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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第11章

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王座に在るもの

王座層《記憶の間》は、思っていたよりも静かだった。


巨大な円形空間。

天井は高く、かつては光を反射していたであろう結晶板は、今ではほとんどが濁りきっている。

床には複雑な魔法陣と歯車の意匠が刻まれ、それらはかろうじて、まだ機能していた。


中央に――“それ”はあった。


玉座と呼ぶには無骨で、制御装置と椅子を無理やり一体化させたような構造。

そこに座しているのは、人の形をしていた。


否。

人であったもの、と言うべきか。


長い衣のような装甲に覆われ、身体の各所には制御管が繋がれている。

顔は見えるが、生気は薄く、瞳はどこか遠くを見ていた。


「……王、か」

レオルが小さく呟く。


ガルドは一歩前に出るが、すぐに止まった。

この場に、敵意はなかった。


「――侵入者」


声は、老いていた。

だが弱々しいというより、長く使われ続けて摩耗した音だ。


「……久しいな。生体反応を伴う来訪者は」


ユウキは剣に手をかけなかった。

代わりに、ゆっくりと一礼する。


「俺たちは、人を探しに来た」

「ここに入って、帰ってこなかった冒険者たちだ」


王は、ゆっくりと視線を向けた。


「……保管されている」

「損傷はない。機能停止状態だが、回復可能」


「……それを聞いて安心した」

ユウキは正直に言った。


王は、わずかに首を傾げた。


「安心?」

「理解できない。彼らは安全に“維持”されている」


「維持、か」

ユウキは一歩、前に出た。


「なあ」

彼は王を見上げる。「あなたは、何を守ってる?」


王の瞳が、ほんの一瞬だけ揺れた。


「……都市だ」

「我らの文明。記録。住民。未来」


「住民は、もういない」

ユウキは静かに言った。


「……否」

王の声が強くなる。「存在する。記録上、消失は確認されていない」


ミーナが小さく息を吸った。


「……記録が、更新されてない」

彼女は気づいたように呟く。


「正確には」

ユウキが続ける。「更新できなくなった、だろ?」


王は答えなかった。

代わりに、周囲の装置が微かに軋む音を立てる。


「……管理は続行されている」

「王である限り、都市は終わらせられない」


ユウキのゴミ拾いスキルが、胸の奥で静かに鳴った。


――拾える。

――だが、今ではない。


「あなたは、王だった」

ユウキは言った。「でも今は……」


言葉を選ぶ。


「役目だけが残ってる」


その瞬間。

王の表情が、初めて“人間らしく”歪んだ。


「……我は」

「終わっては、ならぬ」


濁った魔力が、玉座の周囲から滲み出す。

だが、まだ制御されている。


ガルドが一歩、前に出た。


「我々は、あなたを壊しに来たわけではない」

「だが、このままでは外の人間が巻き込まれる」


「……人間」

王はその言葉を、何度か反芻するように繰り返した。


「小さき者たち」

「彼らは、まだ……?」


その問いに、誰も即答できなかった。


ユウキは、少しだけ視線を落とす。


「生きてる」

「ただし、あなたの知ってる世界とは違う」


王は、長い沈黙の末に呟いた。


「……そうか」


玉座の奥で、何かが軋む音がした。

瘴気が、少しだけ濃くなる。


「時間が、足りぬな」

「判断が……遅れている」


そのとき、天井の装置が明滅した。


《警告》

《管理系統:不安定》

《瘴気濃度:臨界接近》


王は、それを聞いても動じなかった。


「……来るな」

彼はユウキに言った。「我が“判断”が、完全に崩れる前に」


ユウキは、静かに首を振った。


「それはできない」

「ここまで来た」


王は、初めてはっきりとユウキを見た。


「……ならば」

「次に口を開くとき、我は“王”ではないかもしれぬ」


重たい沈黙。


王座層全体に、低い振動が走る。


それは、戦闘の予兆ではない。

長く保たれていた役割が、限界を迎えつつある音だった。


低い振動は、最初は遠雷のようだった。


やがてそれは、王座層全体を揺らす規則的な脈動へと変わる。

床に刻まれた魔法陣が次々と明滅し、制御管を流れる魔力が不自然な速さで循環を始めた。


《警告》

《瘴気濃度:臨界》

《管理補正:失敗》


「来るわね」

ミーナが短く言う。


その直後、壁面の装甲が展開した。

内部から姿を現したのは、これまでの制御獣とは明らかに違う個体だった。


四足。

全身を覆う重装甲。

関節部には複数の補助駆動輪が仕込まれ、動きは獣というより“戦車”に近い。


《防衛機構・最終段階》

《王の安全を最優先》


「……あれは完全に戦闘用だな」

レオルが剣を構える。


「守る対象を間違えてる」

ガルドが盾を前に出した。


王は、玉座に座したまま動かなかった。

だが、その表情は明らかに苦悶に歪んでいる。


「……やめ、よ」

「それ以上の……防衛は……」


言葉は、命令として認識されなかった。


「意思より命令が優先されてる」

ユウキが歯を食いしばる。


最初の一体が、床を砕く勢いで突進してくる。


