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異聞 真田信繁伝  作者: どたぬき
第一節1614年二月
23/30

外伝2-1 ソラ

平戸の商館に呼び出された半蔵の目の前には・・・幹花よって逃がされた少年”ソラ”の姿があった・・・。

外伝2-1 ソラ


「この子です。」

 半分休暇をむさぼる・・・いや、報告書を届けつつ観光と俳句とうまい物巡りと、地酒探訪を楽しむ・・・いや、任務を忠実にこなす半蔵の元にある密使が舞い込んできた。急ぎの用と来てみれば・・・そこにはインドから来たという少年がじっと部屋の隅に縮こまっていた。半蔵は・・・じっと部下を見つめる。どうなっているのか知らないが・・・。

少年の目は怯えきっていた。

”お前・・・半蔵か?”

”そうだ。”

 半蔵は片言ながら答えてみせる。少年は半蔵の足下にじっとしがみつく。

”幹花が言っていた・・・。あんたなら信頼できる。”

”幹花・・・か・・・。”

 半蔵が、幼い頃から手を掛けてきたほぼ唯一の弟子であり、その全てを吸収してきた才女でもある。今は信頼できる信繁の元に送り込み、これからの未来を・・・託していた。

だが・・・この子は?

”幹花は言っていた。お前なら信頼できる。・・・これ。”

 そう言って大事そうに抱えていた二つの本と、一つの書状を半蔵に手渡す。

「・・・流石にこれは・・・。」

「今まで何回か手放すように命じてみたのですが。誰が言おうとも聞こうともしない上に、ヤン殿が止めるので・・・。」

 ヤンとは現在位置である平戸のオランダ商館主であるヤンである。どうも彼の親友にして日本との交渉を取り持ってくれた男の息子らしく・・・どうも、ヤン自身にも懐かない為・・・幹花の持ってきた書類が手に入らないでいた。その為、この少年がうわ言のように言っている呼ばれていた本人である半蔵がここに呼ばれたわけだ。

”少年、どこで幹花と会った?”

”アユタヤ。”

「書類を解析に回せ。鳥居殿とかの対外組が指針を決めよう。」

 そう言うと、書類を手に取り軽く見る。そこにはアユタヤに関して一ヶ月掛けて調べられた様々な情報が書かれた書面と、セイロン島に関する簡単な記述、国家間関係相関図などが載っている。これらは今後の日本の海洋戦術に置いてかなり有益な情報である。これらを元に江戸城の重臣一同が会議を行うのである。

「は。」

 そう言うと、部下が二つの書類を持っては知って外に出て行った。これから陸路で、江戸に運ぶ・・・長い旅になりそうだが・・・。そう思いつつ、近くに置かれた椅子に座り、書面を見つめる。少し眺めの挨拶が書かれ、気候に触れながらも純粋に風流な手紙であるが・・・全文を載せるのは話が長いのでかいつまんで記載する。

「半蔵様。この少年は、我らの船を救ってくれた恩人でもあるが・・・この先危険地帯を乗り越えていく為・・・この子の安全の為にもこの子の事をお願いします。」

 と書かれていた。その他は彼女が聞き出したというソラの生い立ちについて書かれていた。

「・・・おぬし・・・ソラか。」

”うん。”

「そうだな。幹花からよろしくとか言われると・・・。」

”日本語はしゃべれるか?”

”少し・・・教わった。ヤンからも少し・・・。”

