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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第14章

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慣らし直し

町外れの空き地に、ユウキたちは集まっていた。

昨日と同じ場所。だが空気は少し違う。


「で」

ガルドが腕を組む。

「今日はどうする?」


「外さない」

ユウキは即答した。


レオルが少し驚く。

「昨日あれだけズレてたのに?」


「だからだ」

ユウキは地面に道具袋を置く。

「ズレたままにしない」


ミーナが静かに補足する。

「装備と身体の“基準点”が一致していません」

「現状は、全員が別々の感覚で動いている」


「つまり」

ガルドが言う。

「全員、微妙に自分じゃないってことか」


「そう」

ユウキは頷いた。

「だから今日は――」


ユウキは、地面に札を並べた。


《使用》

《未使用》

《条件付き使用》


「戦闘訓練じゃない」

「判断訓練だ」


レオルが札を見る。

「……地味ですね」


「地味が一番効く」

ユウキは言った。


最初は歩行。


何もない場所を、ただ歩く。


「止まれ」

「進め」

「振り向け」


ユウキの指示に従って動く。


――ズレる。


ほんのわずかだが、確実に。


「……遅い」

ガルドが自分で気づく。

「反応が“考えてから”になってる」


「それが補正だ」

ユウキは言う。

「良くも悪くも」


次は、物を拾う。


小石。

木片。

折れた釘。


「拾うな」

ユウキが言う。


レオルの手が止まる。


「……え?」


「拾いたくなっただろ」

「それが今の問題だ」


ミーナが静かに頷く。

「装備が“最適解”を提示しています」

「本人の判断より、早く」


ユウキはしゃがみ込み、石を一つ持ち上げた。


「装備は正しい」

「でも、正しさが先に来ると――」


石を、地面に戻す。


「選ばなくなる」


一瞬、誰も喋らなかった。


「じゃあ」

ガルドが言う。

「どうすりゃいい?」


ユウキは、札を一枚取った。


《条件付き使用》


「使う理由を、毎回言語化する」

「言えなきゃ使わない」


「面倒ですね」

レオルが言う。


「命よりは軽い」

ユウキは即答した。


次。


模擬戦。


だが、武器は抜かない。


「来い」

ユウキが言う。


ガルドが踏み込む。


「止まれ」

ユウキが言う。


ガルドは止まった。


「理由」

ユウキが聞く。


「……踏み込みが遅れた」

「この距離だと、相手の“ズレ”を拾えない」


「合格」


レオルの番。


一歩前に出る。


「理由」

ユウキ。


「……剣を振ると、魔力が抑えられる」

「だから、間合いを詰めないと意味がない」


「合格」


ミーナは、何も言わずに立った。


「……あなたは?」

ユウキが聞く。


「私は」

ミーナは淡々と答える。

「装備がなくても判断できる立場です」


「だから?」

「だから、今日は監視役に徹します」


ユウキは少しだけ笑った。


「助かる」


昼前。


全員、汗だくだ。


だが――

昨日のような“噛み合わなさ”は、減っている。


「なあ」

ガルドが言う。

「これ、強くなるってより――」


「弱さが見えるだろ」

ユウキが続けた。


「見える」

ガルドは認めた。

「でも、不思議と嫌じゃない」


レオルも頷く。

「誤魔化せない感じがします」


ユウキは、札を片付けながら言った。


「それが目的だ」

「この装備は、誤魔化しを嫌う」


風が吹く。


空き地に、静かな時間が流れた。


誰も戦っていない。

だが――

全員、昨日より“戦える状態”になっていた。


ユウキは、道具袋を肩にかける。


「午後は自由行動」

「装備は外さない」


「条件付き、ですよね」

レオルが確認する。


「当然」


ユウキは歩き出す。


「次に踏み込む時は」

「“使った理由”を、後悔しないためだ」


誰も、異論を出さなかった。


午後。


自由行動、と言っても完全な散開ではない。

距離を保ちつつ、同じ通りを歩く。


「これ、自由って言うのか?」

ガルドがぼやく。


「判断の練習だ」

ユウキは前を見たまま答える。

「一人にしない自由」


通りは平凡だった。


商人。

荷車。

修理途中の屋台。


何も起きていない――ように見える。


だが。


「……来る」

ミーナが低く言った。


同時に、ユウキも気づく。


空気が、わずかに歪む。


「前、三時方向」

ユウキが言う。


通りの端。

崩れかけた石壁の影。


そこに、小型の残留器がいた。


境界原で見たものより、さらに薄い。

形も曖昧。

人型に近いが、完成していない。


「街中かよ」

ガルドが舌打ちする。


「壊すな」

ユウキが即座に言った。


レオルが一瞬、剣に手をかけて止まる。


「じゃあ、どうする?」


ユウキは、全員を一瞥した。


「誰が行く?」


沈黙。


誰も動かない。


装備はある。

倒すこともできる。


だが――

理由を言語化できる者がいない。


ミーナが静かに言う。


「今の段階では、どの選択も“正解”です」

「だからこそ、誰がやるかが重要になります」


「……俺か?」

ガルドが言う。


「理由」

ユウキが即座に聞く。


ガルドは詰まった。


「……一番前にいる」

「体が慣れてる」

「守れる」


