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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第14章

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境界の中にあるもの

道は、途中から“道であること”をやめた。


舗装は消え、

踏み跡も曖昧になる。


それでも、

進めてしまう。


「……ここ」

レオルが足を止める。

「入って、いい場所なんですか?」


「入ったから、そうなった」

ユウキは答えた。


「順番が逆だ」

ガルドが言う。


「境界ってのは、そういうもんよ」

ミーナが補足する。

「先に“踏んだ”側が、侵入者」


前方の空気が、

わずかに濁っている。


霧ではない。

魔力でもない。


――判断されなかったものの密度。


「……気持ち悪いな」

ガルドが小さく言う。


「匂いがない」

「音も薄い」

「でも、確実に“ある”」


ユウキは、腰の道具袋に触れた。


中で、

いくつかのチートアイテムが

微かに反応している。


「ここ、拾い物が多い」

ユウキが言う。


「ゴミですか?」

レオルが聞く。


「いや」

ユウキは首を振る。

「未使用だ」


ミーナが即座に理解する。


「使われなかった権限」

「発動しなかった契約」

「行使されなかった選択」


一歩進むごとに、

“気配”が増える。


だが、

敵意はない。


「襲ってこないな」

ガルドが警戒を緩めないまま言う。


「襲う理由がない」

ユウキは答えた。

「ここにあるのは――」


一拍。


「結果が出なかったものだ」


そのとき。


地面に、

不自然な区画が現れた。


円形。

周囲だけが、微妙に沈んでいる。


「……祭壇?」

レオルが言う。


「違う」

ミーナが首を振る。

「これは――」


ユウキが、円の中央に立った。


「置き場だ」


地面に刻まれた文字。

だが、途中で削れている。


《――を選ぶ者、ここに――》


「選ぶ?」

ガルドが眉をひそめる。


「選ばれなかった」

ユウキは言った。

「だから、残ってる」


空気が、揺れた。


円の中心から、

“形”が浮かび上がる。


剣でもない。

防具でもない。


札束のように重なった、透明な板。


「……装備?」

レオルが呟く。


「違う」

ミーナの声が低くなる。

「これは――」


ユウキが、名前を言った。


権限束オーソリティ・スタック


ミーナが息を呑む。


「廃棄予定だった管理権限の集合体……」

「普通は、世界側が回収するはず……」


「回収されなかった」

ユウキは答える。

「誰も“使う”って言わなかったから」


権限束が、

ゆっくりと回転する。


触れれば、

強力な効果を発揮するだろう。


だが同時に、

責任も確実に発生する。


「……これ」

ガルドが言う。

「装備したら、どうなる?」


「世界から見られる」

ユウキは即答した。

「明確に」


レオルが唾を飲み込む。


「今までは……?」


「今までは」

ユウキは視線を逸らす。

「“清掃業者”としての権限だけだった」


沈黙。


ミーナが、静かに言う。


「ここから先は」

「拾う=関与、になります」


ユウキは、権限束を見つめた。


拾えば、

楽になる。


だが同時に、

もう“通りすがり”ではいられない。


「……選択肢は三つだな」

ユウキが言う。


「触らずに引く」

「一部だけ切り分ける」

「全部、引き受ける」


ガルドが腕を組む。


「一番バカなのは?」


「三つ目」

ユウキは即答した。


レオルが苦笑する。


「一番、ユウキさんっぽいのも?」


「……三つ目だな」


権限束が、

わずかに脈動した。


まるで、

“誰かの答え”を待っているように。


ユウキは、

まだ手を伸ばさない。


「今日は、決めない」

そう言って、

一歩、下がった。


「まずは」

「何が入ってるか、見る」


境界の奥で、

“選ばれなかったものたち”が、

静かに息を潜めている。


ここから先は、

拾い物じゃない。


――装備になる。


円の中心から一歩引いた場所で、

ユウキは地面に腰を下ろした。


「……ここで会議な」

軽い口調だった。


だが、

誰も冗談だとは思っていない。


権限束は、

