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異聞 真田信繁伝  作者: どたぬき
第一節1614年二月
28/30

外伝2-6 伊賀の里の”道”

凛と分かれた半蔵一行は仕事がある地、里である”伊賀”の里へ歩みを進める。そこで待っているのは・・・

外伝2-6 伊賀の里の”道”


「何か・・・最近宿・・・多いね。」

 夜の食事も終えたソラは、箸の具合を確認していた。少し堅めの木材を用いた専用の箸で、半蔵に京で買って貰っていた。

「この辺りで野宿すれば要らぬ戦いをする事になろう。お主も夜盗には襲われたくはあるまい。」

「そうだけど。」

 先の西日本の旅とは違い、ここ数日は宿屋に泊まるスローペースな旅だった。と言うよりも早めに宿を半蔵が取る日々である。

「足・・・どうだ?」

「足・・・?良い感じ。」

 ソラはそう言って足を伸ばして振るわせてみる。

「怪我している時に、無理をすれば後でつけを払う。お主の足を潰したくて旅行している訳じゃない。」

 半蔵は最後に残った漬け物を良く噛んで食べていた。酒は・・・あるが飲んでいる量も少なめである。

「そこまで気を使う・・・。」

「・・・いいんだ。無茶させすぎたからな・・・それに・・・。」

「それに?」

「明日からはかなり厳しい山越えになる。今の内に休んでおけ。」

「はい。」

 そう言うとソラは箸を置いてごろりと畳の上で、寝転がる。最近はもう・・・畳や靴を脱ぐのも慣れているようだった。大阪では貿易船が来て、物を売っているだけの事があり、舶来物に対する抵抗はほぼ無い為、怪しまれ無いのも宿泊できる理由だ。変に田舎では宿泊したら、村の者に珍しいと盗難されたり、襲撃されかねない為、怖くておちおち泊まる事も出来なかった。だから宿に泊まる事も出来なかった。

「でも・・・これからどこに行くの?山って・・・。」

「拙者の里だ。久しぶりに帰るので、少し期待はしている。」

「里?」

「生まれ育った所だ。かなり・・・山奥にある。」

 半蔵は宿から見える暗い・・・暗闇の向こうを見つめる。明るければ山々が見えただろうが・・・

「そうなんだ。」

「今日は・・・早く寝ろ。」

「ハイ。ダー。」

 そう言うと、ソラは周囲を見渡す。それを見た半蔵が、ふすまを見つけ、布団を自分で敷き始める。風呂は多くの宿に無く、ここ数日は風呂なしで、自分で布団を敷いていた。只、食事は部屋の外に勝たず蹴るようにしていた為、ソラが、こちらの様子を見ると自発的に食器を部屋の外に出していた。

「結構慣れたな。」

 つぶやくように半蔵が言った。

「そう?」

 ソラは不思議そうな顔でソラを見つめる。実際順応は速く、食事前に手を合わせる事も、もう慣れている。子供とはやはり順応が速く、成長も早い。それを実感してしまう。

「どうだ。この国は。」

「かなり・・・気持ちいい。」

「そうか。」

「だって・・・ここには荒野も、夜盗も、掃討者もいない。」

「夜盗はまだいるぞ。だが・・・少なくはなった。」

 実際戦国中期等を汁彼からすれば、宿屋が増えた昨今でさえ奇跡的に見える。昔は宿などの外から来たものを泊める施設を探すだけでも骨が折れたものだ。

「でも・・・こういう・・・陸も悪くない。」

「それをこれから後悔する事になるぞ。」

 それを明日・・・嫌という程痛感する事になるのを・・・半蔵は覚悟していた。


 伊賀の里、半蔵の生まれ故郷にして、屈指の忍者の里にして軍事山脈都市である。現在の里の人数自体は少ないが、一時は全国か各地から集められた有力子女を集め、それ忍術などを教えたり教育を施し、有能な仕官や密偵として各地に派遣し、その実情の細かい所を把握して、それを主君に伝える事を目的とした忍者帝国の中枢でもある。その警備のきつさなどに置いても、他国に比類が無く、里に入る前に普通の人間は死んでいるとされすらいる。当然、戦国が終わった今でもそれは伝統的に続いている。

