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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第4章

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整理されたはずの場所

 封鎖倉庫に着いた瞬間、ユウキは足を止めた。


「……増えてる」


「何が?」

 ガルドが聞き返す。


「説明しづらいけど」

 ユウキは扉を見たまま言った。「ここ、片づいてる」


「それ、良いことじゃねえの?」


 扉を開けると、確かに倉庫内は整っていた。

 前回、倒れていた棚は立て直され、通路も確保されている。

 埃も少ない。


「清掃、誰か入った?」

 ミーナが周囲を確認する。


「記録ないわ」

 彼女は資料をめくる。「立入禁止は継続中。管理局の作業履歴も空白」


 ユウキは棚に近づいた。


 ――木箱。

 ――割れた樽。

――欠けた剣。


 数は同じ。

 だが位置が違う。


「並べ替えられてる」

 ユウキが言う。


「誰が?」

 レオルが喉を鳴らす。


「分からない。でも……」

 ユウキは棚の一段を指差した。「用途別だ」


 工具、金属、木材、武具の残骸。

 価値じゃない。

 使い道で分けられている。


「これ、ゴミの整理じゃない」

 ミーナの声が低くなる。「再配置の準備」


 その瞬間、インベントリが微かに反応した。


 《世界から捨てられた手》――沈黙。

 代わりに、初めて見る表示が浮かぶ。


 ――仮割当:未確定


「……ああ」


 ユウキは息を吐いた。


「誰かが“次”を考えてる」


「第三の回収者?」

 ガルドが身構える。


「違う」

 ユウキは首を振った。「あいつは“軽くする”。これは……残す前提だ」


 倉庫の奥で、微かな金属音がした。

 前回と同じ場所。


 全員が構える。


 だが現れたのは、倒れていない箒。

 壁にきちんと立てかけられている。


「……誰か、いる?」

 レオルが小声で聞く。


「今はいない」

 ユウキは断言した。「でも、来る」


「根拠は?」


 ユウキは床を見た。


 埃の上に、足跡はない。

 代わりに、掃いた跡だけが残っている。


「ここを“現場”にしたい誰かがいる」


 ミーナが短く頷く。


「じゃあ今日は?」


「触らない」

 ユウキは即答した。「代わりに――記録する」


 ガルドが目を丸くする。


「お前が?」


「俺じゃない」

 ユウキは笑った。「場所を」


 倉庫の外に出ると、入口の札が風で揺れていた。


 そこには、昨日までなかった一文が追加されている。


 ――整理中/立入注意


「……書式、管理局のじゃないわね」

 ミーナが言う。


「でも“清掃用語”だ」

 ユウキは札を見つめた。「使い慣れてる」


 世界のどこかで、

 **もう一人の“整理する者”**が、静かに動いている。


 拾うでも、消すでもない。

 割り当てる前の、誰か。


 ユウキは深く息を吸った。


「よし。次は――会いに行く準備だ」


 倉庫の中で、棚が、わずかに軋んだ。


 倉庫を出てから、ユウキは三度、後ろを振り返った。


「……ついてきてる?」


 レオルが小声で聞く。


「違う」

 ユウキは首を振った。「待たれてる」


「何が違うのよ」

 ミーナが眉をひそめる。


「追跡は能動。待機は受動」

 ユウキは淡々と言った。「性質が全然違う」


 その説明で、全員が黙る。


 王都外縁の路地に入った瞬間、空気が変わった。

 音が、少しだけ減る。


 《拾得物最適化指令》が一瞬だけ浮かび、消えた。


「……今、反応したわよね?」

 ミーナが確認する。


「したけど」

 ユウキは言った。「対象がいない」


 路地の奥、空き地の中央に、何もない。

 人影も、物も。


 だがそこに――区切りがあった。


「線?」

 ガルドが首を傾げる。


 地面に、うっすらと白い粉の跡。

 円でも、四角でもない。

 “使われる前の区画”。


「……作業線だ」

 ユウキが言う。「清掃前に引くやつ」


「誰が?」


「俺じゃない」


 その瞬間、声がした。


「――判断を、急ぐな」


 すぐ後ろでも、前でもない。

 場所そのものから響く声。


 全員が身構えるが、誰も動けない。


「名は要らない」


 声は感情を含まない。


「役割も、まだ要らない」


 ユウキだけが、一歩前に出た。


「……割り当て前の存在か」


 沈黙。

 だが否定はない。


「拾うな、とは言わない」


「消すな、とも言わない」


「ただ――」

 声が続く。「決めるな」


 ミーナが歯を噛みしめる。


