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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第15章

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装備は、慣れてから考える

朝の空気は、乾いていた。


灰棚の町とは違う。

音がある。人の流れがある。

判断が、あちこちで即座に下されている。


「……朝からうるせぇな」

ガルドが欠伸を噛み殺す。


「活気がある、って言ってください」

ミーナが淡々と返す。


ユウキは、宿の裏手にある空き地に立っていた。

舗装もされていない、ただの地面。

だが、周囲には人が寄りつかない。


理由は簡単だ。


「ここ、昨日から何回も“事故未満”起きてますから」

宿の主人が、念を押すように言っていた。


・荷車の車輪が外れる

・刃物が勝手に転がる

・魔道具が誤作動する


全部、怪我人ゼロ。

でも、全部、原因不明。


「……まあ、そうなるよな」

ユウキは腰の袋を軽く叩いた。


中には、

まだ“使い慣れていない”装備が入っている。



「今日は実地慣らしだ」

ユウキが言った。


「戦闘?」

レオルが少しだけ目を輝かせる。


「戦闘未満」

ユウキは即答する。

「制御確認」


ガルドが苦笑する。

「お前、そういう言い方するとき、だいたい危ない」


「危ないからやる」

ユウキは淡々と言った。

「持ったまま使わない方が、もっと危ない」


ミーナが頷く。

「未知の挙動は、保管より観測が優先ですね」


ユウキは袋から一つ取り出した。


見た目は、

ただの歪んだ金属板。


だが、

拾った瞬間から“反応”が止まらない。


「それ、なんです?」

レオルが聞く。


「分類上は《非装備型補助具》」

ユウキは答える。

「でも、装備できる」


「矛盾してません?」

「いつもだ」


ユウキは、それを腕に巻いた。


次の瞬間。


空気が、わずかに“ズレた”。


ガルドが即座に距離を取る。

「おい、今――」


「まだ発動してない」

ユウキは言う。

「“馴染み始めただけ”」


ミーナが魔力計測器を見る。

「……数値が安定しません。上下が不規則」


「だろ」

ユウキは頷いた。

「使う側の判断を、読みに来てる」


レオルが眉をひそめる。

「装備が、使い手を観測してる?」


「正確には」

ユウキは少し考える。

「“選別してる”」


ガルドが腕を組む。

「嫌な言い方だな」


「嫌だから、慣らす」

ユウキは言った。


地面に、小石を一つ置く。


そして、ほんの軽く意識する。


――《回収対象:低優先》。


腕の金属板が、かすかに熱を持つ。


小石が、

音もなく消えた。


「……消えた?」

レオルが目を丸くする。


「正確には」

ユウキは言う。

「“処理された”」


ミーナが即座に記録を取る。

「回収・廃棄・転送……どれでもないですね」


「判断が早すぎる」

ガルドが言う。

「お前、今“拾う”って意識しただけだろ」


「そう」

ユウキは頷く。

「だから危ない」


全員が、黙る。


「これ、慣らさないと」

ユウキは続けた。

「町中で勝手に発動する」


宿裏の“事故未満”の理由が、

全員の頭の中で繋がった。


「……じゃあ今日は」

レオルが聞く。

「これで何するんです?」


ユウキは、周囲を見回した。


何もない空き地。

人も来ない。

判断が少ない場所。


「何もしない練習」

ユウキは言った。


「使わない?」

「使わない」


「それ、練習ですか?」

ミーナが聞く。


「一番難しい」

ユウキは答えた。

「チートを持った後は、特に」


風が吹く。


金属板は、反応しない。


「……静かだな」

ガルドが言う。


「今は、な」

ユウキは腕を見た。

「でもそのうち、向こうから来る」


「何が?」

レオルが聞く。


ユウキは、短く答えた。


「見てるやつ」


空き地の端。

誰もいないはずの場所で、


ほんの一瞬だけ、

**“評価されている感覚”**が走った。


ミーナが顔を上げる。

「……観測、来てますね」


「だろ」

ユウキは腕を解いた。

「今日はここまでだ」


「早くないです?」

「十分だ」


ユウキは袋に装備を戻す。


「慣らしは」

一拍置いて言う。

「使うより、“使わないで耐える”方が時間かかる」


ガルドが苦笑した。

「ほんと、厄介な装備だな」


「装備じゃない」

ユウキは言い切った。

「まだ“選択肢”だ」


その言葉は、

空き地よりも静かに残った。


――次は、

実地で“判断を迫られる”場面になる。


それを、

ユウキは分かっていた。