「は・・・はぁ・・・。」

 息をするのさえきつく・・・恨めしい視線で斜面をソラは見つめる。

「だから言った。」

 半蔵は慣れたように坂の上を見つめる。まだ・・・もう少しかかりそうだ。

「でも・・・これは・・・・。」

 今までの旅はなんだかんだ言っても、街道を歩いてきた。だか今度は街道の途中から、獣道に入り・・・もう半日は歩いている。しかも斜面は急で時々獣の遠吠えも聞こえる。こう見えて都会育ちのソラにとって森とは、異世界であり・・・入った事はなかった。今までの街道を疾走した二週間が楽に見える程に・・・この斜面はきつかった。体を無理矢理起こして足を上げ、一歩一歩を歩く。

「・・・少し待て。」

 半蔵が手でソラの動きを制する。

「ど・・・どうし・・・。」

 ソラの言葉を、手を口に当て手で止めて半蔵は周囲を見渡す。半蔵の顔はいつになく真剣だ。

「そろそろの頃だ。」

 その言葉に不思議そうにソラは周囲を見つめる。半蔵はしゃがみ込むと地面沿いに這うように・・・舐めるように地面の隅々を見つめる。

「・・・どうしたの?」

「やはり・・・今回はかない厳重な作りだ。だが・・・いや・・・おもしろい。」

 半蔵が何時にない・・・悪人相に見える顔でにやにやし始める。

「どうしたの?」

「そこ。」

 そう言うと半蔵はしゃがみ込んで下を除く。それに合わせてソラが、地面を見るとそこには不思議と宙に浮いた緑色の物体が・・・草むらの下に横に一直線に走っていた。先に何があるのか・・・分からなかった。半蔵は顔を上がると、周囲を見渡す。だがそれらしいものは見あたらない。

「これは?」

「罠だ。人が来た時に何かをする・・・少し試してみるか。」

 そう言うと半蔵は腰の刀を抜く。普通なら飛び越えればいいのだが、それをした所でこういうのはその先を見越した罠が張ってあるのが普通だ。先に近くの草を払ってその罠を日の下に晒す。それは確かに空中に浮いて保護色で見辛いが・・・縄に草で色を付けてある。その為、空中に緑色が浮いているように見えたのだ。この縄に呼び子が付けてあれば呼び子が鳴るが、何かが作動する罠の可能性もある。だからうかつにさわれば死ぬ可能性さえある。刀を大きく振りかぶると、半蔵は一気に引ききり、その縄を断つ。その瞬間期の隣で大きな落下音が響く。ソラが驚いてそっちを見ると大きな丸太が二つ、転がって斜面を落ちていった。

「やはり・・・致死罠か。」

 半蔵は渋い顔をする。その音と落ちたものの大きさにソラは怯えたように周囲を見つめる。

「まだ里まで時間があるが・・・今年の罠担当は流石にきつい事をする。」

 半蔵は周囲を眺める。

「まだ一里程もあるのにこれでは、里に帰るものさえ殺すぞ・・・これは・・・。」

 半蔵はしゃがんでソラの顔を見つめる。泣きそうな顔で字と半蔵を見つめる。

「こういうの・・・いっぱいあるの?」

「だろうな。」

 半蔵は呆れた顔で周囲を見渡す。外見だけなら深い山だが、こういう致死の罠があると分かればその茂み一つでも怖くなる。半蔵はソラを抱えると、じっと見つめる。

「少し早いが・・・少し仕度するぞ。」

「?」

 そう言うと半蔵は懐から炭を取り出すと、笠を外しソラの髪の毛にべたべた付け始める。

「どう・・・したの?」

「向こうでは流石に笠を付けて生活は出来ん。かといってその髪では・・・入る前に殺される可能性がある。だから最初だけでも、これでごまかす。」

 その言葉にソラはさっきの丸太を思い出す。あんな風になりたくない。

「それで・・・大丈夫なの?」

「でなくともどうにかする。」

 その言葉に更にソラは不安になる。一体どんな所に行こうというのか・・・半蔵は。そう言えば生まれ故郷とか・・・どんな所だ、殺されそうな故郷とは・・・。考えるだけで体の震えが止まらない。