「来るぞ!」


レオルが正面から受け止めようとした瞬間、ユウキが叫んだ。


「正面は無理だ! 関節!」


ガルドが即座に動く。

盾で進路をずらし、装甲の継ぎ目へと衝撃を叩き込む。


ミーナは詠唱を最短で終え、結界を展開。

光の壁が一瞬だけ現れ、致命的な衝撃を逸らす。


「……硬すぎる」

レオルが舌打ちする。


「壊すな!」

ユウキが叫ぶ。「止めるんだ!」


彼は腰袋から、いくつもの“ガラクタ”をばら撒いた。

歪んだ歯車、欠けた制御板、用途不明の結晶片。


それらが床に落ちた瞬間、ゴミ拾いスキルが最大出力で作動する。


――回収判定。

――命令干渉。

――役割:解除。


一体の防衛機構が、突然動きを止めた。


《……》

《命令不整合》

《一時停止》


「効いてる!」

ミーナが声を上げる。


だが、それは一時的だった。

別の個体が即座に前進し、停止した個体を庇うように配置につく。


「次から次へ来るぞ!」

レオルが叫ぶ。


そのとき――


「……やめろ」


王の声が、王座層に響いた。


「もう……十分だ」


次の瞬間、玉座から濁った魔力が溢れ出す。

瘴気が爆発的に広がり、防衛機構の動きが一斉に乱れた。


《……》

《命令源:異常》

《再演算不能》


「王が、無理やり止めてる!」

ガルドが叫ぶ。


「このままだと――」

ミーナが言葉を飲み込む。


王の身体から、制御管が次々と外れていく。

それは破壊ではなく、限界を超えた自己解除だった。


「……聞け」

王はユウキを見た。


「我は……守れなかった」

「守ることしか、知らなかった」


ユウキは歯を食いしばる。


「だからって、全部一人で背負う必要はない」

「もう、役目は終わっていい」


王は、微かに笑った。


「……終わらせるのは、王ではない」

「“記憶を拾う者”だ」


次の瞬間。

王座層の装置が、完全に沈黙した。


防衛機構はその場で停止し、瘴気の流れも急速に弱まっていく。


だが――


王の身体は、ゆっくりと崩れ始めていた。


王の身体は、音もなく崩れていった。


崩壊というより、役目を終えた装置が順に停止していくような――そんな光景だった。

制御管が外れ、装甲が剥がれ落ち、最後に残ったのは、玉座に深く座り込んだ一人の老人の姿だった。


「……静かになったな」

レオルが小さく言う。


王座層を満たしていた瘴気は、嘘のように薄れていく。

壁の魔法陣は完全に沈黙し、歯車の振動も止まっていた。


王は、かすかに息をしていた。


ユウキは近づき、膝をつく。

敵としてではなく、話を聞くための距離で。


「……終わったのか」

王は、ぼんやりと呟いた。


「まだ」

ユウキは首を振る。「あなたが、話したいことを話してない」


王は、ゆっくりとユウキを見る。


「……奇妙だな」

「我が守るべきだった者たちと、同じ目をしている」


「人の目だろ」

ユウキは肩をすくめた。「特別じゃない」


王は、小さく笑った。


「……都市は、繁栄していた」

「記録は正確で、秩序は保たれ、争いは最小限だった」


「でも」

ミーナが静かに言った。「続かなかった」


「……ああ」

王は頷く。「続かなかった」


沈黙。


それを破ったのは、ユウキだった。


「なあ」

「この都市に、後悔はあるか?」


王はしばらく考えたあと、答えた。


「……ない」

「ただ、一つだけ」


王は、震える指で床を示した。

そこには、散乱した“ガラクタ”があった。

欠けた石板、折れた徽章、壊れた端末。


「それらは……我らの“日常”だった」

「だが、壊れた瞬間、価値を失った」


ユウキの胸が、静かに鳴った。


ゴミ拾いスキルが、優しく反応する。


――回収可能。

――意味あり。


ユウキは、一つ一つ拾い上げた。

石板に刻まれた市民名簿。

端末に残された、祭りの記録。

徽章の裏に彫られた、家族の印。


「……全部、残す」

ユウキは言った。「忘れない」


王の瞳に、初めて涙が滲んだ。


「……それで、十分だ」


王は、最後の力で言葉を絞り出す。


「頼む」

「我らが……存在したことを」

「失敗も、過ちも……記録として、残してくれ」


「約束する」

ユウキは即答した。


次の瞬間、王の身体は光となり、静かに消えた。


王座には、何も残らなかった。

ただ、ユウキの腕の中に、いくつもの“拾われたもの”があった。


数刻後。


捕縛されていた冒険者たちは、無事に解放された。

自我を失っていた者も、時間はかかったが、全員が正気を取り戻した。


「生きてるだけで、十分だな」

レオルが言う。


「ほんとね」

ミーナが笑った。


ユウキは、ダンジョンの出口を振り返る。


今やそこは、宝の山ではない。

歴史の墓標だった。


「……拾ってきたもん、王に見せるか」

「そうだな」

ガルドが頷く。「これは、金以上の価値がある」


ユウキは、肩をすくめた。


「まあ、金になるやつは金にするけどな」

「結局そこ?」

ミーナが呆れる。


「当たり前だろ」

ユウキは笑った。「再開発も、人助けも、タダじゃない」


こうして、

古代文明ダンジョンは“攻略”された。


だがそれは、

誰かを倒した結果ではない。


忘れられた役割を拾い、終わらせた結果だった。


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