔵を前にしてソラは・・・じっと・・・半蔵を見つめる。

「臭い・・・。」

「・・・。」

「くさい・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

「拙者か。」

コク

「そうか・・・。」

 その言葉に半蔵はしぶしぶ立ち上がり、記憶を頼りに台所に歩いていく。

「お早うございます。」

 はちまきをした女性が挨拶をする。相談衆の世話の為に数人が交代でこの屋敷には常駐していた。無論広い屋敷と言う事もあるが・・・今朝は会合がある為に人も多めだ。幾つかの人間は握り飯の為の炊き出しや・・・薬の調合も行われていた。

「お早う。すまないが顔を洗う。」

「あ・・・はい。」

 その言葉に水瓶に木桶で水を汲み、働いている女性の一人は目の前に桶を持ってくる。

「本来水浴びをしても言いのだか・・・何時来るか分からぬ。」

「酒臭いですよ。半蔵さん。」

 笑いながらも女性は桶を置くと、忙しそうに奥に戻り、また握り飯を作っていた。

「そうか・・・。すまないな。」

”半蔵。”

 小さい声で喋るソラを半蔵は見つめる。

”どうした?”

”髪・・・どうする?”

 ソラは不安そうに木桶に張られた水を見つめる。イジメ防止などを考え、髪の毛を黒く染めさせていた。だがこれ・・・炭を塗った物で、水で洗い落とせる。それを伊賀に来るまでに聞かされていた為、水に軽い恐怖感を覚えていた。どうなるのか分からないからだ。そう聞かれて半蔵は改めてソラの髪の毛を見つめる。

「すまないが、この桶このまま持って行くぞ。」

「あ・・・はい。」

 女性の一人からふりかえらずの生返事を聞くと半蔵は桶を持って、慌ててと歩いていく。ソラは慌てて、ついていった。半蔵は部屋に付くと、障子を閉じて手ぬぐいを敷いて桶を置く。

「危なかったな?」

 半蔵の焦った声がソラには不思議だった。

「どうしたの?」

「これ。」

 半蔵は部屋の隅にある、仕度用の鏡をソラの側に寄せる。ソラの髪の毛は半分以上の化粧がとれ、金髪と黒髪が混ざり合っているように見える・・・。その外見を知らなかったソラは・・・驚いて鏡を見入る。

「これが僕?」

「まあな。」

「どうするの?」

「化粧をし直す。」

 そう言うと半蔵はソラを桶の側に寄せると、ソラの持っていた手ぬぐいを水に浸け、髪の毛を丁寧に拭いていく。

「どうしてこうなったの?」

 その言葉に半蔵はまだ置きっぱなしの布団を指す。枕のところが黒くなっている。

「寝汗だ。」

 寝汗の水分で自然に炭が落ちていったのだろう。

「そうなんだ。」

「一度洗い落とすぞ。」

 そう言うと半蔵はソラの髪の毛を丁寧に拭いていく。それを只・・・黙ってソラは見つめていた。

「また塗れば?」

「こういうのは髪を傷める。傷が付くと化粧のノリも悪くなるし、抜けやすくもなる。」

 半蔵はしばらく拭くとまた水に浸けて、汚れを落としていた。

「髪を傷める?」

「結構女物の化粧する時があってな。その時に、良く椿油を塗るのだが・・・」

「女物?」

「女だ。」

 その言葉に、ソラはふとドレスを着た半蔵の姿を思い浮かべる。

「気持ち悪い。」

「仕方ないだろうが。女でないと警戒された所もあるからな。」

 半蔵は不満そうに鏡を指さす。そこには金髪のソラの姿があった。だが・・・鏡自身を見るとそこには・・・金髪の少し影のある少年の姿が浮かび上がる。確かにこういう髪の人を日本に着てから見た事はない。

「そうなんだ。」

「こっち向く。」

 そう言われ半蔵の言葉通りに半蔵の方を向くと、手には炭を持った半蔵の姿が・・・。

「又これは疲れるだろうが・・・今夜までの辛抱だ。」

「どうして?」

「明日にはでるが・・・その前に又見せ物で悪いが・・・会議の相手へお主を見せる必要がある。この国にはまだ外国を疑う者が多くてな。その証明に一役買って貰いたい。又今度に、お菓子でも買ってやるから。」

