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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第1章

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検証開始

 再開発予定地の空気は、朝から張りつめていた。


 柵の外には役所職員、ギルド関係者、

 それから――明らかに野次馬。


「清掃判断の検証を開始する」


 勇者パーティのリーダーが、

 よく通る声で宣言した。


「本日は、

 清掃担当ユウキの判断が

 街の安全に寄与しているかを確認する」


 建前は完璧だ。


 俺は一歩前に出て、

 いつも通り袋を担いだ。


「普段通りでいいですか?」

「構わない」


 リーダーは頷く。


「ただし、

 危険があれば我々が介入する」


 つまり、

 見張られているということだ。


 区画に入る。


 瓦礫、崩れた壁、

 捨てられた木箱や壊れた器具。


 見慣れた光景だ。


 俺は地面にしゃがみ、

 一つずつ確認していく。


「拾う」

「拾わない」

「……これは後回し」


 独り言のように判断を重ねる。


 周囲が、ざわつき始めた。


「本当に、

 ただの清掃だな……」

「何を見て判断してるんだ?」


 勇者の一人が、小声で言う。


 しばらくして、

 瓦礫の影に、不自然な袋を見つけた。


 破れかけの布袋。

 中身が、重い。


「……?」


 俺は手袋越しに、

 そっと触れた。


 微かに、嫌な感触。


 魔力、だと思う。


「拾う、かな」


 袋を開ける。


 中にあったのは、

 小さな瓶と、

 焦げた紙片。


 瓶には、使い切った跡。

 紙片には、雑な文字。


 完全には読めないが、

 いくつか残っている。


「……誘導……」

「……数を……調整……」


 俺は、首を傾げた。


「危険物ですか?」

 役所の担当が、緊張した声で聞く。


「……一応」


 勇者パーティが、近づいてきた。


「それは何だ」

 リーダーの視線が、鋭くなる。


「ゴミです」

「中身は?」


「使い切った瓶と、

 破れたメモ」


 俺は正直に答えた。


「……それだけか?」


 ほんの一瞬、

 リーダーの声が硬くなった。


 俺は、少し考えてから言った。


「拾わない選択肢もありますけど」

「なぜ拾う?」


「……捨て方が雑だったので」


 意味はない。

 でも、理由はそれで十分だった。


 役所の担当が、

 検査用の箱を持ってくる。


「こちらで預かります」


「一応、

 危険物として処理してください」


 それで終わり、のはずだった。


 だが――

 勇者の一人が、目を逸らした。


 ほんの一瞬。


 それを見たのは、

 多分、俺だけだ。


 俺は、袋を持ち直す。


「次、行きます」


 作業は続く。


 誰も、

 その“ゴミ”について

 それ以上、何も言わなかった。


 だが空気は、

 確実に変わっていた。


 柵の外。


「今の……」

「気のせいだろ?」


 囁きが、広がる。


 勇者パーティのリーダーは、

 視線を伏せたまま、

 静かに言った。


「……検証を続ける」


 その声には、

 初めて、

 焦りが混じっていた。


 一方、俺は思った。


「……仕事、

 増えそうだな」


 それだけだ。


 それが、

 **最初の“拾われた違和感”**だった。


 検証は、そのまま続行された。


 俺は、特別なことはしない。

 いつも通り、歩いて、しゃがんで、確認する。


「これは拾う」

「これは拾わない」


 判断は淡々としていた。


 だが、周囲はそうじゃない。


「今のは?」

「なぜ放置する?」


 勇者パーティの一人が、我慢できずに声を上げた。


「危険物に見えるが」

「見えますね」


「なら、なぜ拾わない?」


 俺は少し考える。


「今は、

 危険として“機能していない”ので」


 その場が、静まった。


「……どういう意味だ」

 リーダーが問う。


「配置です」


 俺は、瓦礫と地面を指す。


「人の動線から外れている」

「魔力は残ってるけど、

 誘発条件がない」


「今拾うと、

 “ここに危険があった”

 という記録が残る」


 周囲がざわつく。


「でも、

 放置すれば、

 自然に無害化します」


「……それが、

 判断だと思います」


 役所の担当が、

 慌ててメモを取る。


 勇者パーティの顔色が、

 一段、悪くなった。


「それは、

 勇者の仕事を否定する発言か?」


 別の勇者が、

 苛立ちを隠さず言う。


「いえ」

「清掃の話です」


 それだけで、

 会話は終わった。


 だが、終わらなかったのは、

 影響だ。


 次の地点。


 以前なら、

 “危険区域”として

 即討伐対象になっていた場所。


 俺は一目見て、

 首を振った。


「拾わない」

「なぜだ!」


「ここ、

 数日前に誰かが手を入れてます」


 勇者たちが、

 ぴくりと反応する。


「痕跡が新しい」

「でも、

 放置しても問題が起きない配置」


「つまり……」

 俺は言葉を選ばず、

 そのまま言った。


「ここ、

 “危険に見えるように整えられてる”

