表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第6章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/99

普通の装備で普通じゃない

 旧処分場から戻った翌日。


 ユウキはいつも通り、倉庫で清掃用具の点検をしていた。

 戦闘の翌日とは思えないほど、静かだ。


「……本当に殴り合いした人の背中じゃないな」


 レオルがぼそっと言う。


「清掃員だからな」


「いや、そういう意味じゃなくて」


 レオルはユウキの背中を見る。

 スーツは傷だらけだが、歪みはない。


「昨日、あの残骸魔の直撃、受けてましたよね?」


「受けたな」


「普通、骨折します」


「普通じゃなかったんだろ」


 ミーナが工具箱を覗き込みながら言った。


「装備を解析した。清掃スーツは優秀だけど、あれは“耐える”だけ。

 昨日の衝撃を無傷で流せる性能じゃない」


 レオルが目を見開く。


「じゃあ、なんで……」


 ユウキは手を止めて、少し考えた。


 説明するほどのことじゃない。

 でも、隠す理由もない。


「ああ。最初に拾ったやつな」


 二人の視線が集まる。


「最初の頃、ゴミ拾いで集めた“普通のアイテム”」


「普通って言っていいレベルじゃなかったやつだよね?」


「まあな」


 ユウキは肩をすくめた。


「でもあれ、もう装備じゃない」


 二人が固まる。


「……どういう意味ですか?」


「身体に馴染んだ」


 それだけ言って、ユウキは点検を再開した。


「基礎になったから、今さら外す意味もないし、

 あれに頼って戦うつもりもない」


 ミーナが、ゆっくり息を吐いた。


「つまり……」


「つまり“普通に強い”ってことか?」


「いや」


 ユウキは否定する。


「普通の装備で戦える程度には、異常になっただけ」


 その言い方が、逆に異常だった。


 レオルは一瞬黙り込み、

 それから小さく笑った。


「……それ、管理局が聞いたら嫌がりそうですね」


「もう嫌がってるだろ」


 ユウキはそう言って、工具箱を閉めた。


 その瞬間、倉庫の外で警報が鳴る。


 昨日とは違う音。

 より近く、より短い。


 ミーナが端末を見る。


「管轄外区域、第二反応。

 今度は……動きが早い」


 ユウキは立ち上がった。


「行こう」


「昨日のよりヤバい?」


「たぶん」


 理由は単純だ。


「昨日のは“溜まったゴミ”だった。

 今日は――」


 ユウキは扉に手をかける。


「動き始めたゴミだ」


 第二反応地点は、処分場よりも街に近かった。


 人の生活圏。

 だからこそ、嫌な予感しかしない。


「早いな……」


 レオルが息を整えながら言う。


 道端の石が、跳ねた。

 次の瞬間、何かが横切る。


 速い。


「来る!」


 ミーナの声と同時に、

 黒い影が地面を蹴った。


 廃棄された靴、壊れた義肢、

 使われなかった加速符。


 それらが雑に組み合わさった、人型に近い何か。


 ――だが、速い。


「残骸魔・軽装型!」


 ユウキは一瞬だけ動きを見て、判断する。


 街に入る。


 それだけで、アウトだ。


「止める!」


 白テープが飛ぶ。


 だが、相手は軽い。

 固定する前に、跳ねる。


 屋根を蹴り、

 壁を蹴り、

 人の動線へ――


「……くそ」


 ユウキは一歩遅れた。


 次の瞬間、耐圧コンテナが展開する。


 壁。


 通路を塞ぐ形で、半透明の障壁が立った。


 残骸魔が衝突する。


 速度が殺される。


「今だ!」


 レオルが踏み込む。


 剣が振るわれるが、

 刃は弾かれた。


「硬っ!」


「芯がある!」


 ミーナが叫ぶ。


 ユウキは、核を見た。


 胸元。

 古い魔導タグ。


 誰かが“使うつもりだった”証。


 一瞬だけ、思考が走る。


 拾えるか?

 拾えば、何か救えるか?


 《世界から捨てられた手》が反応する。


 判定:不安定

 保留可否:可能(短時間)

 被害予測:拡大


「……ダメだ」


 ユウキは即断した。


「拾わない!」


 レンチが、投げられる。


 核に直撃。


 残骸魔は、その場で崩れ落ちた。


 音が消える。


 沈黙。


 ミーナが、静かに言った。


「……迷わなかったな」


「迷った」


 ユウキは否定しない。


「でも、迷ったまま殴るのが一番危ない」


 白テープで残骸を固定しながら、続ける。


「拾えるものは拾う。

 でも“動き始めたゴミ”は――」


 言葉を選び、結論を出す。


「止めて、壊す」


 レオルが深く息を吐いた。


「……清掃員の判断じゃない」


「清掃員だからだ」


 ユウキは立ち上がる。


「遅れたら、被害が出る。

 それはもう、ゴミのせいじゃない」


 遠くで、人の声が聞こえた。

 まだ無事だ。


 ギリギリだった。


 現場の後処理が終わった頃、

 風はもう、普通に流れていた。


 人の声。

 生活音。


 被害は、出なかった。


 それだけで十分だ。


 レオルが、瓦礫を見下ろしながら言う。


「……拾える可能性、ありましたよね」


「あった」


 ユウキは否定しない。


「でも、街に入る速度だった」


 それ以上の説明はいらなかった。


 ミーナが端末を操作する。


「管理局、見てる」


「だろうな」


 遠く。

 視線の届かない場所で、ログが動く。


【管理局内部ログ】

対象:ユウキ

判定行動:即時破壊

備考:

保留可能ログを確認後、破棄を選択

判断速度:想定以下(=早すぎる)

リスク:低

管理者負荷:増加傾向


 カルディア=ロウレンスは、画面を睨んでいた。


「……早いな」


 部下が息を飲む。


「保留可能だったはずです」


「可能と安全は違う」


 カルディアは端末を閉じる。


「彼は“間に合わない未来”を見ている」


 誰も反論しなかった。


 処分場に戻る道すがら、

 レオルがぽつりと言った。


「俺……昨日まで、拾う方が正しいと思ってました」


「今は?」


「……分かんないです」


 ユウキは歩きながら答える。


「分からなくていい」


 足を止め、振り返る。


「分からないまま、遅れる方が危ない」


 ミーナが、小さく笑った。


「ほんと、管理者向きの思考」


「やらない」


 即答だった。


「判断するだけで十分だ」


 夕方。

 倉庫に戻ると、マルタが待っていた。


 無言で、飴を二つ置く。


「今日は?」


「ミントと、普通の」


 ユウキは一つ取る。


「どっちが?」


「迷った日用と、ちゃんと帰ってきた日用」


 ユウキは両方口に入れた。


 甘さと清涼感が、混ざる。


「……次は?」


 ミーナが聞く。


 ユウキは、少し考えた。


「次はもっと速いか、

 もっと重い」


 どちらにしても――


「判断は、待ってくれない」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