「大丈夫。」

「分かった。」

 そうこうしているうちに、手慣れた感じでに持った炭を髪に張り付かせるように徐々に黒く染めていく。この頃には髪染めの墨などはなく、こういう炭を使った物しかないが・・・。

「これでどうだ?」

 飽きる程じっと立っていたソラはやっとの事で首を鏡に傾ける。そこには今まで雰囲気の違う黒い髪の少年があるが・・・。

「これ・・・無理がない?」

「一日、二日なら・・・これでも違和感を覚えない。大丈夫だ。」

 半蔵の髪の黒さに対して、透明感のある澄んだ黒に見えるこの黒は、ソラ自身が見ても違和感を感じる・・・ラテン系でもない黒さである。これで目立たない方がおかしい。

「そうだ。今日の事について行っておく。」

「はい。」

「今日はここで待っていてくれ。会議が一通り終われば、お主をお披露目したい。」

「うん。」

 ソラは頷いた。確かにどこか・・・あの見張り達を含む者達は危険な匂いもする。

「分かった。」

 ソラは軽く頷くと、半蔵は立ち上がり、ふすまを開け、光が差し込む。その明るさで鏡に光が差し、周囲にざわつく声が聞こえる。誰かが来たみたいだ。

「行ってくる。」

「うん。」

 そう言って半蔵は足早に歩いていった。この時の颯爽とした姿は流石に・・・あの時の酔っぱらいには・・・見えなかった。


「ようこそ。皆様方。」

「挨拶はよい。」

 古ぼけた様相の老人は重いまぶたを開き、目の前の半蔵を見つめている。会議と言っても狭い畳の部屋に三人が向かい合って座っているだけの場であり、何もない。だがその何もなさが逆にお互いに、緊張感を煽る。

「そうですか・・・。」

 半蔵はお互いを見やる。

「まあ・・・お主を招へいしたのは拙者の方だからな。すまないな。」

 普通の旅隠居みたいな外見の老人は目の前の古ぼけた老人を見つめながらつぶやいた。元々はお互い仇同士の間柄ではある。だからこその緊張ではある。

「お主には感謝しておるのは、あいつの私も一緒だ。」

「そう言えば、先日の戦い・・・感謝いたす。”お頭”」

「それは言わなくて良い。我らも又、感謝しておる。」

 妖怪の頭である古ぼけた老人は大きく頷く。

「すまないな。それが聞きたくてお主を呼んだのだ。」

 もう一人の老人、宮司総代は不思議そうに二人を見つめる。

「そうだったな。確かに寺院の坊主共も来て羽織ったがお主はいなかったな。会議ではいたのだが。」

 ”お頭”は嫌そうに目の前の宮司総代を見つめる。いろいろと因縁があるそうだが、半蔵自身それを深く聞き出す事はなかった。

「まあな。拙者は立場上仕方がない。平時を欠かしては、例え戦に勝とうとも次はない。」

「確かに・・・。」

 「とりあえず、情報交換などから・・・。」

「だな。」

「でしょうな。そうでなくてはこの面を拝みに来た甲斐がない。」

 

 向こう側では会議が始まっているようだ。警備の男達がある部屋を取り囲んでいるのが、ソラのいる半蔵の部屋からも分かる。暇ではあるが・・・耳を澄ましても流石に聞こえない。だが・・・周りの警備の一太刀を見ていると・・・ここが小さい商会なのかとも思える。昔いたいや父さんのいる商会の会議とかのや肩はもっと広くて話は壁で聞きづらいが、警備はあんな感じだった。父さん・・・今頃オランダにいるんだろうか・・・。

「おめえ・・・こんな所で何してんだ?」

 思いにふけるのを止め、入り口を見ると、先日会った少年達と思われる者達が、着物を着た姿で現れる。確かにあの格好では要人に警護されてしまう。

「半蔵に言われてここに。」

「半蔵!半蔵様になんて言うだ!様を付けろ様を!」

「え・・・あ・・・。」

 ソラにとって訳が分からなかった。当時のアルファベットなどの言語に置いて、敬語はなく、”様”という概念が分からなかった。正確には特別な地位にある人間以外に対する敬語は存在しない。丁寧な言葉とかはあるが、”様”という概念をまだ理解しては・・・よく分からなかった。