「でも・・・。」

「拙者が守る。」

 厳しい顔で半蔵は髪が黒く染まったソラを見つめる。

「どんな故郷なの?そんな・・・人殺しみたいな・・・。」

 ソラの半眼・・・いや、呆れた顔が半蔵を見つめる。怖さを通り越して呆れてしまった。

「まあ・・・半分合っているんだこれが。」

 ソラの呆れ顔を見て・・・更に呆れ顔で半蔵は見つめる。

「戦争でな・・・人殺しの研究を行っている・・・場所だ。」

 実際、様々な生活の知恵があり、人殺しだけではないのだが、そう言う研究も盛んである為、半蔵は皮肉でこう言った。

「え・・・本当なの?」

 ソラも皮肉で言ったはずが、本当だと知り、下に転がっていった丸太を見る。下に転がっていった丸太は・・・かなりの大きさで、人がその直撃を食らえば、大人でも鎧を着た者でも死亡しそうな大きさである。

「だから、これからは・・・。」

 半蔵はソラを抱え、肩車する。足が痛かった頃と同じだ。

「少しの間これで行くが・・・一つ注意がある。”馬殺し”がある可能性がある。頭だけは低くしておけ。」

 ”馬殺し”戦国から流行っている罠の一つで、馬に乗った人間の首の高さに縄を張り、馬上の人間を落とす罠である。西洋でも用いられているが、その頻度は忍者部隊の方が圧倒的に多い。馬の高さが低く、山地を掛ける馬がある日本では肩車した少年の顔の高さぐらいであり、丁度の高さになる。

「分かった。」

 そうソラが首をコクコクと早く頷くのを確認すると、半蔵はしたに注意しながら歩き始める。まだここから一刻(二時間)ほども歩く必要があるのだ。罠に気取られるわけにも行かない。


「大丈夫?半蔵。」

 ソラが下に気を使うと半蔵は黙って頷いていた。実際半蔵は上に下に、最大限の警戒をしてここまで来たのだ。普通なら一刻の所を更に時間を掛けて一刻半以上を駆けてやっとここまで来たのだ。

「大丈夫だ。」

 半蔵は息を整えると、眼下に見下ろす少し小さな里を見つめる。多くの屋敷があるが、どこの山の里とも一緒のような、里である。周囲には田畑もあり、幾つかの人は働いて、クワを握っていた。だが雪も多く、雪をかき分ける必要もある為、はかどっている事もなかった。

「懐かしい。」

 半蔵が感動したように里を見つめる。ソラにとっても田舎の”里”は初めてである。

「そうなの?」

 確かに建物の高さや位置は違うが・・・似たような建物ばかりである。只幾つかの建物が大きくなっているだけである。

「拙者の生まれ育った所だ。お主も昔遊んだ所は懐かしかろう。」

「・・・うーん。確かに。」

 まだ幼いソラにとってその感覚は薄かった。確かに今故郷に行けば懐かしいかもしれないが、それ以上の記憶もあり、それ以上を感じなかった。

「拙者はこの地で数十年は生きていた。」

「そうなんだ。」

「まあ・・・帰ってくるのが少し少ない外出組だったがな。」

 当時忍者は戦闘などの戦争招集がかかるまでの間、二通りのタイプがいた。一つは外出組、外に出て諜報活動などを行う専門の人間である。もう一つは開発班である。外出組が仕事を終えて帰ってきた時に聞いた事等や実践での使用感覚を聞き出し、それを次の防具や武器などの開発に生かす、特殊工作班である。特に里に残っているのは開発班である。

「外出?」

「良く出掛けてな・・・おっかあには迷惑を掛けた。」

「そんなに?」

「よく年末に帰れなくてな。心配駆けた。」

「そうなんだ。」

 ソラは感心したように里を見渡す。

「さて・・・そろそろ迎えを寄こさせるか。」

 そう言うと、半蔵は近くの草むらに足を突っ込む。

カラカラカラ

 木が打ち鳴らされる音がする。それとともに・・・半蔵は少し下がって、広い空間がある所に下がる。

「迎えなんて来るの?」

「来なければさぼっていると言う事だ。」

 半蔵はさも当たり前のように言うが、半蔵の警戒の色は濃い。しばらくすると風を切る音が聞こえる。それに合わせ体を翻すと、ソラの頬にうっすらと傷が付く。

「止めろ!」

 近くの草むらから声が聞こえる。その声に振り向くと・・・いや・・・もう数人の覆面に半蔵が取り囲まれていた。中央の男が一歩前に出る。

「お帰りなさいませ。」

「久しいな。」

 中央の男の言葉に周囲がざわついている。無論あまりの事に、ソラは更に唖然としている。

「え・・・この人は・・・。」

 後ろの方からも声は聞こえるが・・・ソラが振り向いても、その姿は見えなかった。

「半蔵様。」

 中央の男が片膝を付こうとするのを手に止め、ソラを肩車から降ろす。

「来るとは連絡が行っていただろうに。」

「はい。」

 その中央の男は背を向けるとすたすたと歩き始める。

「そう言えば・・・。」

 半蔵がソラの手を引き、連れて歩く。その様子を周囲が・・・ソラは後ろを見て驚いてしまう。数人かと思った数はいつの間にか十数名まで増加しており・・・その一部は着ている衣類が草色の為・・・目線以外では区別が付かない。前を向くと半蔵が渋い顔をしていた。

