表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第11章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/116

王都の外に、ダンジョンが生えた

最初に異変に気づいたのは、街道を往復していた行商人だった。


「……あれ、昨日までこんなもん、なかったよな?」


王都から半日ほど離れた丘陵地帯。

なだらかな草原が続くはずの場所に、巨大な石造りの構造物が突き出していた。


塔でも城でもない。

地面から“押し出された”ような、無骨で直線的な建造物。

表面には風化した文様と、ところどころに淡く光る魔法陣。


その日のうちに噂は王都へ届き、翌日には一言でまとめられた。


――ダンジョンが出現した。


「しかも古代文明っぽい、だってさ」


ギルドの掲示板の前で、ユウキは気の抜けた声を出した。

張り出された依頼書は、やけに分厚い。


「古代文明」「未知の構造」「高確率で高価値遺物」

そんな言葉がこれでもかと並んでいる。


「うわぁ……」

マルタが顔をしかめる。「これは、冒険者が群がるやつね」


実際、その通りだった。


復活したばかりの冒険者ギルドは、この話題で持ちきりだった。

腕に覚えのある連中も、そうでない連中も、こぞって準備を始めている。


「宝の匂いしかしない」

「一攫千金だぞ」

「古代文明だぞ? 伝説級だろ!」


浮かれた声が飛び交う中で、ユウキは依頼書の下段に視線を落とした。


「……ん?」


そこには、少しだけ小さな文字で追記があった。


《追記》

・先行調査に向かった複数のパーティが未帰還

・現在、正確な被害状況は確認中


「……未帰還、ね」


ユウキは眉をひそめる。

宝目当てで突っ込んで、帰ってこない。

ダンジョンでは珍しくない話だ。


ただ――。


「数が、ちょっと多いわね」

リィナが静かに言った。彼女は依頼書を見て、すでに把握しているらしい。


「五パーティ。しかも全部、ある程度の実力者」

「初心者じゃないってことか」

「ええ」


マルタが腕を組む。


「ギルド側は“偶然”ってことにしたいみたいだけど……」

「……偶然にしちゃ、揃いすぎだな」


ユウキはそう言いながら、なんとなく自分の腰元に意識を向けた。

ゴミ拾いスキル。

普段は静かなそれが、今は――微かに、ざわついている。


「ねえ、ユウキ」

マルタが言う。「あなた、行く気?」


ユウキは少し考えたあと、肩をすくめた。


「宝目当てじゃないけどな」

「じゃあ何?」

「……帰ってこない理由が、気になる」


それだけだった。


英雄でも、義務感でもない。

ただの引っかかり。


「じゃあ決まりね」

マルタは溜息混じりに笑った。「どうせ止めても行くでしょ」


「まあな」


こうして、

王都の外に突如現れた謎の古代文明ダンジョンへ、

ユウキ一行は向かうことになる。


そのダンジョンが、

ただの“宝の山”ではないことを、

彼らはまだ知らない。


王都を発って半日。


丘陵地帯に近づくにつれ、周囲の空気がわずかに変わっていくのが分かった。

風はある。音もある。だが、どこか“反響しない”。


「……あれか」


ガルドが顎で前方を示す。


草原の先。

地面を割るようにして突き出した、巨大な石造構造物。

遠くから見たときよりも、近くで見るとさらに異質だった。


「でかいな……」

レオルが思わず呟く。「城でも砦でもない。なんだこれ」


「建物というより、設備だな」

ユウキは構造物の表面に刻まれた直線的な文様を見上げる。

装飾というには規則的すぎる。


入口らしき開口部は、すでに開いていた。

扉はない。封印もない。


「……罠っぽい」

ミーナが杖を握り直す。「“どうぞ入ってください”って顔してる」


「ダンジョンってだいたいそうだろ」

ガルドが肩をすくめる。「行かない理由はない」


ユウキは一瞬だけ、背後を振り返った。

王都の方向――そこにいるマルタとリィナの顔が、ふと浮かぶ。


(無事に帰る理由が、増えたな)