「おめえ!来い!」

 そう言うとソラの服の袖を掴むと引きずって行く。ソラも当然あらがう。だが数人掛かりなので、抗いようもなかったが・・・。

「何で!?」

「おめえ!」

「お前ら!」

 最後の言葉に振り返ると大人が一人、引きつった顔で、子供達を見ていた。

「お前ら・・・何をしている?」

「いや・・・こいつが礼儀とかしらねえから・・・。」

「お前らこそだ。半蔵様が会議中だぞ!邪魔するな!」

 その言葉にじっと大人を子供達が見つめる。

「分かりました。」

 そう言うとすごすごと集団が・・・屋敷の外に向かって行った。ソラはそこに只一人、残されていた。

「すまないな。お主・・・そう言えば?」

「半蔵が・・・ここで待ってだって。」

「よく分からないが・・・分かった。私がここにいる。」

「いいの?」

「まあ・・・。」

「おーい。与吉。」

「なんだ?」

 遠くの方を見ると、一人の大人が手招きしていた。

「すまないがこちらの人が村の散歩をしたいとか・・・案内を頼む。」

 その言葉に横を見ると、少し大柄の男・・・結構顔が歪んでいるように見えるが・・・が不器用に微笑んでいた。その様子に与吉はソラの顔とその不器用な男を交互に見る。

「すまない・・・行ってくる。」

 そう言うと与吉はその大男の所に行ってしまった。呼んだ男の方も・・・もう姿は見えない。又一人である。

「ちょっと怖いけど・・・離れるわけにはいかない。」

 だが・・・今のままではさっきの奴らに又連れ回される恐れもあるが・・・彼らとて時間がかかれば留まるわけにはいかない・・・。どうするか・・・。ソラは周囲を見て・・・ふと押し入れを見つける。この中なら・・・。 ソラは押し入れの中に入り、布団の間に潜る。これで大丈夫だろうか・・・。心配になりながら、押し入れを裏側からしめる。これでしばらくは・・・。


「大体こんな所で・・・。」

半蔵は両者を見渡す。 この時には両者関係者を含む話し合いで妥結とまでは言わないが・・・程々まで来れたのであろう。お互い・・・まあ仲の悪さも・・・治っているとは言い難いが。

