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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第12章

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次は、どこを掃除する?

王都は、久しぶりに落ち着いていた。


ギルドが復活し、冒険者の数も戻りつつある。掲示板には討伐依頼や護衛依頼が並び、街は“いつもの賑わい”を取り戻していた。


「……なんか、俺たち要らなくない?」


掲示板の前で、ユウキがぽつりと言った。


「今さら何を言ってるんですか」

ミーナが即座に返す。「要る要らないで動いてないでしょう、あなたは」


「まあな」


ガルドは腕を組みながら笑う。


「冒険者が増えたら増えたで、俺たちは別口だ」


実際そうだった。

討伐も護衛も、今は他に任せられる。ユウキ一行が割り込む必要はない。


「じゃあ次は何するの?」

レオルが気軽に聞く。


ユウキはしばらく考えてから言った。


「……掃除?」


「雑すぎません?」

ミーナがため息をつく。


だが、そこに声がかかった。


「掃除の人たち、ちょっといい?」


声の主は、商人だった。顔なじみではないが、どこか切迫した様子をしている。


「北の方で、困っててね」


話は簡単だった。


王都北方、かつて中継地として使われていた地域――境界原。新しい交易路ができてから人の流れが変わり、通る者が激減した。


「地図上は“通れる”ことになってるんだけど、実際はね……」

商人は肩をすくめる。「誰も整備してない」


危険な魔獣がいるわけじゃない。

大きな事件も起きていない。


ただ――


「通れなくなりつつある」


それだけだった。


「冒険者に頼むほどじゃない。でも放っておくと、あとで面倒になる」

商人はそう言って、頭を下げた。


「だから……君たちみたいな人に頼みたい」


ユウキは地図を受け取り、広げる。


境界原。

王都と未開地の“あいだ”。


「……地味だな」


「ええ」

ミーナが頷く。「でも、嫌な地味さです」


「掃除の仕事っぽい?」

レオルが聞く。


「っぽいな」

ユウキは即答した。


「じゃあ決まりだ」


こうして、ユウキ一行は王都を離れた。


北へ進むにつれ、風景は少しずつ変わる。道は細くなり、整備の跡が薄れていく。使われなくなった標識、傾いた柵、草に埋もれた休憩所。


「……全部、壊れてないのが逆に気持ち悪いな」

ガルドが言う。


「壊れてないから、誰も直さない」

ミーナが淡々と補足する。


「直さないから、余計に使われなくなる」


ユウキはその会話を聞きながら、腰元に意識を向けた。


ゴミ拾いスキル。


強く反応しているわけではない。

だが、ずっと“弱くざわついている”。


「……ここ、広いな」


地平線の向こうまで、なだらかな土地が続いている。山でも森でもない、曖昧な場所。境界原という名前が、妙にしっくり来た。


やがて、町が見えてきた。


大きくはない。

だが、荒れてもいない。


「……町、だよな?」

レオルが首を傾げる。


「ああ」

ユウキは頷いた。


だが、違和感はあった。


建物は立っている。道もある。

それなのに――


「物、多くないですか?」

ミーナが言う。


倉庫の前、広場の端、空き家の軒先。

そこかしこに、物が置かれている。


捨てられているわけでも、使われているわけでもない。

ただ、“そのまま”。


「……灰棚の町、ってところか」

ガルドが看板を読む。


ユウキは町を一望し、小さく息を吐いた。


「なるほど」


ここは、ゴミの町じゃない。


判断が止まった町だ。


そしてそのことを、

ゴミ拾いスキルは、もう気づいている。


灰棚の町は、静かだった。


人がいないわけじゃない。

通りを歩けば、窓の向こうに人影が見える。荷車を押す老人もいれば、井戸端で話す子どももいる。


それでも――


「……音が少ないな」


ガルドが低く言った。


本来あるはずの生活音が、妙に間引かれている。金属音、呼び声、笑い声。どれも弱く、遠い。


「町が、止まってる感じ」

レオルが首を傾げる。


ユウキは答えず、足元を見ていた。


道の端に置かれた木箱。

割れていない。

濡れてもいない。

だが、長く動かされていない。


「……誰の?」


近くにいた男に声をかけると、男は一瞬考え込んだ。


「さあ……前からそこにあった」


「前って?」


「前は前だよ」


それ以上は出てこなかった。


別の家。

壁際に積まれた布束。

干されていない洗濯物。


「これも?」


「……たぶん、使う予定だった」


「いつ?」


「そのうち」


会話は、そこで止まる。


ミーナが小さく息を吐いた。


「“後で”が、積もっていますね」


「捨てられてない。でも、使われてもいない」

ガルドが言う。


「判断が止まった結果、残った物……か」


ユウキは腰元の感覚を確かめる。


ゴミ拾いスキルは、まだ強く反応しない。

だが、町全体に薄く、広く反応している。


「……これ、ゴミじゃない」


「ええ」

ミーナが即答する。「でも、資源でもありません」


「じゃあ何だ?」


「途中です」


その言葉は、妙にしっくりきた。


広場に出ると、町長らしき男が待っていた。

若くも老いてもいない、判断役としてちょうど曖昧な年齢。


