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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第4章

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給料日と、拾わない勇気

 給料袋は、思っていたよりも厚かった。


「……これ、本当に俺の分?」


 ユウキが袋をひっくり返すと、硬貨がじゃらじゃら音を立てる。


「正確には“あなたの仕事に付随する諸経費の一部”ね」

 ミーナが淡々と言った。


「要するに給料だろ」


「そうとも言う」


 ガルドが覗き込み、目を丸くする。


「おいおい、清掃でこれは良すぎじゃねえか?」


「王都管理局基準だと安い方らしいよ」

 ユウキは軽く言った。「危険手当つかないし」


「感覚がおかしくなってるわよ」

 ミーナがため息をつく。


 場所は、ギルド跡地から少し離れた小さな食堂。

 以前は冒険者で賑わっていたが、今は常連だけが残っている。


「で?」

 ガルドが肉を頬張りながら言った。「マルタさんとリィナさんは?」


「呼んでる」


 ちょうどそのタイミングで、扉が開いた。


「遅くなったねぇ」


 マルタはいつものように飴袋を持っている。

 だが今日は、その袋が少し大きい。


「はい、これ」

 彼女は飴を二つ、ユウキの前に置いた。「給料日記念」


「増えてる」


「増えたんだよ」

 マルタは笑った。「ちゃんと」


 リィナは少し後ろで、控えめに頭を下げた。


「……仕事、増えました」


「大変?」


「いえ」

 彼女は少し考えてから言った。「忙しいけど、安心はしました」


 ギルドが崩れてから、二人は宙ぶらりんだった。

 だが今は、王都管理局の外部窓口として、仮採用されている。


「正式採用はまだ先だけどね」

 マルタが肩をすくめる。「でも、追い出される心配はなくなった」


「よかった」

 ユウキは素直に言った。


 テーブルの下で、インベントリが小さく反応した。


 ――《拾得物最適化指令》。


 だが、すぐに沈黙する。


「……拾わない判断も仕事、か」


 ユウキは呟いた。


「何か見つけた?」

 リィナが小声で聞く。


「いや」

 ユウキは首を振った。「見つけなかった」


 その言い方に、ミーナが眉を上げる。


「拾えたのに、拾わなかった?」


「うん」


「成長ね」

 ミーナは皮肉っぽく言った。


「違う」

 ユウキは笑う。「今日は休みだから」


 ガルドが吹き出した。


「それでいいのかよ」


「いいんだよ」

 マルタが頷いた。「全部拾うと、疲れちゃう」


 飴を口に放り込みながら、彼女は続ける。


「世界だって、たまには放っといてもいい」


 一瞬だけ、ユウキの脳裏に“人型の影”がよぎった。


 だが、すぐに消えた。


 今日は給料日だ。

 今日は、何も起きない。


 ――少なくとも、表向きは。


 食堂の外で、風に転がる空き箱が、

 誰にも拾われずに止まっていた。


 翌朝、王都管理局の仮詰所は珍しく慌ただしかった。


「静かだと思ったら、嵐の前だったのね」


 ミーナが掲示板を見て、呆れた声を出す。


「“軽作業案件”が三つ?」

 ガルドが首を傾げる。「どこが軽いんだ?」


 紙に書かれている内容はこうだ。


・旧地下水路の安全確認

・封鎖倉庫の整理

・管理外ダンジョン入口周辺の清掃


「最後、明らかにおかしくない?」

 ガルドが指を叩く。


「清掃です」

 エルディンが事務的に言った。「扱い上は」


「扱い上って……」


「清掃用具で行ける範囲だ」

 エルディンはユウキを見る。「行けるな?」


「行けますけど」

 ユウキは紙を眺めながら答える。「“拾うな”って書いてありますよ」


「正確には“回収禁止物指定あり”だ」


 ミーナが眉を寄せる。


「最初から“触るな”って分かってるゴミ?」


「そうとも言える」


「嫌な予感しかしないんだけど」


 エルディンは淡々と続けた。


「最近、“消えたはずの物”が現場に戻る報告が増えている」


 ユウキの手が止まる。


「戻る?」


「存在しないはずの残骸が、再出現している」


「……第三の回収者とは別?」


「断定できない」


 沈黙が落ちた。


「だから君だ」

 エルディンは言う。「消えない側の判断基準が必要だ」


「重くなる判断ですけど」


「承知の上だ」


 ガルドが腕を鳴らす。