「まあ・・・これで大体そちらとも合意は出来たな。」

 ”お頭”ゆっくりを向こう側の関係者数名を見渡す。こちら側には誰もいないが・・・それでも存在感は大きい。

「了解した。まあ・・・これで無法者がいなくなれば丁度いいが・・・。」

 宮司総代以下数名の神社の宮司達が書類をまとめていた。

「そう言いなさるな。これでお互いが共存できればそれはそれで良かろう。」

 半蔵が慌てたようにお互いを見る。側には相談衆数名が後ろに控えていた。

「ま・・・これで追われぬ生活になればお互い・・・。」

 ”お頭”はふぅと一息を着く。

「まあ、我らは守るだけだ。でもまあ・・・お互い今まで苦労を掛けたな。」

 総代の息ととともに、いくつもの書面に判が押されていく。この書面が全国に回り、声明が伝わっていく。

「今後は・・・仲良くして欲しい所だ。所で・・・今夜はどうする?」

 ”お頭”は半蔵の方をじっと見る。

「今夜・・・ですか?」

「まあ・・・確かに・・・この時間なら帰るに里まで出るにも一日かかるでしょうし。」

 総代も腰を上げ立ち上がり、のびをするが他の者は仕度で忙しそうだ、

「お主・・・聞いておるぞ。相当の食い道楽だそうだな。」

 その言葉に半蔵はちらりと”お頭”を見つめる。”お頭”はじっとこちらを・・・微笑んで見つめている。

「え・・・あ・・・。」

「そうなんですか?」

 総代も興味津々という顔で半蔵を見るが、その顔にてれがあった。

「結構聞いておるぞ。お主を見かけたのとの報がな。結構地酒とか好きで・・・。」

 その言葉に半蔵の後ろの相談衆達の顔が険しくなっていく。

「いや・・・まあな・・・そうだ・・・そう言えば、先程行っていたあの子・・・紹介しますね。」

「そうか・・・。」

 そう言うと総代も神妙とした顔になる。

「そんな・・・金髪などいるのか?」

「見ていただければと・・・。すまないな。ソラを連れてきてくれ。」

「あ・・はい。」

 その半蔵の慌てた声に、慌てながらも警備の男達が走っていく。

「半蔵殿・・・後でその話を・・・。」

 後ろの相談役の男達の怒った声が・・・半蔵の耳に押し殺されながらも聞こえてくる。


 ソラが目を覚ますと、いつの間にか・・・林の中のようだ。あれ・・・。体が動かない・・・ので動かそうとするが・・・布団がかかっているが・・・布団で丸められているようだ。目の前には数人のさっき来た少年達がいた。

「やっと目が覚めたか。」

 少年達の中でも一番背の高い・・・男が睨みつける。そう言えばどうして・・・そうだ・・・あの時・・・布団に隠れてやり過ごすはずが・・・いつの間にか寝ちゃったんだっけ。

「う・・・うん・・・。」

「おめえ・・・。」

「半蔵様に様付けねえ・・・。何ていう無礼者だ。」

 その言葉に・・・ソラはじっと少年達を睨む。5・・・6人はいる。

「おめえ・・・その目だ!」

 その瞬間布団越しに腹に衝撃が走る。真横を思いっきり蹴られたようだ。

「その目が駄目だ!」

「おめえ・・・どんな教育受けただ。」

 口々にソラを全員が罵る。時々鳧も鳶、衝撃に身をよじろうとするが・・・布団にくるまれていた為、それも出来ない。

「知らない・・・。」

 実際・・・ソラは教育と言われて思い出せる者はなかった。意味を知っていても、二人の父親に教わったものしかなかった。だから・・・どういう者か分からない。だが分かる事がある。こいつらは・・・盗賊と変わらない。

「しらねえだ!」

 又、一撃を横っ腹に食らう。

「ふざけるな!第一!お前!半蔵様の何だ!」

 ・・・何に怒っているか分からないが・・・何か・・・半蔵にとっての僕は何なのか考えた事もない。だが僕側は言える事がある。

「師・・・匠?」

「師匠!?師匠なら様付けろや!」

 又・・かなり強い一撃が脇腹にはいる。横を見ると一部の子が太い木の棒でこちらをなぐっているようだ。

「おめえ・・・人舐めてると・・・本気でそこの谷底・・・転がすぞ・・・。」

 中心人物らしい少年は本気で怒れているらしい。何がそう駆り立てるのか・・・ソラには分からなかった。

「谷・・・底?」

 さっきから幾つか理解できない言葉もある。舐めるとか・・・谷底とか・・・。分かればもう少しどうにかなるけど・・・。只・・・谷底と言う言葉に・・・。

「おめえ・・・分かっていねえ様だな・・・。おめえら!」

 その言葉に、丸太のようなソラはごろりと回され、やっと彼らの顔以外を・・・これ・・・。そこにあったのは転がればどこかにぶつかり、二度と帰って来れないような・・・谷底だった。


「半蔵様!」

「何があった?」

 半蔵は警備の者の顔色の悪さにすぐに問いただす。

「そ・・・それが・・・ソラ・・・少年がいません。」

「な・・・な・・・何?」

 その言葉に頭が動転しながらも・・・色々考える。すぐに半蔵は警備を引き連れ・・・ソラのいる部屋に向かう。

「すぐに向かう。」

 早足で向かうがそこには・・・誰もいなかった。里の者は慌てているようだが・・・。まずは部屋の中は荒らされてはいないようにも見えるが・・・。いや・・・・少し・・・物が動いた形跡がある。この様子からすると・・・。結構経験者・・・いや・・・。教本通りか・・・。半蔵は念のため、近くのふすまを開け、中を確認する。誰かいないか・・・確認する為だが・・・やはり・・・布団が一つ無い。半蔵は足早に裏手に回る。そこには今夜の食事の準備に忙しい、女達がいた。

