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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第13章

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役割の話

町に戻ったのは、日が傾き始めた頃だった。


昼間と変わらず、人の流れは穏やか。

何かが起きた様子も、特にない。


「……何もなかったな」

ガルドが言う。


「うん」

ユウキは頷いた。

「だから戻った」


拠点に使っている空き家。

全員が腰を下ろし、装備を外す。


武器を床に置いた瞬間、

空気が少しだけ軽くなった。


「……正直」

レオルが口を開く。

「ちょっと戸惑いました」


「どこが?」

ユウキが聞く。


「強くなった感じが、しない」

「でも、弱くもなってない」


ミーナが頷く。


「数値的な強化は最小限です」

「代わりに、“判断の摩擦”が削られている」


ガルドが鼻を鳴らす。


「つまり、迷いにくい」

「だが、押し切れない」


「そう」

ユウキは言う。

「押し切る装備じゃない」


沈黙。


それぞれが、今日の場面を思い返している。


「……あの連中」

ガルドが言った。

「俺たちを“敵”だと思ってなかった」


「敵になる理由が無かった」

ユウキは答える。

「それを装備が補強した」


レオルが、自分の短剣を見る。


「じゃあ、俺は?」

「前に出るべきじゃない?」


「出なくていい」

ユウキは即答した。

「戻る役だ」


レオルが目を瞬かせる。


「……戻る?」


「前に出たやつを、連れ帰る」

「それがお前の役割に合ってる」


しばらく黙ってから、レオルは笑った。


「……確かに」

「今日も、戻る道ばかり見えてました」


ミーナが手帳を閉じる。


「整理します」


全員が彼女を見る。


「ガルド」

「前に立つが、命令しない」

「存在で線を引く役」


「レオル」

「接触後の調整」

「帰還と離脱の管理」


「ユウキ」

一拍。

「判断を下さない判断」

「場を“片付ける”役」


「……俺だけ抽象的だな」

ユウキが言う。


「一番、装備に影響されていません」

ミーナは淡々と答える。

「だから、中心です」


ガルドが腕を組む。


「じゃあ、お前は?」

ミーナを見る。


「私は」

少しだけ間を置いて、

「判断の副作用を記録します」


「地味だな」

「地味でいいです」


ユウキは、床に置いた札を拾い上げた。


《なんか使えそう判定》


「これな」

「便利だけど、万能じゃない」


「使いすぎると?」

レオルが聞く。


「判断を委ねる癖がつく」

ユウキは言う。

「それは、掃除じゃない」


ガルドが頷く。


「……逃げ道を用意する装備、か」


「そう」

「誰かを追い詰めないための」


一息ついて、ユウキは立ち上がる。


「今日の慣らしは終わり」

「次は――」


全員が見る。


「誰かに“決めさせられる”場所だ」

「この装備が一番、厄介になる」


ミーナが目を細める。


「権限が強い場所」

「管理者がいる」


「役所」

ガルドが言う。

「あるいは、宗教」


「どっちも、面倒だな」

レオルが苦笑する。


ユウキは、扉の方を見る。


「だから行く」

「装備が通じない相手ほど、慣らしになる」


沈黙。


だが、誰も反対しなかった。


装備は揃った。

役割も見えた。


次に試すのは――

力ではなく、立場。


翌日。


ユウキたちが向かったのは、町の北側にある石造りの建物だった。

役所――というほど立派ではないが、掲示板と書類棚が並ぶ場所。


入口には札が下がっている。


《判断保留中》

《責任者不在》

《後日協議》


「……ここか」

ガルドが言う。


「うん」

ユウキは頷いた。

「判断を預かって、返してない場所」


中に入ると、数人の職員が机に向かっていた。

だが、誰も忙しそうではない。


紙は積まれている。

ただ、動いていない。


「用件は?」

中年の男が顔を上げる。


「昨日の残留器の件」

ユウキが答える。

「報告と、対応の確認」


男は一瞬、視線を逸らした。


「ああ……その件は」

「現在、上に確認中でして」


「誰が“上”だ?」

ガルドが聞く。


「評議の担当者です」

「ただ、今は――」


「不在?」

レオルが言う。


「ええ」

男は頷いた。

「決裁権を持つ者が、まだ戻っていない」


ミーナが静かに口を開く。


「代行は?」

「……設けていません」


「期限は?」

「……特に」


空気が、わずかに重くなる。


ユウキは、職員たちを見る。


誰も嘘はついていない。

ただ、誰も決めていない。


「残留器は減っている」

ユウキが言う。

「昨日から、少なくとも三体」


男は驚いたように顔を上げる。


「本当ですか?」


「本当だ」

「原因は、“判断が生まれた”から」


職員の一人が、戸惑ったように言う。


「……判断?」


「修理する、使う、処分する」

ユウキは淡々と続ける。

「人が決めた」

「だから消えた」


沈黙。


だが、誰もペンを取らない。


「……つまり」

男が言葉を選ぶ。

「それは、住民の自主的な動きで?」


「そうだ」

「指示は出していない」


男は、ほっとしたように息を吐いた。


「では、役所としては――」


「待て」

ユウキは遮った。


「それを“役所の成果”にする気か?」


男は、口を閉じた。


ミーナが補足する。


「責任を取らない成果は、次の停滞を生みます」

「今回の件は、住民の判断です」


「……だが」

別の職員が言う。

「放置すれば、また同じことが」


「だから来た」

ユウキは言った。

「決めろ」


空気が張る。


「我々に、ですか?」

男が聞く。


「そうだ」

「何を管理し、何を管理しないか」


ガルドが低く言う。


「全部抱えるから、止まるんだ」


レオルが続ける。


「決めないなら、決めないって決めてください」


職員たちは顔を見合わせる。


しばらくして、最初の男が口を開いた。


「……残留器の件」

「役所は、直接介入しない」


「理由は?」

ミーナが聞く。


「住民の判断を優先する」

「役所は、情報提供と記録に留める」


ユウキは頷いた。


「それでいい」


「ただし」

男は続ける。

「危険が拡大した場合は、即時介入する」


「それもいい」

「線が引けている」


男は、ようやくペンを取った。


紙に、短く書く。


《対応方針:住民判断優先/役所は補助》


その瞬間。


ミーナが小さく息を吸う。


「……魔力反応、変化」

「町全体が、軽くなっています」


ガルドが笑った。


「紙一枚で、か」


「判断ってのは」

ユウキは言った。

「そういうもんだ」


外に出ると、町は昨日と同じようで、違っていた。


倉庫の前で、誰かが箱を開けている。

掲示板に、新しい紙が一枚貼られている。


《修理、始めました》


「……効いたな」

レオルが言う。


「装備は?」

ガルドが聞く。


ユウキは首を振った。


「今回は、使ってない」

「使えなかった」


ミーナが頷く。


「だから成功です」


ユウキは、空を見上げた。


「慣らし、完了だな」


装備は、

力を振るうためじゃない。


誰が決めるかを、間違えないためのもの。


それが、全員に共有された。


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