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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第15章

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回りすぎる町

馬車は、思ったよりも早く着いた。


「……うるせぇな」

ガルドが、窓の外を見ながら率直に言った。


朝だというのに、人の声が途切れない。

荷を運ぶ声、依頼内容を読み上げる声、金属音、馬のいななき。


「これは……」

レオルが目を輝かせる。

「ちゃんと町してますね」


「してるわね」

ミーナが淡々と頷く。

「判断が早い。人の流れも、情報の流れも」


ユウキは、何も言わずに外を見ていた。


門は高く、警備は簡素だが的確。

通行人は止められないが、視線は逃さない。


「無駄がない」

ユウキがぽつりと言った。

「止める判断も、通す判断も」


馬車が止まる前から、分かっていた。


この町は――

灰棚とは正反対だ。


降りると同時に、音が増える。


「次の依頼は三班!」

「素材搬入、裏口回して!」

「報告書、今ここで確認する!」


ギルドの建物は、外見こそ普通だが、

中は完全に“稼働中”だった。


掲示板には、新しい依頼がびっしり。

期限切れの紙は見当たらない。


「……これ」

ガルドが指差す。

「全部今日のだぞ」


「正確には」

ミーナが視線を走らせる。

「半日以内」


レオルが感心したように言う。

「すごい回転率ですね」


「回りすぎだ」

ユウキは即答した。


三人が、同時にユウキを見る。


「早い判断は、良い」

ユウキは続ける。

「でも“早すぎる”と、拾わなくていいものまで拾う」


その言葉を裏付けるように、

受付前で、冒険者同士が言い争っていた。


「だから言っただろ!」

「回収指定が雑すぎるんだよ!」

「壊すなって書いてないだろ!」


受付の奥から、冷静な声。


「はい、そこまで」

「判断保留は三番窓口へ」


リィナだった。


書類を片手に、視線だけで場を制す。

完全に“仕事モード”だ。


ユウキたちに気づくと、ほんの一瞬だけ表情が緩む。


「来ていただけて助かります」

「……想像以上に、回ってますね」


「回りすぎてる」

ユウキは同じ言葉を返した。


リィナは苦笑した。

「ええ。止まらない、が正確です」


彼女は、掲示板の一角を指差す。


《回収指定:即時》

《処理優先:高》

《判断不要》


「この依頼が、増えすぎました」

リィナは言う。

「楽なんです。判断しなくていいから」


ミーナが、静かに補足する。

「つまり……」

「“全部拾えばいい”という運用になっている」


「そう」

リィナは頷いた。

「結果、後処理が追いつかない」


ユウキは、その依頼書を一枚だけ剥がした。


紙は、新しい。

文字も明確。


だが――

“軽い”。


「……これ」

ユウキは言った。

「価値の判断が、後回しだ」


ガルドが眉をひそめる。

「後回し? 即時処理って書いてあるぞ」


「拾う判断を、後回しにしてる」

ユウキは訂正した。

「拾った後で考えればいい、ってな」


レオルが、少し考えて言う。

「便利すぎて……考えなくなった?」


「そう」

ユウキは短く答えた。


リィナは、少しだけ視線を落とした。


「……だから」

「“回収慣れしている人”を呼びました」


「俺は慣れてない」

ユウキは即答する。

「拾わない判断の方が多い」


リィナは、はっきり言った。


「それが、今のギルドに必要です」


ギルドの中は、今日も忙しい。

依頼は消化され、人は動き、判断は下されている。


それでも――

どこか、音が多すぎる。


ユウキは、腕の金属板に意識を向けた。


静かだ。

だが、反応は鋭い。


「……来て正解だな」

ユウキは呟いた。


ここは、止まってはいない。


だからこそ――

壊れ方が早い。


「まずは」

