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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第6章

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ゴミが殴り返してきた

 朝、ユウキは倉庫で工具箱を整理していた。


 白いテープ、予備袋、手袋。

 いつも通りの並び。


 ――なのに、指先が少しだけ重い。


 《世界から捨てられた手》が、相変わらず静かに息をしている。


 管理中案件:人格保留01(ノア)

 状態:安定

 管理者負荷:中(維持)


「……今日も重い。健康」


 独り言を言って、ユウキは棚を閉めた。


 その時、倉庫の扉が開いて、ミーナが入ってきた。


「ユウキ、来た」


「また期限縮んだ?」


「違う。もっと現場寄り」


 ミーナは端末を見せた。

 管理局の正式通知ではない。末端の自動配信。


【最低優先度アラート】

旧処分場区域:異常反応

管轄外につき対応予定なし

※近隣生活圏に影響の可能性


「“可能性”って書いてある時点で、もう臭いな」


 ユウキが言うと、ミーナが頷く。


「近隣に下町がある。風向き次第で、瘴気が流れる」


「つまり?」


「つまり“誰かが行かないと”後で巻き込まれる」


 言い切ったのはマルタだった。

 いつの間にか入口に立っている。飴を一個放ってよこした。


「はい。こういう時用」


「味で分かるの?」


「ミント。判断が必要な日用」


 ユウキは受け取って、口に入れた。


 スーッとする。

 頭が冴える。

 冴えたところで、やることはひとつだ。


「……行くか」


 レオルが倉庫の外から顔を出す。


「俺も行きます!」


「お前、まだ処分場の臭いに勝てないだろ」


「気合で勝ちます!」


「臭いは気合じゃ無理」


 ユウキは淡々と言いながら、清掃スーツを手に取った。


 フルプロテクト。

 本来は粉塵と腐食から守るための仕事着。


 でも今は違う。

 これは、ユウキにとっての鎧だ。


「装備確認」


 ユウキは指を折る。


「清掃スーツ。バキューム。レンチ。白テープ」


「白テープも武器ですか?」


「武器じゃない。“止める”道具」


 ミーナが小さく笑う。


「その言い方、ほんとに清掃員」


 出発前、ユウキはインベントリを一度だけ開いた。


 《残滓No.01》は静か。

 ノアの案件も安定している。


 だからこそ――

 今、動ける。


「ノアを守るために行く、って感じですか?」


 レオルが聞く。


「違う」


 ユウキは即答した。


「街を守る。結果としてノアも守られる」


 その方が、筋が通る。


 旧処分場区域は、街から半日ほど離れていた。

 道中、景色がだんだん荒れていく。


 草が枯れ、

 鳥が減り、

 風の音だけが増える。


「……ここ、空気が軽い」


 ミーナが呟いた。


「軽いっていうか、薄い」

 ユウキが言い直す。「人の気配がない場所だ」


 そして、薄い場所ほど、

 捨てられたものは集まりやすい。


 処分場の入口に着いた瞬間、

 《世界から捨てられた手》が勝手に展開した。


 検出:高密度廃棄反応

 性質:人格崩壊/再定義不可

 保留可否:否

 推奨対応:完全破壊


「……拾えない」


 ユウキは静かに言った。


 レオルが息を呑む。


「拾えないって、どういう……」


「ゴミは拾える」

 ユウキは目を細める。「でもこれは、もう“殴ってくる側”だ」


 地面が、ずるりと動いた。


 瓦礫の山が崩れ、

 鉄骨が組み上がり、

 失敗作の魔導部品が光る。


 それらが寄り集まり、

 人型に近い何かを作っていく。


 声はない。

 ただ、廃棄ログのようなノイズだけが響く。


 ミーナが、短く言った。


「……残骸魔」


 ユウキは、バキュームのスイッチに指を置く。


「よし。原点回帰だ」


 そして一歩、前に出た。


 清掃スーツが軋み、

 空気が冷える。


 残骸魔の腕が、振り下ろされた。


 残骸魔の腕が、空気を裂いた。


 反射的に、ユウキは前に出る。


 清掃スーツが受け止めた衝撃は重かったが、体勢は崩れない。


 耐圧判定:問題なし

 装備損耗:軽微


「……防御、想定通り」