「来てくれてありがとう」


深々と頭を下げるが、声に切迫感はない。


「困ってるって話だったけど」

ユウキが切り出す。


「ええ……困っては、います」


歯切れが悪い。


「ただ、大きな問題があるわけじゃない」

町長は続ける。「死人も出てない。魔獣も来ない」


「でも?」


「……通る人が減った」


それだけだった。


交易路が変わり、ここは“通らなくてもいい町”になった。

結果、補修も更新も後回しにされ、判断が溜まり続けた。


「捨てるか、直すか、移るか」

町長は苦笑する。「どれも決めてない」


ユウキは町を見渡した。


ここは、廃墟じゃない。

でも、現役でもない。


「……片付けてほしい?」


「いえ」

町長は首を振る。「捨ててほしいわけじゃない」


「じゃあ?」


「どう扱えばいいか、分からない」


その瞬間。


ユウキのスキルが、わずかに強くざわついた。


「……あ?」


視線の先。

倉庫の影。


何かが、置かれている。


布をかけられ、柵で囲われ、誰も近づかない――

それでも、確かに“物”として残っている。


「……あれは?」


町長は一瞬、言葉に詰まった。


「……残留器、です」


初めて出た、固有名詞。


「古い、古い道具」

町長は続ける。「使い方が分からない。でも、壊すのも怖い」


「動くのか?」

ガルドが聞く。


「動きません。たぶん」


たぶん、という言葉が重かった。


ユウキは一歩、前に出た。


近づくほどに、スキルの反応がはっきりする。


ゴミじゃない。

危険物でもない。

だが――


“判断されていない物”。


「……なるほど」


ユウキは、小さく頷いた。


「ここ、掃除が必要だな」


「片付け、ですか?」

町長が恐る恐る聞く。


「いや」


ユウキは、残留器を見据えたまま言った。


「判断の掃除だ」


その言葉を、

誰も否定できなかった。


町の奥で、

何かが静かに“起動準備”に入ったことを、

まだ誰も知らないまま。


残留器は、思ったより大きかった。


倉庫の半分を占める円筒状の構造体。

金属と石が混ざったような素材で、表面には読めない文字列と、意味不明な刻印。


「……古代文明?」

レオルが目を凝らす。


「たぶん」

ミーナが頷く。「でも、軍事用ではありません」


「断言できるのか?」

ガルドが聞く。


「軍事用なら、もっと分かりやすく危険です」


説得力があった。


ユウキは、残留器の周囲を一周する。


触っていないのに、

**“動きたがっている”**感触だけが伝わってくる。


「これさ」

ユウキが言う。


「壊れてるんじゃない」

「え?」

町長が思わず声を上げる。


「止まってるだけだ」


その瞬間だった。


――カチ、と乾いた音。


残留器の表面に走る、淡い光。


「……あ」


誰かが短く声を漏らす。


次の瞬間、

円筒の一部がゆっくり開き、内部から何かが浮かび上がった。


それは――


人型だった。


だが、生身ではない。

関節が不自然に滑らかで、顔に表情がない。


「機械……人形?」

レオルが身構える。


「戦闘体じゃない」

ミーナが即座に言う。「反応速度が遅い」


だが安心する間もなく、

その機械人形は、ぎこちなく一歩を踏み出した。


「――判定未完了」

低い、くぐもった声。


「周辺環境……未整理」

「行動指針……不明」


ガルドが前に出る。


「来るぞ」


「待て」

ユウキが手で制した。


機械人形は、攻撃動作に入らない。

ただ、周囲を見渡し、何度も同じ言葉を繰り返している。


「未整理」

「未整理」

「未――」


その足元。


古い木箱が崩れ、歯車が転がった。


カチリ。


それを拾い上げた瞬間、

機械人形の動きが、ぴたりと止まった。


「……?」


ユウキは、その様子を見て理解した。


「これ、掃除用だ」


「掃除用?」

町長が聞き返す。


「判断が終わってない場所を、整理する装置」

ユウキは歯車を残留器に戻す。


すると――


「補完確認」

機械人形の声が変わる。


「不足部品……回収」

「行動再開」


だが次の瞬間。


別の方向で、床が軋んだ。


未補修の通路が崩れ、

機械人形がバランスを崩す。


「うわっ」


倒れかけたその身体を、

ガルドが咄嗟に支えた。


「重っ……!」


「危険ではありません」

ミーナが言う。「ただ、古い」


「つまり」

レオルがまとめる。


「こいつ、働きたいけど環境がダメってこと?」


「そうだな」


ユウキは、残留器と町を交互に見た。


「これ、壊すのは簡単だ」

「……」

「でも壊したら、この町は“完全に止まる”」


町長が、ゆっくり頷いた。


「判断を……放置し続けた結果、ですか」


「たぶん」


ユウキは肩をすくめる。


「で、俺たちにできるのは」

「できるのは?」


「全部直すことでも、全部捨てることでもない」


そう言って、ユウキは歯車を一つ拾った。


「どこから手を付けるか、決めることだ」


その言葉に、

機械人形の目が、淡く光った。


「……優先順位」

「設定可能」


町の空気が、ほんの少し変わる。


戦闘はない。

だが、これは確かに――


冒険だ。


どの“止まった判断”から拾うのか。


それを選ぶ責任が、

今、ユウキ一行に委ねられていた。

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