「今年の罠担当はどうなった。」

「今年ですか、猪丸ですが?」

「いつも言っておるだろうに・・・捕虜を取るようにと。」

「え?今年は流石に外敵などいないので、警戒してはいませんでしたが。」

 半蔵達の会話は続く。

「殺しの罠の数が多すぎる。また近隣の見合い相手とか帰郷者を罠で殺しかねんぞ。」

「そうでしたか・・・注意しておきます。」

 しばらくして獣道に入り、道に入り、そして村の入り口に入った。そこは日本人が見れば普通の里ではあるが・・・ソラにとっては雪に囲まれた里で、屋根のふさふさ具合が珍しい・・・建物ばかりである。半蔵と中央の男からなる十数名がが列となり、まるで行進みたいにある建物に入っていった。そこはソラが見ても少し大きい、建物だが・・・そこには老人が数名立って向かえていた。

「久しいな。半蔵。」

 その声に半蔵はソラの頭を抑え、お辞儀をさせる。ソラは旅中何度かこういう場面にあっている為、一緒に頭を下げる。

「お久しぶりです。」

「すまないな。呼び出して。」

「いえ。こたびは会議と・・・。」

「この子は?」

「ハイ。丁度この子は旅の道中拾った子で、それはもう。」

「程々にな。お主の拾い子のクセはまだ抜けぬか?」

 真ん中の男が手招きすると、ソラは怖がって半蔵の足に抱きつく。

「・・・まあいい。会議には連れて行けぬからな。」

 老人が何か察したように半蔵を見つめる。

「でも・・・今回はどのような事で。」

「まあ・・・あいつは・・・来るか?」

 老人の手招きで半蔵が動き出すと、それに合わせて後ろの忍者達も付いていこうとする。

”あれが・・・伝説の半蔵様。”

”あれが・・・意外と・・・。”

「お前達は警備に戻っておれ。」

 その言葉にしばらく付いていこうとするが・・・老人達の人睨みに・・・各人はしぶしぶ・・・そこに留まっていた。

「結構経ちましたな。」

 半蔵は少し後ろを振り返ると忍者達の様子を見つめる。まだ若い。彼からすれば少年達が大半である。

「向こうの設営以来、こちらには人がおらんでの。さみし限りだ。」

 向こうとはお庭番設立以来、数多くの意が忍者や各地の忍者がお庭番として使えた為、仕事がある向こうに大人達の半数以上が行ってしまい、本拠地すら移していた。その為この地に残っているのは、忍者達の家族と言っても。女性も訓練を受ければ大半以上は旅立ってしまうので、適正がない者達やその家族などが多い。それでもここは伊賀の里として昨日しており、いまだ数多くの密会を行う秘境として機能していた。

「そうでしたか・・・で・・・今回は・・・。」

「妖怪衆と・・・神道衆と・・・後・・・私らじゃ。」

「ですな。」

 会議は定期的に行われているが、その多くは彼ら退役忍者達で構成される”相談衆”が代理に行っている。

「でも・・・どうして今回は招集成されたのです?」

「妖怪衆がな・・・今回ばかりは頭領か半蔵をと言いおってな。」

 この頃でも今での一緒ではあるが、信頼は顔や人物である事が多い。その為か、本人がでないと始まらない会議は往々にしてある。当時は顔の信頼だけで契約が成り立つ事もあり、代継ぎの等の儀式はとても重要視された。

「それは・・・ご苦労さないました。」

「分かってはおるが・・・辛いものがある。で・・・。」

 老人達がふすまを開けると、そこにはいろりがあり、そこに炭で火が焚いてあった。老人達は何を言うまでもなく、自分たちの席に座る。半蔵も合わせて、席に座る。ソラは・・・そっと無言で半蔵の横に座った。老人達はじっと・・・ソラを見つめる。その視線にソラは怯えたように半蔵の後ろにそっと隠れようとした。

