表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第6章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/85

取り返す仕事

 朝一番で、

 管理局からの緊急連絡が入った。


「……早いな」


 ユウキは、

 まだ半分残っている朝飯を見て言った。


「嫌な予感しかしないんだけど」


 ミーナが腕を組む。


 魔導スクリーンに映し出されたのは、

 王都外縁・居住区。


 昨日の廃棄区域から、

 一段内側。


「被害報告、六件」


 管理官の声は淡々としていた。


「軽傷四、重傷一、行方不明一」


 空気が、

 はっきりと変わる。


「……増えてるな」


 ガルドが低く言う。


「対象は?」


 ミーナが即座に聞く。


「未確定物と同一反応。

 ただし――」


 映像が切り替わる。


 瓦礫の上に残る、

 歪んだ痕跡。


「形状変化を確認。

 自律行動レベルが上昇しています」


 レオルが息を飲む。


「……育ってる?」


「正確には」


 一拍。


「適応している」


 ユウキは、

 黙って画面を見ていた。


「……昨日の、あれか」


「そうだ」


 通信の向こうで、

 カルディア=ロウレンスが現れる。


 表情は、

 いつもより硬い。


「君が“拾わなかった”未確定物だ」


 責める口調ではない。


 だが、

 逃げ道もない言い方だった。


「管理局としては、

 当該区域を封鎖し、

 専門回収班を投入する」


 ミーナが眉をひそめる。


「時間は?」


「最短でも半日」


 ユウキが、

 ゆっくり息を吐いた。


「……その間に、

 被害が出る」


「出る」


 カルディアは否定しない。


「だから――」


「俺が行く」


 ユウキが言った。


 即答だった。


 カルディアの目が、

 一瞬だけ細くなる。


「推奨しない」


「知ってる」


「止める権限は?」


「ない」


 ユウキは立ち上がり、

 清掃用具を肩に担ぐ。


「拾わなかった結果だから」


 ガルドが、

 ゆっくり笑った。


「責任、取りに行くって顔だな」


「仕事だよ」


 ユウキは、

 いつもの調子で言う。


「拾わなかったゴミの、後始末」


 ミーナが一歩前に出る。


「……私たちも行く」


「危ないぞ」


「知ってる」


 レオルも頷いた。


「でも、

 ここで行かないと、

 もっと危なくなる」


 通信の向こうで、

 カルディアが目を閉じた。


「……現場判断を許可する」


 一拍。


「ただし」


 声が低くなる。


「これは“回収”ではない」


 ユウキが答える。


「うん」


「取り返しだ」


「分かってる」


 通信が切れる。


 ユウキは、

 外へ向かって歩き出した。


「なぁ」


 ガルドが背中に声をかける。


「もし、

 取り返せなかったら?」


 ユウキは、

 少しだけ考えてから言った。


「その時は」


 一拍。


「殴って終わらせる」


 誰も、

 止めなかった。


 現場は、

 居住区の外れだった。


 崩れた家屋。

 避難用の結界が、

 中途半端に張られている。


「……これ、

 もう“ゴミ”じゃないな」


 ガルドが呟く。


 その中心に、

 **“それ”**はいた。


 人型だったはずの輪郭は、

 歪み、

 つぎはぎのように拡張している。


 瓦礫。

 金属。

 魔力残滓。


 拾われ、

 混ざり、

 自分を作っている。


「適応、進んでる」


 ミーナが即座に分析する。


「核は……一つ。

 でも、

 守られてる」


 レオルが剣を構え直す。


「……人を真似してる?」


 “それ”が、

 ぎこちなく首を傾げた。


 声。


「……ひ、ろ……う」


 全員が、

 一瞬だけ固まる。


「喋った……?」


「違う」


 ユウキが前に出る。


「覚えただけだ」


 次の瞬間。


 “それ”が、

 腕を振り下ろす。


 瓦礫が、

 弾丸のように飛ぶ。


「来るぞ!」


 ガルドが盾を叩き込む。


 衝撃。

 だが、

 《荷重分散型解体用シールド》が

 力を逃がす。


「まだ耐えられる!」


「よし」


 ユウキは、

 清掃バキュームの出力を切り替える。


 吸引 → 固定 → 分離


 瓦礫が、

 剥がれ落ちる。


 だが。


「……くっ」


 “それ”は、

 即座に別の残骸を引き寄せる。


「回収されてる!」


 ミーナが叫ぶ。


「周囲のゴミを、

 自分の一部として使ってる!」


 ユウキが舌打ちする。


「……第三の回収者の仕事、

 雑すぎだろ」


「褒めてないよね!?」


 ガルドが叫ぶ。


 “それ”が、

 再び口を開く。


「……ひろ、われ……た」


 ユウキの動きが、