「全部、“できる理由”だ」

ユウキは首を振る。

「“やる理由”じゃない」


レオルが息を吸う。


「僕が行きます」


「理由」

ユウキ。


「壊さずに、止める経験が一番少ない」

「だから、今やらないと次も選べない」


一瞬、空気が止まる。


「……合格」

ユウキは言った。


レオルが前に出る。


残留器は、反応するが襲ってこない。

ただ、周囲の“未決定物”に寄っている。


放置された看板。

用途不明の木箱。


「……触らない」

レオルは自分に言い聞かせる。


装備が、最適解を提示してくる。

だが、無視する。


代わりに、声をかけた。


「そこは、使われない」


残留器が、わずかに揺れる。


「ここも、決まってないだけだ」


一歩、近づく。


レオルは、札を取り出した。


《条件付き使用》


札を、木箱の上に置く。


「これは」

「明日までに決める」


その瞬間。


残留器の輪郭が、薄くなる。


「……効いてる」

ガルドが小声で言う。


レオルは、続ける。


「君がいる理由は、ここにはない」

「判断が止まってるだけだ」


残留器は、音もなく崩れた。


消えた、というより――

役割を失った。


通りに、静寂が戻る。


誰も怪我をしていない。

何も壊れていない。


「……できた」

レオルが、息を吐く。


「理由は?」

ユウキが聞く。


「……逃がしたかった」

レオルは正直に言った。

「壊すと、また増える気がした」


ユウキは頷いた。


「それでいい」


周囲の人間が、ようやく気づき始める。


「今の……何?」

「魔物?」


「違う」

ユウキが答える。

「保留が形になっただけだ」


理解されない。

だが、それでいい。


歩き出す。


ガルドが、少し遅れて言った。


「なあ」

「俺、次は行っていいか?」


「理由は?」

ユウキが聞く。


「……選びたい」

ガルドは短く答えた。


ユウキは、少しだけ笑った。


「それが言えたら、十分だ」


通りの先で、また一つ。


誰も見ていなかった価値が、

静かに、消えた。


通りを抜けた先、町外れ。


人の気配が薄れ、建物もまばらになる。

倉庫跡と、半分崩れた塀。


「……ここ、空気が違う」

ガルドが低く言う。


「判断が積もってる」

ユウキは答えた。


ミーナが地面を見下ろす。


「未回収の残留反応、多数」

「でも……どれも“弱い”」


「弱いのに残ってる?」

レオルが眉をひそめる。


「理由がないからです」

ミーナは淡々と言う。

「壊される理由も、消える理由もない」


その時。


ユウキの腰元が、わずかに熱を持った。


ゴミ拾いスキル。

いや、それだけじゃない。


――《誰も見ていない価値》。


反応が、はっきりしすぎている。


「……来てるな」

ユウキは足を止めた。


「何が?」

ガルドが聞く。


「拾えるやつ」

ユウキは短く言う。

「しかも、かなり良い」


レオルが一瞬、身構える。


「危険?」


「違う」

ユウキは首を振る。

「“美味しい”」


その言い方に、ミーナが視線を向けた。


「……それは、問題です」


塀の裏。


そこにあったのは、

壊れた木箱と、古い布。


中身は――

欠けた金属片、歪んだ留め具、

そして、用途不明の小さな核。


「……これ」

ガルドが息を呑む。

「高位素材じゃないか?」


「未加工」

ミーナが即座に判断する。

「しかも、記録がありません」


ユウキは、しゃがみ込んだ。


拾える。

拾えば、確実に役立つ。

装備に回せば、次の戦闘は楽になる。


――でも。


「……誰のだ?」

ユウキは呟いた。


誰も答えない。


《回収履歴照合》が、自然に立ち上がる。


来歴:不明

用途:未定

廃棄理由:判断未実行


「……町のだ」

レオルが言った。


「違う」

ユウキは首を振る。

「町“だった”もののだ」


ガルドが、少し苛立ったように言う。


「拾わないのか?」

「今までなら拾ってただろ」


ユウキは、金属片を見つめたまま答えた。


「拾える」

「でも、拾ったら――」


一拍。


「この町が、“もう決めなくていい”ことになる」


沈黙。


ミーナが、ゆっくり頷いた。


「ユウキさんが回収すれば」

「ここは“空”になります」


「空になった場所は?」

レオルが聞く。


「また、何かが置かれます」

ミーナは答える。

「判断を避けるために」


ユウキは、立ち上がった。


「……今回は、拾わない」


ガルドが歯噛みする。


「それでいいのか?」

「強くなれるぞ」


「強くなる理由がない」

ユウキは言った。


代わりに、彼は布を整え、

箱を元の位置に戻した。


そして、札を一枚置く。


《要判断》

《期限:三日》


「……それだけ?」

レオルが聞く。


「それだけで十分だ」

ユウキは答える。

「選択肢を残した」


その瞬間。


空気が、軽くなった。


残留していた反応が、

少しずつ、薄れていく。


「……消えてる」

ガルドが呟く。


「消えたんじゃない」

ミーナが訂正する。

「“待てる状態”になっただけです」


ユウキは、背を向けた。


「行こう」

「ここは、俺の仕事じゃない」


歩き出す背中に、

誰も異論を挟まなかった。


強さは、拾えた。

でも、拾わなかった。


その選択が、

今のユウキには一番重かった。


そして――

その重さを、

誰も奪わなかった。


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