「その子・・・見かけぬ顔だな。」

「それは・・・。」

 老人の一人は席を立って間近でソラの顔を見る。

「東北の者とも違う・・・これは・・・外国の者か。」

「そうですね。ポルトガルとか言う・・・。」

 その言葉に老人達は立ち上がり、ソラを間近で見つめる。その行為にソラは怯えて、硬直していた。半蔵は側で寄りかかるソラの髪の毛の一部を指で擦る。すると金髪がすこし見え隠れする。その様子をじっと老人達は見つめる。

「これは・・・。」

 ソラはその様子を汚い物を見るような目で見ていたが、半蔵は平然とした顔で、見ていた。

「金髪でござるが・・・余り・・・じろじろ見なさんな。向こうではこれが普通だそうで。」

「え・・・そうなのか。」

 老人達はしばらく・・・ひとしきり見つめた後、各々の席に戻る。

「この子はどうするつもりだ。」

「拙者が連れて一緒に行こうかと。せっかくの旅ですからな。これぐらいの連れがいないと。」

「そうか・・・。」

 少し残念そうに老人達はソラを見つめる。その視線の意味をソラはまだ分からなかった。

「でもまあ・・・しばらくは忙しそうですが・・・しばらくはここに滞在ですな。」

「明日ぐらいに・・・じいさんと、神道の長が着くという。お主の来た時期が丁度よかった。」

「それは幸運な事で。」

 当時の会議というと、集まる時間が日単位でずれる為、会議と言ってから集まり、集まったら話をするのが普通で、日程を決めない方が普通であった。また日程を決める時は、その日までに到着しない時は、勝手に始めるという決まりだけで、日程よりも先に会議が行われる事も多かった。それぐらい時間にルーズな時代でもあった。

「付きの者が・・・。」

「ああ。連絡が来ておる。」

「それはよかった。今回は早く終わりそうだ。」

 昔、この地で会議を行う時に・・・半蔵は一ヶ月以上接待した時もあった。その為か、会議に良い印象がないのが事実でもあった。

「今日は休んで補充でもしていってくれ。お主には迷惑かけるな。」

「いえ。あなた方がいてこそ。」

 実際、彼は主君を失い、自由のみでもあるし、それに彼をとらえれるだけの実力も知識もない為、実際抑えられるだけの人間はいなかったのも事実である。だがこうして、里の用であれば来てくれるだけ、彼は里を重要に考えていたのも事実だ。

「それで・・・当主殿はこちらへ?」

「いや・・・連絡はまだ無い。」

 老人達は渋い顔をする。思い立ったように、いろりに下げてあったヤカンを外すと、手元に寄せ、自分たちの湯飲みに湯を注ぐ。半蔵はじっとその様子を見つめていた。

「そうだ。実家はまだ・・・」

「ああ。別の者が住んでいる。」

 半蔵も流石に半眼となる。昔から住んでいる家はあるが、当主となった時にこの当主館に席を移し、拠点が移ってからは・・・半蔵は帰ってきていないので、その実情は知らなかったが・・・確かに家を新しく建てるよりかは誰かに住ませた方が活用は出来る。だが・・・感傷に浸る事さえ出来ない自身が悲しかった。

「ではどこで。」

「お主達はここで泊まっていけ。子供達はお主の話を聞きたがっておるぞ。きっと。」

 相談衆達があごで、ふすまを指すとそこには黒い・・・人だかりが障子からも伺えた。

「ですな。では・・・向こうで話を・・・」

 半蔵がわざと後ろを向くそぶりをすると、その黒い人だかりはさっと離れ、いつもの白い障子に戻っていた。少し前からその様子を見ていたソラには少し・・・おかしく見えた。


「で・・・これからどうするの?」

 半蔵達と別室に移り、半蔵と客間の囲炉裏をソラは一緒に囲んでいた。炭が使われており、煙は薄く・・・上に消えていった。まだ子供達の気配・・・いや・・・人だかりが消える事がない。それは半蔵も・・・ソラも分かっていた

「まあ・・・会議が終わるまではここにいなければなるまい。」

「会議って?」

「代表が集まり合って決めごとをする。まあ一年ないし二年に一度行うのだが・・・。」

 今年は特に戦が終わった直後などのため、決め事が多く会議が必須なのは半蔵でも分かっている。しかも妖怪衆は動員できないはずの人員を動員した為、報酬などの結果を聞かねばならない立場上では必須でもあるし、責務だと半蔵自身感じていた。