「決めなきゃ、世界は止まる」


「止まらない」

 声は即答した。「止まるのは、人だ」


 ユウキは目を閉じ、息を整えた。


「じゃあ質問を一つ」


「許可する」


「倉庫の整理」

 ユウキは言った。「あれはあんたか?」


「一部だ」


「第三の回収者は?」


「関係していない」


 はっきりした線引きだった。


「じゃあ、あんたは何だ」


 少しだけ、間があった。


「……調整前」


 その言葉で、全てが腑に落ちる。


 回収の前。

 消去の前。

 拾得の前。


「世界が“決めきれなかったもの”を、一度並べる存在」


「そうだ」


「敵か?」


「違う」


「味方か?」


「違う」


 ユウキは、思わず笑った。


「めんどくさい立場だな」


「自覚はある」


 次の瞬間、白い線が風に散った。


 音が戻る。

 空気が、普通になる。


 そこには誰もいない。


「……逃げた?」

 レオルが呟く。


「いや」

 ユウキは首を振った。「会った」


 インベントリの奥で、《世界から捨てられた手》が、初めて明確に反応した。


 ――調整対象:未確定


「……はは」


 ユウキは小さく息を吐く。


「世界、思ったより人手不足だな」


 ガルドが苦笑する。


「お前、その感想で合ってんのか?」


「多分」


 ユウキは歩き出した。


「次は向こうから来る。

 だから――」


 一瞬だけ、振り返る。


「拾う準備をしよう」


 その異変は、音もなく始まった。


 封鎖倉庫の内部で、棚が一斉に軋む。

 倒れる気配はない。

 崩れるでもない。


 整列だ。


 木箱、樽、金属片、欠けた武具。

 それぞれが、用途別でも価値別でもない、別の基準で動き始める。


「……来たわね」

 ミーナが息を詰める。


 空気が重くなる。

 重いが、圧ではない。

 判断を促す重さ。


 ユウキの視界に、文字が滲む。


 ――仮割当:実行待機

 ――回収可能

 ――消去推奨


 同時に、別の気配が重なった。


 軽くなる感覚。

 第三の回収者だ。


「……始める気か」


 姿は見えない。

 だが“処理”の流れだけが、確かにそこにある。


 さらに、あの声が重なる。


「――決めるな」


 調整前の存在。

 三者の意図が、同じ空間に重なった。


 棚の一つが、わずかに浮いた。


 回収か。

 消去か。

 割当か。


 世界が、答えを欲しがっている。


 その瞬間――

 ユウキは、一歩前に出た。


「待て」


 短い言葉だった。


 スキルが反応する。

 《世界から捨てられた手》が、初めて全面起動しかける。


 視界が白くなる。

 拾える。

 全部拾える。


 同時に、第三の回収者の“軽量化”が重なる。

 消せる。

 一瞬で。


 調整前の存在の“保留”が、上から覆いかぶさる。


 世界が、三つに引き裂かれそうになる。


「……っ」


 ガルドが歯を食いしばる。

 レオルが膝をつく。

 ミーナでさえ、踏ん張っている。


 ユウキだけが、動いた。


 彼は――手を下ろした。


 拾わない。

 消させない。

 割り当てない。


「今日は、何もしない」


 はっきりと言った。


「決めない」


 スキル表示が、強制的に書き換わる。


 ――回収:拒否

 ――消去:拒否

 ――割当:延期


 一瞬、世界が沈黙した。


 次の瞬間、

 棚が、ゆっくりと元の位置に戻る。


 浮いていた木箱が、床に降りる。

 音はしない。


 軽量化の流れが、引いた。

 第三の回収者は、何も言わない。


 あの声だけが、低く響いた。


「……危険な判断だ」


「知ってる」

 ユウキは息を吐いた。「でも、必要だ」


「重くなる」


「それでいい」


 しばらくの沈黙。


「君は、世界を止める存在だ」


「違う」

 ユウキは首を振った。「遅らせるだけ」


 風が通り、倉庫の埃が落ち着く。


 全てが、元通り――

 いや、違う。


 何も決まっていない状態で、留まっている。


「……終わった?」

 レオルが小さく聞く。


「一旦は」

 ユウキは答えた。


 インベントリの奥で、《世界から捨てられた手》が静かに沈黙した。

 怒ってはいない。

 だが、待っている。


 ユウキは倉庫を見渡す。


「次に来る時は、もっと強く引っ張られる」


 ミーナが頷いた。


「逃げ場は減るわね」


「それでいい」


 ユウキは、ゆっくりと出口へ向かった。


「拾うってのは、

 いつも“今じゃない”を選ぶことだ」


 倉庫の奥で、

 誰かが――

 それを、静かに見ていた。

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