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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第12章

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決めるということ

町の朝は、相変わらず静かだった。


だが、昨日と違う点が一つある。


「……音がするな」

ガルドが言った。


金属を叩く音。

木を削る音。


広場の脇、崩れかけた作業台の前で、

昨日の若い男が、工具を手にしている。


「もう直してるのか」

ユウキが声をかけると、男は少し驚いた顔で振り向いた。


「あ、はい」

「戻ってきたら、放っておけなくて」


台の脚を削り、歪みを調整している。

動きはぎこちないが、迷いはない。


「……昨日までは?」

レオルが聞く。


「直そうとは、思ってました」

男は正直に言った。

「でも、いつかでいいって」


「で、今は?」

ミーナが聞く。


「今やらないと」

男は、手を止めずに言う。

「また失くす気がして」


ユウキは、それ以上何も言わなかった。



町を歩く。


倉庫の前で、年配の女性が箱を開けている。

中身は、布と壊れた金具。


「それ、使うの?」

マルタが自然に聞いた。


「……使わない」

女性は少し考えてから言った。

「でも、捨てる」


「初めて?」

「ええ」


言いながら、箱に《廃棄》と札を貼る。


その瞬間、

空気が、ほんの少しだけ軽くなった。


ミーナが小声で言う。


「……また減りました」

「残留器、二体分くらい」


「数えてたのか」

ガルドが苦笑する。


「仕事ですから」



昼前。


ロウが、ユウキたちを広場に呼んだ。


「話がある」


集まったのは、町に残っている人たち。

多くはない。

だが、全員だ。


「昨日」

ロウは言った。

「掃除屋に、手を出すなと言われた」


ざわり、と空気が動く。


「だが」

ロウは続ける。

「何もしないとは、言われてない」


視線が、ユウキに集まる。


「俺は、決めるのが怖かった」

ロウは、正直に言った。

「間違えたら、全部終わる気がしてな」


誰も否定しない。


「だが」

ロウは、深く息を吸う。

「もう、放置する方が怖い」


沈黙。


それは、昨日までとは違う沈黙だった。


「全部は無理だ」

ロウは言う。

「でも、一つずつなら、決められる」


その言葉に、

何人かが、ゆっくり頷いた。


ユウキは、一歩前に出た。


「俺は、手伝わない」

全員が驚いた顔をする。


「代わりに」

ユウキは続ける。

「判断の結果だけ、拾う」


ミーナが補足する。


「決めた後に出る“不要物”だけを回収します」

「決める前には、触りません」


「都合がいいな」

ガルドが言う。


「清掃屋は、だいたいそうだ」


少し笑いが起きた。



その日の午後。


拾得物最適化指令オプティマイズ・ルート》は、

ほとんど反応しなかった。


拾う物が、少ない。


それはつまり、

勝手に置かれた物が減っているということだった。


「……仕事減ってない?」

レオルが聞く。


「いい兆候だ」

ユウキは答える。


町は、まだ変わらない。

倉庫もあるし、箱も残っている。


だが――

それぞれに、札がつき始めていた。


《使う》

《捨てる》

《直す》


期限も、誰の判断かも書かれている。


「判断に名前がつくと」

ミーナが言う。

「責任も残ります」


「それでいい」

ユウキは言った。

「消えるよりマシだ」



夕方。


ロウが、焚き火の前で言った。


「残留器、今夜は出ないだろう」


「出ない」

ユウキは断言する。

「今日は、動いたから」


「全部じゃないぞ」

ロウが言う。


「全部じゃなくていい」

ユウキは答える。

「止まらなきゃ」


風が吹く。


焚き火の火が、揺れる。


町は、

急には変わらない。


だが、

止まったままでもなくなった。



その夜。


ユウキは、道具袋を整理していた。


《とりあえず拾っとく》

《ゴミじゃない(※当社比)》