空き地を離れた一行は、町の外周を回っていた。

市場の裏、職人街の端、使われなくなった水路。


どこも賑わってはいるが、

“余白”が多い場所だ。


「……意外と、この町も溜めてるな」

ガルドが言う。


「灰棚ほどじゃないですが」

ミーナが答える。

「“即断できない小さな判断”が散らばっています」


ユウキは歩きながら、腕の感覚に集中していた。


静かだ。

だが、完全ではない。


《拾え》

《処理可能》

《効率化対象》


そんな“誘い”が、

言葉になる前の段階で流れてくる。


「……これ、きついな」

ユウキがぼそっと言った。


「もう来てます?」

レオルが聞く。


「来てる」

ユウキは頷く。

「しかも、優しい言い方で」


ガルドが眉をひそめる。

「優しいのが一番厄介だろ」


「そう」

ユウキは即答した。

「“やった方がいい理由”を並べてくる」


実際、目の前には理由がある。


壊れかけた水路。

溢れそうな樽。

放置された工具。


どれも、

今すぐどうこうなるわけじゃない。


でも、

触れば“改善”できる。


「……使えば楽だな」

ユウキは正直に言った。


ミーナが足を止める。

「使った場合の影響、予測しますか?」


「いや」

ユウキは首を振る。

「今日はやらない」


レオルが少し不思議そうに聞く。

「でも、町の人は助かりますよね?」


「助かる」

ユウキは認めた。

「でも“俺がやる理由”にはならない」


その言葉に、

ガルドが少しだけ目を細めた。


「……責任の話か」


「そう」

ユウキは言う。

「一回やると、“次”を期待される」


ミーナが静かに補足する。

「期待は、判断の委譲になります」


「委譲?」

レオルが首を傾げる。


「“あの人がやってくれる”という判断を」

ミーナは淡々と続ける。

「自分で下さなくなる、ということです」


レオルは、少し考えてから言った。

「それって……止まる、ってことですか?」


「近い」

ユウキは頷いた。

「灰棚の町と同じ方向だ」


歩きながら、

ユウキは腕の金属板を見た。


静かだが、

確実に“待っている”。


「なあ」

ガルドが言う。

「それ、本当に装備する必要あるのか?」


「必要になる」

ユウキは即答した。

「だから、今は使わない」


「逆じゃねえ?」

「逆だ」


ユウキは足を止めた。


通りの端。

古い掲示板が立っている。


貼られているのは、

期限切れの依頼。


《清掃補助》

《分類作業》

《倉庫整理》


誰も剥がしていない。


「……ここ」

ユウキが言う。

「これ、俺がやると早い」


全員が黙る。


「でも」

ユウキは続ける。

「今日は、声だけかける」


掲示板の前に、

通りがかりの若い女がいた。


道具を抱え、

貼り紙を見ては、ため息をついている。


「それ、気になる?」

ユウキが声をかけた。


女は少し驚いたが、頷いた。

「倉庫の整理なんですけど……」

「人手が足りなくて」


「判断、止まってる?」

ユウキが聞く。


女は苦笑した。

「……はい」


ユウキは、腕を組む。


そして、

装備に触れなかった。


「一つだけ聞く」

ユウキは言った。

「整理したら、どうしたい?」


女は、少し考えてから答えた。

「……使える物だけ残して、店を開きたいです」


「なら」

ユウキは言う。

「貼り紙、書き直せ」


女は目を瞬いた。

「え?」


「“人手募集”じゃなくて」

ユウキは続ける。

「“店準備につき協力者募集”に」


女は、しばらく考えた後、

はっとした顔になる。


「……それなら、来る人変わりますね」


「判断が変わる」

ユウキは頷いた。

「残留器も寄らない」


女は、深く頭を下げた。

「ありがとうございます」


ユウキは、何も拾っていない。


何も処理していない。


だが――

空気が、少し軽くなった。


ミーナが小声で言う。

「……反応、減りました」


ガルドが鼻で笑う。

「本当に、使わない方が効く場面あるんだな」


「だから厄介なんだ」

ユウキは答えた。

「この装備」


腕の金属板は、

まだ静かだ。


だが、

“使わないという判断”を

確かに学習している。


ユウキは、それを感じていた。


「次は」

ユウキは言った。

「使わざるを得ない場面が来る」


レオルが真剣な顔で聞く。

「どうやって見分けるんです?」


ユウキは、少しだけ笑った。


「迷ったら、だいたい使わない」

「迷わなかったら――」


一拍。


「もう遅い」


風が吹く。


どこかで、

小さく金属が鳴った。


“評価”は、

確実に進んでいた。

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