 だけです」


 空気が、凍った。


「根拠は?」

 リーダーが、低い声で問う。


「ゴミの向き」

「足跡」

「回収されてない部材」


 俺は一つずつ挙げる。


「自然じゃないです」


 野次馬の中から、

 小さなざわめきが広がる。


「……演出ってこと?」

「危険を、

 作ってた?」


 勇者の一人が、

 一歩前に出た。


「それ以上は、

 業務範囲外だ」


「はい」


 俺は素直に頷く。


「なので、

 拾いません」


 それが、

 一番効いた。


 拾わない。

 報告しない。

 処理しない。


 つまり――

 “英雄の出番”を作らない。


 リーダーは、

 一瞬だけ歯を食いしばった。


「……検証を続ける」


 だが、その声には、

 余裕がなかった。


 マルタさんが、

 柵の外で腕を組む。


「始まったね」

 隣の職員に、ぽつりと漏らす。


 資料室では、

 リィナが速報を受け取っていた。


「清掃判断により、

複数の危険指定が解除見込み」


 彼女は、静かにペンを走らせる。


「勇者介入:効果なし」


 その一文は、

 後で効いてくる。


 現場で、

 勇者パーティの一人が、

 抑えきれずに吐き捨てた。


「……余計なことを」


 俺は、聞こえなかったふりをする。


 仕事中だ。


 ただ、

 拾うか、拾わないか。


 それだけを、

 決めている。


 だが――

 その判断が、

 誰かの“都合”を、

 確実に壊し始めていた。


 検証の後半は、

 明らかに空気が違っていた。


 俺が一つ判断するたびに、

 勇者パーティの視線が刺さる。


「拾わない」

「ここは経過観察」


 それだけで、

 ため息や舌打ちが混じるようになった。


「待て」


 とうとう、リーダーが声を上げた。


「その判断、

 本当に妥当だと言い切れるのか?」


 俺は立ち止まり、振り返る。


「業務基準には沿っています」

「それは清掃側の基準だろう」


「はい」


 だから何だ、という顔で答える。


「だが、

 万が一が起きたらどうする?」


「起きない配置です」


 即答だった。


 勇者の一人が、苛立ちを隠さず前に出る。


「お前、

 勇者の判断を軽く見ているな?」


「軽く見てません」

「なら従え」


 その言葉に、

 周囲がざわついた。


「それは、

 業務外介入になります」


 俺がそう言うと、

 一瞬、静寂が落ちた。


 役所の担当が慌てて割って入る。


「ちょ、ちょっと待ってください!

 本日はあくまで検証で――」


「危険があるなら、

 勇者が介入する権限がある」


 リーダーの声は、低く、強い。


「それは、

 “危険が確認された場合”です」


 俺は、手元の記録板を示した。


「現時点では、

 確認されていません」


 野次馬の中から、

 小さな拍手が起きた。


 すぐに、

 誰かが止める。


 だが、

 空気はもう戻らない。


「……いいだろう」


 リーダーが一歩引いた。


「本日は、ここまでだ」


 それは撤退宣言だった。


 だが、同時に――

 次を示す言葉でもあった。


「後日、

 正式な形で決着をつけよう」


 誰もが、

 その意味を理解した。


 役所の担当は、

 青ざめていた。


「それは……」

「正当な手続きだ」


 勇者は、そう言い残して去っていく。


 現場には、

 妙な静けさが残った。


「……終わりました?」


 俺が聞くと、

 担当は力なく頷く。


「はい……

 本日の検証は、終了です」


 柵の外で、

 マルタさんが肩をすくめる。


「来たね」

「何がですか?」


「みせしめの決闘だよ」


 飴を一つ、

 いつもより強く握らせてくる。


「逃げ道は?」

「あるわけないでしょ」


 資料室では、

 リィナが報告書を閉じていた。


《検証結果:清掃判断、概ね妥当》


 その下に、

 追記がある。


《勇者側、業務外介入の兆候あり》


 彼女は、それを

 正式記録として保管した。


 その夜、宿に戻る途中。


 路地の端に、

 見覚えのある布切れが落ちていた。


 勇者装備の一部。

 それも――

 わざと捨てられたような位置。


「……?」


 俺は少しだけ迷ってから、

 それを袋に入れた。


「拾う、か」


 理由は簡単だ。


 捨て方が、雑すぎた。


 その時、

 街のどこかで、

 決闘の準備が始まっていた。


 俺はまだ、

 それを知らない。


 ただ、

 仕事をしているだけだ。


 だが――

 もう、元の場所には戻れない。


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