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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第9章

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返されたもの、残ったもの

 エルフの大広間は、以前よりも静かだった。


 視線は集まる。

 だがそこには、警戒よりも確認があった。


 ユウキは、包みを机の上に置く。

 布を解くと、現れたのは古い記録板。


 誓約の文。

 エルフと人間が、かつて交わした言葉。


 大エルフは、しばらく黙ってそれを見つめていた。


「……これは」


「秘宝です」

 ユウキは簡潔に答える。「力ではなく、記憶の」


 周囲のエルフたちが、息を呑む。


「失われたと思われていた」

「いや……忘れたことにしていたのかもしれない」


 大エルフは、そう呟いた。


「ダークエルフは?」


「彼らは守っていました」

 ユウキは事実だけを述べる。「壊されないように」


 大エルフの表情が、初めて揺れた。


「……愚かなことをした」


 それは謝罪ではない。

 だが、否定でもなかった。


「人間よ」

 大エルフは顔を上げる。「お前は、これをどうしたい」


「返したいだけです」


「それだけか?」


「それ以上は、俺の仕事じゃない」


 沈黙が落ちる。


 大エルフは、長い時間をかけて息を吐いた。


「交易を認めよう」


 短い言葉だったが、場がざわめく。


「条件は変わらない」

「互いに、壊さないこと」


 ユウキは頷いた。


「それで十分です」


 大エルフは、視線を逸らす。


「……人間を、少し見誤っていた」


 その言葉は、評価ではない。

 更新だった。


 こうして、

 交易への道は開かれた。


 だが同時に、

 長い歴史の“後始末”が、ようやく始まったのだった。


 エルフの港は、到着した時とは空気が違っていた。


 歓迎の言葉はない。

 だが、視線が避けられることもない。


「……さっきより、見られてるね」


 ミーナが小声で言う。


「警戒じゃない」

 ユウキは答える。「評価だ」


 桟橋では、エルフたちが黙々と荷を運んでいた。

 その中に、いくつか明らかに異質な箱が混ざっている。


「それは?」

 ユウキが問いかけると、年配のエルフが答えた。


「ポーションだ」


「随分と数が多いな」


「交易の“試供”だ」

 彼は淡々と言う。「王都での反応を見る」


 箱の一つが開かれる。

 中には透明度の高い液体。わずかに緑がかった色合い。


「……魔力密度、高い」


 ミーナが息を呑む。


「即効性より、持続性を重視している」

 エルフは説明する。「身体に負担を残さない」


「人間製とは、思想が違うな」


「短命な種族は、即効性を好む」

 否定ではない。ただの事実だ。


 そこへ、大エルフが姿を見せる。


「人間」


 ユウキを呼び、静かに続ける。


「お前たちを、正式な使節と認める」


 その言葉は、称号でも勲章でもない。

 だが、重い。


「我らの使いを、一人同行させる」

「言葉と、意図を伝えるためだ」


 一人のエルフが前に出る。

 若く見えるが、目は落ち着いている。


「名はセリオ」

 簡潔な名乗りだった。


「よろしく」


 セリオは、深くも浅くもない礼をする。


「……ちゃんと交渉用だね」


「戦力じゃない」


 ユウキは頷いた。


 積み荷が揃い、船が再び出航の準備に入る。


 桟橋の端で、あのハーフエルフの姿が見えた。

 以前より、少しだけ背筋が伸びている。


 目が合うと、彼は軽く頷いた。


 言葉はない。

 それで十分だった。


 船が動き出す。


 森が、ゆっくりと遠ざかる。


「……英雄扱い、されなかったね」


 ミーナがぽつりと言う。


「期待してた?」


「ちょっとだけ」


 ユウキは、肩をすくめた。


「評価されるのは、終わったあとでいい」


 今は、

 壊さなかった結果を、持ち帰るだけだ。


 王都へ向かう航路の上で、

 新しい交易と、新しい火種が、静かに動き始めていた。


 王都の港に戻ったとき、空気は確かに変わっていた。


 出迎えの数が多い。

 だが、歓声はない。


 それは“結果”を待つ態度だった。


 エルフの使節セリオが降り立つと、ざわめきが走る。

