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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第1章

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清掃の人、ちょっとおかしくない?

 最初は、ただの世間話だった。


「最近さ、裏路地安全じゃない?」

「分かる。夜でも通れる」


 市場の商人同士の、軽い雑談。

 名前は出ない。

 誰の手柄かも、はっきりしない。


 でも、その話題は妙に長く残った。


「前はさ、魔力汚染で荷がダメになることあったろ?」

「最近、ないな」


「治癒士も暇そうだぞ」

「それは良いことだろ」


 誰かが、首を傾げる。


「……良すぎないか?」


 その頃、俺はいつも通り袋を担いで歩いていた。

 区画は増えたけど、やることは変わらない。


 拾う。

 拾わない。

 置く。


 ただそれだけだ。


 昼前、薬屋の前で声をかけられた。


「清掃の人」

「はい?」


「最近、薬の消費が安定しててな」

「はあ」


「事故が減ったってことだ。

 助かってるよ」


 礼を言われたが、正直よく分からない。


 別の通りでは、治癒士がぼやいていた。


「怪我人、減ったわね」

「いいことじゃないですか」

「そうなんだけど……」


 言葉を濁す。


「仕事が減るのも、

 ちょっと変な気分なのよ」


 ギルドの掲示板前では、冒険者たちが集まっていた。


「最近、ダンジョン渋くない?」

「分かる。

 事故も起きないし、

 魔物も妙に大人しい」


「稼げないんだよな」


 苛立ちが混じる。


 その会話を、誰かが横から聞いていた。


「それ、清掃の人のせいじゃない?」

「は?」


「ほら、

 あの……名前知らないけど、

 ゴミ拾いしてる人」


 一瞬、沈黙が落ちた。


「……清掃で、何が変わるんだよ」

「知らん。

 でも、時期が合いすぎてる」


 疑念は、小さく芽を出す。


 同じ頃、役所の奥。


「最近、報告が減ってます」

「問題は?」

「ありません。

 ……ありませんが」


 担当者は、一枚の書類を見る。


清掃担当:ユウキ


「この人が関わった区画、

 安定率が高すぎる」


 理由は書けない。

 でも、数字は嘘をつかない。


 資料室では、リィナが静かに記録を整理していた。


「……噂、出始めたわね」


 まだ、名前は伏せられている。

 でも、**“清掃の人”**という呼び方が定着しつつある。


 彼女は、内部メモを一行だけ追加した。


「注目度、上昇中」


 その夜、宿でパンを齧りながら、俺は考えていた。


「……最近、

 やけに話しかけられるな」


 理由は分からない。


 ただ、街の視線が、

 ほんの少しだけ変わった気がした。


 まだ、名前は呼ばれない。

 でも――

 噂は、もう俺を中心に回り始めていた。


 噂は、感情だけでは長続きしない。

 実感と、結果が揃ったときにだけ、形になる。


 市場の商人たちは、それを一番早く感じ取っていた。


「最近、破損返品が減った」

「輸送中の事故もな」


 帳簿を睨みながら、首を捻る。


「理由は?」

「分からん。

 でも、清掃が入った区画からだ」


 “清掃の人”。


 名前は知らない。

 でも、共通点はそこだった。


 薬屋でも、似たような話が出ている。


「治癒薬の消費、三割減」

「値下げする?」

「……様子見だな」


 事故が減った。

 怪我人が減った。

 つまり、街が“無駄に消耗しなくなった”。


 その一方で、ギルドの空気は少しずつ重くなっていた。


「依頼が減ってる」

「討伐も減ってる」


「……街が安定しすぎだ」


 安定は、本来喜ぶべきことだ。

 でも、冒険者にとっては違う。


 危険があるから、報酬が生まれる。

 トラブルがあるから、仕事になる。


 それが、静かに奪われている。


「誰がやってるんだ」

「清掃だろ?」


 半信半疑だった声が、

 少しずつ確信に変わっていく。


 その頃、役所では内部会議が行われていた。


「清掃区画の事故発生率、

 平均より大幅に低下しています」


「特定の担当者に偏っていないか?」


 一枚の資料が、机の中央に置かれた。


担当者名:ユウキ


 誰も、すぐには口を開かなかった。


「……偶然では?」

「三週間連続です」


 数字が、静かに否定する。


「清掃方法を変えた?」

「いいえ。

 本人は“判断しているだけ”だと」


 その言葉に、誰かが小さく息を吐いた。