少し離れた場所で静止している。

触れてもいないのに、

“そこにある”という主張だけが強い。


「中身、見れるんですか?」

レオルが聞く。


「見るだけならな」

ユウキは道具袋から、

薄い板状の器具を取り出した。


――《未行使権限可視化フィルタ》。


本来は、

行政清掃用の最終段階装備。

ユウキが持っている理由は、

誰も深く突っ込まない。


フィルタをかざすと、

権限束の表面に文字が浮かび上がる。


《発動未確認》

《契約未締結》

《用途未指定》


「……全部“未”だらけですね」

レオルが呆然とする。


「だから残ってる」

ユウキは淡々と答えた。


ミーナが一つ、読み上げる。


「《簡易現実修正:局所》」

「条件:責任引受者が単独で存在すること」


ガルドが眉をひそめる。


「単独?」

「仲間と組んでるのに?」


「責任だけは一人で背負え、ってこと」

ミーナが補足する。

「便利だけど、孤独前提」


「次」

ユウキが促す。


ミーナは、別の項目に目を走らせる。


「《結果後出し確定》」

「発動条件:事後に理由を説明する意思があること」


レオルが首を傾げる。


「……意味、分かります?」


「失敗した後で」

ユウキが答えた。

「『こうなる予定だった』って言える権限だ」


ガルドが吹き出す。


「クソ強いじゃねぇか」


「同時に」

ミーナが続ける。

「言い訳を一生背負う」


空気が少し重くなる。


「他は?」

ユウキが聞く。


「《価値再定義:限定》」

ミーナが読み上げた。

「誰も評価していない物を、

一時的に“価値あり”として扱える」


その言葉に、

全員が黙った。


「……それ」

レオルが小さく言う。

「ユウキさんの……」


「ゴミ拾いスキルと、被ってるな」

ユウキは認めた。


だが、

そこで終わらなかった。


「ただし」

ミーナが続ける。

「再定義した価値は、

他人に説明できなければ失効」


ガルドが舌打ちする。


「めんどくせぇ……」


「でも」

ユウキは、少しだけ笑った。

「俺向きだ」


沈黙。


レオルが、恐る恐る聞く。


「……これって」

「全部、装備する前提なんですか?」


「いや」

ユウキは首を振る。

「選ぶ」


「捨てるのも?」

ガルドが聞く。


「捨てるのも、選択だ」

ユウキは即答した。

「放置は、ここでは一番まずい」


権限束が、

わずかに反応した。


まるで、

“聞いている”みたいに。


ミーナが静かに言う。


「この場所」

「“選ばれなかったもの”の集積です」


「だから」

ユウキは立ち上がる。

「俺たちが、ここで放置したら――」


一拍。


「また、溜まる」


全員が理解した。


「……じゃあ」

ガルドが言う。

「最低限だな」


「最低限」

ユウキは頷く。


彼は、権限束に一歩近づいた。


手は伸ばさない。

だが、目は逸らさない。


「これは」

ユウキは言う。

「誰も見てなかった価値だ」


「拾う?」

レオルが聞く。


「……使うかどうかは、後だ」

ユウキは答えた。

「でも――」


一拍。


「見なかったことには、しない」


権限束の表面が、

初めて、静かに光った。


それは、

装備でも発動でもない。


ただ、

“認識された”という反応だった。


ミーナが小さく息を吐く。


「……これで」

「もう、後戻りはできませんね」


「最初から」

ユウキは肩をすくめる。

「戻る気、無かっただろ」


ガルドが笑う。


「違いねぇ」


境界の奥で、

何かが一つ、

確実に動いた。


それは敵でも、

味方でもない。


――観測者の更新。


だが、

今はまだ、

誰も名乗らない。


ユウキは、権限束の前に立ったまま動かなかった。


触れない。

引き寄せない。

だが、目は外さない。


「……全部いく気はないんだよな?」

ガルドが確認する。


「全部やると」

ユウキは言った。

「判断じゃなくて、支配になる」


ミーナが静かに頷く。


「部分装備が妥当ですね」

「権限の“癖”を見るためにも」


レオルが不安そうに聞く。


「部分って……どのくらい?」


「一個」

ユウキは即答した。

「しかも、軽いやつ」


権限束の光が、

ほんのわずかに揺れた。


《簡易現実修正:局所》

《結果後出し確定》

《価値再定義:限定》


三つ。


どれも強い。

どれも重い。