 そろそろと、半蔵と向かい合う少し大きめの椅子によじ登ると半蔵と向かい合うように座る。

「半蔵・・・俺・・・。」

 ソラの言葉を聞き流して半蔵はじっと考えていた。今の状況はそれほど外国人に対して芳しい状況ではないからだ。大阪の役が終わって、その内情が・・・半蔵が書いた報告書で明らかになるにつれ、外国人と言うだけで差別する者が多くなってきていた。無論、内情は大阪の役に参加した兵士達から・・・事実だと伝わり、それが拍車を掛け、昔はキリシタン大名でも、今では弾圧側という大名さえ出てきたという微妙な情勢でもあった。江戸としては、貿易の利益は幕府の資金を支える重要な・・・いや、多くの日本の利益を支える重要な収入源である。だが・・・先日の大阪の役以来、貿易・・・いや、外国船に対する危険が散々訴えられてきた。だからこそ、排斥しようとする・・・東北勢やそれを無視して自国だけの利益の為に貿易に走ろうとする西国など、緊張には事欠かなかった。そのため、大名の一部は江戸城に登城し、現在でも口論が行われている最中である。特に現在無害だと思われる国の商館は、襲撃されたら戦争に発展しかねない為、こっそりと配置した忍者達で周りを囲んで警護している。只、この状況は一時的な物で、いつかは正式な配慮をしなくてはならない。この状況があったこそ真田信繁には、速く探索の旅に出したのである。報告結果次第では態度が変わるからである。だが、この報告書の中に、イギリス、オランダ、イスパニアに関する話・・・いや本国の位置や情勢に関する情報はない。それが・・・半蔵に焦りを浮かべさせる。いくら、忍者で囲んで暴徒を防ぐとはいえ、軍隊までは防げない。

「安心しろ。見捨てはしない。」

「見・・・捨て・・・?」

「助けてやると言う事だ。」

「わかった。」

 ソラは明るく頷いた。少年はにこにこと見つめる。・・・何か息子の事が思い浮かんでしまう。今、息子は江戸城で拙者の替わりに半蔵役をこなしている。いや、二代目当主の座だろう。私には少しつらいからな・・・。そんな息子の幼い頃を思い出す。

「・・・そうだな・・・。」

 ふと幹花の書面を見つめる。

「もしかしたら日本とオランダとの架け橋になるかもしれないから・・・日本の事を教えてはいかがでしょうか。」

 とも書かれていた。さすがは女子だ・・・。あそこまで厳しくしても・・・いや冷徹になってすらも・・・優しさがある。書面を見ると・・・最後には姉と妹への手紙がある。幹花は三人姉妹の次女である。三人の由来を聞くと涙が出そうだが・・・。彼はそれを全て知っている為に・・・少し不憫に感じる。その書面を懐に入れると、少し考えてみる。ちょうど現在報告書届けの旅は部下に任せた物のちょうど越後で地酒巡りをしていた最中で引き戻されたが・・・。

「そうだな。お前。」

「ソラだ。」

「・・・わかった。ソラ。」

「なに?」

「せっかくだ。一緒に旅でもするか?」

「どこへ?」

「いろんな所へだ。」

「え?」

「お前以外にもこの手紙・・・・。」

 そう言って先程しまった手紙を半蔵は取り出した。そこには三通の手紙がある。

「こいつは幹花の姉や妹への手紙だ。一緒に届けに行くか?」

「お・・・え・・・おう。」

 よくわからないままにソラは頷いた。それを見た半蔵は手を叩く。その音を聞いた近くの者が走ってくる。

「すまないが、この子の旅支度も頼む。服だけは・・・ここでないとな。」

「”も”ですか?」

「・・・”も”だ。」

「半蔵様・・・。奥様や、息子ど・・・いや頭領殿がずっと帰りを待ちわびていますぞ。せっかくですから、速くお帰りになれば。」

 流石の部下でも口答えはする。当時の忍者は上司の命令に対して何も反論しないイメージがあるが実際は鉄の掟はあってもある程度の軽口は、どの部下でも許された。只、殿の眼前などの公式の場では許されない・・・だけである。