ユウキは言った。

「一件、見に行こう」


「戦闘?」

ガルドが聞く。


「戦闘未満」

ユウキは答える。

「判断が、早すぎる現場だ」


リィナは頷いた。

「案内します」


こうして一行は、

“ちゃんと機能している町”の中で、

一番判断が軽くなっている場所へ向かう。


掃除屋にとって、

いちばん難しい仕事が始まろうとしていた。


案内されたのは、町の南側にある資材集積区だった。


倉庫が並び、冒険者と職人がひっきりなしに出入りしている。

荷は次々と運び込まれ、同時に別の荷が運び出される。


「ここが?」

レオルが周囲を見回す。


「はい」

リィナが頷いた。

「依頼達成率は高い。事故率も低い」

「でも……詰まり始めています」


ユウキは、すぐに気づいた。


量が多すぎる。


壊れた武器、欠けた防具、半端な素材。

どれも「回収済み」だが、分類が終わっていない。


「……これ全部、今日拾ったのか」

ガルドが呆れたように言う。


「正確には」

リィナが補足する。

「“拾う判断だけ”が今日です」


職人風の男が、積まれた箱を前に腕を組んでいた。


「また増えたのか……」

「直せるかどうかも分からんのに」


リィナが声をかける。

「状況は?」


男は苦笑した。

「回収班が優秀すぎる」

「“使えそう”なものを全部拾ってくる」


「悪いことじゃないだろ」

ガルドが言う。


「悪くない」

男は認めた。

「だが、判断が後回しだ」

「俺が“捨てる”判断をしなきゃならん」


ユウキは、積まれた箱の一つを軽く叩いた。


中身は、歪んだ短剣。

刃は欠け、柄もひび割れている。


「……これ」

ユウキが言う。

「拾った理由は?」


男は少し考えて答えた。

「魔力反応が、わずかに残ってた」

「再利用できるかもしれない」


「“かもしれない”か」

ユウキは頷く。

「で、どうする?」


男は、黙った。


それが答えだった。


ミーナが静かに言う。

「判断が、先送りされています」


「忙しいんだよ」

男は言い訳するように言った。

「次から次へ来るし」


ユウキは、箱から手を離した。


「俺は、これは拾わない」


その言葉に、空気が一瞬止まる。


「……は?」

男が聞き返す。


「拾わない」

ユウキは繰り返した。

「正確には、“これ以上増やさない”」


リィナが、少し緊張した顔で見る。

「ユウキさん……?」


「今ここで拾うと」

ユウキは続ける。

「“判断を押し付ける”だけだ」


ガルドが眉をひそめる。

「でもよ、拾わなきゃ問題は解決しないだろ」


「解決じゃない」

ユウキは言った。

「先延ばしだ」


レオルが、箱を見ながら言う。

「じゃあ……どうするんです?」


ユウキは、職人の男を見る。


「聞く」

「これ、直したいか?」


男は、即答できなかった。


「……正直に言うと」

しばらくしてから言う。

「時間があれば、だ」


「今は?」

ユウキが重ねる。


「……今は、無理だ」


ユウキは頷いた。


「じゃあ、決めろ」

「“今は捨てる”か、“後で直す前提で保管する”か」


「保管はもうしてるだろ」

男が言う。


「違う」

ユウキは首を振る。

「これは“放置”だ」


沈黙。


周囲で作業していた者たちも、手を止めて聞いている。


「保管するなら」

ユウキは続ける。

「期限を決めろ」

「決められないなら、捨てる」


男は、歯を食いしばった。


「……三日」

「三日で判断する」


ユウキは、即座に小さな札を渡した。


《保管期限:三日》

《期限後:破棄》


魔力は弱い。

だが、十分だった。


箱の上に札を置いた瞬間、

周囲の“ざわつき”が、少し引いた。


ミーナが計測器を見る。

「……反応、低下しています」


レオルが目を丸くする。

「拾ってないのに?」


「拾わなかったからだ」

ユウキは言う。

「判断が、ここに戻った」


男は、箱を見つめながら言った。

「……これ、楽じゃねぇな」


「楽にすると」

ユウキは答える。