「おまえたち・・・。」

「はい。」

「この辺で布団を誰か持って行かなかったか?」

「布団ですか?」

「まあな。拙者の布団が誰かに持って行かれてな。」

 半蔵は半笑いで答えている。後ろの警備達は焦っているが、ここは半蔵に任せるのが一番だと。誰もが分かっていた。

「そう言えば子供達が・・・布団を抱えて・・・外に持って行きましたよ。」

「外に・・・。」

 半蔵は手を挙げる。警備の者達も意味が理解できたようだ。すっと分かれて走っていった。

「子供達が何で拙者の、布団を持って行くんだ?」

「さあ。分かりません。今年・・・寒いから・・・知らないで持って行ったんじゃないんですか?」

「そうか・・・きつく・・・しかっておかないとな。」

 そう言うと半蔵はゆっくりと周囲を見渡す。

「ですね。お願いしますね。」

「わかった。」

 そう言うと半蔵は少し頭を抱え、外に歩いていった。危惧していた事が当たったのだが・・・もっと問題は金髪がばれた時だ。半蔵は焦って外から周囲を見る。

「儂が・・・手伝おうか?役に立つ事もあろうに。」

 半蔵が横を見ると・・・”お頭”が不安そうに見つめる。流石に総代は来ていないようだ。

「いや・・・ここは勝手知ったる地元ですぞ。」

「だったな。」

 老人の皮肉めいた笑いがあるが・・・実は半蔵にも焦りがある。

「でもまあ・・・拙者も行ってきます。待っているのは性に合いません。」

「だろうな。儂はあの男と戯れいているようにしよう。」

 そういうと”お頭”は家の中へ戻っていってしまった。


「おめえ・・・そろそろ・・・オラたちにわびを・・・何だっけ?」

 少年がソラの顔をじっと睨みつける。今まで胴体ばかりを狙われなぐられ続けたせいか・・・人にじっとり汗がにじむ。

「でも・・・どうする・・・これ・・・。」

 気が晴れてきて冷静になってきた一人、怖い・・・いや・・・汚い物を見るようにソラを見る。

「いやあ・・・連れ出したのばれたら・・・。」

「いや・・・こいつが見つからなければいいんだ。」

 流石に聞きにくいのもの会ったが流石にソラは焦ってきた。今まで何も言わずに耐えていれば逆鱗に触れず、生きて帰れるかと思ったが・・・これはまずい。だが・・・どうする・・・。

「あ・・・こいつ・・・。」

 誰か一人が、ソラの頭を指さしていた。ソラは上を見ようとするが・・・布団で自由がきかず・・・。

「ァ・・・ァ・・・おめえ・・・何だ?」

 子供達の間に動揺が走る。彼らの視線は上にあった。そう言えばかなり体が熱い。汗もかいている・・・そう言えば・・・炭で色つけしているだけだから・・・。色が抜けてきたのか・・・。これは・・・もっとまずい!

「妖怪か?おめえ。」

「いや・・・だとしても・・・だとしても・・・こうして縛ってあれば・・・怖くない。」

 そう言って、少年のリーダーがソラに近づく。こんな所で死ぬ為に・・・こんな所で死ぬ為に生きてきたんじゃない。お・・・やも・・・。こんな事の為に生かしてくれたんじゃない!

”ふざけるな!ぶっ殺す!”

 ソラの叫び声が聞こえる。だがその声はその場にいた誰もが理解できなかった。口走ったのは母国の言葉だった。

”お前らに殺される為にここまで来たんじゃない!”

