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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第6章

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一時保管

 その日の拠点は、

 王都外れの簡易清掃詰所だった。


 戦闘用でも、

 居住用でもない。

 道具と人が一時的に集まるだけの場所。


「……とりあえず、

 ここでいいか」


 ユウキはそう言って、

 毛布の上に

 小さな人型を寝かせた。


 呼吸は安定している。

 意識は、ない。


「“保管”って言ったけどさ」


 ガルドが腕を組む。


「普通、

 保管って言葉は

 人には使わなくないか?」


「細かいこと言うな」


 ユウキは即答した。


「分類できないものは、

 一旦保管」


「……それ、

 物の扱いだよね?」


 ミーナが淡々と突っ込む。


「でも」


 レオルが、

 小さな存在を見下ろしながら言った。


「敵じゃ、

 ないですよね」


「少なくとも、

 今は違う」


 ミーナが頷く。


「でも、

 味方とも言えない」


「うん」


 ユウキは腰を下ろす。


「だから、

 何かになる前に止めた」


 沈黙。


 拠点の外では、

 いつもの王都の音がしている。


 人の声。

 荷車。

 生活。


「なぁ」


 ガルドが言う。


「昨日までの俺たちなら、

 どうしてたと思う?」


「拾ってた」


 ユウキは即答した。


「迷わず」


「だよな」


 ガルドは苦笑した。


「で、

 今回みたいになってた」


「多分」


 ミーナが言う。


「良くも悪くも、

 ね」


 ユウキは、

 小さな存在の手を見た。


 人の形。

 でも、

 人の履歴がない。


「……さ」


 ぽつりと呟く。


「拾うって、

 楽だったんだな」


「今さら?」


 ミーナが即返す。


「拾えば終わりだった」


 ユウキは続ける。


「拾わなきゃ、

 後始末が増える」


 レオルが、

 少し考えてから言った。


「でも、

 拾わなかったから

 分かったこともありますよね」


「何が?」


「……責任って、

 拾った瞬間じゃなくて、

 その後に出てくるって」


 ユウキは、

 一瞬だけ言葉に詰まった。


「……言うようになったな」


「一緒にいるので」


 レオルは笑った。


 その時。


 小さな存在が、

 ほんのわずか、

 指を動かした。


 全員が、

 一斉に見る。


「……起きる?」


「まだ」


 ミーナが計測器を見る。


「でも、

 反応は増えてる」


 ユウキは、

 立ち上がった。


「じゃあ」


 一拍。


「次を考えよう」


 誰も、

 反対しなかった。


 拾った。

 拾わなかった。

 取り返した。


 その全部の先に、

 まだ名前のない仕事がある。


 ユウキは、

 それを

 “面倒”だとは思わなかった。


 昼前。


 詰所の扉が、

 ノックもなく開いた。


「ユウキー、いる?」


 聞き慣れた声。


「……マルタさん?」


 ギルドが崩れたあとも、

 相変わらず飴を持ってくる人。


「はい、これ。

 今日はいちご味」


「どうも」


 受け取った瞬間、

 マルタの視線が、

 毛布の方に行った。


「……あら」


 一拍。


「それ、

 何?」


「保管物」


 ユウキは即答した。


「人よね?」


「未分類」


「……人よ」


 マルタは断言した。


 ユウキが詰まる。


「でも――」


「でもじゃない」


 マルタは、

 毛布を直しながら言う。


「息してる。

 寝てる。

 それ、人」


 ミーナが、

 横から口を挟む。


「生体反応はありますが、

 種別が不明で――」


「不明でも、人」


 マルタは迷わない。


「昔、

 回復役やってたからね」


 空気が、

 少し変わる。


「……起きたらどうする?」


 ガルドが聞く。


「まず水」


「それはそう」


「次に話」


 マルタは当たり前のように言う。


「話せなかったら?」


「話せるまで待つ」


 ユウキは、

 頭を掻いた。


「それ、