「あとで、もっと重くなる」


リィナは、静かに息を吐いた。


「ギルドが回っているからこそ」

「判断を預けすぎていたのかもしれません」


ガルドが腕を組む。

「便利すぎるのも、罪だな」


ユウキは、倉庫全体を見回した。


まだ多い。

まだ重い。


だが――

少しずつ、“持ち主”が戻り始めている。


「今日は、ここまでだ」

ユウキは言った。


「え、もう?」

レオルが驚く。


「これ以上やると」

ユウキは続ける。

「“俺が判断する側”になる」


リィナは、はっきりと頷いた。

「それは、避けたい」


倉庫を出るとき、

職人の男が小さく頭を下げた。


「……ありがとう」

「捨てるの、決められた」


ユウキは、何も返さなかった。


感謝される仕事じゃない。

判断を返しただけだ。


外に出ると、

ギルドの喧騒が、また耳に入る。


「……次は?」

ガルドが聞く。


ユウキは、少しだけ間を置いて答えた。


「次は」

「拾わないと、事故る現場だ」


ミーナが、静かに言う。

「使わざるを得ない状況、ですね」


「そう」

ユウキは頷いた。

「そこが、境目だ」


装備は、まだ沈黙している。


だがその沈黙は、

**“いつでも選べる”**という重さを帯びていた。


――判断が速すぎる町で、

次は「使うかどうか」を決める番が来る。


倉庫区を離れ、ギルドの建物へ戻る途中。


喧騒は相変わらずだが、

さっきまでとは音の質が少し違う。


「……軽くなってます」

ミーナが、計測器を見ずに言った。


「分かるのか?」

ガルドが聞く。


「数値じゃなくて」

ミーナは淡々と続ける。

「人の動きが、“自分で決めている”音です」


レオルが小さく息を吐く。

「回ってる町って、こういう感じなんですね」


「回ってるだけなら、どこでもできる」

ユウキは答える。

「問題は、“止まれない”ことだ」


ギルドの入口前。

リィナが、一度立ち止まった。


「……実は」

そう前置きしてから言う。


「今日、もう一件あります」


全員が足を止める。


「この町の依頼ではありません」

リィナは続けた。

「もっと……分かりやすく“機能している”場所です」


「活発?」

ガルドが言う。


「はい」

リィナは頷いた。

「依頼数も、人も、判断も回っています」

「問題が起きにくい分、気づかれにくい」


ユウキは、少しだけ眉を動かした。


「で?」

短く促す。


「そこで」

リィナは、はっきり言った。

「“回収指定が正しいかどうか”を見てほしい、と」


レオルが目を瞬かせる。

「正しい……かどうか?」


「ええ」

リィナは書類を一枚差し出した。

「判断は下されている。でも——」


紙の端に、赤い印。


《問題なし/処理継続》


「……でも、何かが引っかかっている」

ミーナが読み取る。


「そうです」

リィナは頷く。

「止まってはいない」

「回りすぎてもいない」


「じゃあ何だ」

ガルドが言う。


ユウキは、書類を見たまま答えた。


「“正しすぎる”んだろ」


リィナは、静かに息を吐いた。


「……はい」

「間違ってはいないんです」

「でも、“選ばれていない”」


一瞬、沈黙。


それは、

灰棚とも、この町とも違う問題だった。


ユウキは、書類を畳んで返した。


「分かった」

「行こう」


「即答ですね」

リィナが少し驚く。


「今の流れで、断る理由がない」

ユウキは言った。

「判断が早い町の次は——」


一拍。


「判断が“正解に寄りすぎてる”場所だ」


ガルドが苦笑する。

「また面倒そうだな」


「掃除屋の仕事は」

ユウキは歩き出しながら言った。

「だいたい面倒だ」


装備は、まだ沈黙している。


だが——

次に向かう先では、

“使わない”という選択が通らないかもしれない。


ユウキは、それを理解していた。


そして理解したまま、行くことを選んだ。



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