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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第12章

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優先順位のない町

翌朝。


町は、相変わらず静かだった。

だが前日までとは、少しだけ違う。


「……動いてる(※)」

※ミーナ談。温度変化と魔力流の微細な差分より。


広場の端。

昨日まで沈黙していた古代文明の機械人形が、ゆっくりと作業をしている。


木箱を持ち上げ、

倒れた棚を起こし、

割れた石畳の欠片を、決められた位置に戻す。


効率は悪い。

動きも遅い。

だが――止まってはいない。


「ほんとに掃除してるな……」

レオルが感心半分で呟く。


「“優先順位”を与えただけです」

ミーナが言う。

「判断対象が発生したため、行動可能になった」


「つまり」

ガルドが腕を組む。

「何をするか決められないと、何もできないタイプか」


「人間みたいだな」

ユウキが言った。


町長は、少し離れた場所でその様子を見ていた。


「……正直に言いますと」

町長は口を開く。

「我々も、似たような状態でした」


「だろうな」


ユウキは、広場全体を見渡す。


壊れかけの家。

補修途中で止まった倉庫。

使われなくなった水路。


「直したい場所は山ほどある」

「でも、人も金も足りない」

「だから全部“後回し”にした」


町長は苦く笑った。


「結果、何も進まなくなった」


その時だった。


機械人形が、急に動きを止めた。


「……?」

レオルが身構える。


機械人形は、首を傾けるような動作をし、同じ言葉を繰り返す。


「優先順位……競合」

「判断不能」

「再設定要求」


ミーナが眉を寄せる。


「同時に複数の指示が入ったようです」


「誰が?」

ガルドが町長を見る。


町長は、慌てて首を振った。


「い、いえ! 指示など……」


その直後。


町のあちこちから、声が上がった。


「先に水路を直してくれ!」

「いや、倉庫だろ!」

「住居が先だ!」


人々が集まり始める。


不満。焦り。

「どうせ今しか頼めない」という空気。


機械人形は、動かない。


「……まずいな」

レオルが言う。


「このままだと、また止まる」

ミーナが頷く。


ユウキは、一歩前に出た。


「全員、ちょっと待て」


声は大きくない。

だが、不思議と通った。


「一個ずつだ」


人々が、きょとんとする。


「全部一気にやろうとするから、詰まる」

「だから――」


ユウキは、足元に転がっていた壊れた看板を拾い上げた。


「今日やるのは、これだけ」


看板には、かすれた文字。


《共同井戸》


「井戸?」

町長が目を見開く。


「水が止まったら、全部止まる」

「飯も、洗濯も、修理も」


ユウキは機械人形を見た。


「優先順位」

「第一位:井戸」


一瞬の間。


機械人形の目が光る。


「設定受理」

「作業対象:共同井戸」


そして――動いた。


ゆっくりだが、確実に。


人々のざわめきが、少しずつ静まっていく。


「……あ」

誰かが呟いた。


「一個で、いいんだ」


ユウキは肩をすくめた。


「一個ずつじゃないと、拾えない」


それは、ゴミ拾いの基本だった。


町長は、深く頭を下げた。


「……ありがとうございます」

「いえ」


ユウキは、あっさり言う。


「まだ途中だ」


その言葉通りだった。


この町には、

まだ“止まった判断”が山ほど残っている。


そして――

それを狙う“別の視線”も。


遠く、町の外れ。


誰にも気づかれない場所で、

古代文明の反応とは異なる魔力が、静かに揺れていた。


井戸の修復は、想像以上に時間がかかった。


機械人形は正確だったが、融通が利かない。

壊れた石を一つ外し、

内部構造を確認し、

記録と照合し、

問題点を洗い出す。


