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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第13章

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倉庫という名の会議室

王都外れ、再開発区の一角。

かつて瓦礫置き場だった倉庫は、今ではちゃんと屋根があり、扉も閉まる。


「……増えたな」


ユウキは、倉庫の中を見渡してそう呟いた。


棚。

箱。

木箱、金属箱、布で包まれたもの。

どれも雑多だが、壊れてはいない。


「全部、拾い物ですよね」

レオルが素直に言う。


「正確には“拾われたままの物”だな」

ミーナが補足する。


ガルドは腕を組み、ひとつ箱を指差した。


「で、今日は何だ?」

「掃除か?」

「また何か出てくるのか?」


ユウキは首を振った。


「今日は逆だ」

「出さない日」


全員が一瞬、黙った。


「……どういうことだ?」

ガルドが聞く。


ユウキは倉庫の中央に立ち、床に置いた木箱を一つ開けた。


中には、武器でも防具でもない。

見た目だけなら、用途不明のガラクタだ。


「これな」

ユウキは言う。

「全部、使える」


「……は?」

ガルドが眉をひそめる。


「“使える”けど」

ユウキは続けた。

「“誰が使うか”が決まってない」


ミーナが小さく頷いた。


「つまり」

「役割未定装備の山ですね」


「そう」

ユウキは即答した。


レオルが、棚の一角を見て目を丸くする。


「これ……」

「この前のダンジョンで拾ったやつですよね?」

「反応だけやたら強かった……」


「使わなかった」

ユウキは言った。

「理由は簡単だ」


箱の蓋を閉める。


「俺が使う必要がなかった」


その言葉に、ガルドが吹き出す。


「お前なぁ」

「普通は“俺が使えば最強”って流れだろ」


「それで」

ユウキは肩をすくめる。

「また持て余す」


倉庫の中に、短い沈黙。


ミーナが、棚を一つずつ見ながら言った。


「……確かに」

「今の状態は、“町の灰棚”と同じです」


「置いてある」

「でも決まってない」


「決まらないまま積むと」

ユウキが続ける。

「残留する」


レオルが、はっとした顔をする。


「……装備の残留器?」


「概念的には、そんな感じだな」


ガルドが頭を掻いた。


「じゃあ今日は?」

「何をするんだ?」


ユウキは、倉庫の扉を閉めた。


外の音が、少しだけ遠くなる。


「相談する」

「誰が、何を持つか」

「持たないかも含めて」


「会議かよ」

ガルドが言う。


「会議だ」

ユウキは頷いた。

「一番面倒で、一番必要なやつ」


ミーナが静かに言う。


「……逃げられませんね」


「逃げない」

ユウキは即答した。

「今日は、整理の日だ」


レオルが、少しだけ楽しそうに笑った。


「なんだか」

「冒険者っぽくないですね」


「冒険者じゃないからな」

ユウキは言う。


「拾った後の責任を片付ける」

「それが俺の仕事だ」


倉庫の中で、箱が一つ、きしりと音を立てた。


まるで、

「やっと決めてもらえる」

とでも言いたげに。


ユウキはそれを見て、少しだけ苦笑した。


「……よし」

「じゃあまずは」


一拍。


「“誰も見てなかったやつ”から行こう」


倉庫の空気が、ほんの少しだけ動いた。


倉庫の奥。

棚の一番下、埃を被った箱があった。


「まずは、これだ」


ユウキが指差す。


「……地味だな」

ガルドが率直に言う。


箱の中身は、

黒ずんだ金属の腕輪。装飾も銘もない。


「反応、ほぼゼロでしたよね」

レオルが首を傾げる。


「強化値も表示されない」

ミーナが端末を確認する。

「スキル付与なし。呪い反応もなし」


「じゃあハズレか?」

ガルドが言う。


ユウキは首を振った。


「“誰も見てない”だけだ」


腕輪を持ち上げると、

わずかに重さがズレる感覚がある。


「これな」

ユウキは言った。

「装備した瞬間、能力が上がる系じゃない」


「じゃあ何が起きる?」

レオルが聞く。


「“選択が軽くなる”」


一瞬、全員が黙った。


「……説明になってないぞ」

ガルドが言う。


「判断を迫られた時」

ユウキは続ける。

「迷った分だけ、消耗するだろ」


ミーナが、少し考えてから言う。


「精神干渉系……?」

「ですが、強制ではない」


「そう」

ユウキは頷く。

「背中を押さない」

「足を引かない」


「……つまり?」

レオルが聞く。


「“選んだ結果”だけを支える」

ユウキは答えた。


ガルドが腕輪を見つめる。


「……クソ地味だな」


「でも」

ユウキは静かに言う。

「一番壊れにくい」


沈黙。


ミーナが、別の箱を開けた。


中には、短剣。

刃こぼれだらけで、修復もされていない。


「これも反応が弱い」

「でも……」


彼女は端末を見て、少し眉を上げた。


「《零価再定義》が反応しています」


レオルが身を乗り出す。


「それ、あの……」

「“価値がゼロだと認識されたものを、条件次第で再評価する”スキルですよね」


「ええ」

ミーナは頷く。

「“使われた回数”ではなく」

「“使われ続けた理由”を参照します」


ユウキが短剣を受け取る。


「これな」

「捨てられなかった理由がある」


ガルドが鼻で笑う。


「ボロすぎて売れなかっただけだろ」


「違う」

ユウキは短く言った。


刃に触れる。


「手に馴染んでる」

「使い手が変わってない」


レオルが、はっとする。


「……修理され続けた武器?」


「そう」

ユウキは頷く。

「“勝つため”じゃなく」

「“戻るため”に使われてた」


倉庫の空気が、少しだけ変わる。


「……これ」

レオルが言う。

「僕が持ってもいいですか」


即答ではない。

でも、迷いは少ない。


ユウキは短剣を差し出した。


「条件がある」


「何です?」


「壊れたら」

ユウキは言った。

「直す理由を言え」


レオルは、少しだけ笑った。


「……分かりました」


次に、ガルド。


彼の前に置かれたのは、

分厚い革帯。防具でも装飾でもない。


「……ベルト?」


「《無用の王権》が反応してる」

ミーナが言う。


ガルドが眉をひそめる。


「嫌な名前だな」


「“役に立たないと切り捨てられた物が、統制力を持つ”」

ユウキが説明する。


「……つまり?」


「お前が前に立つと」

ユウキは言う。

「後ろが、勝手に整う」


ガルドは、しばらく黙ってから言った。


「……俺向きだな」


最後に、ユウキ。


ミーナが箱を一つ、そっと押し出した。


中身は、

一見ただの布袋。


「それは?」

ガルドが聞く。


「《誰も見てない価値》」

ミーナが答える。

「ユウキさんのスキル群と、最も相性が良い」


ユウキは、手を伸ばさなかった。


「……俺は、持たない」


「理由は?」

ミーナが聞く。


「もう持ってる」

ユウキは言う。

「見られてない物を、見つける役割は」


倉庫の中が、静かになる。


箱は閉じられ、

棚には“空白”ができた。


「全部決まったわけじゃない」

ユウキは言う。

「でも」


一拍。


「“置きっぱなし”じゃなくなった」


ガルドが、肩を鳴らす。


「装備相談って」

「もっと派手かと思ってた」


「派手なのは戦闘でいい」

ユウキは答えた。

「これは準備だ」


倉庫の外。

夕方の光が差し込む。


誰も見てなかった価値が、

ようやく“使われる前段階”に入った。


まだ戦いはない。

だが――


装備は、確かに物語に組み込まれ始めていた。


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