 彼が差し出した書状と積み荷は、すぐに城へ運ばれた。


 謁見は、想像より早かった。


「……戻ったか」


 王は、玉座ではなく、例の会議室にいた。

 報告を聞く前から、結論は分かっている顔だ。


「交易は成立しました」

 ユウキは簡潔に告げる。「条件付きですが」


「条件?」


「壊さないこと」


 王は、短く笑った。


「実に、お前らしい」


 セリオが一歩前に出る。


「エルフの森は、人間との交易を認める」

「ただし、誓約を破れば、即座に凍結する」


「当然だ」


 王は即答する。


 その後の報告は淡々と進んだ。

 秘宝の件、ダークエルフとの関係、ハーフエルフの行方。


 全てを聞き終えた後、王は一つ息を吐いた。


「功績は大きい」

「国として、報いねばならない」


 机の上に、勲章と文書が置かれる。


「王都より、最高位段位を――」


「辞退します」


 即答だった。


 場が、静まり返る。


「理由を聞こう」


「俺は、冒険者でも英雄でもありません」

 ユウキは言う。「拾い物をしただけです」


「それでも、結果は残した」


「結果を持ち帰るのは、仕事です」

「称号は、仕事じゃない」


 ミーナが、横で小さく頷く。


 王は、しばらくユウキを見つめていた。

 やがて、文書を閉じる。


「……分かった」


 その代わり、と前置きして続ける。


「望みはあるか」


 ユウキは、少し考えてから答えた。


「二人分あります」


 王の眉が動く。


「ギルドで働いていた、マルタとリィナ」

「彼女たちの待遇を、正当に」


「具体的には?」


「給与の引き上げと、裁量」

「責任を取れる立場に」


 王は、即答しなかった。

 だが、拒否もしない。


「……なるほど」


 そして、静かに頷いた。


「それは、私の裁量で可能だ」


 ユウキは、一礼する。


「それで十分です」


 謁見が終わり、城を出ると、ミーナが呆れた顔で言った。


「ほんとに、何も取らないんだね」


「取っただろ」


「何を?」


「続けられる場所を」


 数日後。


 王都では、ひっそりと変化が起きていた。


 冒険者ギルドは、再編された。

 表向きは“新設”。だが、実態は復活だ。


 その中枢に、二つの名があった。


 マルタ。

 リィナ。


 そして、その知らせを聞いたユウキは、いつも通り街を歩く。


 拾われたのは、称号ではない。

 関係と、次へ進む理由だった。


 朝の王都は、少しだけ騒がしかった。


 露店の準備の音。

 掃除をする人の足音。

 そして、掲示板の前に集まる人だかり。


「……あれ?」


 リィナが立ち止まり、目を細める。


「求人、増えてない?」


 掲示板には、紙が何枚も貼り出されていた。

 倉庫管理、護衛補助、街道整備、港湾作業。


 どれも派手ではない。

 だが、“消えない仕事”だ。


「急にどうしたんですかね」


 リィナの問いに、マルタが肩をすくめる。


「急じゃないさ」

「溜まってたのが、動き出しただけ」


 彼女は、いつも通り飴を取り出して口に放り込む。


「壊れなかったからね」


「……それ、褒めてます?」


「最高の褒め言葉さ」


 二人がギルドの建物に入ると、中は忙しそうだった。

 机は増え、書類は整えられ、相談窓口には列ができている。


「責任、重くなりましたね」


「重いほうが、消えない」


 マルタはそう言って、笑った。


 一方その頃。


 ユウキは、いつも通り街を歩いていた。


 腰の袋は軽い。

 剣も抜かない。


 ただ、路地の端で立ち止まり、落ちていた金属片を拾う。


「……まだ使えるな」


 それを布で包み、袋に入れる。


「相変わらずだね」


 ミーナが横から覗き込む。


「変える理由がない」


「英雄になったのに?」


「なってない」


 ユウキは即答する。


 港の方角から、エルフの使節が歩いてくるのが見えた。

 荷は少ないが、護衛はいない。


「交易、始まるね」


「始まっただけだ」


 遠くで、船の汽笛が鳴る。


 世界は変わった。

 だが、劇的ではない。


 壊れなかったものが、

 少しずつ、動き出しているだけだ。


 ユウキは、袋の口を閉じる。


「……さて」


 拾うべきものは、まだ多い。


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