 ユウキは一歩踏み込み、工業用清掃バキュームのスイッチを入れた。


 轟音。

 瘴気と魔力が、ゴミとして吸われていく。


「効いてる!」


 レオルが声を上げる。


 だが残骸魔は止まらない。

 吸われた分だけ、別の廃材を引き寄せて補填する。


「再生速度、早いな」


「“再生”じゃない」

 ミーナが言った。「組み直してる」


 つまり――

 素材が尽きるまで、動く。


「なら、素材ごと処理する」


 ユウキは白テープを放った。


 空中で展開し、廃材同士を固定する。


 動きが一瞬、鈍った。


「固定……? そんな使い方が」


「清掃の基本だ。暴れるゴミはまず止める」


 その隙に、ユウキは足元を見る。


 地面。

 瓦礫の“集まり方”が不自然だ。


 中心がある。


「……あった」


 レンチを握り直す。


 残骸魔が咆哮のようなノイズを発した瞬間、

 ユウキは滑り込むように接近した。


 清掃スーツが擦れ、火花が散る。


 一撃。


 レンチが、核と思しき廃棄部品を叩き割った。


 音が止まる。


 次の瞬間、

 残骸魔は崩れ落ちた。


 瓦礫はただの瓦礫に戻り、

 瘴気は風に散る。


「……終わり?」


 レオルが恐る恐る聞く。


「第一段階はな」


 ユウキは息を吐いた。


 《世界から捨てられた手》が反応する。


 回収可能:一部素材

 新規判定:耐圧コンテナ(未使用)


 瓦礫の下、

 歪んだ金属箱が露出していた。


「これ……ゴミ?」


「未使用だ」

 ユウキは答える。「使われなかっただけの」


 ミーナが眉をひそめる。


「つまり?」


「この場所向け装備だな」


 ユウキは箱に手を伸ばした。


 拾うか。

 拾わないか。


 今回は――


「……拾う」


 理由は簡単だ。


「次は、もっと殴ってくる」


 遠くで、風が鳴った。


 処分場の奥。

 まだ、何かが動いている。


 耐圧コンテナは、想像以上に“無口”な装備だった。


 ユウキが軽く叩くと、箱は音もなく展開し、

 半透明の壁を形成する。


 衝撃吸収。

 圧力分散。

 ただそれだけ。


「……地味だな」


「清掃用具だぞ」

 ミーナが即ツッコミを入れる。「派手だったら逆に困る」


 その直後だった。


 処分場の奥で、

 地鳴りがした。


 崩れた瓦礫が、再び動く。

 さっきよりも遅いが、重い。


 複数だ。


「来るね」


 レオルが剣を構える。


「でもさっきより……」


「知恵がない」

 ユウキは静かに言った。「さっきのは“集まった意思”だった。今のは、ただの残り滓だ」


 《世界から捨てられた手》が反応する。


 判定:完全廃棄対象

 保留不可

 回収価値:なし


「……拾えない」


 ユウキは、はっきりと言った。


 それは迷いではなかった。


「ノアの件で分かっただろ」

 ミーナを見る。「拾うって、責任を持つってことだ」


 瓦礫の群れが迫る。


 ユウキは耐圧コンテナを前に展開し、

 全員を庇う位置に立った。


「これは違う」


 衝突。

 壁が揺れる。


 だが、壊れない。


「誰かの未練でも、後悔でもない」

 ユウキは続ける。「ただ、処理されなかった結果だ」


 清掃バキュームが唸る。


 吸引。

 固定。

 分解。


 作業のように、戦闘は進んだ。


 最後の瓦礫が崩れ落ちた時、

 風が、ようやく正常に流れ始めた。


 沈黙。


 レオルが、ぽつりと言う。


「……殴ってよかったんですね」


「殴るしかなかった」


 ユウキはそう答えた。


「拾うな、壊せ。そういうゴミもある」


 《世界から捨てられた手》が静かになる。


 同時に、遠く――

 見えない場所で、観測ログが更新された。


【管理局内部ログ(非公開)】

対象:ユウキ

評価更新:

「便利な異端」→「代替不能な戦力候補」

備考:

判断が早い。迷いがない。

拾わない決断を下せる点を要注意観測。


 ユウキはそれを知らない。


 ただ、耐圧コンテナを畳み、

 清掃スーツの汚れを払った。


「帰ろう」


「もう?」


「今日はこれで十分だ」


 処分場は、静かだった。


 だがユウキは分かっている。


 ここから本番だ。


 拾った力は、殴るためにある。

 ただし――

 殴る相手は選ぶ。



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