「……遅いな」

ガルドが腕を組む。


「速さより、失敗しない方を選択しています」

ミーナは淡々と言う。

「再修復コストを最小化する思考です」


「つまり」

レオルが言う。

「慎重すぎる」


「はい」


だが――

町の人々は、誰も文句を言わなかった。


待つ、という選択を

久しぶりに思い出したようだった。


その時。


ユウキの足元で、

ゴミ拾いスキルが、微かに反応した。


「……ん?」


反応は弱い。

だが、確かに“異物”。


金属でも魔石でもない。

もっと曖昧な、引っかかり。


ユウキは、視線を町の外れへ向けた。


「来てるな」


「何が?」

レオルが即座に聞く。


「“井戸”じゃない目的のやつ」


ミーナも気づいたらしい。


「魔力の向きが違います」

「この町を“作業対象”として見ていない」


「盗掘者か」

ガルドが舌打ちする。


「古代文明が動き出したと聞いて、寄ってきたんだろ」


町長が顔色を変える。


「まさか……この町に、そんな」


「あるあるだ」

ユウキは言った。

「止まってた場所が動き始めると、寄生虫も湧く」


数分後。


町の入口付近で、

明らかに“町の人間じゃない”一団が現れた。


装備は軽装。

だが、武器は実戦用。

視線が、値段を測る目をしている。


「おーい」

先頭の男が、軽い調子で声をかけた。

「面白いもん動いてるじゃねえか」


町の空気が、張りつめる。


「俺たち、調査団でさ」

「危険だから、代わりに管理してやる」


嘘だと分かる言い方だった。


「管理?」

ユウキが一歩前に出る。


「そうそう」

男は笑う。

「代金は……まぁ、町の資産一式でいい」


ガルドの拳が鳴る。


「舐めてんのか」


だが、ユウキは手を上げて止めた。


「なあ」


男を見る。


「お前ら、優先順位つけられるか?」


「……は?」


「まず何を守るか」

「次に何を奪うか」

「最後に、誰が責任取るか」


男は一瞬、言葉に詰まった。


「何言って――」


その瞬間。


井戸の方で、低い駆動音。


機械人形が、作業を中断していた。


「作業中断」

「外部干渉検知」


ゆっくりと、

その視線が盗掘者たちへ向く。


「未登録個体」

「作業妨害の可能性」


空気が変わった。


盗掘者の一人が、思わず後退る。


「おい、聞いてねえぞ……?」


「登録」

ユウキが言った。

「この町の優先順位は、今――」


一拍。


「井戸の復旧だ」


機械人形が、うなずくような動作をした。


「確認」

「優先順位第一位を脅かす存在を排除対象に設定」


盗掘者たちの顔が青ざめる。


「ま、待て待て!」

「誤解だ!」


「誤解の余地はありません」

ミーナが淡々と言う。

「あなた方は、不要です」


ガルドが一歩踏み出す。


「帰れ」


それだけだった。


盗掘者たちは、武器に手をかけたが――

誰も、踏み込めなかった。


動いている文明と、

動き出した町と、

それを“整理している”一行。


割に合わない。


「……チッ」


先頭の男が舌打ちし、後退る。


「覚えてろよ」


「忘れる」

ユウキは即答した。

「掃除するからな」


盗掘者たちは、逃げるように去っていった。


静寂。


町の人々が、息を吐く。


「……戦わなくて、よかった」

レオルが言う。


「戦う必要がなかった」

ミーナが訂正する。


井戸の修復が、再開された。


水が流れ出した瞬間、

小さな歓声が上がる。


町長は、目を潤ませていた。


「……一つ、ですね」


「ああ」

ユウキは頷く。

「一つ直ると、次が見える」


ゴミ拾いスキルが、静かになる。


だが、完全には止まらない。


まだ拾うものがある。

この町にも、

この世界にも。


ユウキは、空を見上げた。


冒険は、

こうやって始まる。


派手な号令じゃなく、

一つの“優先順位”から。


井戸から流れ出た水は、冷たくて澄んでいた。


誰かが手を伸ばし、

誰かが笑い、

誰かが黙ってその場に座り込む。