そう思ってから、前を向いた。



中に入った瞬間、最初に感じたのは静けさだった。


足音がやけに響く。

生き物の気配がない。


「……静かすぎないか?」

レオルが声を落とす。


「普通、もうちょっと魔物がうろついてるもんだけどな」

ガルドも周囲を警戒する。


通路は広く、天井も高い。

壁には淡く光る魔法陣が一定間隔で埋め込まれている。


「照明……?」

ミーナが首を傾げる。「いや、違う。これ、魔力の流れを制御してる」


その時だった。


――カチリ。


金属が噛み合うような、乾いた音。


「来るぞ」


ユウキが言った直後、壁の一部が滑るように開いた。

中から浮かび上がる、球体状の物体。


一つ、二つ――いや、もっと。


表面に刻まれた魔法陣が同時に発光し、こちらを向く。


「……魔物じゃないな」

ガルドが即断する。


次の瞬間、球体から一直線に魔力弾が放たれた。


「っ!」


ガルドが盾で受ける。

衝撃は重いが、殺意は感じない。


「殺しに来てない?」

レオルが回り込みながら叫ぶ。


「威力、抑えられてる!」

ミーナが応じる。「正確すぎる、これ……」


球体は淡々と動く。

感情も、怒りもない。

ただ“侵入者”を認識し、一定の距離を保ち、攻撃を繰り返す。


「……これ、敵っていうか――」

ユウキが呟く。


その腰元で、ゴミ拾いスキルが微かに反応した。


「――装置、だな」


ユウキは地面に落ちた、停止した球体の一つに近づく。

触れた瞬間、情報が流れ込んだ。


――《掃討機:迎撃用自動装置》

――《目的:侵入者の無力化》

――《優先命令:排除ではなく拘束》


「やっぱりな」


「どういうことだ?」

ガルドが振り返る。


「ここ、宝を守る場所じゃない」

ユウキは通路の奥を見る。「何かを管理するための施設だ」


それを裏付けるように、さらに奥から別の影が現れた。


人型。

金属の骨格。

顔のない頭部。


「……次は、でかいの来たな」

レオルが笑う。


「迎撃層、ってところか」

ユウキは息を整えた。「どうやら、本番はこれからだ」


一行は陣形を組み直し、静かに前へ進む。


まだ、このダンジョンの正体も、

帰ってこなかった冒険者たちの行方も、分からない。


だが一つだけ、確かなことがあった。


この古代文明ダンジョンは――

誰かを殺すためではなく、閉じ込めるために作られている。


迎撃層を抜けた先で、空気が変わった。


音がある。

かすかな呼吸音。

機械の作動音とは違う、不規則な“生きている”気配。


「……誰か、いるな」

ガルドが低く言う。


通路の幅は徐々に広がり、床には細い溝のようなものが走っている。

壁の魔法陣も、迎撃層より複雑だ。


「ここ、構造が違う」

ミーナが周囲を見回す。「迎撃じゃない。制御用だ」


その言葉通りだった。


通路の先に開けた空間。

そこには、円形の広間があり――中央に、人影があった。


「……人だ」


ガルドが一歩踏み出しかけて、止まる。


人影は一人ではなかった。

壁際に沿って、複数の人間が立ったまま固定されている。


縄でも檻でもない。

足元と背中に、淡い光の魔法陣が浮かび、身体を支えている。


「おい……」

レオルが息を呑む。「あれ、冒険者だぞ」


鎧も、武器もそのまま。

だが目は虚ろで、こちらを見ていない。


「生きてる」

ミーナが即座に言った。「呼吸も、脈も正常」


「でも……」

レオルが声を落とす。「意識、ないな」


ユウキは一人の冒険者に近づき、慎重に顔を覗き込んだ。


「……眠ってる、って感じでもないな」


その瞬間、腰元でゴミ拾いスキルが弱く反応した。

人そのものではない。

だが、彼らを拘束している魔法陣に、微かな“引っかかり”がある。


「これ……」

ユウキは床の溝と、魔法陣を見比べる。「排除でも監禁でもない」


「じゃあ何だ?」

ガルドが問う。


「保管だ」


その言葉に、場の空気が一瞬固まった。


「人を、か?」

「たぶんな」


ユウキは魔法陣に触れない距離を保ったまま、説明する。


「この魔法陣、生命維持と精神安定が優先されてる。

動けないけど、傷つかない。

外に出さない代わりに、生かす」


「……管理施設、ってことか」

ミーナが静かに呟く。


その時、広間の奥で、低い駆動音が響いた。


ゆっくりと、壁の一部が開く。

そこから現れたのは、迎撃層の掃討機よりも大きく、

警備兵よりも複雑な構造を持つ装置だった。


「新手だな」

ガルドが盾を構える。


だがその装置は、攻撃の構えを取らなかった。


代わりに、機械的な声が広間に響く。


《侵入者、確認》

《当区画は制御層》

《対象は隔離済み》

《追加処理を実行します》


「……追加処理?」

レオルが眉をひそめる。


「嫌な言い方だな」

ユウキは一歩前に出た。


ゴミ拾いスキルが、今度ははっきりと反応している。

この装置――この区画そのものが、“ゴミ”ではないが、

どこか壊れかけていると告げていた。


「隔離して、管理して……」

ユウキは小さく息を吐く。「長いこと、ここは人を“守り続けて”きたんだろうな」


だが――

守る理由を、忘れてしまった。


「行こう」

ユウキは仲間たちを振り返った。「奥に、全部の命令を出してる中枢がある」


「そこを止めれば?」

ガルドが聞く。


「止まるかもしれないし、止まらないかもしれない」

ユウキは肩をすくめた。「でも、少なくとも理由は分かる」


制御層の奥。

さらに深く、ダンジョンは続いている。


そしてこの先に、

この都市を作り、管理し、壊してしまった存在がいる。


一行は、再び歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