《誰も見ていない価値》


どれも、反応が薄い。


「……静かだな」

ガルドが言う。


「いい夜だ」

ユウキは答えた。


遠くで、

誰かが木箱を閉じる音がした。


それは、

残留器の音ではなかった。


「……なあ」

レオルが言う。

「俺たち、何しに来たんでしたっけ?」


ユウキは、少し考えてから答えた。


「通過だ」

「ただし、止まらずにな」


火が、静かに燃えている。


町も、

少しだけ、動いていた。


町を発つ準備は、静かに進んでいた。


荷は少ない。

最初から通過前提だった。


「……思ったより、仕事したな」

ガルドが背伸びをする。


「ほとんど喋っただけですけどね」

レオルが笑う。


「判断は、体力を使う」

ユウキは淡々と言った。


そのとき。


ピクリ、と

ユウキの感覚が引っかかった。


強くはない。

警告でもない。


だが、確かに――反応。


「……ちょっと待て」

ユウキが足を止める。


ミーナが即座に確認する。


「《誰も見ていない価値》が微反応しています」

「強度は低。ですが……継続的です」


「場所は?」

「……町外れ。旧街道側」


ロウが、荷車を止めた。


「そっちは、もう誰も使わん」

「道も半分埋もれてる」


「だからだ」

ユウキは言った。



旧街道は、確かに放置されていた。


舗装は割れ、

草が伸び、

道標は倒れたまま。


「……ここ、完全に忘れられてますね」

レオルが言う。


「通らない道は、存在しないのと同じ」

ミーナが淡々と補足する。


ユウキは、地面を見ていた。


「……これだ」


蹴飛ばすと、

土の中から、小さな金属音。


錆びた、細長い箱。


「宝箱?」

ガルドが身構える。


「違う」

ユウキは首を振った。

「保管箱だ」


箱の側面には、

ほとんど読めない刻印。


《灰棚 中継管理》


「……中継?」

ロウが目を見張る。


「昔、この町が通過点だった頃の」

ミーナが言う。

「物流管理用ですね」


「開ける?」

レオルが聞く。


ユウキは一瞬、考えた。


そして、

《清掃者権限・サニテーション・オーソリティ》を起動。


――判定開始。


「……問題なし」

「管理放棄物扱いだ」


蓋を開ける。


中にあったのは――

金でも宝石でもない。


古い帳簿。

破れた地図。

木製の札。


「……ガラクタ?」

ガルドが首を傾げる。


だが。


ミーナの目が、わずかに見開かれた。


「……違います」

「これは……記録です」


帳簿をめくる。


そこには、

この町を通過した荷の記録。

人の名前。

日時。

数量。


「……これ」

ロウが息を呑む。

「消えた商人たちの……」


「行方不明じゃない」

ユウキは言った。

「通過しただけだ」


「でも……」

ロウは言葉を失う。

「誰も、覚えてない」


ユウキは、

零価再定義ゼロ・リバリュー》を起動。


――価値判定、再構築。


「……金銭価値は、ほぼゼロ」

ユウキは言った。

「だが」


帳簿の上に、

淡い光が走る。


「意味の価値は高い」


ミーナが続ける。


「これがあれば」

「この町が“何もなかった場所”ではないと証明できます」


「……証明して、どうなる?」

ガルドが聞く。


「道が、戻る可能性が出ます」

ミーナは答える。

「完全じゃなくても、“寄る理由”になる」


ロウは、帳簿を両手で持った。


「……誰も見てなかった」

「誰も、覚えてなかった」


「だから残ってた」

ユウキは言った。

「捨てられなかったからな」


レオルが、小さく息を吐く。


「ゴミ拾いって」

「本当にゴミを拾ってないですよね」


「ゴミじゃない」

ユウキは即答した。

「※当社比」


町に戻る。


ロウは、帳簿を掲示板の横に置いた。


《旧街道・通過記録》

《閲覧自由》


「見る人、いますかね」

ガルドが言う。


「今はいない」

ユウキは答えた。

「でも」


指で掲示板を叩く。


「“在った”って事実は残った」


その瞬間。


ミーナが、周囲を見回した。


「……反応が、完全に消えました」

「《誰も見ていない価値》、沈静」


「拾ったな」

