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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第4章

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報告書は、正直すぎると嫌われる

 王都管理局の報告室は、やはり静かだった。

 紙の擦れる音と、ペンの走る音しかしない。


「以上が、今回の清掃結果です」


 ユウキは、いつもの調子で報告書を差し出した。

 内容は簡潔だ。撤去した罠、封印した危険物、再利用可能な資材の数。そして最後に、備考欄。


「……備考、多くない?」


 ミーナが小声で言う。


「思ったこと全部書いたら、こうなった」


「それ、役所的に一番面倒なやつよ」


 向かい側では、エルディン=クロウが無言で紙をめくっていた。

 表情は変わらない。だが、ページをめくる速度が、明らかに遅い。


「管理外ダンジョン、第一層から第三層まで。罠の残骸三十二。危険物七。封印処理済み……」


 淡々と読み上げたあと、指が止まった。


「……未割当物件?」


「はい」

 ユウキは素直に答える。「よく分からなかったので、とりあえず拾いました」


 室内が、一瞬だけ静まり返る。


「“とりあえず”?」


「ええ。“とりあえず”です」


 エルディンは報告書から顔を上げ、ユウキを見る。


「それは、処理マニュアルに存在しない判断だ」


「そうだと思います」


「通常は、放置か廃棄だ」


「そうでしょうね」


 二人の会話は噛み合っているようで、どこかズレていた。


「……危険は?」


「今のところ、特に」

 ユウキは首を傾げる。「だから余計に嫌な感じです」


「正直だな」


 それは皮肉でも、評価でもなかった。


「管理局としては、危険が確認されない物件は保留扱いにする」

 エルディンは淡々と言う。「だが、その判断を現場で行った例は、記録にない」


「じゃあ、初ですね」


「そうなる」


 レオルが思わず口を挟んだ。


「それ、まずくないんですか?」


「まずいかどうかは、今後次第だ」


 エルディンは書類を閉じ、別の紙を取り出した。


「追加依頼を出す」


「もうですか?」


「報告書が想定より正確だった。管理局は、正確な報告を嫌わない。困るだけだ」


「嫌ってるじゃないですか」


「嫌ってはいない。対応が増えるだけだ」


 ミーナがため息をつく。


「つまり、仕事が増えるのね」


「そうだ」


 エルディンは何事もないように続けた。


「次は、同系統の管理外区画だ。規模は小さいが、放置期間が長い」


「また清掃ですね」


「清掃だ」


 断言は変わらない。


 ユウキは報告書の控えを受け取り、軽く伸びをした。


「分かりました。拾って、片付けて、正直に書きます」


「それでいい」

 エルディンは一瞬だけ視線を落とし、付け加えた。


「……正直すぎるのも、記録対象だがな」


 ユウキは苦笑した。


 どうやら、自分は管理局にとっても面倒な存在らしい。


 次の管理外区画は、前回よりさらに地味だった。

 入口の表示板は半分崩れ、通路は狭く、空気も重い。


「……ここ、掃除する意味あります?」

 ガルドが率直に聞いた。


「意味がない場所ほど、後で事故が起きるのよ」

 ミーナが即答する。


「それ、役所の理屈ですよね……」

 レオルが苦笑した。


「役所の理屈は、だいたい正しい」

 ユウキは前を見ながら言う。


 中に入ると、案の定、何もない。

 罠も敵も、派手な異常もない。ただ、妙に整いすぎている。


「……掃除、されてません?」

 レオルが言った。


「されてるわね」

 ミーナが周囲を見る。「でも記録は“未踏破”」


「誰かが来て、途中でやめたか」

 ガルドが壁を叩く。


 その瞬間、ユウキの視界に表示が走る。


【拾得物最適化指令:沈黙】

【警告:回収対象なし】


「……え?」


 ユウキは足を止めた。


「どうした?」

 ガルドが振り返る。


「いや、何も反応しない」


 ミーナの眉が上がる。


「それ、初めて?」


「うん。ここまで来て“何も拾うな”って言われたの」


 レオルが周囲を見回す。


「じゃあ、安全なんですか?」


「逆」

