第三回収者〈アーカイブ〉
夜明け前。
詰所の中は静かで、
眠りきらない空気だけが残っていた。
ミナは、
目を覚ましていた。
理由は分からない。
ただ、
「呼ばれている」感じがした。
外に出ると、
空はまだ暗い。
通りの中央に、
人が立っていた。
誰かに似ているようで、
誰にも当てはまらない。
性別は分からない。
年齢も分からない。
種族すら、はっきりしない。
ただ――
人の形をしている。
「……ユウキ……」
ミナが小さく呼ぶ。
ユウキは、
すでに気づいていた。
相手は敵ではない。
味方でもない。
機能だ。
「ここまでか」
人型は、
ゆっくりと頷いた。
「はい」
声は、
静かで、
揺れがなかった。
「観測は完了しました」
ミナが一歩前に出る。
「……あなた……
だれ……?」
人型は、
一瞬だけ間を置いた。
その沈黙は、
迷いではない。
名を出すかどうかの判断だった。
「――私は」
初めて、
名を口にする。
「第三回収者〈アーカイブ〉」
その瞬間、
空気がわずかに軋んだ。
世界が、
“記録された”音だった。
「役割は、回収と保全。
判断基準は、世界存続率」
ユウキは肩をすくめる。
「随分と大雑把だな」
「仕様です」
アーカイブは否定しない。
ミナは、
じっと相手を見る。
「……わたし……
ひろわれる……?」
その問いに、
アーカイブは
はっきりと首を振った。
「いいえ」
そして続ける。
「あなたは、
拾われません」
ミナの目が、
わずかに見開かれる。
「理由は?」
ユウキが聞く。
「すでに、
拾われているからです」
それ以上の説明は無かった。
アーカイブは、
一歩下がる。
「次に会うときは、
“期限”を伴います」
それだけ言って、
姿が薄れる。
最後に、
ミナへ向けて一言。
「名を持った判断は、
記録済みです。
――以上」
風が吹き、
人型は消えた。
何も壊れない。
何も始まらない。
ただ、
終わった。
ミナは、
ユウキを見上げる。
「……おわった……?」
「一つな」
「……つぎ……?」
ユウキは、
空を見た。
「次は、
拾えないものの話だ」
ミナは、
それを聞いて、
少しだけ背筋を伸ばした。
名前を持ったまま。
判断を覚えたまま。




