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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第14章

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実地・慣らし・説明責任

王都外れの仮設市場は、まだ完全には目を覚ましていなかった。

露店は出ているが、人の動きは鈍い。

売る側も、買う側も、どこか様子見だ。


「……ここでいいのか?」

ガルドが周囲を見回す。


「人が多すぎない」

「問題が起きても、派手にならない」


ユウキはそう言って、腰の道具袋を軽く叩いた。


「今日は“慣らし”だ」

「試すけど、振り回さない」


レオルが少し苦笑する。


「装備の試運転にしては、地味ですね」


「地味じゃないと、歪む」

ユウキは即答した。


ミーナが手帳を閉じる。


「本日の目的を整理します」


一、拾得・回収済みチートアイテムの実運用確認

二、周囲への影響観測

三、使用後の説明可能性の検証


「三番が一番重要です」

ミーナはそう付け加えた。


「説明できない効果は、次から使えません」


「分かってる」

ユウキは頷く。


市場の一角。

古道具を並べた露店の前で、年配の商人が頭を抱えていた。


「……だから、値段が決められんのだ」


並んでいるのは、

錆びた金属片、割れた装飾具、用途不明の魔道部品。


「全部“価値があるかもしれない”」

「でも、今は売れない」


ユウキは足を止めた。


「決めてない?」


商人は驚いて顔を上げる。


「お、おう」

「捨てるほど安くもないし」

「かといって、値を付けるほどでもない」


「結果」

ユウキは棚を見た。

「ずっとここにある」


「そうだ」

商人は肩をすくめる。

「誰も見向きもしない」


ガルドが小声で言う。


「……灰棚の町と同じだな」


ユウキは頷き、道具袋に手を入れた。


取り出したのは、

一見ただの古い鑑定札。


だが、刻印は通常のものと違う。


――《価値一時分解》。


拾得スキル派生。

「価値」を数値ではなく、用途・来歴・未使用可能性に分ける補助具。


「使うぞ」

ユウキは仲間に一言だけ告げた。


商人に向き直る。


「これ、触っていいか?」


「……壊さなきゃな」

商人は少し迷ってから頷いた。


ユウキは札を一枚、金属片に置いた。


次の瞬間。


視界が、わずかに“整理”される。


光も音も出ない。

だが、ユウキの中で情報がほどける。


「……工具の一部」

「古い型だが、今も使える」

「修理用、限定」


札を、次の装飾具に。


「……記念品」

「実用性なし」

「価値は、持ち主次第」


最後に、魔道部品。


「……未完成」

「用途未確定」

「今後の加工次第で高騰」


ユウキは、札を外した。


「分けた」

「三つに」


商人が、呆然とする。


「……で?」

「どうなる?」


「決めろ」

ユウキは淡々と言った。

「売るか、使うか、捨てるか」


「それだけ?」


「それだけだ」

「俺は判断を見せただけ」

「決めるのは、あんた」


沈黙。


商人は、一つずつ品を見た。


そして――


「……工具は売る」

「装飾は持ち帰る」

「部品は、預かりにする」


決めた瞬間。


周囲の空気が、少し軽くなった。


「……売れたぞ」

露店の隣の客が言う。

「工具、ちょうど探してた」


ガルドが目を丸くする。


「戦ってないのに、仕事してるな」


「掃除だ」

ユウキは答えた。

「詰まりを取っただけ」


レオルが、ふと聞く。


「今の、説明できます?」


「できる」

ユウキは即答した。

「価値を“作った”んじゃない」

「分けただけだ」


ミーナが、満足そうに頷く。


「問題ありません」

「再現性もあります」


ユウキは、札をしまった。


「……なあ」

商人が声をかける。

「あんた、何者だ?」


ユウキは一瞬だけ考えてから答えた。


「拾ったものを」

「使える場所に戻す人間だ」


商人は笑った。


「妙な掃除屋だな」


「褒め言葉だ」


市場は、少しだけ動き始めていた。


派手な変化はない。

英雄譚も生まれない。


だが――

誰も見ていなかった価値が、

一つ、表に出た。


ユウキは、それで十分だと思った。


人目はないが、完全に孤立しているわけでもない。

音も気配も、届く距離。


「ここで次だな」

ユウキが足を止めた。


「今度は?」

ガルドが聞く。


「装備」

ユウキは短く答える。


道具袋を開き、いくつかの品を地面に並べた。


どれも派手さはない。

だが、普通ではない。


「……相変わらず、見た目は地味ですね」

レオルが言う。


「地味な方がいい」

ユウキは頷いた。

「目立つ装備は、持ち主より先に注目される」


ミーナが一つ手に取る。


「《反応遅延補正具》」

「装着者の初動を、0.3拍だけ遅らせる」


ガルドが眉をひそめる。


「……弱体化じゃないか?」


「一見な」

ユウキは答える。


「でも、考え直す時間が増える」

「突っ込まなくなる」


「つまり」

レオルが察する。

「自爆防止」


「そう」

ユウキは肯定した。


ガルドは腕に装着し、軽く構える。


「……変な感じだ」

「いつもより、遅い」


「その“遅い”を、意識しろ」

ユウキは言った。

「無意識で動くな」


ガルドが一歩踏み出す。


――遅い。


だが、

姿勢は崩れず、踏み込みは安定している。


「……あ」

ガルドが声を漏らす。

「力、逃げてない」


「それが目的だ」

ユウキは頷いた。


次に、レオル。


ユウキが差し出したのは、

小さな金属片を縫い込んだ革紐。


「《干渉軽減帯》」

「魔力の“乗りすぎ”を抑える」