「要するに、見に行くってことだな」


「見て、拾わず、判断する」

 ミーナがまとめる。「一番面倒なやつ」


「慣れてます」

 ユウキはあっさり言った。


 マルタがカウンター越しに顔を出した。


「お昼までに戻れる?」


「たぶん」


「“たぶん”ねぇ」

 彼女は飴を一つ投げてよこす。「じゃあ、これは非常用」


 受け取った飴が、ポケットの中で軽く鳴る。


 リィナが小声で言った。


「倉庫案件、私が資料つけます」


「ありがとう」


「……戻ってきてくださいね」


 その言い方が、ほんの少しだけ強かった。


「戻るよ」

 ユウキは笑った。「清掃だから」


 外に出ると、王都の裏道に朝日が差している。


 路地の端で、昨日の空き箱がまだ転がっていた。


「拾う?」

 ガルドが聞く。


「今日は違う」

 ユウキは首を振った。


 空き箱は、そのままにして通り過ぎる。


 だが一瞬、ユウキだけが気づいた。


 箱の影が、一つ多い。


「……気のせいか」


 そう呟いた瞬間、

 《拾得物最適化指令》が、初めて“保留”を示した。


 清掃扱いの仕事が、

 静かに“案件”へ変わり始めていた。


 現場は、王都外れの封鎖倉庫だった。


 元は物資集積所。

 今は「整理済み」と書かれた札だけがぶら下がっている。


「……整理済みって、こういう意味だっけ?」


 ガルドが扉を開けた瞬間、埃が舞った。


「普通は空っぽ」

 ミーナが即答する。「でもこれは……」


 中には、何もないはずの棚が並んでいた。

 だが、空ではない。


 棚の上に、木箱。

 割れた樽。

 欠けた剣。

 どれも中途半端で、価値が判断しづらい。


「ゴミ?」

 ガルドが首を傾げる。


「いいえ」

 ミーナは慎重だった。「ゴミ“だったもの”」


 ユウキは一歩踏み出し、視線を巡らせる。


 インベントリが沈黙している。

 スキルも反応しない。


「……拾えないな」


「拾うな、って指定あったでしょ」

 ガルドが言う。


「違う」

 ユウキは首を振った。「拾えない」


 リィナの資料を思い出す。

 過去の整理記録。

 処分済み、回収完了、軽量化処理――。


「これ、もう一回“戻ってきてる”」


 ミーナが眉を寄せる。


「第三の回収者が?」


「分からない」

 ユウキは棚の前にしゃがんだ。「でも、消されてはいない」


 木箱の一つに、薄く文字が残っている。


 ――備品番号:欠番。


「番号が……ない?」


「正確には」

 ミーナが覗き込む。「割り当てられなかった」


 その瞬間、ユウキの中で何かが繋がった。


 役割未定。

 使われなかった可能性。

 名を持たない物。


「……これ、“捨てられた手”の管轄だ」


 ガルドが目を見開く。


「お前の?」


「俺の、って言うより」

 ユウキは言い直す。「本来、俺が触る前の段階」


 つまり。


「第三の回収者が“消す前”の残骸?」


「かもしれない」

 ユウキは立ち上がる。「でも、消されてない」


 ミーナが静かに言った。


「選別に失敗した?」


「あるいは」

 ユウキは棚を見回す。「誰かが途中で止めた」


 倉庫の奥で、何かが落ちる音がした。


 全員が身構える。


 だが現れたのは、

 倒れた箒と、崩れた棚だけ。


「……脅かすなよ」


 ガルドが息を吐く。


 その時、ユウキのインベントリが、

 初めて弱く反応した。


 《世界から捨てられた手》。


 だが表示されたのは、スキル名ではなかった。


 ――回収保留:理由未確定


「……ああ、そうか」


 ユウキは小さく笑った。


「まだ“決まってない”んだ」


 拾うか。

 消すか。

 残すか。


 誰にも決められていない物が、

 ここに集まっている。


「これ、どうする?」

 ガルドが聞く。


 ユウキは一度、倉庫を見渡した。


「今日は何もしない」


「は?」


「清掃だけする」

 ユウキは言った。「崩れた棚直して、危ない物片付けて」


「回収は?」


「次だ」


 ミーナが頷いた。


「判断を先送りする勇気、ね」


「慣れてきた」


 倉庫を出る直前、ユウキは振り返った。


 棚の影が、また一つ多い。


 だが今度は、

 気のせいじゃないと分かった。


 誰かが、

 この“未確定”を見ている。


 消す者か。

 拾う者か。

 それとも――。


 答えはまだ、整理されていなかった。

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