表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第8章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/86

期限のない案件

 朝の王都は、いつも通りだった。


 露店が並び、通りでは子どもが走り回り、昨日と同じ時間に鐘が鳴る。

 変わったところは何もない――はずだった。


「……増えてるわね」


 ミーナが足元を見る。


 ユウキも視線を落とした。

 紙くず、壊れた留め具、用途不明の金属片。どれも大したものじゃない。


 ただ、昨日より確実に多い。


「清掃は入ってるはずだよな」


「ええ」

 ミーナは頷く。「記録上は“通常処理”」


 その言葉に、ユウキは小さく息を吐いた。


 通常処理。

 昨日、倉庫で聞いた言葉と同じだ。


《なんか使えそう判定》


 反応は出る。

 だが、どれも弱い。拾っても、拾わなくても、世界は変わらない――そんな感触。


「今日は拾う?」

 ミーナが聞く。


「拾う」

 ユウキは即答した。「これは、まだゴミだ」


 判断は明確だった。

 昨日の案件とは違う。


 ユウキが屈んで拾い始めると、スキルが淡々と動く。分類、整理、価値再定義。いつもの流れ。


 だが、途中で一つだけ、引っかかるものがあった。


 割れた徽章。

 管理局のものでも、ギルドのものでもない。だが、見覚えがある。


「これ……」


 ユウキが考え込んだ、そのとき。


「お兄ちゃん、それいらないの?」


 声をかけてきたのは、配達帰りの少年だった。


「どうして?」


「さっき、向こうの通りでも同じの見たから」


 ユウキは立ち上がる。

「どこだ?」


 少年が指さした先には、裏路地があった。

 人通りは少ないが、危険な場所じゃない。


 路地に入ると、確かに落ちている。

 同じ徽章。しかも、複数。


「……意図的だな」


 ミーナが言う。


「うん」

 ユウキは頷いた。「捨ててる」


「誰が?」


「それを、今から拾いに行く」


 ユウキは徽章を一つ、ポケットに入れた。

 《なんか使えそう判定》が、微かに反応する。


 だが、いつもの“便利”とは違う。


 これは道具じゃない。

 手がかりだ。


「期限は……まだないな」


 ユウキは呟いた。


 だが、はっきり分かっていた。

 期限がない案件ほど、突然終わる。


 ――そして、終わり方は選べない。


 徽章は、裏路地の奥に行くほど数が増えていた。


 整然としていない。

 だが、完全な無秩序でもない。


「……配置されてるわね」

 ミーナが低く言う。


「罠みたいな並びじゃない」

 ユウキは周囲を見回す。「見せたいだけだ」


 路地の突き当たりで、ユウキは立ち止まった。

 壁に、同じ徽章がまとめて置かれている。十を超えていた。


「これ……管理局のでも、ギルドのでもない」


「でも公的ね」

 ミーナが補足する。「刻印がある」


 ユウキは一つ手に取った。

 表面の模様は摩耗しているが、中央の印はまだ読める。


「……“回収済”」


 短い言葉だった。


「回収?」

 ミーナが眉をひそめる。「管理局の用語じゃない」


「ギルドでもない」

 ユウキは頷く。「少なくとも、今の制度では」


《なんか使えそう判定》


 反応は、出ない。

 代わりに、別の感触があった。


 触れてはいけないものに触れている感覚。


「これ、捨てられたんじゃないな」

 ユウキは言った。「役目を終えた印だ」


「終えた、って」


「もう、回収されないってことだ」


 ミーナは一瞬、言葉を失う。

「それ……回収者がいる前提じゃない」


「いる」

 ユウキは即答した。「しかも、複数」


 壁の影が、不自然に揺れた。

 誰かがいるわけじゃない。ただ、そういう気配が残っている。


 ユウキは徽章を一つだけ拾い、残りはそのままにした。


「全部拾わないの?」


「拾ったら、消える」

 ユウキは言う。「消えたら、分からなくなる」


「何が?」


「“拾われない側”がいたってこと」


 路地を出ると、王都の音が戻ってくる。

 人の声、足音、商いの呼び声。


 さっきまでの空気が、嘘みたいだった。


「これ、誰に聞く?」

 ミーナが尋ねる。


 ユウキは少し考えた。

「聞かない」


「え?」


「向こうから来る」

 ポケットの徽章を指で弾く。「これは、そういう印だ」


 ミーナは小さく息を吐いた。

「また厄介な役目ね」


「いつものことだ」


 ユウキは歩き出す。

 今回は、拾うより先に――待つ仕事になる。


 その背中を、どこかから“確認する視線”が追っていた。


 記録されない、だが確かに存在する視線だった。


 その日の夕方、ユウキたちは宿に戻らなかった。


 理由は単純だ。

 戻る意味がなかった。


 王都の中央広場。人通りは多く、監視の目も多い。

 それでも、ユウキはあえてそこを歩いていた。


「目立つわよ」

 ミーナが小声で言う。


「だからいい」

 ユウキは答える。「隠す気があるなら、ここには来ない」


 ミナが、ユウキの肩の後ろをじっと見ている。

「……いる」


「分かる?」

「うん。アーカイブじゃない」


 それだけで、十分だった。


 広場の端、噴水の影。

 そこに“人型”が立っていた。


 性別も年齢も分からない。

 服装は普通だが、どこか現実感が薄い。人の形を借りている、という印象だけが残る。


 向こうも、ユウキを見ていた。


 距離はある。

 近づく気配はない。


 ただ、見ている。


「話さないな」

 ユウキが呟く。


「うん」

 ミナが頷く。「確認だけしてる」


 その瞬間、ユウキのポケットの中で徽章がわずかに熱を持った。


《なんか使えそう判定》


 反応は、出なかった。


 代わりに、**拒否でも肯定でもない“保留”**の感触が伝わってくる。


 人型が、一歩だけ後ろに下がる。


 それだけで、意思は十分だった。


「……回収しない、って判断を見たかっただけか」


 ユウキがそう言うと、人型は何も答えない。

 その輪郭が、少しだけぼやける。


 次の瞬間、そこには誰もいなかった。


 噴水の水音だけが残る。


「敵?」

 ミーナが聞く。


「違う」

 ユウキは首を振る。「味方でもない」


 ミナが静かに言う。

「同業者?」


「多分な」

 ユウキは苦笑する。「ただし、やり方が違う」


 ユウキはポケットの徽章を取り出し、掌で転がした。


「拾わない判断をする回収者が、どれだけいるか」


 ミーナが目を細める。

「それを、試されてる?」


「試験じゃない」

 ユウキは言った。「選別だ」


 その夜、ユウキはようやく宿に戻った。


 だが眠る前、ふと気づく。


 白紙の紙片が、机の上に戻っていた。


 今度は、はっきり文字が浮かんでいる。


 ――次は、待てない。


 期限は、まだ書かれていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