それだけで、町は少し“町”に戻った。


「……これで一段落、ですね」

レオルが言う。


「作業は完了していません」

ミーナは首を振る。

「応急処置です。恒久的な復旧には、追加資材が必要」


町長が申し訳なさそうに頭を下げる。


「資材は……正直、ありません」

「この町は、ずっと後回しにされてきましたから」


ユウキは、責めるような視線を向けなかった。


「知ってる」

「後回しにされた場所の顔だ」


ガルドが、少しだけ眉をひそめる。


「……お前、よく分かるな」


「清掃員だからな」

ユウキは肩をすくめる。

「後回しの山ばっか見てきた」


その時。


ミーナの端末が、短く音を鳴らした。


「……検知」

「近隣三十キロ圏内で、類似反応を確認」


「またダンジョン?」

レオルが身構える。


「いいえ」

ミーナは首を振る。

「“構造物”です。しかも、自然物の下に埋没」


町長が目を見開いた。


「……心当たりが、あります」


全員の視線が集まる。


「この町の北に、古い峠道がありまして」

「今は使われていませんが……」

「昔、鉱山都市とを繋いでいた道です」


ガルドが低く唸る。


「鉱山……か」


「ええ」

町長は頷く。

「ですが、崩落が続いて封鎖されました」

「誰も近づきません」


ユウキのゴミ拾いスキルが、

今度ははっきり反応した。


強くはない。

だが、長く続くタイプの反応。


「……そこに“放置”されてるな」

「人も、物も、記録も」


ミーナが確認する。


「座標は安定しています」

「危険度は不明ですが、即時崩壊の兆候はなし」


レオルが、少し迷うように言った。


「でも、俺たち……」

「依頼はもう終わってますよね」


ユウキは、井戸を見る。


水は流れている。

だが、町全体はまだ脆い。


「終わってない」

そう言った。


「水は戻ったけど、原因はそのままだ」

「後回しにされる理由が、まだ残ってる」


ガルドが、ニヤリと笑う。


「つまり?」

「掃除の続きだ」


町長が慌てて言う。


「い、いえ! そこまでは――」

「危険ですし、報酬も……」


「いい」

ユウキは即答した。

「今回は“次の仕事”を拾うだけだ」


ミーナが頷く。


「調査のみであれば、リスクは低減できます」


「様子見、ってやつですね」

レオルが言う。


「そう」

ユウキは言った。

「深入りするかどうかは、見てから決める」


町長は、しばらく黙っていたが、

深く頭を下げた。


「……ありがとうございます」

「この町に、また人が来る理由ができます」


その言葉に、

ユウキは少しだけ視線を逸らした。


「理由は作るもんじゃない」

「残ってたら、拾われるだけだ」


準備は早かった。


機械人形は井戸の仮補強を終え、

必要な資材リストを町長に渡した。


「復旧率、現状六割」

「残りは外部支援が必要」


町長は、その紙を宝物みたいに握った。


町を出る直前、

子どもがユウキに駆け寄る。


「ねえ」

「また来る?」


ユウキは一瞬だけ考えてから答えた。


「来るかもしれない」

「でも、来なくて済むなら、それが一番だ」


子どもはよく分からないまま、笑った。


町の外れ。


振り返ると、

水の音がちゃんと聞こえた。


「……次は峠か」

ガルドが言う。


「峠の下」

ミーナが補足する。

「埋もれたものがある」


レオルが、剣を背負い直す。


「なんか……」

「冒険らしくなってきましたね」


ユウキは、足元を見る。


道は整っていない。

でも、確かに“続いている”。


「冒険じゃない」

そう言って歩き出す。


「掃除の延長だ」


その背中を、

仲間たちは自然に追った。


町を離れ、

次の“後回し”へ。


こうしてユウキ一行は、

まだ名前も付いていない場所へ向かう。


それが後に、

大きな遺構と、

忘れられた都市の入口だったと知るのは、

もう少し先の話だ。

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