拾われなかったものたち
王都管理局・第三監査課の会議室は、珍しく満席だった。
エルディン=クロウは、机の上に並ぶ報告書を一枚ずつ閉じていく。
どれも途中で止まっている。
結論が書かれていない。
「――つまり」
彼は顔を上げた。「君は、判断を拒否した」
「はい」
ユウキは即答した。
「回収も、消去も、割当も」
「全部やろうとしたら、全部壊れる気がしたので」
数人の職員が顔を見合わせる。
「それは管理局としては困る判断だ」
エルディンは淡々と言った。
「ですよね」
「だが――」
一拍置く。「間違いとも言い切れない」
その言葉に、空気が微妙に緩んだ。
「未確定案件が、確定されずに残ったのは初めてだ」
エルディンは書類を指で叩く。「普通はどこかで“押し切られる”」
「今回は、押し切らせなかった」
「そうだ」
エルディンは頷いた。「君が止めた」
マルタが、部屋の隅で小さく息を吐いた。
「……あの子らしいね」
リィナは何も言わず、ただ静かにユウキを見ている。
「結果として」
エルディンは続けた。「倉庫の案件は“保留”扱いになった」
「怒られません?」
「怒られる」
即答だった。「上からも、下からも」
「ですよね」
「だが同時に」
エルディンは視線を鋭くする。「君にしか触れられない領域が確定した」
ユウキは、少しだけ考えた。
「それ、嬉しい話ですか?」
「管理局的には最悪だ」
「でしょうね」
「だが世界的には――」
エルディンは言葉を選ぶ。「保険になる」
その言葉で、全てが腑に落ちた。
ユウキは英雄でも、処刑人でもない。
ただの遅延装置だ。
「今後も同じ判断を?」
「たぶん」
ユウキは笑った。「迷いながら」
エルディンは、ほんのわずかに口角を上げた。
「それでいい。即断即決できる者は、もう十分いる」
会議は、それで終わった。
⸻
夕方。
ユウキはいつもの路地を歩いていた。
拾われない箱。
掃かれた跡だけ残る地面。
名も役割も与えられなかった物たち。
それらはまだ、そこにある。
「……次はもっと厄介になりそうだな」
独り言に、返事はない。
だが遠くで、
軽くする流れが動き、
整える意志が揺れ、
拾う手が、静かに待っている。
世界は一つの答えを選ばなかった。
だが代わりに――
選ばない存在を、はっきりと浮かび上がらせた。
ゴミは、まだ終わらない。
清掃も、終わらない。
そしてユウキは今日も、
拾うかどうかを――
決めずに歩いている。




