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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第8章

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期限当日

 夜明け前の王都は、妙に静かだった。


 人がいないわけじゃない。

 灯りも消えていない。


 ただ、動きが止まっている。


「……もう、始まってる」


 ミーナの声は、囁くようだった。


 広場。裏路地。工房街。

 倒れてはいないが、立ち止まっている人がいる。

 呼ばれていない。待ってもいない。ただ、次に進めない。


 《なんか使えそう判定》


 反応は、街全体に薄く広がっている。

 拾えば、全部が一度に反応する。


「拾える」

 ユウキは呟いた。「今なら」


 倉庫へ向かう道の途中、管理局の灯りが見えた。

 夜通し、動いているらしい。


「……向こうも必死だな」


 ミーナが言う。


「期限が同じだからな」


 倉庫の前には、誰もいなかった。

 鍵は、最初から開いている。


 中に入ると、空気が違った。


 棚が、ずれている。

 書類が、わずかに浮いている。


 拾われる準備が、整っている。


「これ以上待つと、勝手に回収が始まる」


 ミナが言った。


「誰が?」


「名前のないやつ」


 ユウキは、中央に立った。


 ここで拾えば、終わる。

 誰も倒れない。

 責任も、消える。


「……やっぱり、楽だな」


 ユウキは苦笑した。


 だが、そのとき。


「ユウキ君!」


 声が響いた。


 倉庫の入口に、管理局の職員たちが立っている。

 名簿に名前を書いた、あの若い職員もいた。


「全部、集まりました」

 息を切らしながら、若い職員が言う。「名前、書けました」


 後ろの職員たちが、束になった書類を抱えている。

 責任者欄に、名前がある。


 不格好で、歪で、統一も取れていない。

 だが――空白じゃない。


「……間に合ったか」


 ユウキがそう言った瞬間。


 倉庫の奥で、音が止まった。


 浮いていた書類が、静かに棚へ戻る。

 ずれていた棚が、元の位置に収まる。


 《なんか使えそう判定》


 反応は、消えた。


「……拾えなくなった」


 ミーナが呟く。


 ユウキは、深く息を吐いた。


「よし」


 その瞬間、空気が揺れた。


 アーカイブが、はっきりと姿を現す。

 今回は、逃げない。


「判断完了」

 静かな声だった。「回収、不要」


「そうか」

 ユウキは頷く。「助かった」


「いいや」

 アーカイブは言う。「助けたのは、君ではない」


 視線が、管理局の職員たちへ向く。


「責任を名乗った者たちだ」


 アーカイブの姿が、少しだけ薄れる。


「記録する」

「回収されなかった案件として」


 それだけを残し、消えた。


 倉庫には、人の息遣いだけが残る。


「……終わった?」


 ミーナが聞く。


「いや」

 ユウキは首を振った。「終わらなかった」


 それが、一番の成果だった。


その日の朝、王都はいつも通りに動き出した。


 倒れる人はいない。

 立ち止まる人も、少しずつ減っていく。


 管理局は混乱した。

 責任の所在が増え、仕事も増えた。


 だが、“処理済み”は減った。


 ユウキは、いつものように通りを歩く。


 ゴミを拾い、拾わない判断をし、立ち止まる。


「……派手じゃなかったな」


 ミーナが言う。


「いいだろ」

 ユウキは答える。「拾わなかったんだから」


 ポケットの中で、白紙だった紙が、完全に消えていた。


 期限も、もうない。


 ただ一つ、確かなことがある。


 この街には、もう一つ“拾われなかった前例”が残った。


 それは、きっと面倒で、厄介で、

 でも――簡単には捨てられないものだった。

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