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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第6章

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拾わない判断

 朝だった。


 特に変わったことはない。

 王都外縁、管理局管轄のはずれ。

 いつもの清掃依頼。


「今日も平和だなぁ」


 ユウキが言った瞬間、

 フラグが立った。


「その台詞、

 回収者的に最悪だからやめて」


 ミーナが即ツッコミを入れる。


「え、そうなの?」


「そういう統計がある」


「今作っただろ」


 ガルドが笑い、

 レオルは地図を確認していた。


「今日は“廃棄予定区域・第三層”ですね。

 危険度は低、

 ただし――」


「ただし?」


「未確定物あり」


 その言葉に、

 全員が一瞬だけ黙る。


 未確定物。

 管理局用語で言えば、

 役割未割当・処理不能・分類保留。


 つまり――

 拾うか、拾わないかを

 現場に丸投げされた存在。


「……行く?」


 レオルが聞く。


「行くでしょ」


 ユウキは即答した。


「清掃だし」


「雑だなぁ……」


 ミーナが呆れつつも、

 足は止めない。


 問題の場所は、

 廃墟の奥だった。


 瓦礫の山。

 崩れた壁。

 そして――


「……人?」


 ガルドが低く呟く。


 人型。

 だが、魔力反応は不安定。

 生体とも、残骸魔とも違う。


「近づくな」


 ミーナが即座に制止する。


「これ、

 管理局の“判断不可”案件だ」


 ユウキは少し距離を取って、

 じっと見る。


 その“何か”は、

 動かない。


 ただ、

 呼吸しているようにも見える。


「拾える?」


 レオルが聞いた。


 ユウキは、

 少しだけ考えた。


 そして――


「拾えない」


 はっきり言った。


「理由は?」


「わからないから」


 ガルドが眉をひそめる。


「……それだけか?」


「それだけ」


 ユウキは視線を逸らさない。


「わからないものを拾うと、

 だいたい碌なことにならない」


 沈黙。


 ミーナが、

 ゆっくり頷いた。


「……正論」


「よし、じゃあ帰ろう!」


 ユウキは踵を返した。


 その瞬間。


「――っ」


 背後で、

 小さな音がした。


 振り返ると、

 人型が、

 ほんの少しだけ手を伸ばしていた。


 誰にも届かない距離で。


 ユウキは、

 一瞬だけ立ち止まった。


 だが、

 何もせずに歩き出す。


「……ユウキ」


 レオルが小さく呼ぶ。


「判断した」


 ユウキは短く言った。


「行こう」


 その背中を、

 誰も止めなかった。


 そしてその日の夜。


 管理局に、

 一件の緊急報告が入る。


廃棄予定区域・第三層

未確定物、消失

付近住民、軽度被害あり


 ユウキは、

 まだそれを知らない。


 翌朝。


 ユウキたちは、

 王都管理局・現地臨時詰所に呼び出されていた。


「……空気重くない?」


 ガルドが小声で言う。


「重いね」


 ミーナは即答した。


 魔導スクリーンに、

 昨夜の報告映像が映し出される。


 崩れた壁。

 壊れた家財。

 そして――


「負傷者、三名」


 淡々とした声。


「全員、軽傷。

 命に別状はなし」


 ユウキは、

 少しだけ息を吐いた。


「……最悪ではない」


「そうだな」


 カルディア=ロウレンスが、

 画面の端に現れる。


「だが“最善”でもない」


 画面が切り替わる。


 昨夜、

 廃棄区域から逃げてきた住民の証言。


『最初は、人が倒れてると思った』

『声をかけたら、動いた』

『でも、目が……』


 映像が止まる。


「未確定物は、

 夜間に活動を開始した」


 カルディアは言う。


「おそらく、

 自律再構築型」


 ミーナが低く呟く。


「……放置すると、

 拡張するタイプ」


「その通りだ」


 カルディアは頷く。


「昨日の時点で回収、

 あるいは隔離していれば、

 被害はゼロだった可能性が高い」


 沈黙。


 ユウキは、

 魔導スクリーンを見つめたまま言った。


「……判断ミス?」


「いいや」


 カルディアは即答した。


