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異世界転生したのに職業欄が「無職(要相談)」から動かず、最速で追放された結果、生活費のためにゴミ拾いしています  作者: Y.K
第4章

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管理局に呼ばれた理由

 王都管理局から届いたのは、一枚の紙切れだった。

 立派な封蝋もなければ、脅すような文言もない。ただ簡素な文章が並んでいる。


「内容確認のため、一度来局を願います」


「……これ、怒られるやつじゃない?」


 ユウキは紙を裏返したが、追記はなかった。


「たぶん違うわね」

 ミーナが腕を組む。「ギルドが消えた後、ダンジョン事故の報告を上げてたの、ユウキだけよ。清掃報告と被害状況の簡易まとめ。管理局に回った現場データとしては、唯一」


「唯一って言葉、あんまり嬉しくないなぁ」


「でも、逃げたら余計に面倒になると思います」

 レオルが真面目に言う。


「要するに、呼び出しってより照会だな」

 ガルドが肩をすくめた。「役所っぽい」


 そうしてユウキたちは、王都管理局へ向かった。


 建物は思っていたより地味だった。石造りで装飾も少なく、人の出入りも控えめ。冒険者ギルドのあの騒がしさと比べると、拍子抜けするほど静かだ。


「……役所だなぁ」


 受付で名を告げると、ほとんど待たされることなく通された。確認は最低限。無駄なやり取りもない。


「話が早い……」


 それだけで、ユウキは少し安心した。


 通された部屋にいたのは、一人の男だった。痩せ型で、年齢は三十代後半ほど。机の上には書類の山。顔を上げても、表情はほとんど動かない。


「エルディン=クロウだ。第三監査課所属」


 歓迎の色はないが、拒絶もない。ただ事務的だ。


「君がユウキだな。……職業欄は、無職(要相談)」


 その言葉に、レオルが一瞬だけ身構えた。

 だがエルディンは気にした様子もなく続ける。


「安心しろ。不利評価ではない。分類不能という意味だ」


「それ、余計に不安なんですけど」


 ユウキの返しにも、エルディンは表情を変えなかった。


「不安になる必要はない。君は“役に立っている”」


 褒めているのかどうか分からない言い方だった。


「本題に入ろう。今回の用件は、管理外ダンジョンに関する確認だ」


「……冒険、じゃないですよね?」


「違う。事故防止だ」


 エルディンは書類を一枚差し出す。


「踏破率三割以下。放置罠多数。冒険者が入り、勝手に死に、勝手に放置している区画だ。ギルドが消えた今、管理責任はこちらに回ってきた」


「それ、清掃なんですか?」


「清掃だ」


 断言だった。


「危険物の撤去、不要物の回収、再利用可能資材の分別。君の提出した報告書を見る限り、適任だ」


 ユウキは書類に目を通し、小さく息を吐く。


「……普通に面倒な仕事ですね」


「そうだ」

 エルディンは否定しない。「だが、誰かがやらなければならない。君は、それをやっている」


 冒険者じゃなくてもいい。英雄じゃなくてもいい。

 拾って、片付ける。それだけだ。


 ユウキは書類を閉じ、うなずいた。


「分かりました。清掃ですね。任せてください」


 管理外ダンジョンの入口は、想像以上に地味だった。

 派手な封印も、禍々しい気配もない。ただ「放置されていた」という空気だけがある。


「……なんか、嫌な予感しかしないんですが」


 レオルが剣を握り直す。


「分かるわ」

 ミーナが周囲を見回した。「危険っていうより、管理されてない感じが一番怖い」


「壊れてる罠、放置された荷物、誰が置いたか分からねぇ痕跡……」

 ガルドが鼻を鳴らす。「これ、冒険じゃなくて後始末だな」


「後始末です」

 ユウキは即答した。


 ダンジョンに一歩踏み入れた瞬間、視界の端に情報が流れる。


【拾得物最適化指令 発動】

【回収推奨:破損罠部品/劣化魔石/用途不明金属片】


「はいはい、まずは地味なやつから」


 ユウキがしゃがみ込み、罠の残骸を回収する。


「……それ、罠だったんですか?」

 レオルが覗き込む。


「だった、だね。今はただの危険なゴミ」


「冒険者が見たら無視する場所ね」

 ミーナが言う。


「見ないフリして死ぬやつだな」

 ガルドが即断した。


 奥へ進むと、今度は散乱した装備品が目に入る。剣、盾、ボロ布のような防具。