レオルが装着し、剣を振る。


「……軽い」

「でも、切れ味が落ちてる?」


「正確には」

ミーナが補足する。

「“過剰出力”が消えています」


レオルは何度か素振りをし、息を整えた。


「……ああ」

「これ、長時間戦える」


「短期決戦用じゃない」

ユウキは言う。

「生き残るための装備だ」


最後に、ユウキ自身。


ミーナが視線を向ける。


「ユウキさんは?」


ユウキは、首元に下げていた

小さなタグを示した。


「《回収者補助識別子》」

「拾ったものと、自分の境界を分ける」


ガルドが目を細める。


「……今まで、分けてなかったのか?」


「してなかった」

ユウキは即答した。

「全部、自分の中に入れてた」


「危険ですね」

ミーナが静かに言う。


「分かってる」

ユウキはタグを握った。

「だから今、試してる」


その瞬間。


周囲の感覚が、わずかに変わる。


――拾える。

――でも、引きずられない。


ユウキは息を吐いた。


「……楽だな」


「初めて聞きました」

ミーナが言う。


「拾うのが、楽だって」


「拾うのは、重かった」

ユウキは答えた。

「これがあると、“置いておける”」


沈黙。


装備は、どれも効果がある。

だが同時に、はっきり分かる。


「なあ」

ガルドが言う。

「これ、強くなる装備じゃないよな」


「ならない」

ユウキは断言した。


「弱くもならない」

レオルが続ける。


「そう」

ユウキは頷いた。

「“ブレなくなる”だけだ」


ミーナが、手帳を閉じる。


「結論」

「この装備群は、“慣れ”が必要です」


「慣れないと?」

ガルドが聞く。


「逆に危険です」

ミーナは即答した。

「自分の癖と、噛み合わない」


ユウキは、地面の装備を見た。


「だから、実地だ」

「慣れるまでは、使わない選択も含めてな」


レオルが笑う。


「装備相談回にしては、地味ですね」


「いい」

ユウキは答えた。

「地味な装備は、死なせない」


遠くで、誰かが怒鳴る声。

市場の喧騒が戻りつつある。


世界は、相変わらず回っている。


その中で、

ユウキたちは一歩だけ、慎重になった。


それは、

強くなる一歩ではない。


長く生きるための一歩だった。


人の往来は増え、音も雑多になってきた。

だが、その喧騒の中で――


ミーナが、足を止めた。


「……来ます」


その一言で、全員が構えた。


「残留器?」

レオルが低く聞く。


「いいえ」

ミーナは首を振る。

「もっと……中途半端な反応」


次の瞬間。


路地の影から、歪んだ影が滲み出る。


形は人型。

だが輪郭が定まらず、動きに迷いがある。


「判断途中のやつだな」

ユウキが言った。


「攻撃意思は?」

ガルドが問う。


「ある」

ミーナが即答。

「ただし、対象が定まっていない」


「厄介だな」

ユウキは短く言う。

「来るぞ」


影が、動いた。


――速い。


だが、一直線ではない。

迷いながら、ぶつかるように接近してくる。


「ガルド!」

ユウキが叫ぶ。


ガルドは踏み出す。


……遅い。


《反応遅延補正具》が、確実に働いている。


一拍遅れた動作。


だが――

影の突進は、その遅れに合わせてズレた。


「っ!?」


本来なら当たっていたはずの衝撃が、肩をかすめるだけで終わる。


「……なるほど」

ガルドが歯を食いしばる。

「これは、相手のミスも引き出す」


「油断するな」

ユウキが言う。

「まだ慣れてない」


レオルが前に出る。


剣を振る。


――浅い。


いつもなら、切り裂けていた距離。


「……っ」

レオルが顔をしかめる。


《干渉軽減帯》が、魔力の“乗りすぎ”を抑えている。


「思ったより、感覚が違う……!」


影が、間合いを詰める。


「レオル!」

ガルドが叫ぶ。


だが、ガルドの次の動きも――遅れる。


その隙を、影が拾う。


「チッ」

ユウキが舌打ちした。


「下がれ!」


ユウキが前に出る。


だが――

拾える感覚が、いつもより遠い。


《回収者補助識別子》が働いている。


「……なるほどな」


拾える。

だが、即座には引き寄せられない。


「面倒だが――」

ユウキは一歩踏み込む。

「これが“分ける”ってことか」


影が腕を振る。


ユウキは、あえて避けない。


そのまま――


「《分別指定》」


短く、言葉を切る。


影の中心に、簡易分類札が吸い込まれる。


《未確定》

《判断保留》


札が貼り付いた瞬間。


影は、動きを止めた。


「……止まった?」

レオルが息を呑む。


「いや」

ユウキは首を振る。

「止めたんじゃない」


影は、ゆっくりと崩れていく。


攻撃でも、破壊でもない。


“次の動作が決められなかった”だけだ。


やがて、影は消えた。


残ったのは、静寂。


ガルドが、息を整える。


「……危なかったな」


「危なかった」

ユウキは認めた。

「装備に、体が追いついてない」


レオルが、剣を下ろす。


「でも」

「悪くないですね」


「慣れればな」

ユウキは答える。


ミーナが、静かに結論を出す。


「現時点では」

「この装備は“即戦力”ではありません」


「分かってる」

ユウキは頷いた。

「だから、今日の戦闘は成功だ」


ガルドが首を傾げる。


「成功?」


「死ななかった」

「壊さなかった」

「余計なものも拾ってない」


ユウキは、空を見上げた。


「上出来だ」


全員が、少しだけ苦笑した。


町は、まだ静かだ。


だが、

彼ら自身は、確実に動き始めていた。


装備は、強さをくれない。

だが――

生き方を、変え始めている。


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