 清掃の仕事じゃない」


「そうね」


 マルタは笑った。


「でも、

 拾っちゃった後の仕事でしょ」


 その言葉に、

 ユウキは何も返せなかった。


 そこへ、

 もう一人。


「……失礼します」


 控えめな声。


 リィナだった。


 手には、

 数枚の書類。


「管理局の記録、

 少し見てきました」


 ミーナが眉を上げる。


「勝手に?」


「半分は公開資料です」


 リィナは静かに続ける。


「似た事例、

 過去に三件」


 紙を置く。


「全て、

 “分類前に引き渡されて、

 行方不明”」


 ユウキが、

 顔を上げる。


「……返したら?」


「消えます」


 リィナは淡々と言う。


「記録上からも」


 沈黙。


「じゃあ、

 ここで保管してるのは」


 レオルが言いかけて、

 止まる。


「……記録外」


「そう」


 リィナは頷く。


「ユウキさんが

 “拾った”から、

 残ってる」


 マルタが、

 小さく息を吐いた。


「優しいのか、

 無茶なのか」


「両方だな」


 ガルドが言う。


 ユウキは、

 毛布の方を見た。


「……冒険者なら、

 返してた」


「清掃員だから?」


 マルタが聞く。


「清掃員だから、

 行方不明は困る」


 リィナが、

 小さく微笑んだ。


「それ、

 今までで一番

 “仕事っぽい”です」


 その時。


 毛布の下で、

 かすかな声。


「……い、る……?」


 全員が、

 同時に息を止めた。


 毛布の下から、

 もう一度、かすれた声がした。


「……い、る……?」


 今度は、

 はっきりと。


 ユウキは、

 ゆっくりしゃがみ込んだ。


「いるよ」


 即答だった。


 小さな人型が、

 わずかに目を開ける。


 焦点は合っていない。

 でも、

 確かに“見ている”。


「……ここ……」


「清掃詰所」


「……わたし……」


 声が、

 途中で途切れる。


 名前を探して、

 見つからないみたいな沈黙。


 マルタが、

 そっと水を差し出した。


「ゆっくりでいいわ」


 小さな存在は、

 両手で器を包み、

 一口だけ飲んだ。


「……あ、たたかい……」


 レオルが、

 思わず目を伏せる。


「……拾われた?」


 その言葉に、

 ユウキの指が一瞬止まった。


「……うん」


 正直に答えた。


「でも、

 取り返した」


 沈黙。


「……また……

 どこかに……?」


 ユウキは、

 少し考えた。


 冒険者なら、

 引き渡す。


 管理局なら、

 記録する。


 回収者なら、

 分類する。


 でも。


「今は、

 ここにいる」


 そう言って、

 毛布をかけ直す。


「行き先は、

 まだ決めてない」


 小さな存在は、

 不安そうに瞬いた。


「……いらない……?」


 その一言が、

 思ったより重かった。


「いる」


 ユウキは、

 即答した。


「少なくとも、

 行方不明にはしない」


 マルタが、

 小さく頷いた。


「いい答えね」


 リィナは、

 静かに書類を閉じる。


「じゃあ、

 これは“保管”じゃないですね」


「うん」


 ユウキは、

 少しだけ笑った。


「預かり物だ」


 ミーナが、

 息を吐く。


「言葉を変えただけで、

 責任は倍よ?」


「知ってる」


 ユウキは立ち上がる。


「でも、

 拾ったまま放置よりは、

 マシだ」


 小さな存在は、

 目を閉じた。


 眠ったのか、

 安心したのかは分からない。


 ただ、

 呼吸はさっきより深い。


「なぁ、ユウキ」


 ガルドが言う。


「これから、

 どうすんだ?」


 ユウキは、

 清掃用具を見た。


 拾うための道具。

 分別するための道具。

 壊すための道具。


 でも、

 守る道具ではない。


「……考える」


 一拍。


「考えながら、

 拾う」


 それは、

 今までの彼には

 なかった答えだった。


 詰所の外では、

 今日も街が動いている。


 誰にも気づかれず、

 でも確かに、

 世界の端っこが一つ、

 掃除された。


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