ガルドが言う。


「いや」

ユウキは首を振る。

「見える場所に置いただけだ」



出発前。


ロウが、深く頭を下げた。


「……礼を言う」

「掃除じゃなかったが」


「掃除だ」

ユウキは言った。

「見えなくなってた物を、見える場所に戻した」


「また、止まるかもしれんぞ」


「その時は」

ユウキは肩をすくめた。

「また、判断すればいい」


町を出る。


背後で、

掲示板の紙が風に揺れた。


誰も見ていない価値は、

誰かが見た瞬間、役目を終える。


「……次、どこ行く?」

レオルが聞く。


ユウキは、前を見た。


「決まってない」

「だから、進む」


境界原の向こうに、

新しい道が伸びている。


そこにもきっと、

誰も見ていない価値が転がっている。


ユウキは、

それを拾う準備だけは、

いつでもできていた。


町を離れて、半刻ほど。


境界原に戻る途中、

背後から、足音がした。


「……追手?」

レオルが振り返る。


「違う」

ユウキは即答した。

「慌ててる音だ」


ほどなく、

息を切らした青年が現れた。


昨日、工具を失くした男だった。


「ま、待ってくれ!」


ガルドが身構えるが、

男は両手を上げる。


「違う、違う!」

「文句じゃない!」


ユウキは立ち止まった。


「どうした?」


男は、息を整えながら言った。


「……修理、終わった」

「それで……決めた」


「何を?」

レオルが聞く。


男は、少し照れたように笑う。


「倉庫の一つ、開ける」

「修理場にする」


ミーナが目を瞬く。


「……今すぐ?」


「今すぐ」

男は頷く。

「放置してたら、また止まる」


ユウキは、

その言葉を聞いて、

ほんの少しだけ口角を上げた。


「いい判断だ」


男は、意を決したように続ける。


「それで……」

「あんたらに、これ」


差し出されたのは、

古い金属製の札。


《灰棚 中継補助》


「使い道は?」

ユウキが聞く。


「正直、分からん」

男は正直に言った。

「でも……捨てる気はない」


ミーナが、そっと確認する。


「……管理補助用の認証札ですね」

「古いですが、有効です」


ユウキは受け取った。


――《なんか使えそう判定》。


反応:弱

だが、確かに“残る”。


「預かる」

ユウキは言った。


男は、深く頭を下げた。


「……ありがとう」

「拾ってくれて」


「拾ってない」

ユウキは訂正する。

「返しただけだ」


男は、一瞬きょとんとしたが、

やがて笑った。


「じゃあ……」

「次は、俺が拾う番だな」


その言葉を残して、

男は町へ戻っていった。



再び歩き出す。


「連鎖、始まりましたね」

ミーナが言う。


「小さいけどな」

ガルドが答える。


「それでいい」

ユウキは言った。

「一気に動くと、壊れる」


レオルが、空を見上げる。


「……でも」

「町、完全に救ったわけじゃないですよね」


「救ってない」

ユウキは即答した。

「判断を返しただけだ」


境界原の草が、風に揺れる。


残留器の気配は、もう無い。


「なあ」

ガルドが言う。

「この先も、こういう町ばっかか?」


「多いだろうな」

ユウキは答えた。

「ギルドが崩れて、道が変わった」


ミーナが付け加える。


「世界中に、

 “置き去りにされた役割”が発生しています」


ユウキは、

歩きながら、

道端の小石を蹴った。


――《路傍の神託ストリート・オラクル》。


微弱な反応。


「……次」

ユウキは言う。


「この先」

「似た匂いがする」


「町?」

レオルが聞く。


「まだ分からん」

ユウキは答える。

「でも」


少しだけ間を置く。


「今度は、人じゃないかもしれない」


ガルドが、にやりと笑った。


「それはそれで、面倒そうだな」


「仕事だ」

ユウキは淡々と言った。

「拾うか、拾わないか」

「決めるだけだ」


彼らは、

境界原の向こうへ進む。


誰も見ていない価値が、

また一つ、

静かに待っている場所へ。


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