「判断、ね……」


 資料室の奥で、リィナはそれを聞いていた。


 彼女は口を挟まない。

 ただ、記録を一段階だけ進める。


「要注意:外部認知拡大」


 そして、備考欄に短く書く。


「本人、自覚なし」


 夕方、ギルド前。


 冒険者の一団が、マルタさんに声をかけていた。


「なあ、

 最近よく清掃してる若いの、知ってる?」


 マルタさんは、箒を止めない。


「さあね」

「噂になってる」


「噂は、勝手に歩くもんさ」


 そう言って、視線だけを路地の方へ向けた。


「でもね」

 一瞬だけ、声が低くなる。

「拾う人より、

 拾わない人の方が、

 怖いこともある」


 冒険者たちは、その意味を理解できなかった。


 その夜、酒場。


 勇者パーティの席だけ、妙に空気が重かった。


「……依頼、減ってるな」

「街が安定してる」


「誰かが、

 俺たちの“仕事”を先に片付けてる」


 誰も否定しない。


 リーダーが、低く言った。


「調べる」

「誰を?」

「……清掃だ」


 その言葉で、噂は次の段階へ進んだ。


 もう、“変だ”では終わらない。

 **“原因を探す対象”**になった。


 一方その頃、俺は宿で袋の手入れをしていた。


「……なんか最近、

 街が落ち着いてるな」


 それを、自分の仕事と結びつける発想はない。


 明日も、ゴミ拾いだ。

 拾うか、拾わないかを決めるだけ。


 でも、街はもう、

 その判断を“無視できなくなっていた”。


 勇者パーティが動いたのは、翌日の朝だった。


「直接見に行く」

 リーダーがそう言い切った。


「清掃だろ?

 どうせ、ただの下っ端だ」


 軽く言い放つ者もいたが、

 内心のざわつきは隠せていない。


 街が変わった。

 数字が変わった。

 依頼が減った。


 原因があるなら、

 それを見ないわけにはいかない。


 一方その頃、俺はいつも通り区画に向かっていた。


 袋を担ぎ、

 手袋をはめ、

 地図を確認する。


「今日は……ここから」


 何も変わらない朝だ。


 勇者パーティは、少し離れた場所から様子を見ていた。


「……あれか?」

「普通だな」


 若い男が、路地を歩いている。

 装備も地味。

 魔力の気配も薄い。


 ただ、動きが迷わない。


「拾わねぇな」

「拾う場所と、

 拾わない場所を分けてる?」


 勇者は眉をひそめた。


「清掃って、

 あんな感じだったか?」


 俺は、瓦礫の前で足を止めた。

 一瞬、目を伏せる。


《危険適合外判定》


 そのまま、進路を変える。


 勇者側からは、理由が見えない。


「……なんで今、避けた?」

「ビビったんじゃねぇの?」


 別の場所では、迷わず拾う。

 錆びた金具。

 割れた瓶。


「拾う基準が、

 まるで分からん」


 観察は、苛立ちに変わっていく。


「魔力を使ってる様子はない」

「スキル発動の兆候もなし」


「じゃあ、

 なんで街が安定してる?」


 答えは出ない。


 俺は昼前に作業を終え、

 袋を縛った。


 そのまま役所へ向かう。

 振り返らない。


「……行ったぞ」

「追うか?」


 リーダーは、一瞬考えてから首を振った。


「今はいい」


 何かが、引っかかっている。


「“強い”感じがしない」


 それが、逆に不気味だった。


 同じ頃、役所の奥。


「清掃担当の視察が入っています」

「勇者ですか」


 担当者は、即答した。


「接触は?」

「ありません。

 本人は、通常業務中です」


 資料室では、リィナが一行だけ追記していた。


「視察確認。

直接接触、未発生」


 そして、備考欄。


「問題なし」


 夕方、ギルド前。


 マルタさんが、箒を動かしながら呟いた。


「……噛み合わないね」


 誰に言うでもなく。


「拾う人と、

 拾わない人は、

 同じ景色を見てない」


 その夜、勇者パーティの拠点。


「結論は?」

「……分からん」


 リーダーが、低く言う。


「だが、

 無視はできない」


 まだ、敵ではない。

 まだ、因縁でもない。


 でも――

 同じ街で、

 同じ空気を吸っている限り、

 このすれ違いは終わらない。


 一方、俺は宿で袋を干していた。


「……明日も晴れそうだな」


 街の静けさを、

 自分の仕事の結果だとは思わずに。


 噂は、もう街に根を張っている。

 そして次は、

 名前が、はっきりと呼ばれる番だった。

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