「な・・・何だ!」

 子供達の驚く声が・・・木々に響いていく。

「いたぞ!」

 知らない人間の・・・声がする。

「あ・・・やべえ!」

 子供達が慌てていた。だがそれ以上に大人達も慌てていた。

「どうする・・・どうする!」

「逃げる・・・!」

 その声を上げ、逃げようとする子供達・・・。ソラはやっと生きて帰れそうな・・・気がした。

「隠せ!」

 その言葉とともに・・・リーダーの男子はソラの体を思いっきりけっ飛ばし・・・谷底に転がっていった。ソラは思いもしないが・・・位置的にどういう事が起こるのか・・・想像は付く。すぐ側は・・・谷底・・・。こんな事で!死ねるか!思った通りに倒れるだけかと思ったら落ちる時間が長い・・ふとさっきの谷底の画像が頭に浮かぶ。丁度近くに出っ張った木がある。思いっきり布団の中でもがき思いっきりエビぞりする。普通なら安全の為に丸めるべきだが・・・。無理矢理反ると案の定幹に体がぶち当たり・・・布団を固めていた縄にひっかかる。よし!ぎりぎりで踏みとどまってはいる。その隙に上を見るが、この様子を見ている子供達はいなかった。下を見ると、木々が結構鬱そうとしていて、徐々に引っかかって落ちれば・・・どうにかなりそうだ。

「お前ら!ソラを見かけなかったか?」

「いや・・・しらねえ・・・。」

 上から声が聞こえる。どうも捜索隊が来たようだが・・・。

「じゃあ・・・布団はおめえらか?」

「いや・・・オラ達じゃあ。」

「あ・・・半蔵様。」

「お前達・・・・本当に知らないのか?」

 半蔵の声が聞こえるが、ソラは声を上げようとするが、この均衡を保つ為には・・・大きな声が出ない。

「あ・・・ああ・・・。」

「お前達・・・この木の棒は何をしていた。」

「いや・・・稽古で・・・。」

「お前達。」

「は。」

「この子らと布団を持った犯人達を探せ。行け!」

「は!」

 数人の足音がソラから聞こえる。

「オラ達も・・・。」

「お前達もだ・・・。」

「だけど・・・。」

「行け!」

 半蔵の強い声に更に数人が去っていくのが聞こえる。しばらく・・・音が聞こえなくなった。何となく・・・もう見捨てられた気がした。それからしばらく静寂が訪れた。引っかかっている為に動く事も出来ない・・・どうしようもない。叫べるようなら叫んでいた。

「やはりか。」

 ソラは不意に横から声が聞こえると、体が少し浮き、坂に落ちない安定した所に横倒しで置かれている。その振動からこれが人の手である事が分かる。少し、涙で顔がゆるむ。

「半蔵・・・。」

「すまないな。里の物が無礼をした。」

 そう半蔵の謝る声が聞こえると布団の紐がほどかれていく。しばらくすると布団がほどけ、汗ばんだソラの体が冬の寒さに流れ込む。ソラの顔に・・・新派して泣きそうな半蔵の顔があった。安心した。

「・・・死ぬと・・・思った。」

「本当にすまない。立てるか・・・。」

 他党とするが、布団越しにぼこぼこになぐられた衝撃なのか・・・体が動かない。半蔵は、無言でそれを悟るとソラを背負い、布団を縄で縛り、持ち手を作る。

「行こうか・・・。」

「あの子達は?」

「後で厳しく叱っておく。今はお前が大切だ。」

「ごめん。」

 半蔵は崖上に布団を投げつけ・・・ソラを担いで崖上にはい上がる。そこにはもう誰もいない。

「謝るのは拙者だ。」

「でも・・・。」

「お披露目は無しだ。この様子ではな。」

「そう・・・。」

 半蔵の邪魔をしたようでソラはがっくりと肩を落とす。

「でも・・・あの子達・・・何で。」

「それは拙者には分からん。」

「そう。」

「髪の毛・・・どうしよう。」

「髪の毛・・・。仕方ないな。慌てていて拙者は流石に炭を持ってくるのまでは忘れていた。」

「そう。」

「でも・・・お主は拙者が守ってやる。安心しろ。」

 その言葉を聞いた時ふと・・・今までの旅を思い出す。こんなにも・・・・人に背負われていたのは・・・初めてだった。背中の汗ばんだ背中は熱く・・・暖かかった。そう感じた瞬間・・・・ソラの意識はなくなっていた。

「寝たのか・・・だろうな。」

「半蔵様!」

 その声に半蔵が後ろを見ると、警備の男が慌ててやってくる。

「これ・・・頼めるか?重くてな。」

「あ・・・はい。」

 そう言い、棒でなぐられぼろぼろになった布団を警備に手渡したのだった。




いつにも増して短くてすいません。

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