「代表って・・・お偉いさん?」

「まあ・・・そうだな。」

「お偉いさんって・・・王様とか?」

「王様?・・・長なのは確実だな。」

「そんな凄いの?半蔵って。」

 その言葉に反応してふすまが勢い良く開くと今まで覆面だった少年達が覆面を脱ぎ、顔を真っ赤にしてソラに詰め寄る。

「お前・・・ほんとに・・・半蔵様の何だ!」

「え・・・え?」

 ソラはあまりに突然の事に周囲を見渡すが、勢いで数人の少年がソラを取り囲む。。

「な・・・何?・・・何って・・・。」

「おめえ・・・半蔵様の何だ!場合に寄っちゃあ・・・。」

 ソラがあまりの事に唖然とする中、さっきだった少年達がソラを睨みつける。

「お前達!」

 あまりの事に半蔵が一喝する。その言葉に少年達は半蔵の方を向く。

「・・・。」

「お前達が詮議する事ではない!それに・・・。」

 その厳しい言葉に半蔵は

「それでは・・・お主らは何の為にここにいる!見張りではないのか!」

「あ・・・いや・・・。」

 そう言うと少年達農地の数人がは何かに気が付き、正座する。それを見た周りの者も正座する。

「お前達。忍者たる者・・・・常に”冷静沈着であれ”とは言うよな。それをこの様にすれば、成功する任務も失敗する。分かるな。」

「はい!」

 少年達は返事を大声でする。その様子をソラは・・・何事か分からぬまま見つめていた。

「常に我慢し・・・冷静に事を運ばねば、死ぬのは己か味方か仲間か家族ぞ!分かったな!」

「は!」

「それが分かったら持ち場に戻ると良い。食事が終わったらお主らに土産話がある。今夜は、色々あるからな。」

「は・・・ハイ!」

 最後の方ににやりと笑みを浮かべる半蔵に、少年達は大きく頷き、立ち上がると、駆け出すように部屋を出て行った。

「凄いね。半蔵。」

 あまりの事に唖然としていた。偉いとは聞いていたがここまで凄い人だと・・・ソラは思った事がなかった。それに偉い人がどういう感じの人か・・・まだ良くソラは分かっていなかった。

「まあな。あの子達はこの里で育ち、外の話を数少ない大人が一人帰るたびに聞かされて育つ。その話がここでの唯一の娯楽だ。この地には・・・」

 そう言って半蔵はふすまを開け、外を見る。今はほとんど雪で閉ざされ、人の出入りさえままならない。

「冬も修行で駆け回る事があっても娯楽が少ない。」

 その言葉にふとソラは・・・昔一年に一度来る吟遊詩人の事を思い出した。あの人は村長の家で、いろんな話をしてくれたっけ。それで村長がうれしがって食事を出していたのを思い出す。リスボンやアムステルダムでも劇場があり、野外劇場でお菓子片手に劇を見た事があったっけ。確かにそれっぽい物はここにはない。

「そうなんだ。」

「これはどこの里も一緒だ・・・とも言いたいが他の里ではこうやって大人が外に出る事は少ない。だから尚更この子達は楽しみにしている。」

「そうなんだ。」

 昔・・・吟遊詩人を待ってわくわくして村の外で待っていたのと同じ感じなんだ。あの少年と言ってもソラよりもずいぶん大きい子達が多かったが・・・それをソラは思い出す。

「だから尚更・・・すまないな。ソラ。」

「ううん。」

 ソラは首を横に振る。よくよく考えてみれば・・・彼らの考えが分からないわけでもない・・・そう・・・感じていた。

「そうだ・・・明日は忙しくなるから・・・。」

 半蔵は近くの座布団に座ると囲炉裏の前に座る。ソラもそれに合わせて座る。もう静かになった二人の間には炭が熱く・・・灯っていた。

「今日のうちに明日の事を言っておく。」

「うん。」

「明日・・・拙者は会議でお主を置いておかなくてはならない。仕事でな。」

「うん。」

「でだ。お主は明日一日はここで・・・この部屋でじっとしておいて欲しい。」

「うん。」

 ソラは頷いた。こういう経験は父親の時にも経験していた。

「あの子らに世話を頼もうかと思ったが・・・あの様子では無理であろう。」

 ソラの髪の毛を黒く染めさせていたのは・・・実は子供対策の為でもある。変に目立てば、それだけでいじめに遭い、下手すれば・・・と言う事も考えられた。また・・・見張りの部隊に髪の毛の色だけでも殺されかねなかった。実際村に入る前の時にソラに向かって苦無いは飛んでいた。その為に田舎気質もあり、ある意味・・・外よりも里にいるほうが警戒を強めていた。実際イジメを警戒するのは田舎気質だけが問題でないのは・・・彼自身もっとも知っている事だった。