 一瞬だけ止まる。


 だが、

 すぐに切り替えた。


「悪いな」


 レンチを構える。


「取り返す」


 レオルが走る。


 剣が、

 核の位置を狙う。


 だが――


 弾かれた。


「っ!?」


「装甲、

 魔力反射!」


 ミーナが歯を食いしばる。


「直接破壊は無理!」


「……じゃあ」


 ユウキが、

 清掃用具を地面に突き刺した。


「分別する」


 《拾得物最適化指令》が起動する。


 空間に、

 区分線が走る。


「……え?」


 “それ”の身体が、

 分解される。


 瓦礫は瓦礫へ。

 金属は金属へ。

 魔力残滓は、

 純化されて散る。


「うわ、

 ゴミの分別、

 戦闘でやるやつじゃない!」


 ガルドが叫ぶ。


「黙って支えて!」


 ユウキが叫び返す。


 ガルドが盾を踏み込み、

 衝撃を受け止める。


 分別が進む。


 そして、

 中心に残ったのは――


 小さな人型。


 最初に見た、

 あの形。


 倒れ込み、

 動かない。


「……戻った?」


 レオルが息を整えながら言う。


 ユウキは、

 近づき、

 しゃがみ込む。


 反応は、

 弱い。


「……取り返した、

 のか?」


 その時。


 空気が、

 歪んだ。


 遠くから、

 拍手の音。


 ――パン、パン。


 どこからともなく、

 聞こえる。


「……最悪」


 ミーナが低く呟く。


 ユウキは、

 立ち上がり、

 振り返った。


「第三の回収者」


 返事はない。


 だが、

 確かに、

 見られている。


 瓦礫が、

 完全に静まった。


 分別された残骸は、

 綺麗に山分けされ、

 もう“敵”ではない。


「……終わった?」


 レオルが、

 恐る恐る言う。


「戦闘はね」


 ミーナは即答した。


「でも、

 問題はそこじゃない」


 全員の視線が、

 地面に向く。


 そこには――

 小さな人型が横たわっていた。


 呼吸は、

 かすか。


「……生きてる?」


 ガルドが、

 珍しく声を落とす。


「生体反応、

 ギリギリ」


 ミーナが魔力計を見て言う。


「でも、

 種別が分からない」


 ユウキは、

 少し離れた位置から

 それを見ていた。


 拾った。

 拾い直した。

 取り返した。


 でも――

 どう扱うかは、まだ決めていない。


「管理局に引き渡す?」


 レオルが聞く。


「普通はそう」


 ミーナは頷く。


「ただし、

 このケースは――」


「例外だな」


 ガルドが続ける。


「第三の回収者が

 絡んでる」


 ユウキは、

 頭を掻いた。


「……面倒だなぁ」


 その時。


 空気が、

 再び歪む。


 今度は、

 はっきりと。


 人型の影が、

 少しだけ輪郭を持つ。


 性別不明。

 年齢不詳。

 人間かどうかも、

 曖昧。


 第三の回収者。


「評価は、終わった」


 声は、

 感情がない。


 だが、

 敵意もない。


「君の判断は、

 修正された」


 ユウキは、

 一歩前に出た。


「それ、

 褒めてる?」


「記録している」


 回収者は、

 淡々と続ける。


「拾わなかった。

 被害が出た。

 取り返した。

 被害は止まった」


「当たり前だろ」


「当たり前ではない」


 第三の回収者は、

 初めて

 わずかに間を置いた。


「多くの回収者は、

 “取り返す”という選択を

 想定しない」


 ユウキは、

 少し考えてから言った。


「……じゃあ、

 俺は何?」


「未定義」


 即答だった。


「定義外。

 役割未固定」


 ミーナが、

 低く息を吐く。


「一番危険な分類ね」


「安全だと思ってる?」


 ガルドが聞く。


「いいや」


 第三の回収者は、

 首を横に振った。


「必要だ」


 その言葉だけを残し、

 影は薄れる。


「この存在は?」


 ユウキが、

 地面の人型を指す。


「君が拾った」


「じゃあ?」


「君の責任だ」


 影は、

 完全に消えた。


 沈黙。


「……重くない?」


 ガルドが言う。


「重い」


 ミーナが即答する。


「でも」


 レオルが、

 小さく笑った。


「ユウキさん、

 いつもそんな感じですよね」


 ユウキは、

 肩をすくめた。


「拾っちゃったからな」


 しゃがみ込み、

 小さな人型を抱え上げる。


「ゴミじゃないなら、

 保管だ」


「保管!?」


「一時的なね」


 ユウキは、

 いつもの調子で言った。


「返すか、

 引き取るか、

 捨てるかは――」


 一拍。


「考えてから決める」


 それは、

 彼にとって

 新しい答えだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