「判断としては正しい」


 全員が顔を上げる。


「君は“わからないものを拾わない”という

 一貫した基準で行動した」


「じゃあ――」


「だが」


 言葉を切る。


「世界は、正しい判断だけで回らない」


 静かな声。


「拾わない判断は、

 常に“被害をゼロにする”わけではない」


 ガルドが、

 頭を掻いた。


「……くそ、

 ややこしいな」


「そうだ」


 カルディアは疲れたように言う。


「だから、

 君たちはここにいる」


 画面がもう一度切り替わる。


 そこには、

 現場写真が映っていた。


 瓦礫の影。


 地面に残った、

 奇妙な痕。


「……これ」


 ミーナが目を細める。


「管理局の回収痕じゃない」


「第三の回収者だ」


 カルディアは、

 淡々と告げた。


 ユウキの指が、

 無意識に動く。


「……拾われた?」


「可能性は高い」


「誰が?」


「不明だ」


 カルディアは視線を落とす。


「だが一つ言える」


 画面が止まる。


「君が拾わなかったものは、

 誰かが拾った」


 その言葉が、

 重く残った。


 レオルが、

 静かに言う。


「……僕たちの判断は、

 世界に影響するんですね」


「最初からそうだ」


 カルディアは答えた。


「今までは、

 結果が良かっただけだ」


 通信が切れる。


 詰所に、

 沈黙が落ちた。


「……なぁ」


 ガルドが、

 珍しく真面目な声を出す。


「次、

 ああいうのが出たらどうする?」


 ユウキは、

 少し考えた。


 そして――


「……考える」


 それだけ言った。


 初めての、

 即答しない返事だった。


 夜。


 詰所を出たユウキは、

 一人で王都の外縁を歩いていた。


「……なんか、眠れなくて」


 誰に言うでもなく呟く。


 ゴミ拾いの癖で、

 足元を見ながら歩く。


 壊れた街灯。

 使われなくなった標識。

 修理予定のまま放置された柵。


「拾えるものはあるのに、

 拾えないものも増えてるなぁ……」


 軽い調子だが、

 足取りは遅い。


 ふと、

 昼に見た廃棄区域の近くに来ていることに気づいた。


「ここ、

 もう立入禁止だっけ」


 そう思った瞬間。


 足元で、

 金属音がした。


 ――カラン。


 小さな音。


 ユウキは立ち止まり、

 屈んで拾い上げる。


「……これ」


 それは、

 管理局の封印具の一部だった。


 だが、

 公式仕様とは微妙に違う。


「使われた形跡はあるけど……

 壊されてない?」


 清掃用具で軽く触れる。


 反応は、

 完全に沈黙。


「……回収、されたあと?」


 風が吹く。


 誰かの気配は、

 ない。


 だが。


 “ここにいた”感じだけが、

 妙に濃い。


「……第三の回収者、か」


 ユウキは、

 独り言のように言った。


 その時。


 足元に、

 もう一つ、

 何かが落ちているのが見えた。


 布切れ。


 古いが、

 汚れてはいない。


 持ち上げると、

 内側に、

 手書きの印がある。


 意味の分からない、

 記号のような文字。


「……読めない」


 なのに。


 なぜか、

 見覚えがある気がした。


 頭の奥が、

 一瞬だけ、

 ざわつく。


「……気のせいか」


 ユウキは布切れを畳み、

 そのままポケットに入れた。


「拾うか迷ったけど……

 これは、ゴミだよな」


 誰も答えない。


 その時、

 背後の影が、

 ほんの一瞬だけ揺れた。


 人型。


 性別も、年齢も、

 分からない輪郭。


 ただ――

 見ている。


 ユウキは、

 振り返らなかった。


「……今度は、

 ちゃんと考えるよ」


 そう言って、

 歩き出す。


 影は、

 追ってこない。


 代わりに、

 地面に、

 小さな文字が残されていた。


――判断は、

 遅れてもいい

 だが、

 無かったことにはならない


 朝になれば、

 誰にも見えず、

 消えているだろう言葉。


 それでも、

 ユウキの中には、

 確かに残った。


 拾わなかったものと、

 拾われたあと。


 その間にある、

 まだ名前のない仕事を、

 彼は初めて意識した。



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