 ユウキは即答した。「安全なら、何かしら“処理済み”って出る」


 通路の奥、行き止まりに近い場所で、違和感は形になった。


 床に、きれいに並べられた跡がある。

 何かが、あった。そして、持ち去られている。


「……これ、掃除じゃない」

 ミーナが低く言う。


「回収だな」

 ガルドも察した。


 その時、金属箱がインベントリの中で、かすかに震えた。


【未割当物件:反応】

【同期率:微弱】


「……ああ、なるほど」


 ユウキは頭を掻いた。


「誰か、俺と同じことしてる」


「え?」

 レオルが声を上げる。


「拾ってる。世界のゴミを」


 その場に、妙な沈黙が落ちた。


「それ、偶然じゃないわよね?」

 ミーナが確認する。


「偶然なら、もっと雑」

 ユウキは床の跡を見る。「これは、慣れてる」


「つまり?」

 ガルドが腕を組む。


「俺以外にも、“回収役”がいる」


 誰も笑わなかった。


 ダンジョンの奥は静かだ。

 だがそれは、何もない静けさじゃない。


 すでに、誰かが通り過ぎた後の静けさだった。


「……帰ったら、正直に書きます?」


 レオルが恐る恐る聞く。


「書く」

 ユウキは迷わなかった。「正直に書いて、面倒を増やす」


「性格悪いわね」

 ミーナが呆れる。


「役所向きだな」

 ガルドが笑った。


 ユウキは出口に向かいながら、呟いた。


「世界のゴミ拾い、思ったより競争率高いな……」


 王都管理局の記録室は、相変わらず静かだった。

 ユウキが提出した報告書は、すでに三人分の控えに分けられている。


「管理外区画、異常なし。ただし回収痕跡あり、対象不明……」


 エルディンは淡々と読み上げ、そこで言葉を切った。


「異常なし、ではないですね」


 ミーナが即座に訂正する。


「そうだな」

 エルディンは否定しなかった。「異常が記録できない」


「それ、一番厄介なやつじゃないですか?」

 ユウキが正直に言う。


「その通りだ」


 エルディンは別の書類を取り出す。

 古い紙だ。端が黄ばんでいる。


「似た記録が、過去に三件ある」


 レオルが身を乗り出した。


「三件も?」


「正確には、三件“しか”ない」

 エルディンは視線を落としたまま続ける。「いずれも数十年前。共通点は、現場に残されたのが“処理済みの静寂”だけだったこと」


「……誰かが、掃除した後?」


「そうとも言える」


 ユウキは首を傾げた。


「でも、その人たちはどうなったんです?」


 エルディンの指が、紙の上で止まった。


「記録が残っていない」


 それ以上は言わなかった。


「消えた?」

 ガルドが低く聞く。


「存在しなかった扱いだ」

 エルディンは淡々と答える。「職業欄が更新されず、所属もなく、功績も残らない。最終的に、記録から抜け落ちる」


 ミーナが静かに息を吐いた。


「……ユウキと同じね」


「完全には同じではない」

 エルディンは初めて、ユウキをまっすぐ見た。「君は、まだ“残っている”」


「残ってるって、何に?」


「記録にだ」


 ユウキは苦笑した。


「それ、褒め言葉ですか?」


「警告だ」


 部屋の空気が、少しだけ重くなる。


 エルディンは書類を閉じ、言った。


「今回の件は、管理局内部でも共有する。ただし、対策は取らない」


「取らないんですか?」

 レオルが驚く。


「取れない。正体が不明だ」

 エルディンは即答した。「だから、様子を見る」


「嫌な言い方ですね」


「役所は、嫌な言い方しかしない」


 ユウキは肩をすくめた。


「じゃあ、俺は今まで通り拾えばいい?」


「拾うな、とは言わない」

 エルディンは一瞬だけ間を置いた。「だが、拾いすぎるな」


「難易度高いなぁ……」


「世界は、君ほど親切にできていない」


 その言葉を最後に、話は終わった。


 管理局を出た後、レオルがぽつりと言った。


「……僕たち、変な仕事に足突っ込んでません?」


「今さらよ」

 ミーナが即答する。


「でも、給料は出る」

 ガルドが笑う。


 ユウキは空を見上げ、軽く伸びをした。


「大丈夫だよ。まだ――拾える範囲だ」


 だが、インベントリの奥で、金属箱は静かに沈黙したままだった。


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