「と言ってもな・・・。まあ・・・最後には寄るさ。」

「ですが・・・頭領殿は日々”半蔵様が・・・”とばかり・・・。」

 半蔵はじっと考えるが、どうも旅をしたりして動いているのが性に合うのか・・・。城の中で書面と向かい合うのは・・・どうも好きではない。官位を断ったのも、こうして手紙で指示するだけで、細かいのを部下達に任せるのも・・・こうしてフラフラするのが好きだからと言う事もある。これは・・・徳川家康も一緒で、また影の見回り番などの民を傷つける者や盗賊の情報などを集めたりする、”見廻り衆”制度の実施案をまとめる為の大綱を築いたのが半蔵でもある。よく家康様と一緒に視察の振りして京都に行って天ぷらとか、酒や菓子などを食べたりしたものだ。だからと言うわけでもないが・・・。そう言う生活の方が性に合っていた。だからかもしれないが・・・色々思い入れは深い。

「それは修行が足りないだけよ。それに・・・そうだな・・・あいつには後で寄るとだけ伝えてくれ。」

「・・・は。わかりました。」

 そう頷くと、元の部屋に戻っていった。

「おじさん・・・。」

「おじさんという言葉は知っているのか。」

 軽く半蔵は笑う。

「ぼくは・・・どう?」

「そうだな。大丈夫だ。」

 そう言うと半蔵は立ち上がり、頭をくしゃくしゃする。

「大丈夫?」

 そう聞くソラの不安な顔を見せて・・・幹花が言っていた”日本でもっとも偉い人”の顔を見つめていた。これが、半蔵とソラの出会いでもあった。


「でだ。」

「は。」

 半蔵は旅支度を確認する。昔みたいに重装備はしていなく、軽装にしていた。と言うのも人里を巡る旅であり、信繁達との旅みたいな山野を巡る旅ではない。美井には悪い事をしたが・・・。本来、子供と二人なら、人里とか移動を巡る旅で行くのが筋でもある。

「君も大丈夫かい?」

 そう言って日本人の通訳の男はソラの頭をなでる。当時、言語が出来る人間を急務で欲していた幕府は、武士にオランダ言を習わせる為、数多くの江戸でオランダ語を学ばせた人間を平戸に送り込んでいた。今後の展開次第では必要とされる人間だからだ。

「うん。」

 流石に”ハイ”と”いいえ”ぐらいは幹花もソラに教えてくれた。これは普通に助かる。

「拙者達は・・・陸路から京を目指す。」

 先日早馬で、幹花の書類を持った人間は行かせてある。だが、その馬の背に子供を乗せれば事故が怖い。そのため、徒歩で行く事にしている。そのついでに様々な視察も兼ねる予定であるが・・・本音を言えば、西日本の食の堪能をしたいというのが本音である。でもまあ・・・最初は太宰府天満宮か・・・?

「おじさん。」

 ソラが握った手をそのままに半蔵を見上げる。

「なんだ。」

「どこ行く?」

「そうだな・・・。」

 そう言うと半蔵はしゃがみ込む。あんまり周りに悟られたくはないが・・・だからといって嘘をつくのも嫌いだ。

「最初は福岡に行くぞ。近いからな。そこに行ってから、街道に乗って遊びに行こう。」

 その言葉にソラは明るく頷くが・・・周囲の人間は気が気ではない。当然である。確かに頭領が半蔵様の仕事をかたずけているとは言え・・・。その才覚は半蔵に及ぶ事はないと・・・皆は思っている。ある意味実力社会であるこの忍びの世界での実力者はそれだけで抑止力になる存在である。その代表格がこの”服部半蔵”である。その異名、実力ともに現在知られる伝説の中でも特別の者であるが・・・それをまだこの子は知らないだろう。見送る全ての人間は見ていた。

”せっかくだから、各地を見て回りなさい。”

”はい。”

”父さんからの連絡があればすぐにでも伝える。だから安心して行ってきなさい。”

”わかった。ヤンおじさん。”

 商館のオランダ人(25,6名)達とソラが楽しそうに離している。オランダ人の間でも、この半蔵と言う男の名前は流石に知られているだけに、不安はしていない。

「後・・・何かあったら頼む。」

「は。」

 その言葉に、後の配下達が一礼する。こうして半蔵とソラの西日本旅が始まったのであった。


少しリハビリもかねてこちらを書き進めて行く予定です。よろしくお願いします。

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