【なんか使えそう判定:低】

【再利用可能性:洗浄・再加工で中】


「拾うんですか、それ……?」


「拾う」

 ユウキは迷わない。「洗えば使える。捨てるには惜しい」


「基準が完全に清掃業者なのよ」

 ミーナがため息をつく。


 さらに進むと、明らかに怪しい壺が転がっていた。

 黒ずんでいて、嫌な感じにヒビが入っている。


【廃棄物適正処理 発動】

【分類:危険物/封印推奨】


「……これ、触らない方がいいやつだよね?」


「ええ、絶対に」

 ミーナが即答する。


「爆発するやつだな」

 ガルドも断言した。


「封印袋、出します」


 ユウキが手際よく壺を封じる。


「冒険者だったら割ってるな」

 ガルドが言う。


「割って、呪われて、死ぬわね」

 ミーナが続ける。


「僕、冒険向いてない気がしてきました……」

 レオルが小声で言った。


「大丈夫」

 ユウキは笑った。「清掃向いてるよ」


 その言葉に、三人が一斉に微妙な顔をした。


 だが確実に、ダンジョンは静かになっていく。

 罠は撤去され、危険物は封じられ、通路は歩きやすくなる。


「……なんか、普通に安全になってません?」


「なってるわね」

 ミーナが頷く。


「冒険者がいなくなった方が平和って、どういう世界だよ」

 ガルドが笑う。


 ユウキは落ちていた布切れを拾い、袋に入れながら言った。


「世界って、案外こんなもんなんだと思う」


 誰も答えなかったが、否定もしなかった。


 ダンジョンの奥は、妙に静かだった。

 敵がいないというより、何も起きていない空間が続いている。


「……ここ、逆に怖くない?」

 レオルが小声で言う。


「怖いわね」

 ミーナが頷く。「掃除されてないのに、荒れてない」


「誰かが、途中で放置した感じだな」

 ガルドが壁を叩く。「冒険中断?」


 その時だった。


【拾得物最適化指令:強制割り込み】

【回収対象を検知】


 ユウキは足を止めた。


「……ちょっと待って」


「何かあった?」

 ミーナが即座に警戒する。


「ゴミ……なんだけど、ゴミじゃない」


「どっちだよ」

 ガルドが突っ込む。


 通路の端、瓦礫の影に、小さな金属箱が落ちていた。

 装飾はなく、鍵も壊れている。ただ、異様に“古い”。


【零価再定義 発動】

【価値判定:ゼロ】

【再評価中……】


「ゼロ?」

 レオルが眉をひそめる。


「ゼロって、ゴミ以下じゃない?」

 ガルドが言う。


「……普通ならね」

 ミーナが箱を見つめる。「でも、その表示は見慣れない」


 再評価が終わる。


【再定義完了】

【分類:未使用/未割当/削除保留】


 ユウキは、思わず苦笑した。


「なるほど。そういうやつか」


「分かるの?」

 レオルが聞く。


「うん。たぶんこれ――使われなかったもの」


「装備?」

「違う。役割」


 三人が黙る。


 エルディンの言葉が、ふと頭をよぎった。


――拾っているのは君じゃない。世界の方だ。


「これ、本来なら消されるはずだったんだと思う」

 ユウキは箱を持ち上げる。「でも、消しきれなくて、ここに落ちた」


「つまり?」

 ガルドが首をかしげる。


「つまり、放置された世界のゴミ」


「嫌な言い方ね」

 ミーナがため息をつく。


「でも、放っておいたら危険?」

 レオルが真剣な顔で聞く。


「分からない」

 ユウキは正直に答えた。「だから――拾う」


【とりあえず拾っとく 発動】


 金属箱は、静かにインベントリへ収まった。

 何も起きない。音も、光もない。


「……地味だな」

 ガルドが言う。


「地味ね」

 ミーナも同意した。


「でも、こういうのが一番後で厄介なんだよ」

 ユウキは軽く肩をすくめた。


 ダンジョンを出る頃には、通路はすっかり安全になっていた。

 危険物は消え、罠は撤去され、足元は歩きやすい。


「……冒険者がやる仕事じゃないですね」

 レオルがぽつりと言う。


「だから残ってたのよ」

 ミーナが答えた。


 ユウキは振り返り、静かになったダンジョンを見た。


「捨てられた場所には、捨てられた理由がある。でも――」


 彼は歩き出す。


「拾わないと、もっと面倒になることもある」


 それだけ言って、ユウキは出口へ向かった。

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