「一番ヤバくないのは?」

ガルドが言う。


「どれもヤバい」

ユウキは即答した。


その上で、

視線を《価値再定義:限定》に固定した。


「でも」

ユウキは続ける。

「これは、普段やってることに一番近い」


ミーナが確認する。


「発動条件、理解していますか?」


「してる」

ユウキは答える。

「説明できなきゃ、失効」


「説明先は?」

レオルが聞く。


「人」

ユウキは言う。

「最低一人」


「自分は?」

ガルド。


「不可」

ミーナが補足する。

「“他者への説明”が条件です」


ユウキは短く息を吐いた。


「……面倒だな」


「今さらです」

ミーナが淡々と言う。


ユウキは、ゆっくりと片手を上げた。


触れない。

だが、意図を向ける。


「部分装備」

そう、はっきり言った。


権限束の一部だけが、

静かにほどける。


全部じゃない。

ほんの一欠片。


それが、

ユウキの手首の辺りで止まった。


装備感はない。

重さもない。


ただ――

視界の端に、違和感が一つ増えた。


「……来たな」

ガルドが言う。


レオルが目を瞬かせる。


「何か、変わりました?」


ユウキは、

地面に転がっていた小さな石を拾った。


見た目は、

ただの石。


誰も気にしない。

価値もない。


ユウキは、その石を指で転がす。


「……今なら」

ぽつりと言う。

「これは、“価値がある”」


空気が、

わずかに軋んだ。


ミーナが即座に確認する。


「再定義、成功しています」

「ですが――」


ユウキは、

レオルの方を向いた。


「なあ」

「この石、どう思う?」


突然振られて、

レオルは戸惑う。


「え?」

「石、ですよね……?」


「ただの?」


「……はい」


その瞬間。


石から、

何の変化も起きなかった。


ユウキは頷いた。


「まだ、価値は定着してない」


ガルドが腕を組む。


「説明不足ってやつか」


「そう」

ユウキは言う。


今度は、

ミーナを見る。


「ミーナ」

「この石は――」


一拍。


「この町で、

最初に“選ばれた物”だ」


ミーナは、

一瞬だけ思考を走らせてから、

静かに言った。


「……記録上、事実です」


その瞬間。


石の輪郭が、

ほんの一瞬だけ、

はっきりした。


「定着、しかけました」

ミーナが言う。


「でも、弱い」

ユウキは即座に理解する。


「理由が、まだ薄い」


ガルドが鼻で笑う。


「だったら――」


ガルドは、

石を手に取った。


「この石はな」

「俺たちが、最初にここで判断した証拠だ」


「使い道は?」

ユウキが聞く。


「無い」

ガルドは即答した。

「でも、“無いって決めた”」


その瞬間。


石が、

完全に“落ち着いた”。


何も光らない。

何も変わらない。


だが、

消えなくなった。


ミーナが、

ゆっくり息を吐く。


「……再定義、完了」

「価値:記録用・象徴」


レオルが、

目を丸くする。


「これ……」

「ただの石、ですよね?」


「違う」

ユウキは言った。

「“ただの石だった”って決まった石だ」


レオルは、

理解したような、

してないような顔で黙った。


ユウキは、

石をポケットに入れた。


「これが限界だな」

「今は」


ミーナが確認する。


「継続装備、しますか?」


「する」

ユウキは頷いた。

「ただし――」


一拍。


「使うたびに、

誰かに説明する」


ガルドが笑った。


「縛りプレイかよ」


「自分で決めた縛りだ」

ユウキは答える。


境界の奥で、

また何かが更新された。


今回は、

はっきりと。


――観測対象:安定化傾向。


だが、

それでも名乗りはない。


名乗るのは、

介入を決めた時だけだ。


ユウキは、

歩き出した。


「次は」

「実地で慣らす」


レオルが頷く。


「つまり?」


「小さく使う」

ユウキは言う。

「誰も困らない範囲で」


ガルドが肩を鳴らす。


「面倒な回だな」


「だから」

ユウキは振り返らずに言った。

「失敗しても、取り返せる」


その言葉は、

今までで一番、

“権限持ち”らしくなかった。


だが、

だからこそ――


この権限は、

まだ暴走していない。


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