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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第13章

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慣らし

街道から外れた低丘陵地帯。

岩と雑草が入り混じった、特別でも危険でもない場所だ。


「……本当に、ここでいいのか?」

ガルドが周囲を見回す。


「いい」

ユウキは即答した。

「危険が薄い方が、違和感が分かる」


「派手なモンスターはいないですね」

レオルが剣を下ろしたまま言う。


「それが目的」

ミーナが補足する。

「“性能確認”ではなく、“感覚調整”ですから」


歩き出してすぐ、異変は出た。


ガルドが、立ち止まる。


「……なあ」


「どうした?」

ユウキが振り返る。


「後ろ、静かすぎないか?」


振り返ると、

確かに隊列が妙に整っている。


レオルが、自然にガルドの半歩後ろ。

ミーナは視界の端、死角を消す位置。

誰も指示していない。


「……無意識で位置取ってる」

レオルが気づく。


ガルドが腰の革帯に触れる。


「これか」

「引っ張られてる感じじゃない」

「……整えられてる」


「《無用の王権》」

ミーナが言う。

「命令が発生しない分、抵抗も出ない」


「嫌な感じはしないな」

ガルドは正直に言った。

「ただ……責任が重い」


「それで正常だ」

ユウキは言う。

「前に立つ装備だ」


少し進むと、

岩陰から小型の魔獣が二体、姿を現した。


警戒するほどでもない。


「……行きます」

レオルが短剣を構える。


踏み込んだ瞬間。


「――軽い」


思わず、声が漏れた。


刃は鋭いが、

それ以上に“判断が速い”。


「ここだ」

と思った瞬間に、体が動く。


魔獣の動きに合わせて、

“戻る道”が自然に見える。


一体目、無力化。

二体目、逃走。


「……今の」

レオルは息を整える。

「攻めてない」

「戻る動きばかりだ」


「それでいい」

ユウキは言う。

「その短剣は、帰還優先だ」


ミーナが記録を取る。


「《零価再定義》、安定稼働」

「使用者の生存率補正が上昇しています」


ガルドが、周囲を見渡す。


「敵が減った気がする」


「錯覚じゃない」

ユウキは地面を見る。

「近づいてきたが、寄らなかった」


「判断した、ってことですか?」

レオルが聞く。


「違う」

ユウキは首を振る。

「“判断する必要がない”って分かった」


ミーナが少し驚いた顔をする。


「……装備が、役割を明示した?」


「そう」

ユウキは答える。

「曖昧なままじゃないから、寄られない」


しばらく進み、

全員が一度も大きく動かないまま、丘を抜けた。


「……終わりか?」

ガルドが言う。


「終わりだ」

ユウキは頷く。


「拍子抜けだな」

「慣らしだからな」


ミーナが、静かにまとめる。


「今回の装備」

「強化は控えめ」

「代わりに、“迷い”を削っています」


レオルが短剣を見下ろす。


「……派手じゃないですね」


「派手なのは壊れる」

ユウキは言った。

「長く使うなら、こっちだ」


丘の上から町が見える。


誰も知らない場所。

誰も語らない戦闘。


でも、

確かに“進んだ”。


「次は?」

ガルドが聞く。


ユウキは少し考えてから答えた。


「……誰かの判断を借りる場所」

「装備が“通じない”相手だ」


ミーナが頷く。


「検証として、適切です」


装備はまだ馴染みきっていない。

だが――


“使えるか”より先に、

“向いているか”は、もう分かり始めていた。


道は整備されているが、人の気配は薄い。

昼間なのに、妙に静かだった。


「……視線、あるな」

ガルドが低く言う。


「三」

ミーナが即答する。

「道の両側、距離一定」


レオルが周囲を見渡す。


「魔獣じゃない」

「人型です」


ほどなく、姿を現した。


簡素な革鎧。

武器は槍と短弓。

統一感のない装備。


「通行料だ」

先頭の男が言った。


声に、威圧はない。

慣れきった口調。


「……山賊か?」

ガルドが小さく言う。


「違う」

ユウキは首を振る。

「“残ってる人”だ」


男たちは、こちらを値踏みするように見ている。

恐れていない。

だが、油断もしていない。


「この辺は俺たちの管理だ」

男が続ける。

「金か物、置いていけ」


レオルが一歩前に出かけて、止まった。


――動きに、迷いが出た。


短剣が、反応しない。


「……?」

レオルは瞬きをする。


ミーナが小さく息を吸った。


「装備、沈黙しています」

「《零価再定義》が作動していない」


「理由は?」

ガルドが聞く。


ユウキは男たちを見て、答えた。


「こいつら、自分で決めてる」

「奪うって判断も、退くって判断も」


男の一人が鼻で笑う。


「なんだ、偉そうに」

「冒険者か?」


「違う」

ユウキは前に出る。

「掃除屋だ」


「掃除屋?」

男は怪訝な顔をした。

「……関係ないな」


槍が、わずかに持ち上がる。


その瞬間。


ユウキは、腰の袋から何も“構えず”に出した。


一枚の、薄い札。


――《なんか使えそう判定》。


男たちは、一瞬それを見る。


「……は?」

誰かが声を漏らした。


札は、光らない。

音もしない。


だが。


「……あれ?」

弓を持った男が、動きを止めた。


「今、これ……」

「使える気がした」


「は?」

槍の男が振り向く。


「いや、分かんねえけど」

「“ここで争う意味、ない”って」


空気が、変わった。


威圧が消え、

警戒が“様子見”に変わる。


ミーナが小さく呟く。


「……対象の価値観に直接触れています」

「判断を奪っていない」

「“自分で決めた”と思わせている」


ガルドが、低く笑った。


「嫌なスキルだな」

「殴るより効く」


男が、槍を下ろした。


「……今日はいい」

「通れ」


「明日は?」

ユウキが聞く。


男は少し考えた。


「……分からん」

「でも、また来たら考える」


「それでいい」

ユウキは頷いた。


一行が歩き出す。


背後で、男の一人が言った。


「なあ」

「お前ら、強いのか?」


ユウキは振り返らずに答えた。


「強くならないようにしてる」


沈黙。


街道を抜けてから、

レオルがぽつりと言った。


「……効かない相手、ですね」


「そう」

ユウキは言う。

「でも、敵でもない」


ミーナが整理する。


「今回分かったこと」

「この装備は、“迷ってる相手”に強い」

「決めきっている相手には、無理に作用しない」


「欠点か?」

ガルドが聞く。


「違う」

ユウキは即答した。

「境界だ」


レオルが頷く。


「……使う人を選ぶ装備ですね」


「使う側もな」

ユウキは言った。

「俺たちが“決めすぎたら”、これも効かなくなる」


沈黙が落ちる。


だが、それは重くない。


「……悪くないな」

ガルドが言った。

「ちゃんと“人相手”だ」


町が見えてきた。


装備は揃った。

力もある。


だが――

万能じゃないことも、分かった。


それで十分だった。


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