「大丈夫だと思うけど。」

「外の者と言うだけで珍しいのに・・・それに会議後にお主を呼んで髪をミセルは目になるやもしれない。」

「・・・何か・・・ピエロだね?」

 ソラの少し疲れた顔で、サーカスの事を思い出す。

「ピエロ?」

「道化さ。」

「道化がどういう者か分からぬが・・・見せ物なのはすまない。この国でお主のような人間は少ないのだ。」

 確かに今までであった日本人で金髪の人はいなかった。珍しいのも分かる。だけどこれはこれで・・・辛かった。

「今日は・・・里の衆に夕飯の後、外の話や戦などを聞かせねばならない。一緒に聞くか?」

 ソラにとってこの時、一人でここに籠もりたかった。だけど・・・。

グゥゥゥゥゥ・・・・。

 ソラのお腹が鳴ってしまう。

「そうだな。一緒に飯を食うか。」

 その言葉にソラは黙って縦に頷いた。


「その時だ!敵の罠をこう・・・ざっとかわして・・・屋根に上ったんだ。」

 半蔵は子供達にわかりやすいように先の戦いの話を大げさに振りを入れて話していた。その半蔵の顔を照らす明かりのすぐ上には鍋が掲げられ、その中身はもう無かった。ほく時は終わり、子供達待望の時間である。その様子を遠巻きでソラは見つめていた。丁度ソラからはその聞き入っている里の子供達の輝いている目を・・・冷めた目つきで見ていた。

「お主・・・興味がないのか?」

 その言葉に隣を見ると、相談衆の一人・・・半蔵とよく話していた中心人物の男が隣に座る。

「そう言う訳じゃないけど。」

「そうか?・・・お主・・・悔しいんじゃろ。」

 じいさんはソラの顔を意地悪そうな・・・少し歪んだ笑みで見つめる。

「悔しい?」

「悔しい。そう言えば・・・お主、半蔵とは二人でここまで来たか?」

「う・・・あ・・・うん。」

 何で分かったんだろうという顔で、ソラは慌てて頷いた。

「だろうな。」

「と言うと?」

「今まで一緒の人間がああやって輝くのを見ると・・・輝いて・・・他人に関わっているのを見ると・・・人間誰しもが悔しいものだ。」

「そうなの?」

「儂もそうだった。」

 老人は半蔵を・・・何か遠い物を見るような哀愁とも郷愁とも採れない目つきで見つめる。

「儂は半蔵の生まれた頃には上忍だった。だがな・・・あいつが頭角を示すと、瞬く間にあいつは頭領まで上り詰めた。」

「頭領?」

 聞き慣れない言葉にソラは聞き返す。これも半蔵から教わった家でもある。

「頭領。長だ。」

 その言葉にソラは大きく頷いた。でも長なら・・・偉い筈なんだけど・・・。ソラには半蔵はそう外見上は見えなかった。もっとえばっているのが村長という者ではないのか?

「長になり、この里は発展もした。その上司だった私は戦で傷を負い・・・里を出る事も出来ず・・・。」

 そう言って相談衆の男は足を見つめる。そこには傷つき・・・もう走れなくなった足がそこにはあった。

「悔しかった。」

「そうなんだ。」

「でもな。そんなあいつを見ていて思ったんだ。」

 その時ソラが見た相談衆の顔は・・・憧れとも・・・憎しみでもない・・・もっと超越した何かに見えた。

「そんなあいつが好きだから・・・悔しく感じるんだ。」

「・・・。」

 ソラは言っている意味がよく分からなかった。好きだから悔しい。

「難しかったかな。お主がどう感じるか・・・分からぬが・・・いつか分かる。」

 そう言う老人の顔をじっと半蔵の語りが最高潮を向かえる中・・・。ソラは見つめていたのだった。



今回、少し体調が優れなかったため、遅れた事をここに謝罪致します。

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